ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.ドイツはイスラエルへの兵器輸出認可を停止していた
6月10日、ドイツが今年3月以降、イスラエルに対する兵器の輸出認可を停止していたことが明らかになりました。
昨年10月、ハマスによるイスラエル攻撃以降、ドイツはイスラエルの「自衛権」を支持。兵器の輸出認可件数を急増させ、約3000の対戦車兵器や50万発の機関銃用銃弾などを含む、前年の10倍の規模となる3億2000万ユーロ(約536億円)相当の武器や防衛装備の輸出を認可していました。
ドイツには、ナチスによる第二次世界大戦時のホロコーストの反省から、ユダヤ人国家であるイスラエルを強力に支援することを国是にしてきたという背景があります。
けれども、ガザの民間人犠牲者が増えるにつれ、国際社会では、イスラエルの攻撃が「国際法違反」であるとの指摘が拡大。3月には、カナダが兵器の輸出凍結を発表し、イタリアも新たな兵器輸出の認可を出さないことを決め、アメリカも5月にガザ地区最南部ラファへの本格侵攻に反対し、一部爆弾の供与を停止しています。
これらに対し、ドイツ政府は「個々の輸出計画について、案件ごとに協議している」と、態度を明確にしていませんでした。
では、なぜイスラエルへの武器輸出を停止していたことが分かったのかというと、ガザ地区の住民が、ドイツの裁判所に訴えたからです。
ガザの住民はガザの人権団体「パレスチナ人権センター(PCHR)とドイツの人権団体「欧州憲法人権センター(ECCHR)」の支援を受け、4月にドイツの行政裁判所にドイツ政府によるイスラエルへの兵器輸出の停止を求めて提訴しました。
ドイツの国内法は、戦争犯罪が行われているおそれのある地域に武器を輸出してはならないと定めているのですけれども、裁判所は6月10日、ドイツ政府がすでに武器の輸出認可を停止していることを理由に、彼らの訴えを退けたのですね。
「欧州憲法人権センター(ECCHR)のアレクサンダー・シュバルツ氏は「ドイツから輸出された武器が、我々の同僚を爆撃する可能性があると気づいた……ドイツ政府は倫理的な理由だけでなく、法的な理由から、兵器輸出をできるだけ早く止めるべきだと思った」とコメントしていますけれども、怪我の功名とでもいうべきか、その訴えが棄却されたことと引き換えにドイツ政府のイスラエルへの武器輸出停止が明らかになった訳です。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると2023年、イスラエルが兵器を輸入した国はアメリカが69%で最も多く、ドイツが30%で続いているのですけれども、合わせて99%と、この2ヶ国で殆どを占めています。
その一角であるドイツが輸出停止していたとなると、イスラエルのダメージは計り知れません。
2.イギリスの秘密の武器禁輸
イスラエルへの武器輸出を停止したと噂される国は他にもあります。イギリスです。
8月2日、イギリス・デイリーメール紙は、「労働党政権がイスラエルに対し、秘密理の兵器ボイコットを実施した」という記事を掲載しました。
件の記事の概要は次の通りです。
・労働党政権はイスラエルに対して「秘密の武器禁輸」を実施し、激しい怒りを買っている。
・デビッド・ラミー外務大臣は、「法律を慎重に評価する」までは武器輸出に関する決定は下されないと主張した。
・同氏は、同党が戦争犯罪と関連していると主張する攻撃兵器の禁止を導入するとみられているが、その決定は今夏後半まで延期された
・しかし、メール紙は、官僚らが彼の審査結果が出るまで、新たな武器輸出許可の申請をすべて凍結していることを明らかにした。つまり、決定が出るまで企業は軍用無線機や防弾チョッキなどの製品の契約許可さえ得られないということだ。決定が出るまでには数ヶ月かかる可能性がある。
・これにより、イスラエルはハマスやヒズボラと戦争状態にある中東における英国にとって最も重要な同盟国であるにもかかわらず、事実上イランや北朝鮮と同等の立場に立つことになる。
・影の外務大臣アンドリュー・ミッチェル氏は、イランがイスラエルへの攻撃を開始する寸前であると考えられていることから、この動きを「奇妙」だと述べた。
・彼は「我々の緊密な同盟国イスラエルは、先週末のミサイル攻撃で12人の子供を殺害したヒズボラから直接の脅威にさらされている。つい最近、イギリスの武器と軍人が派遣され、イランの直接攻撃からイスラエルを守った」と語った。
・アフガニスタン駐留英国軍の元司令官リチャード・ケンプ大佐は、これは「秘密の武器禁輸」だと述べ、「労働党は、状況の調査と言っているのに、同時にイスラエルに対して事実上の武器禁輸を課しているのは恥ずべきことだ」と付け加えた。
・この政策は、すでに締結された契約に基づいて輸出される武器には影響を及ぼさない。
・しかし、防衛業界団体の代表者らは、政府が決定を下すまでは新たなライセンス申請は進められないと告げられた。
・ある情報筋は「これは、新たなライセンス申請が無期限に101号室に提出されることを意味する」と語った。
・「労働党左派は何年もの間、イスラエルへの武器輸出の全面停止を求めてきたが、今や権力を握った彼らが初めて実行したのはこのことだ」
・この最新の暴露は、ジョン・ヒーリー国防長官のイスラエル初訪問に影を落とす恐れがある。
・彼は昨日テルアビブに到着し、ヨアブ・ギャラント外相と会談し「イスラエルと英国間の重要な防衛関係について話し合った」。
・しかし、新たな輸出許可が凍結されたというニュースはイスラエルで激怒を呼ぶ可能性がある。
・政府は「武器輸出に関しては、国内法と国際法の両方の義務を遵守することが極めて重要だ」と述べた。
・「私たちは入手可能なアドバイスを検討しており、慎重に決定を下すつもりだ。」
3.輸出許可申請は審査している
もっとも、イギリス政府自身は、秘密の武器禁輸措置なんてしてないと否定しています。
8月5日、ロンドンを拠点とするオンライン・ニュース「ミドル・イースト・アイ」は、「英国政府はイスラエルに対する『秘密の武器禁輸』報道を否定」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
・英国政府は、イスラエルに対して「秘密の武器禁輸措置」を実施したとの報道を否定し、同盟国への輸出許可に対する姿勢に「変化はない」と述べた。ラミー外相の発言が嘘なのか、それとも政府方針が徹底されてないのか。政権交代直後であることが影響しているのか、本当に武器輸出が停止されているのか分かりません。
・デイリーメール紙は金曜遅く、デービッド・ラミー外務大臣の指示による見直しを待って、政府当局がイスラエルへの新たな武器輸出許可申請をすべて凍結したと報じた。
・報告書はまた、防衛業界団体の代表者らに対し、政府が検討後に決定を下すまでは新たなライセンス申請は進められないと伝えられたと伝えた。
・しかし、ビジネス貿易省の広報担当者は月曜日、ミドル・イースト・アイ(MEE)に対し、「戦略的輸出許可基準に照らして、ケースバイケースで輸出許可申請を審査し続けている」と語った。
・「武器輸出に関しては、国内法と国際法の両方の義務を遵守することが極めて重要だ」と報道官は述べた。「イスラエルへの輸出に関する助言を検討中だが、決定はまだ下されていない」
・MEEは、先月新労働党政権が発足して以来、ライセンス手続きに正式な変更はないものと理解している。
・前政権は5月に公表したデータの中で、10月7日のハマス主導の攻撃後、英国製の武器や軍事装備の輸出許可が取り消されたり拒否されたりしたことはないと明らかにした。
・公開されたデータはまた、攻撃以降、武器、軍事装備、その他の規制対象品目のイスラエルへの英国輸出許可が100件以上承認されたことを示した 。
・同日遅く、ジューイッシュ・クロニクル紙は、許可を求めたところ「政策見直しのため停止」という通知を受け取ったとされる人物の話を引用し、政府がイスラエルへの武器輸出許可の停止を開始したと報じた。
・説明を求められ、事業部門の代表者は、同日早朝にMEEに伝えたコメントを繰り返し、「イスラエルへの輸出許可に対する当社の姿勢に変更はない」と述べた。
・ラミー氏は、7月初旬の就任初日に、イスラエルのガザ戦争における国際人道法遵守について新たな法的助言を依頼したと述べている 。
・情報筋は MEE や他のメディアに対し、政府は先週の夏季休暇前の議会最終日に武器販売の制限を導入する予定であると語った。
・しかし発表はなく、タイムズ紙とガーディアン紙の報道によると、政府が英国製の兵器のうちどれがイスラエルのガザ戦争で使われたか、どれが防衛目的で使われたかを特定したため決定が遅れたとのことで、この区別はラミー氏が最近明らかにした。
・議会最終日は、イスラエル占領下のゴラン高原でロケット弾攻撃により12人の子供が死亡し、イスラエルとヒズボラ間のより広範な紛争の懸念が高まった数日後にも開かれた。ラミー氏はこの展開を「非常に憂慮すべき」と述べた。
・こうした懸念は、先週テヘランでハマス指導者イスマイル・ハニヤ氏とヒズボラの上級軍事司令官フアード・シュクル氏が暗殺されたことでさらに高まるばかりだろう。
・しかし、NGOや活動家らはMEEに対し、イスラエルがガザへの爆撃を続け停戦の可能性を潰す中、新政府が意図的に意思決定を遅らせていることを懸念し続けていると語った。
・「新政府が国際法の遵守に二重基準を適用し、過去の過ちを繰り返していることを非常に懸念しています」と、英国に拠点を置くアクション・フォー・ヒューマニティの擁護リーダー、ニコラ・バンクス氏は述べた。
・バンクス氏は、イスラエルの遵守状況の評価は「最低限」しか行われていないため、英国がまだそうしていないのであれば、イスラエルへの武器移転を直ちに停止すべきだと述べた。
・英国に拠点を置くシャドウ・ワールド・インベスティゲーションズの調査・戦略担当ディレクターで、サセックス大学の国際関係学教授でもあるアンナ・スタブリナキス氏は、政府が攻撃兵器と防御兵器の間に区別をつけようとしているようだが、「実際にはそうではない」と述べた。
・「武器輸出に関する規則は、リスク評価と、ケースバイケースでのあらゆる種類の武器の使用可能性に基づいている」と彼女はXのビデオで述べた。
・「これはまさに、政府が輸出継続のための余地を探しているように見える」
・ヒューマン・ライツ・ウォッチの英国代表ヤスミン・アーメド氏は、「英国から移譲された軍事装備が、戦争犯罪に相当する攻撃を含むイスラエルによる国際法の重大な違反を助長、あるいは実行するために利用されるという明らかなリスクがあることに疑問の余地はない」と述べた。
・「英国が機器のライセンスを停止しないことで、国内法に違反するだけでなく、大量虐殺を防ぐための措置を講じられないリスクがある。」
・英国の公務員を代表する公共商業サービス労働組合(PCS)は、 ガザでの戦争とそれが公務員に与える影響について内閣府との会合を要請した。
・今年初め、元援助関係の公務員が『デクラシファイド』誌で、外務省の職員300名ほどが、イスラエルのガザ戦争への英国の共謀と支援について正式に懸念を表明したと聞かされたと報じた。
・PCSは、公務員として行われている仕事の合法性や公務員法に基づく職員の義務などの問題について「満足のいく解決策を交渉する」よう求めている。
・「PCSは常に会員の利益を守ります。法律に違反する可能性のある業務を行うことは会員の利益にはなりません」とPCS事務局長フラン・ヒースコート氏は述べた。
・内閣府は、要請に応じてPCSと会う予定があるかどうかについてすぐには回答しなかった。
4.ファビアン・ハミルトン
ただ、政権奪取直前の6月、労働党のファビアン・ハミルトン議員はイスラエルへの武器輸出停止を主張していました。
ハミルトン議員は、昨年までキーア・スターマー卿の下で、影の外相を務めていたのですけれども、6月にリーズで行われた公聴会で、労働党が政権を握ればイスラエルとサウジアラビアへの武器販売を停止すると発言しています。
また、別のパネル・イベントで、イスラエルをジェノサイド(大量虐殺)と非難する質問者から「イスラエルに武器を売るべきか」と問われたハミルトン議員は 「もし我々が来週の選挙で勝利すれば、イスラエルへの武器売却は即座に中止する……莫大な数の武器を供給しているわけではないが、そうしなければ加担することになるからだ。最大の取引先であるサウジアラビアへの武器売却も中止する」と答え、労働党は外交政策において「一貫性」を持つ必要があるとも述べています。
ハミルトン議員は、イスラエルへの武器売却停止政策を導入したのはデビッド・ラミー氏だと明かした上で「私たちが選挙に勝てば、彼は外務大臣になるだろう。私はスターマーのことよりもラミーのことをよく知っているし、ラミーが言ったことを実際に実行することも知っている」と述べています。
果たして、ハミルトン議員の指摘通りにラミー氏が外相となり、イスラエルへの武器売却停止も主張しました。
もしラミー外相の主張する通りに、イギリスがイスラエルへの武器売却を停止すれば、イスラエルに武器援助してくれる味方がまた減ることになります。
昨日のエントリーでも述べましたけれども、国際社会のイスラエル支援の限界点は意外と近いのかもしれませんね。
この記事へのコメント