プーチンのジレンマとバイデンのジレンマ

今日はこの話題です。
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1.チェチェン軍特殊部隊投入


8月14日、ウクライナの越境攻撃にさらされているロシアは、ウクライナに送った兵力の一部を撤収させ、特殊部隊であるチェチェン軍「アフマート旅団」を投入しました。さらに越境攻撃されたクルスク州に隣接している国境地域の南西部ベルゴロド州に連邦レベルの非常事態を宣言しました。

アメリカとウクライナ当局者は「クルスクを急襲したウクライナの攻勢を退けるために、ロシアがザポリージャやドニプロなどウクライナ南部に配置した兵力の一部を引き抜き始めた……ウクライナの動きはロシアの戦闘計画を変え、ロシアが優位を占めてきた戦場に新しい戦線を作った」と述べています。

そして、プーチン大統領は自身の「目と耳」と呼ばれる腹心のアレクセイ・デュミン国務院書記もウクライナ軍のクルスク進撃に対応するための作戦に投入したようです。

もっとも、ロシアは激戦地であるウクライナ東部のドネツク一帯の部隊は撤退していないそうで、機甲師団など他の戦闘部隊の移動も観測されていないと見られています。ウクライナ安全保障協力センターのセルヒー・クザン会長は「ロシアの戦略はドネツク方面の部隊動員を最大限避けること」とし「ロシアは今夏攻勢作戦のすべての成果を危険にさらすことを敬遠するため」とコメントしています。


2.ウクライナ国境に軍を配備したベラルーシ


8月18日、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はロシア国営テレビのインタビューに応じ、ウクライナの越境攻撃について、「彼らの攻撃的な政策を見て、我々はそこに軍隊を導入し、戦争の場合には防衛のために国境沿いの特定の地点に軍隊を配置した」と述べ、国境には「かつてないほど」地雷が敷設されており、ウクライナ軍が国境を越えようとすれば多大な損失を被ることになるだろうとコメントしました。

ルカシェンコ大統領は、インタビューでは、国境沿いに何人の兵士を配備したかは明らかにしなかったのですけれども、国際戦略研究所の2022年版軍事バランスによると、ベラルーシの正規軍は約4万8000人の兵士と約1万2000人の国境警備隊を擁しているとのことで、ベラルーシ国営通信社ベルタは、ベラルーシは国境全域に軍のほぼ3分の1を展開していると報じています。

これに対し、ウクライナ国境警備局の広報担当者アンドリー・デムチェンコ氏は、ウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」に対し、「我々が見ているように、ルカシェンコ氏のレトリックも変わらず、テロ国家を喜ばせるために、常に状況をエスカレートさせている……我が国の国境付近のベラルーシ部隊の装備や人員の増加は見られない」と、ベラルーシとの国境の状況は変わっていないと語っています。

ベラルーシが国境全域に軍の3分の1を張り付かせたのは、一義的には、もちろんベラルーシ自身の安全保障のためでしょうけれども、二義的には、越境攻撃を受けているロシアへの側面支援の面もあるかもしれません。

昨年7月、ウクライナ軍のナエフ中将は、ベラルーシとの国境沿いの30ヶ所に計約5800発の対戦車地雷を敷設したことを明らかにしていますけれども、ベラルーシ国境からウクライナ首都キエフまでは直線距離で80キロしかありません。

ここに大軍を展開されると、いくら地雷を敷設しているとはいえ、十分な牽制になると思います。

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3.プーチンのジレンマ


8月13日、アメリカのバイデン大統領は、ウクライナによる越境攻撃はプーチンにとって「真のジレンマを生み出した……展開中の作戦について私に言えることはこれが全てだ」コメントしました。

更に、ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は記者団に対し、アメリカは「今回の作戦とは関係ない……我々は一切関与していない。ウクライナ側とは今後も対話を続けていくが、どのようなアプローチを取るのか、それを説明する責任はウクライナにある」と述べています。

バイデン大統領が口にしたプーチン大統領のジレンマとは一体何なのか。

これについてJBpressは8月19日付の記事「ウクライナのクルスク進攻に隠された、停戦交渉材料よりずっと重要なこと」で次のように解説しています。
・ウクライナは8月6日(ウクライナ大統領が認めたのは8月10日)に、ウクライナのスームィからロシア西部クルスク州に越境攻撃を開始した。

・ウクライナ正規軍がロシア領内に進攻したのは、ロシア軍のウクライナ侵攻以来初めてのことだ。

・ウクライナは当初、3個旅団、さらに3個旅団と1個砲兵旅団など、おそらく2万人近い兵力を投入している。

ウクライナのオレクサンドル・シルスキー総司令官によれば、クルスク進攻の戦果は8月12日、制圧地域が1000平方キロ、74の居住区になったとしている。

・ウクライナ軍はすでに制圧した地域において、塹壕を掘り始めている。

・ロシア軍の反撃を受けた場合に、防御態勢を作り、反撃をくい止めることを考えているのだ。つまり、占拠した地域からは撤退しないで、長期間確保する狙いなのである。

・これに対してプーチン大統領は、クルスク正面に10~11個大隊、おそらく4000~6000人規模を戦線全体から転用して再配置し、ブリャンスク州、クルスク州、ベルゴルド州の3つの州で、「対テロ作戦体制」を導入した。

・この戦力では、越境したウクライナ軍を撃破して押し戻す力はない。

・ロシアのウクライナ軍を撃退するための軍は、事前に潜入しているウクライナ軍の特殊部隊およびロシア自由軍団などによる妨害により、この地点に進出することができずにいる。

・そして、ウクライナの前進を止められていない。ロシア政府と軍は、現在のところ完全に意表を突かれ、かなり混乱しているようだ。

・この状況で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、次の重要なステップに進むよう命令している。

【中略】

・ウクライナが当初3個旅団で攻撃していることと、占拠した範囲から分析すると、攻撃軸は左の助攻撃、中の主攻撃、右の助攻撃である。

・増援の3個旅団は、中の主攻撃部隊となり、中間目標を越えてクルチャトフの町からクルスクの町に向かっている。

・右の助攻撃部隊は中間目標としてスジャの町を占拠し、さらに東に向けて占拠地域を拡大している。

・スジャにはガスパイプラインの測定所があり、ガスを抜き取り輸送量をコントロールできるようだ。

・左の助攻撃部隊は中間目標を占拠し、その後、占拠地域を拡大するように西に向けて侵攻する。

・ウクライナの主攻撃軸は約30キロ、右左の攻撃軸は約16キロまで前進している。クルチャトフまでは、あと45キロである。

・そのクルチャトフの町には、クルスク原発がある。

・この原発は古くなりつつあることから、新たにクルスク原発2が建設されており、2025年には試運転の予定である。

・クルスク原発2は、ロシア最強の原発と呼ばれているほど近代化された原発である。

・ウクライナ軍の主攻撃の方向が、攻撃目標と考えてよい。その方向は、クルスク原発だということが分かる。

・ロシア軍は急遽、クルスク原発の周辺に部隊を配置して、防御準備を始めている。

・ウクライナは、原発を最終目標とするのであれば、その目標を部隊が占拠することが最も望ましい。

・しかし、それができない場合でも、目標をHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)や長射程精密誘導砲弾の射程に入れる位置まで前進して占拠できれば、支配下に入れたことになる。

【中略】

・ロシアは侵攻当初、ウクライナキーウの北、ベラルーシとの国境の近くに位置し、廃炉作業中のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を一時占領した。

・このため、放射線が拡散するのではないかと心配された。

・現在、ロシアはウクライナのザポリージャ原発を占拠している。

・ウクライナはこれまで、その原発を奪回することも、施設内でのロシアの悪意ある行為を止めることもできなかった。

・ロシアは、ロシア軍の戦況が悪化すれば、その原発を爆破し、ウクライナを核物質で汚染させることができる。

・ロシアは、原発の危険性を十分に知り尽くしていて、原発に対して悪意ある行為を行うことを想像させて、脅威を煽ってきた。

・首都キーウは、ザポリージャ原発から430キロ離れている。

・ウクライナは今、クルスク州に越境攻撃を行い、ロシア・クルスクにあるクルスク原発にあと45キロまで迫っている。

・占拠できれば、同原発を支配下に置くことができる。現在の段階でも、ウクライナのHIMARS等(射程45~60キロ)でロケット等による攻撃ができることになった。

・もしも、ロシアがザポリージャ原発を爆破するようなことがあったり、あるいは爆破するぞと恫喝しようとしたりしても、ウクライナはこれまで国際機関に訴えるだけで何もできなかった。

・しかし、現在ではロシアがそのようなことを行えば、逆にクルスク原発を攻撃するぞと脅したり実際に砲撃したりして、部分的に破壊することができる。

・クルスク原発から首都モスクワまで、約470キロである。ザポリージャ原発と首都キーウまでの距離とほぼ同じだ。

・もし爆破されることになれば、相互の首都は核物質の影響を同じように受ける可能性がある。

・原発を占拠、あるいは攻撃するということは、世界的に非難を浴びるとともに、自国へも放射物質の影響を受ける。

・実行するには敷居はかなり高く、決断しにくい状況だが、実行するそぶりだけでも暗黙の恫喝にはなる。

・ウクライナがクルスク原発を支配下に置くことによって、ロシアの原発攻撃を抑止することが可能となったのである。

・ウクライナがロシアの原発へのロケット攻撃が可能になり、ロシアがそれらの攻撃を打ち落とせないならば、それは重大な核脅威となる。

・ロシアは核大国である。ロシアに核兵器を返却したウクライナに核兵器はない。

・ウクライナ戦争は、核兵器がない国が核保有国に侵攻されたものである。

・ウクライナはこれまで、ロシアに「核兵器を使うぞ」という脅しを受け続けてきた。

・もしも、ロシアが戦術核兵器を使うぞという脅しをかければ、ウクライナは、クルスク原発を攻撃する意志を示すことができる。

・ウクライナは、米欧から兵器の供与を受けていることもあり、クルスク原発を攻撃することには敷居が高い。

・だが、今回のクルスク進攻とその地域占拠で、「そうすることもできるという可能性がある」ことをロシアに示したことになる。

・ロシアは、自国の原発がウクライナのHIMARSなどの支配下になることを絶対に認めることはできない。

・どのようなことがあろうとも、クルスク州全域の奪還を命ずるだろう。しかし、その奪還のための予備の機甲戦力が十分にはない。

・プーチン大統領は、国境警備を担当しているロシア連邦保安庁(FSB)に奪還の指揮をとらせることを指示した。

・装甲が薄い装甲車しか保有していない部隊が軍を指揮しても、ウクライナ正規軍を撃破することなどできない。

・そこで、ロシアは東部・南部・西部の戦線から、現に戦っている部隊をいったん戦闘をやめて後方に後退させ、クルスクに転用しなければならない。

・これから兵士を数十万人徴集するとしても、今の戦いには間に合わない。

・ロシアにとって、この重大な危機に対応することは極めて難しい。

・アメリカのバイデン大統領の「プーチン大統領は本当のジレンマに陥っている」というのは、まさしくその通りだ。
このように、ウクライナの越境攻撃の裏には、ロシアのクルスク原発を支配下に置く狙いがあり、ロシアがそれを阻止しようとすれば、ウクライナの東部・南部・西部の戦線から戦っている部隊を引き上げさせ、クルスクに持ってこないといけないというジレンマに陥っているというのですね。

この通りであれば、プーチン大統領は、ウクライナの戦略にしてやられていることになります。


4.バイデンのジレンマ


一方、アメリカのバイデン政権もジレンマに陥っているという指摘もあります。

8月16日、BBCは「ウクライナの越境攻撃にアメリカ製兵器は使われたのか……バイデン政権のジレンマ」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
ロシア南西部クルスク州へ、ウクライナは電光石火の攻撃を続けている。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の大胆な賭けが、どれほどの規模のものか次第に明らかになる中で、アメリカ政府はウクライナによる越境攻撃の影響をかみしめている。

この侵攻が、戦争の政治的・軍事的力学をどのように変化させる可能性があるのか。アメリカが供与する武器をウクライナがどう使うかについて、かねて変化してきた米政府の姿勢が、この侵攻でどう影響を受けるか。米政府高官らは、こうした事柄を検討している。

いきなり始まった襲撃に、どうやらロシアだけでなく西側の指導者たちも虚を突かれたようだ。そしてこの電撃作戦は、西側が支援するウクライナ防衛において、最も危険なジレンマの一つを浮き彫りにした。ジョー・バイデン米大統領はこれまで一貫して、米ロ関係の激しく悪化させる危険を避けつつ、同時にウクライナにはロシアの侵攻を押し返す力を与えようとしてきた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は常に、この紛争はロシア対西側諸国の戦争だと表現してきた。だからこそバイデン氏は、プーチン氏のその主張に燃料を与えないよう、そして対立が大火事に到らないように、アメリカの政策に明確な制限を設けようとしてきた。

複数の軍事アナリストは、ウクライナによる今回のクルスク攻撃は、第2次世界大戦以降で最大規模の、外国軍によるロシア侵攻だと言う。そしてこの侵攻を通じて、アメリカ政府にとって緊急の課題が複数出現した。

ウクライナがアメリカや北大西洋条約機構(NATO)の兵器システムをどこまで使っていいのか、アメリカが設定してきた限度が、この侵攻によって急速に拡大するのか? ロシアはこれまで、西側諸国の関与について「越えてはいけない一線」を設定してきたが、それを越えてしまう危険はないのか? もしそうでないなら、ゼレンスキー大統領は自分がプーチン大統領のはったりをはったりだとあらわにすることができると、アメリカ側に示したのだろうか?

こうしたリスクと不確実性にもかかわらず、アメリカ政府内ではゼレンスキー氏の動きに驚きの混ざった称賛の声が上がっている。ここ1週間のアメリカ政府高官のコメントをつなぎ合わせると、アメリカ政府が模索している新しい姿勢が見えてくる。バイデン政権は、ウクライナが攻撃について一切、事前警告をしなかったと主張している。ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は、アメリカはこの件とは「何の関係もない」と述べている。

アメリカ製の兵器を使用しているのかどうかについては、ホワイトハウスや国防総省、国務省の各報道官は公式には認めないだろう。しかし、ウクライナはアメリカやNATOの兵器システムに依存しているので、アメリカ提供の兵器を使っていることは圧倒的に明白だろう。ウクライナ軍参謀本部の元報道官、ウラディスラフ・セレズニョフ氏はアメリカ営放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」の取材で、アメリカが供与した高機動ロケット砲システム(HIMARS)が、この攻撃には不可欠だったと語った。

ウクライナがクルスク侵攻でアメリカの武器を使うことを、アメリカが黙認しているのは確実だ。国防総省のパトリック・ライダー報道官は今週、「我々が設定した政策の枠内だと判断している。米軍の武器使用について、政策は変わっていない」と述べた。当局者は、今回の攻撃は、ウクライナに越境攻撃からの自衛を可能するという「当初からの」方針と「一致している」と話す。

一方で、アメリカ防総省のサブリナ・シン報道官は「我々はロシアへの長距離攻撃は支持していない。これはむしろ集中攻撃において使用するためのものだ。具体的な射程距離を特定するつもりはない」と述べた。

ウクライナにとって、アメリカは最大の武器供給国だ。両国のこの関係はウクライナの将来にとって最重要のものになっている。アメリカ防総省は先週、対空ミサイル「スティンガー」や砲弾など、この3年間で63回目となる装備品の供与を承認したばかりだ。しかし、ロシアの侵攻開始以降、バイデン大統領は、先端兵器の提供をいったんは拒否した後に考えを変えるという対応を繰り返してきた。HIMARSや地対空迎撃ミサイル「パトリオット」、戦闘機「F-16」の提供は、いずれもそうやって決まった。

ウクライナによるロシア領内攻撃に対する、ホワイトハウスの方針も同様だ。ゼレンスキー氏は何カ月も前から、ウクライナへの攻撃を支えるロシア国内の軍事拠点に対して、攻撃することを認めてほしいと西側に懇願していた。そしてバイデン氏は5月についに、アメリカ製兵器による越境攻撃を許可したが、これはロシアの猛攻を浴びていた東部ハルキウ州を起点とした、限られた射程圏内への攻撃に限られた。ホワイトハウスは、ウクライナに許可した行動はあくまでも「反撃」措置だと説明していた。

バイデン氏は6月に、「国境のロシア側にある(ロシアの軍事拠点が)、ウクライナ側の特定の標的を攻撃するために使われている場合、アメリカの兵器を国境付近で使用することを許可している」と述べた。「我々はロシアに200マイル(約320キロ)も入り込んで攻撃することは認めていないし、モスクワやクレムリン宮殿を攻撃することも認めていない」。

この数週間後には、ロシア軍がウクライナ攻撃を準備している国境沿いの全地点についても、同様の許可が降りた。

ゼレンスキー氏はそれ以来、欧州の友好国やアメリカの民主党議員と共に、縛っているウクライナの手をさらに「ほどく」ようアメリカに求めてきた。具体的には、ロシアのドローン(無人機)やミサイルの発射基地を破壊することを目的に、アメリカが提供する「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS、エイタクムス)」や長距離ミサイルを使用してロシアの奥深くまで攻撃できるようになりたいというのが、ゼレンスキー氏の希望だ。アメリカ政府はこれを拒否している。

こうしたすべての判断の上に暗い影を落とすのが、プーチン大統領が繰り返す警告だ。プーチン氏はかつて、ロシア領土の一体性が脅かされた場合、「利用可能なあらゆる手段」を用いると脅している。また、この戦争で西側諸国がロシアにとって耐え難い脅威になったと判断すれば、核兵器を使う用意があるのだと言うかのように、プーチン氏はその可能性を再三ちらつかせている。

結局のところ、バイデン大統領の立場は次のようにまとめられるだろう。「ウクライナは、国境を越えた攻撃を含め、アメリカの武器を使って自国を防衛する最善の方法を決めることができる。ただしそれは、長距離ミサイルを使用しないなど、極めて明確な制限の範囲内でなくてはならない」と。6月のバイデン氏の発言は、この「明確な制限」が、「国境付近」にあると示すものだった。

クルスク攻撃は、アメリカのジレンマを予想外の領域へと導いた。文字通りの意味でも、比喩としも。ウクライナによる侵攻は国境を越えた地上攻撃だ。5000~1万2000人の兵がかかわっているとされる。未検証のロシア報道では、ウクライナ軍は最大30キロもロシア領内を進軍している。

ウクライナ政府は、今週半ばまでに自軍が70カ所以上の村や町を含むロシア領1000平方キロを制圧し、数百人の捕虜を捕らえたと発表した(編注:ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は15日には同軍が国境から35キロの地点まで到達したと報告し、82集落を含む1150平方キロの面積を掌握したと説明した)。

ロシア当局によると、約13万2000人が自宅から避難したという。

米政府高官らは、この件に関してまだ公に詳細を語りたがらない。それはつまり、戦況や戦争の行方、そしてこの件がプーチン氏の計算にどのような影響を与えているのか、米政府として検討中ということなのだろう。

武器の承認をめぐりバイデン大統領が慎重すぎるとか、判断が遅すぎるとか、もしもゼレンスキー氏がそういう不満を抱いていたなら、ゼレンスキー氏は今回の越境攻撃を通じて、自分には事態を動かして相手の対応を引き出す力があると、そう示そうとしているのかもしれない。バイデン氏に。そしてプーチン氏にも、

大胆な賭けだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は常に、この紛争はロシア対西側諸国の戦争だと表現してきた。だからこそバイデン氏は、プーチン氏のその主張に燃料を与えないよう、そして対立が大火事に到らないように、アメリカの政策に明確な制限を設けようとしてきた。

これまで、バイデン大統領は、ウクライナ戦争についてロシア対西側諸国の戦争だと主張するプーチン大統領に正当性を与えないため、ウクライナに供与したアメリカ製武器の使用範囲を国境ないし国境付近までに制限していた。ところがウクライナはそれを踏み越えてしまった。バイデン大統領は慌てて、越境攻撃はウクライナが独断でやったことだと言い訳したものの、これに対するプーチン大統領の反撃を恐れているとし、越境攻撃は大胆な賭けだと述べています。

ジレンマに陥っているプーチン大統領とバイデン大統領。状況の打開は簡単にはいかなさそうですね。



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