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1.南海トラフ臨時情報が与えた損失
8月8日午後に宮崎県で震度6弱を観測したマグニチュード7.1の地震を受けて発表されていた南海トラフ地震臨時情報が15日、終了しました。
けれども、お盆を直撃したことで旅行や帰省など国民の社会生活に大きな影響を与えました。特に観光業界への影響が顕著でした。
たとえば、和歌山県白浜町内のホテルはキャンセルが相次ぎ、大きな損害が出たそうです。
あるホテルの支配人は「9~15日で500件ぐらいのキャンセルが出ている。夏の一番の最盛期にあたるので、ホテルとしては影響が大きい……本当に地震が起きたとき、どう行動できるか。やっぱりそういう地域と認識できた。お客様が安心して、白浜に来たいと思ってもらえる体制づくりが重要」とコメントしています。
白浜町の大江康弘町長は「すでに旅館組合の方からは、この1週間で5億円近い損害が出ている。数字の精査というのはしっかりやって、国に対してお願いができるようにしていきたい……どこまで受け止めてもらえるか分からないが、お願いしたい」と内閣府などに陳情するとしています。
また、宮崎県日南市の油津地区のホテルでも、「多くのお客さんをお待ちしていたが、キャンセルの電話が相次いだ。『やはり地震が心配で』という声が多かった。日南という地名や、海沿いであることから、旅行控えをしようとした方がほとんどだ。お盆の時期に入っていた30件のうち、26件はキャンセルになった」として、50万円の損失を出したそうですけれども、「こういう状況なのでキャンセル料は取りにくい。無料にさせてもらったので、宿泊料が丸々入ってこない。ハイシーズンなので稼ぎ時で、料金も高めに設定させていただいた分、ダメージは大きい。保険についても調べたが、こうした場合の営業補償はなかった。コロナ禍のように、給付金などの補償があると助かる。気象庁からの発表は人命優先という意味合いだし、間違っていないと思うが、それによって出た経済的な影響についても国の方でやっていただきたいと思う」と指摘。
更に「コロナ禍での緊急事態宣言や、“不要不急な行動を控えてほしい”という政府のお達しがあったときと似ている。ニュースや会見を最初から最後まで聞いていれば、リスクが高くないとなんとなくわかる。だけど、テレビには“巨大地震注意”と出ているので、そこだけ見ている方々の中には、こうした行動(制限)を選ぶ。今は“ぜひ来てください”と言える立場にはないが、落ち着いたらぜひ、宮崎に戻ってきてほしいと思う」と、“旅行控え”の空気感について、武漢ウイルスによる緊急事態宣言の発令に似ていると感じていると語っています。
これについて、エコノミスト/経済評論家の門倉貴史氏は「多くの宿泊施設は「巨大地震注意」に起因するキャンセルの場合、キャンセル料を免除するという措置をとっている。ただ、キャンセル料を免除するかどうかは個別の宿泊施設の判断に任されている。地震後も営業が可能で、なおかつキャンセル料を免除することで営業存続が困難になってしまう中小規模の宿泊施設であれば、キャンセル料を徴収するという判断をしてもかまわないのではないか」と指摘しています。
2.そこまで想像してなかった
8月18日、フジテレビ「ワイドナショー」に出演した社会学者の古市憲寿氏は今回の「南海トラフ地震臨時情報」について、「最悪ですよ、巨大地震注意って……専門家の方はそういう意図じゃないと思うけどこの1週間、海水浴場が閉鎖されたり、花火大会がなくなったり、新幹線が徐行したりとか社会に甚大な影響を与えた。しかも、1週間単位で地震を予知できるんじゃないかと誤解を人々に与えたんじゃないかと思う。1週間発令されて、なくなったら安心なんだと。でも、今日地震が起きてもおかしくない。それにもかかわらず、1週間単位で注意報みたいなのを出し、また出すたびに社会を止めるんですかっていう話……我々の生活はリスクがたくさんある。地震もあるし、台風もあるし、感染症もある。この1週間だけ、巨大地震注意報を出して社会を止める意味は本当にあるのか」と批判しました。
この意見に日本地震予知学会会長の長尾年恭氏は「ある意味、どういう反応が起きるか、内閣府も分からなかったと思うんです。まさか非常に離れた場所の海水浴場が遊泳禁止なるとか、そこまで想像してなかったと思うんです。ある意味、今回は機械的に発令されて、何が起きたか非常に壮大な避難訓練というか社会実験したと思うんです」と初めて出された臨時情報だったことから、今後検証していくのではと語りました。
これに対し、古市氏は「悪いのは政治家。専門家は機械的に判断を出した。それに対して政治家が地震のリスクは先週も今週も変わらず高いので、同じように生活してくださいと言うべきところを岸田首相が外遊をやめたりとかパニックをあおるような行動をした。政治家として判断しなかったミス」と指摘。コロナ禍の際も感染予防と行動制限のバランスが問われたことを引き合いに「政治家が責任を背負って大丈夫ですよ、安心してくださいと」と指摘しています。
3.南海トラフは依怙贔屓されている
今年は元旦から最大震度七の能登半島地震が起こるなど、なにかと地震が話題になりますけれども、こんなとき、取り沙汰されるのが、南海トラフ地震です。
政府の地震調査委員会は、この地域における30年以内のマグニチュード8~9クラスの地震の発生確率は70~80%だと喧伝しますけれども、過去30年の大地震を見てみると、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、そして今年の能登半島地震と、すべて南海トラフを外れたところの地震です。
南海トラフ地震の歴史を振り返ると、文書資料で西暦600年頃まで遡ることができます。古いほうから、684年、887年、1096年および1099年、1361年、1498年、1605年と大体、100〜200年の間隔で巨大地震が発生しています。
直近では、1707年の宝永地震、1854年の安政地震、1946年の昭和南海地震があり、政府の地震本部はこれら地震のデータから「今後30年間の発生確率が60~70%程度」という長期評価を出しています。
2018年、地震調査委員会がこの30年以内の発生確率を「70%程度」から「70〜80%」に引き上げているのですけれども、これについて、地震学者の鷺谷威氏は「南海トラフ地震の確率だけ『えこひいき』されていて、水増しがされています。そこには裏の意図が隠れているんです……80%という数字を出せば、次に来る大地震が南海トラフ地震だと考え、防災対策もそこに焦点が絞られる。実際の危険度が数値通りならいいが、そうではない。まったくの誤解なんです……南海トラフだけ、予測の数値を出す方法が違う。あれを科学と言ってはいけない。地震学者たちは『信頼できない』と考えています」と暴露しています。
通常、南海トラフ以外の全国の地震で使われている計算式は過去に起きた地震の発生間隔の平均から確率を割り出す「単純平均モデル」という方法で割り出しています。
これに対し、南海トラフだけは、プレートが跳ね上がるまでの限界点は常に一定で決まっており、次の地震が起きるまでの時間と隆起量は比例するという考え方に基づいた「時間予測モデル」と呼ばれる特別な計算式を採用しています。
地震調査委員会がこの「時間予測モデル」をもとに南海トラフ地震の「長期評価」を最初に発表したのは2001年のことで、このとき30年以内の発生確率は東南海地震50%、南海地震40%でした。
そして、2013年に東海地震、東南海地震、南海地震と分けられていた地震を南海トラフ地震に一本化する形で二回目の長期評価を行い、60〜70%という数値が示されたのですね。
けれども、他の地震で採用されている「単純平均モデル」で南海トラフ地震を評価すると、発生確率は20%に落ちるのだそうです。
前述の鷺谷威氏によると、2013年の評価の際、地震学者から「室津港1カ所の隆起量だけで、静岡から九州沖にも及ぶ南海トラフ地震の発生時期を予測していいのか」とか、「過去三回の地震だけでは圧倒的にデータが不足しており、たまたまうまく法則が当てはまって見えているだけなのでは」などの指摘があり、他と同じ「単純平均モデル」で行こうと意見がまとまりかけていたのですけれども、あろうことか行政担当者や民間企業の担当者を含む「政策委員会」なるものが「確率を下げることはけしからん」と横やりを入れ、せめて両論併記だけでもという意見すら聞かず、地震学者の多くが納得していない60〜70%(2018年以降は70〜80%)説が報告書に記され一人歩きをはじめたのだそうです。
更に、2001年の最初の評価で、「低い値にすると、今すぐ何もすることはないと受け取られる」という発言があり、当時の委員の一人が「南海トラフで危機が迫っていると言うと、予算を取りやすい環境でもあったんです」と告白するなど、かなり恣意的な操作が入った疑いがあります。
そして、「時間予測モデル」の根拠としている過去の地震での室津港の隆起量についても、その測量方法や測量時の潮位が不明で、誤差が大きすぎるのではないかという指摘に加え、室戸は地震のたびに土地が隆起するため、何度も港が掘り下げられてきたという事実も発覚していることから、「時間予測モデル」そのものの信憑性すら疑う声が上がっている程です。
フリーアナウンサーの古舘伊知郎も地震の動画チャンネルで、同様に政府が発表する確率の信憑性や過去の地震との関連について述べ、地震予測の難しさや地域ごとの発生確率の不均衡を指摘しています。
勿論、だからといって、備える必要はないとは言いませんけれども、一斉に経済活動を止めてしまう判断の是非についても、政府はちゃんと検討していかなければならないのではないかと思いますね。
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