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1.ハリスの指名受託演説
8月22日に行われたアメリカ民主党の党大会最終日、カマラ・ハリス副大統領が大統領候補としての指名を正式に受諾しました。
ハリス氏が指名受託演説で語った内容の概要は次の通りです。
・私たちの大統領、ジョー・バイデンへ。ジョー、私たちが共に歩んできた道を思うとき、私は感謝の気持ちでいっぱいになります。歴史が示すように、あなたの記録は並外れたものであり、あなたの人格は感動的です。そしてダグと私はあなたとジルを愛し、お二人に永遠に感謝しています。ハリス氏はこのほか、人工妊娠中絶の権利擁護や食品価格の「つり上げ」禁止にも言及しました。
・私は公民権運動の理想に浸って育った。私の両親は公民権運動の集会で知り合い、私たちが公民権運動の指導者たちについて学ぶように仕向けた。サーグッド・マーシャルやコンスタンス・ベイカー・モトリーのような弁護士もそのひとりだ。
・地球上で最も偉大なこの国でしか語られない、そういう物語を持つ全ての人を代表して、私はアメリカ合衆国大統領への皆さんからの指名を受諾します
・アメリカ国民の皆さん、この選挙は私たちの人生で最も重要であるだけでなく、私たちの国の人生で最も重要なもののひとつです。いろいろな意味で、ドナルド・トランプは不真面目な男です。しかし、ドナルド・トランプをホワイトハウスに戻した結果がもたらすものは極めて深刻です。
・私たちは、トランプ2期目がどのようなものになるかを知っています。それはすべて、彼の最側近のアドバイザーたちによって書かれた「プロジェクト2025」に記されています。そしてその総計は、わが国を過去に引き戻すことです。しかしアメリカよ、我々は戻らない。我々は戻らない。我々は戻らない。
・私たちは、中小企業の経営者や起業家、創業者に資本へのアクセスを提供します。そして、アメリカの住宅不足を解消し、社会保障とメディケアを守ります。
・ドナルド・トランプと比較してみてください。彼は実際には中間層のために戦っていません。代わりに、彼は自分と億万長者の友人のために戦っています。そして、国の借金を5兆ドルも増やすような税制優遇措置をまた与えるでしょう。
・そしてその一方で、トランプ税とでも呼ぶべき、事実上、国の売上税を制定し、中流家庭の物価を年間4000ドル近く引き上げるつもりです。私達はトランプ増税の代わりに、1億人以上のアメリカ人に恩恵をもたらす中間所得層減税を成立させます。
・イスラエルの人々は、ハマスというテロ組織が10月7日に引き起こした、言語に絶する性暴力や音楽祭での若者たちの虐殺といった恐怖に二度と直面してはならない
・バイデン大統領と私は、イスラエルの安全が確保され、人質が解放され、ガザでの苦しみが終わり、パレスチナの人々が尊厳、安全、自由、自決の権利を実現できるよう、この戦争を終わらせるために取り組んでいる。
・私は、イランとイランに支援されたテロリストからわが軍とわが国の利益を守るために必要であれば、どんな行動でもとることを決してためらわない。
・私は、トランプを応援している金正恩のような暴君や独裁者に寄り添うつもりはない。誰がトランプを応援しているのか。なぜなら、彼らはトランプがお世辞や好意で簡単に操れることを知っているからだ。トランプが独裁者に責任を問わないことを知っているからだ。
2.ハリスはバイデン政策を継承する
このハリス氏の受託演説について、8月23日、野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏はコラム記事で次のように述べています。
【前略】このコラムでは、ハリス政権は、基本はバイデン政権の政策を継承するも、物価高対策の実効性、実現可能性は高くなく、それがゆえに、アメリカ経済や企業、また、米国に進出する日本企業にとっても、トランプ政権の誕生よりもハリス政権誕生の方が、環境はずっと良いことになるだろうと指摘しています。
ハリス氏の得意分野は人権問題であり、特に中絶問題への対応で評価が高い。トランプ前政権は、最高裁の判事の人事を通じて女性の人工中絶の権利を奪ったと批判した。またハリス氏は、「我々は女性を信頼する」と強調し、女性蔑視との批判もしばしば受けるトランプ氏との対立軸を強調した。
他方、バイデン政権は不法移民の流入を止められず治安を悪化させているとのトランプ氏からの批判を受けて、ハリス氏は、合法移民を積極的に受け入れる移民国家である米国の基本姿勢と不法移民を規制する国境警備とを両立させる姿勢を示した。
外交政策については、米国が世界でリーダーの役割を果たしていくと強調し、トランプ氏の「米国第一主義」との違いを際立たせた。また米国は民主主義の継承者でありこれを守るという姿勢を示し、ロシアなど権威主義的な国にも接近を見せるトランプ氏との違いをアピールした。
さらに、中東問題では、ガザ地区の人道問題を強調し、バイデン大統領よりもイスラエルに厳しい姿勢を滲ませた。
ハリス氏は、8月16日に独自の経済政策案を示した。これは、中間層支援とともに企業の不当な値上げを取り締まり、物価価格を下げることを目指す意欲的なものだ。またこのハリス氏の経済政策の独自案は、エネルギー政策、税制、貿易政策などを含まない、いわば経済政策分野のごく一部を取り出したものだ。
ハリス氏は、今後、この独自の経済政策以外に独自色のある経済政策、その他の政策を積極的に打ち出すことはしないのではないか。その結果、ハリス氏の政策方針全体は、バイデン政権を基本的に継承するものとなるだろう。
選挙戦では、自身の出自や経歴を最大限活かしつつ、中間層支援、物価高対策、中絶問題など女性の人権問題の3点に絞って、トランプ氏との違いを際立たせる戦略をとるのではないか。これは、選挙戦略としては有効なのではないかと思われる。
他方、民主党が掲げる法人増税や不当な値上げをする企業を取り締まるとするハリス氏の姿勢は、反企業的であり、企業の間、あるいはウォールストリートではやや警戒されるだろう。
不当な値上げを実施する企業を取り締まるというハリス氏の政策案は、企業が自らの利益を拡大させるためにコスト上昇分を上回る値上げを行い、消費者に負担を強いている「強欲インフレ」という最近の議論を受けたものだろう。しかし、企業の価格設定が正当か不当かを判断するのは実際には難しい。また広範囲に企業の価格決定を検証するのも難しいだろう。
また、民主党が掲げる法人増税やハリス氏が掲げる不当な値上げをする企業を取り締まる法整備は、議会での承認が必要になる。民主党が選挙で相応の過半数の議席を得なければ、そうした法律を通すことは難しいのではないか。
このように考えると、民主党およびハリス氏が打ち出す反企業的な政策については、その実現可能性は必ずしも高くなく、共和党との対抗で打ち出す選挙戦略としての位置づけのみで終わる可能性が小さくないだろう。この点から、民主党およびハリス氏が打ち出す反企業的な政策を、企業あるいはウォールストリートはそこまで強く警戒する必要はないのではないか。
他方で、トランプ氏が打ち出す全ての国からの輸入品に一律10%~20%、中国からの輸入品に60%超の追加関税を課すという政策は、実現可能性は高い。セーフガード(緊急輸入制限)を認める米通商法201条、不公正な貿易に対する制裁を認める米通商法301条は、大統領の権限で発動できる。これは、トランプ氏が、自身が大統領であった時期に実際に実施した。民主党が掲げる法人税率引き上げ、富裕者増税、企業の不当な値上げの取り締まりよりも、こうした大幅な追加関税導入が経済、物価に与える打撃は格段に大きいのである。
さらに、トランプ氏が掲げるドル安政策は、米国の物価を押し上げるとともに、日本を含む貿易相手国に甚大な経済的打撃を与える。
【以下略】
3.トランプ政策はアメリカ経済の悪化を後押しする
木内登英氏は7月11日付の野村総研のコラムで共和党トランプ氏の政権公約について分析しています。
その概要は次の通りです。
米メディアは7月8日、11月の米国大統領選挙でトランプ候補が選挙公約に掲げる共和綱領案を報じた。これは16頁からなるもので、7月15~18日に中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれる共和党の党大会で採択される。米メディアは、2020年の前回大統領選で使われた綱領よりも保守色がやや薄まったと指摘している。木内氏はトランプ政権第1期と現在とでは、米国経済や金融市場の状況は大きく異なることから、トランプ再選の場合の保護主義的な政策は、既に脆弱性を抱える米国経済の悪化を後押しする可能性があると推測しています。
ただし、トランプ前大統領が掲げる政策が多く採用されており、保守色が強いやや極端な政策も少なくない。トランプ陣営は2023年に政策公約集「アジェンダ47」を公表したが、今回の綱領では、このトランプ陣営の公約集をもとに優先度や実現性が高い項目に絞り込まれたという。仮にトランプ前大統領が再選されれば、これよりも保守色が強く、より極端な政策が実施される可能性があるだろう。
トランプ前大統領の経済政策で最も特徴的なのは、「米国第一主義」に基づく、保護主義的政策だ。関税などで他国と同じ貿易条件を保障する、中国の最恵国待遇(MFN)を取り消すとされた。また、一部品目の輸入を段階的に停止するとした。対象となるのは、半導体や鉄鋼、医薬品などと見られている。
トランプ前大統領自身は、中国からの輸入品60%超えの追加関税をかけること、すべての輸入品に10%の追加関税をかけるというより大胆な政策を掲げている。
トランプ前政権の下で2017年に導入された大規模減税を恒久化することも含まれた。この際には、個人の所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げたほか、相続税や贈与税の基礎控除をほぼ倍増させた。大規模減税の恒久化の具体的な財源には言及せず、公的年金と医療保険制度は現状のまま維持するとした。財政赤字の拡大懸念を強める内容である。
バイデン政権が導入したエネルギー関連の規制を撤廃する。「米国を世界で圧倒的なエネルギー生産国にする」と強調した。石油や天然ガスなどの増産でガソリン価格を引き下げ、物価の抑制を図る。他方、バイデン政権が導入した電気自動車(EV)の普及に向けた環境規制も撤廃する。
バイデン大統領が2023年10月に発令した人工知能(AI)を規制する大統領令は「イノベーションを妨げ、過激な左翼思想を押しつけるものだ」として撤回する。
「何百万人もの不法移民を強制送還する」とし、トランプ政権時代に着手した「国境の壁」を完成させる。海外に駐留している数千人の兵士を南部国境に移動させ、その監視にあたらせる。また、移民の犯罪を食い止め、外国の麻薬カルテルも解体するとした。妊娠後期の中絶に反対を明記したが、具体的な規制は各州の判断に委ねるとしている。
外交・安全保障では、「同盟関係を強化する」とする一方、「同盟国が共同防衛義務に投資するよう徹底する」とした。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費増額が念頭にあるとみられる。
ウクライナの名指しは避け、「欧州の平和を取り戻す」とした。中東情勢を巡っては「イスラエルとともに立ち、平和を追求する」とした。インド太平洋地域については、「強く、主権があり、独立した国家を支持する」とのみ記した。
また、米軍の現代化を進め、米全土を守るミサイル防衛システムを構築するとした。「米軍を強化し、絶対的な世界最強の軍にする」と明記している。
【以下略】
4.ケネディが大統領選からの撤退を表明
そんな中、無所属の大統領候補ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が、フェニックスでの記者会見で選挙活動を中止し、トランプ氏を支持すると発表しました。
ケネディ氏は「私は心の中で、この容赦ない組織的な検閲とメディア統制を前にして、選挙に勝つ現実的な道筋があるとはもはや信じていない。だから、ホワイトハウスへの本当の道筋があると正直に伝えられないのに、スタッフやボランティアに長時間働き続けるよう頼んだり、寄付者に寄付を続けるよう頼んだりすることは良心の呵責を感じない……そもそも私がこの選挙戦に参加しようと考えたのは、主に3つの大きな理由があった。そして、これらが私が民主党を離れ、無所属で出馬し、そして今度はトランプ大統領を支持するよう説得した主な理由だ」と述べました。
けれども、ケネディ氏は「私の名前はほとんどの州で投票用紙に残る。青い州に住んでいるなら、トランプ大統領やハリス副大統領に害を与えることなく、あるいは助けることなく私に投票できる。赤い州でも同じだ……しかし、私がいることで混乱してしまう約10の激戦州では、私は名前を削除するつもりだ。すでにその手続きを開始しており、有権者に私に投票しないよう呼びかけている」と選挙活動を終了せず、激戦州の投票用紙から自分の名前を撤回するつもりだと発表しました。
8月23日現在、アリゾナ、ミシガン、ペンシルベニア、アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナなど激戦州でのケネディ氏の支持率は4~7%なのですけれども、ハリス、トランプ両氏が1~8ポイント差で競い合っている中で、ケネディ氏の数%がトランプ氏に流れるとなると大統領選の趨勢に大きな影響を与えることは間違いありません。
ウォール・ストリート・ジャーナルの世論調査によると、第三政党や無党派候補を支持する有権者のうち、半数がトランプ氏に投票先を変え、4分の1がハリス氏を支持するとしています。
ケネディ氏は、この申し出はトランプ大統領との2度の会談で行われたと述べ、「それらの会合で、彼は我々が統一政党として力を合わせようと提案した。我々はエイブラハム・リンカーンのライバルチームについて話し合った。その取り決めにより、意見が異なる問題については、必要であれば公的にも私的にも激しく意見を異にしながらも、我々が一致している存在の問題については協力して取り組むことができるだろう」と明かしています。
5.ケネディのトランプ支持と要請
このケネディ氏の要請について、トランプ氏は快諾するだろうと見られています。
8月20日、トランプ氏はミシガン州での選挙活動終了後、CNNのクリステン・ホームズ氏とのインタビューで「私は彼が好きだし、尊敬している……彼は素晴らしい人物だ。とても頭のいい人物だ。私は彼を長い間知っている……彼が退陣を考えているとは知らなかったが、もし退陣を考えているなら、もちろん私も賛成だ……私はずっとケネディ氏が好きだったので、その支持はうれしい」と答えています。
トランプ氏の発言は、ケネディ氏の副大統領候補ニコール・シャナハン氏が火曜日に投稿したポッドキャストで、ケネディ陣営は選挙戦から撤退しトランプ氏を支持することを検討していると述べた後に出されたのですけれども、彼女は、この決定はカマラ・ハリス副大統領がトランプ氏に勝つ「リスク」を減らすことが目的だと明かしています。
トランプ氏は、「私は世論調査でリードしているが、それほど差はない……しかし、それに関係なく、私の考えは変わらない。我々は犯罪を望んでいない。我々は強い軍隊を持ちたい。麻薬の流入を阻止しなければならない。開かれた国境から人々が我が国に流れ込むのを阻止しなければならない」とバイデン大統領が先月選挙から撤退し、ハリス氏が民主党候補として浮上して以来、2024年の選挙情勢は変化したことを認めています。
そして、11月の大統領選で勝利した場合、ケネディ氏を政権の役職に任命することを検討するかとの質問に対し、トランプ氏は「おそらく検討するだろう」と答えました。
では、ケネディ氏はトランプ氏は勝利した場合、どんな仕事をするのか。
ケネディ氏は自身が大統領選から撤退すると表明した演説で次のように述べています。
・FDA、USDA、CDCといった機関はすべて、巨大な営利企業によって管理されているケネディ氏が慢性疾患との戦いに関わったのは、環境保護運動に携わったことが切っ掛けなのですけれども、ケネディ氏は、慢性疾患、ウクライナ戦争、検閲という3つの問題が自身をこの選挙戦に引き込んだと語っています。
・FDAの資金の75%は納税者からではなく、製薬会社から出ている。そして、製薬会社の幹部やコンサルタント、ロビイストがこれらの機関に出入りしている。トランプ大統領の支援を得て、私はこれを変えるつもりだ
・慢性疾患の危機を解決し、食糧生産を改革する機会が与えられたら、2年以内に慢性疾患の負担が劇的に軽減されることを約束します
・私たちは米国民を再び健康にする。4年以内に、米国は健康な国になる。私たちはより強く、より回復力があり、より楽観的で、より幸せになる。
・トランプ大統領が当選し、約束を守れば、現在国の士気を低下させ、破産に追い込んでいる慢性疾患の大きな負担はなくなるだろう
・多くの重要な問題で我々の意見が一致していることに驚いた……会談で彼は統一した党として力を合わせようと提案した。我々はエイブラハム・リンカーンのライバル・チームについて話した
ケネディ氏は、50分間の停職演説のうち約15分間、この慢性疾患問題について語ったそうですから相当な意気込みが感じられます。
ケネディ氏の演説について民主党全国委員会の広報担当メアリー・ベス・ケーヒル氏は、「有権者がRFKジュニアについて知れば知るほど、彼に対する好感度は下がった……ドナルド・トランプは支持拡大につながる支持を獲得しているのではなく、失敗した過激派候補のしわざを引き継いでいる。さようならだ」との声明を出しています。
この声明はケネディ氏がまだ演説している最中に発表されています。よほど悔しかったのでしょう。
けれども、ケネディ氏はハリス陣営にも、もし自分が選挙から撤退してハリス陣営を支持したら、ハリス政権で何らかの役割を果たせるか尋ねていたのですけれども、ハリス陣営はケネディ氏の申し出を拒否したそうです。その意味ではケネディ氏をトランプ氏に行かせたのは民主党自身であり、自業自得といえるかもしれません。
ケネディ氏は、トランプ氏が本当に自分を政権に迎え入れるかどうか懐疑的だったものの、トランプ氏が約束を果たそうと「信じることにしている」と述べています。
11月の大統領選がどういう結果になるか分かりませんけれども、もしトランプ大統領が勝利したならば、このケネディ氏の選挙戦撤退とトランプ氏支持表明が決定打だったとなるかもしれませんね。
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