ロシアを怒らせたウクライナ

今日はこの話題です。
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1.ロシアのウクライナ空爆


8月26、27日の両日、ロシアはウクライナに対し、これまでで最大規模となる空爆を行いました。

ウクライナのデニス・シュミハル首相によると、ウクライナの州の半数以上にあたる15州ほどがドローンや巡航ミサイル、超音速ミサイルなどで攻撃され、「負傷者と死者が出ている」と、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿しました。当局などによると、少なくとも7人が殺され、数十人がけがを負ったとしています。

また、電力インフラが攻撃され、広範囲で停電が発生。全国で空襲警報が発令され、避難指示が出されています。

ウクライナ空軍のミコラ・オレシュチュク司令官はテレグラムで、ロシアが夜から26日朝にかけてミサイル127発とドローン109機を発射したと発表。ウクライナはそのうちミサイル102発とドローン99機を撃墜したとしています。

オレシュチュク司令は今回の空襲を「最も大規模な空からの攻撃」だと表現。これまでで最大の攻撃は、昨年12月に158発のミサイルとドローンがウクライナに向けて発射されたものとされていました。

そして翌27日未明、ロシアは2日連続の空爆を実施。ウクライナ当局によると、クリヴィー・リフのホテルが攻撃を受けて少なくとも2人が死亡したほか、南東部ザポリージャ州でもドローンによる攻撃で2人が亡くなったとしています。

ウクライナの監視当局は極超音速ミサイルを発射するロシア軍機を検知。空軍は、ミサイル5発とドローン60機を撃墜したと発表しています。

一方、ロシア国防省は声明で、ウクライナ中北部キーウ州、西部リヴィウ州、北東部ハルキウ州、南部オデーサ州を含むウクライナ全土の発電所や関連インフラを攻撃するため、空中発射型と水上発射型の長距離精密兵器を使用したと明らかにしています。


2.状況はきわめて厳しい


8月6日から始まったウクライナによるロシアへの越境攻撃ですけれども、ここにきて停滞兆しを見せています。

8月30日、ウクライナ軍のシルスキー総司令官はロシア西部クルスク州で過去24時間に最大2キロ前進し、現在も越境攻撃を継続していると言明しました。

ウクライナは越境攻撃開始以降、約100の集落を制圧し、35キロ奥地まで進軍したとしていますけれども、当初の勢いは陰りを見せています。

その一方、ウクライナの越境攻撃にも関わらず、ロシアはウクライナ東部での進軍を続けています。

8月28日、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州ノボフロジウカ市を制圧。ウクライナ東部で1年近く続けている攻勢の主目標のひとつであるポクロウシク市まで、わずか8kmほどに接近。

ウクライナのシルスキー総司令官によると、ロシア軍が8月29日、ポクロウシク防衛線の突破を試みたが失敗に終わったとしています。それでも、ウクライナ参謀本部によると、ポクロウシク方面への攻撃は29日に58回、30日の時点で36回にのぼるとしています。

ウクライナ軍には、ポクロウシク正面に送り込める予備部隊があまり残っていません。1ヶ月前は、旅団の多くを予備として温存していたのですけれども、それら旅団は、現在、ロシア西部クルスク州への越境攻撃作戦に参加しています。

8月28日、ゼレンスキー大統領はポクロウシク正面などの「状況はきわめて厳しい」と認めています。

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3.ポクロウシク攻略の戦略的意義


ロシアにとって、ポクロウシク攻略は大きな意味を持ちます。

8月28日、ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは、ポクロウシクは「複数の鉄道路線の非常に重要な結節点」であり、鉄道などの輸送のハブとして、ドネツク州中南部のブフレダルから州北部、それ以遠におよぶ広範な前線でウクライナ軍の補給を支えているとレポートしています。

ウクライナの越境攻撃の狙いの一つとして、クルスク州への侵攻によってロシア軍の一部部隊を東部から引き剥がしてクルスク州に振り向けさせることで、ウクライナ東部への圧力を弱めさせるというのがあるとも見られていたのですけれども、今までのところ、ウクライナ東部でのロシアの圧力は弱まっていません。

親ウクライナの調査分析グループ、コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は「クルスク州での攻勢は、ロシア軍に一部の兵力をドネツク州から移させるように仕向けることができなかったばかりか、同州での人員不足を悪化させた」と分析しています。

どうやらロシアは、クルスク州でのウクライナ軍の進撃を抑え込むために東部から精強な部隊を急派するのではなく、練度の低い若年の徴集兵多数を含む雑多な兵員をかき集めて侵攻に対抗させることにしたようです。

無論、これらの増援部隊はウクライナ軍の進撃を鈍化させたものの、食い止めるには至っていません。けれども、ロシアはその代償を払うことで、東部の兵力をそのままにしたのですね。

8月20日のエントリー「プーチンのジレンマとバイデンのジレンマ」で、ウクライナの越境攻撃を食い止めるために、プーチン大統領は、ウクライナの東部・南部・西部の戦線から戦っている部隊を引き上げさせ、クルスクに持ってこないといけないというジレンマに陥っているというJBPressの分析を紹介しましたけれども、プーチン大統領は、"雑兵"の寄せ集めを当てることで、そのジレンマを解消したという訳です。

その結果、ウクライナ軍がクルスク州に侵攻して3週間あまりたつなか、ウクライナ東部ではロシア軍の攻勢が続いています。

コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は「わたしたちもノボフロジウカは数日後にも占領されると予想していたが、ロシア軍の進撃ペースはわたしたちの想定を上回り、ノボフロジウカに近づいても減速しないどころか、逆に加速している」と記しています。

ポクロウシク正面を防御しているウクライナ軍の旅団は6個かそこらで、兵力はロシア軍の半分ほどの規模。支援がなければ、いつまで保つのか分かりません。

コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は「ウクライナ軍のコマンド(統合司令部)が状況を安定化させる措置を講じなければ、ロシア軍はわたしたちが以前に予想していたような数カ月後ではなく、2~3週間以内にポクロウシク郊外に到達する可能性がある」と警告しています。

また、フロンテリジェンス・インサイトは「ウクライナの指導部には戦線を安定化させる方策として、新たに編成された旅団を投入する、クルスク州やハルキウ州方面から兵力を移す、より安定した正面から大隊を引き抜くなど、いくつかの選択肢がある」と指摘しつつ、実際にこうした措置が講じられるかは見通せないとしています。




4.ウクライナの「勝利計画」


8月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、首都キエフで開かれたフォーラムで、ロシア西部クルスク州への越境攻撃は「勝利計画」の一環だとし、9月にこの計画をアメリカのジョー・バイデン大統領に提示すると述べました。

ゼレンスキー大統領はこの「勝利計画」が成功するかどうかはバイデン大統領次第であり、アメリカがウクライナに「この計画に含まれているものを与えるかどうか、我々がこの計画を自由に実行できるかどうか」にかかっているとし、「野心的すぎる内容だと思う人もいるかもしれないが、我々にとっては重要な計画だ」と述べ、アメリカ民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領とトランプ前大統領にもこの計画を提示するつもりだとしています。

フォーラムに同席したウクライナ軍のシルスキー総司令官は、ウクライナはロシア領土を維持し続けるつもりはなく、ウクライナ東部での攻撃からロシア軍の注意をそらすことが越境攻撃を行った動機の一つだと述べていますけれども、現状、その目論見は外れています。

ゼレンスキー大統領は、ロシアが和平交渉を望んでいるのなら、230もの空爆は行わないはずだ、とロシア政府に戦争をやめる意思がないと主張していますけれども、その空爆が越境攻撃が引き金になったとするのなら、和平交渉をぶち壊したのはウクライナということになります。

この日、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「現時点で、交渉に関する話題はほとんど妥当性を失っている」と、越境攻撃以降、ロシア側はウクライナとの和平交渉には一切応じない姿勢を明らかにしています。

結果として、ウクライナの越境攻撃は「ロシアを怒らせた」だけで終わってしまうのかもしれませんね。


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この記事へのコメント

  • naga

    > 和平交渉をぶち壊したのはウクライナということになります
    > ウクライナの越境攻撃は「ロシアを怒らせた」

    これらはロシア側から見たらそうかも知れないし、ウクライナも我慢するところは我慢して妥協するしかない時が来るかもしれない、のは現実かも知れません。
    しかし、ロシアがこんなことを言う権利も、ロシアに言われる筋合いもないことは少なくとも回りの国は肝に銘じないといけないと思います。
    もしウクライナが妥協して終結しなければならないことになれば、少なくともロシアに対する金融の制裁などは最低50年は継続するとかを考える必要があるんじゃないでしょうか。でなければ、やったもの勝ちを認めることになるんじゃないでしょうか。
    鈴木宗男や佐藤優のようなことを言ったりやったりしてると日本だって危ないと思います。プーチンに少数民族保護を求めるような能天気なバ〇がいますから。
    2024年09月02日 15:50