遠のくガザ停戦

今日はこの話題です。
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1.人質六人殺害


9月1日、イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザの最南部ラファの地下トンネルからイスラエル人の人質6人の遺体を前日に発見し、収容したと発表しました。

連れ戻した人質は、ハーシュ・ゴールドバーグ・ポリン、エデン・イェルシャルミ、オリ・ダニノ、アレックス・ロバノフ、カーメル・ガット、アルモグ・サルシの各氏。

また、イスラエル保険省は週末にガザ地区から戻された人質6人の遺体について、アブ・カビール法医学研究所が実施した検査から、検死の48時間から72時間前、つまり木曜から金曜の朝の間に6人全員が至近距離から複数回撃たれ、処刑されたことが示唆されることが判明したとコメントしています。

この日の朝、イスラエル国防軍参謀総長ヘルジ・ハレヴィ中将とイスラエル国防軍南部司令部のヤロン・フィンケルマン少将、人質担当のニッツァン・アロン退役少将が遺体が発見された現場を訪れ、現場検証を行ったとのことです。

イスラエルの民放テレビ局チャンネル12は、先週近くのトンネルから生還した人質が他の捕虜の拘束場所の詳細を漏らすのではないかとの懸念から、ハマスが6人の人質を処刑したのではないかと治安当局が懸念していると報じています。

イスラエル国防軍のダニエル・ハガリ報道官は、遺体の発見状況について、記者会見で「最初の調査によると…彼らは我々が到着する少し前にハマスのテロリストによって残忍に殺害された。彼らは10月7日の朝、ハマスのテロ集団によって生きたまま拉致された」と述べ、部隊は土曜日に地下約20メートルのトンネル施設の捜索を開始し、午後に人質の遺体を発見。遺体は夜中にガザから引き出され、身元確認のためイスラエルに搬送したとコメントしています。

これに対し、ハマス側は、人質は「シオニストの爆撃により殺害された」と主張し、死者はガザでの戦争を継続したイスラエルと戦争を支援したアメリカのせいだと非難しています。

現在、10月7日にハマスに拉致された251人の人質のうち、イスラエル国防軍によって死亡が確認された少なくとも33人の遺体を含め、97人がガザに残っているとみられています。


2.フィラデルフィア回廊


これを受け、イスラエルのネタニヤフ首相は、「恐ろしく冷酷な殺害に、魂の底から怒りを覚えている……我々の拉致被害者を殺害したハマスのテロリストたちとその指導者たちに言う。あなたたちの命は今や失われた……我々は休むことも、沈黙することもない。我々はあなた方を追い、追いつき、そしてあなた方と決着をつけるだろう」と宣言しました。

もっとも、この声明は、殺害発覚後しばらくしてからのことで、さらにビデオでの声明だったのですね。

これについて、首相官邸の報道官は、ネタニヤフ首相がなぜこの件に関する声明を発表するのに数時間を要したのか、また国民に向けて直接話すのではなく、事前に録画したビデオの形で発表することを選んだのかと質問されたのですけれども、回答しませんでした。

ネタニヤフ首相は殺害された人質の1人の親に電話をかけ、イスラエルが彼らの息子と他の人質5人を救えなかったことを謝罪したそうですけれども、先述のチャンネル12によると、ネタニヤフ首相は先週、ヨアブ・ギャラント国防相に対し、ガザに残る人質の命を救うことよりも、フィラデルフィア回廊にイスラエル軍を留まらせることを優先する意向を示したと伝えています。

フィラデルフィア回廊とは、全長13キロメートルに及ぶガザとエジプトの境界のガザ側にある緩衝地帯で、場所によっては幅が100メートルほどしかない狭い回廊で、その下にトンネルが掘られていると言われています。

イスラエルはこの回廊がイスラム組織ハマスにとって「生命線」となっており、ハマスはここで「定期的に武器をガザ地区に密輸してきた」と主張しています。

イスラエルの交渉担当者たちが、ガザの停戦と人質解放の可能性についてカイロで協議を行うなかで、このフィラデルフィア回廊が主要な対立点となっているとされています。

ネタニヤフ首相は、「ハマスの再武装を防ぐために」イスラエルの支配が必要だと主張し、ハマス側は、イスラエルによるガザからの完全撤退を要求し対立しています。

けれども、今のところ、ネタニヤフ首相は、このフィラデルフィア回廊に軍を駐留させ続ける方針を示しています。

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3.ネタニヤフ政権内対立


このフィラデルフィア回廊を巡って、ネタニヤフ政権内でも対立しています。

ギャラント国防相と治安当局の責任者らは、ネタニヤフ首相の強硬姿勢が合意を台無しにしていると懸念し、特にフィラデルフィア回廊に関する交渉でさらなる妥協をするよう繰り返し要請しています。

9月1日朝、ギャラント国防相は「私の思いと心は殺害された人質の家族とともにある……冷酷に殺害された人質にとっては手遅れだ。ハマスに監禁されたままの人質は帰国させなければならない……政治治安内閣を直ちに召集し、木曜日の決定を覆さなければならない」と、フィラデルフィア回廊に関するネタニヤフ首相の立場を支持する木曜の採決を覆すよう求めています。

更に、ギャラント国防相は、合意が得られなければ多方面にわたる戦争につながる可能性があると警告したとも伝えられています。

これに対し、極右派のベザレル・スモトリッチ財務大臣は、木曜の採決を覆すよう求めたギャラント氏を非難し、「内閣はイスラエルの安全を放棄する降伏協定を認めない」と宣言し、懲罰的にガザ地区の領土を縮小する緩衝地帯の設置を求めました。

スモトリッチ財務大臣は、人質6人の遺体の収容を受けて出したメッセージで、政治家らが「ハマスのためにイスラエル社会を弱体化させようとする」不誠実で無責任な取り組みを非難。

更に彼と同じく極右の扇動家である国家安全保障大臣イタマール・ベン・グビル氏も、「残念ながら、イスラエル政府が人質を殺害したと非難する左派の不安な発言を目にしている……はっきりさせておくが、人質を殺害したのはテロ組織ハマス、ハマスだけだ。イスラエル政府に責任を負わせる人たちは、ハマスのプロパガンダを繰り返しているだけだ……何千人ものテロリストの釈放とハマスによるフィラデルフィア回廊の支配を求める人々は、イスラエル国民の安全を故意に放棄している。次に殺害される人々の血は彼の手にかかっている……ギャラント国防相がパレスチナ人のために検問所を開くよう命令すれば、その結果はユダヤ人の殺害だ」と批判しています。

ベン・グヴィル氏はさらに、イスラエル人の「生存権はパレスチナ自治政府の住民の移動の自由よりも優先される」と主張し、スモトリッチ財務大臣は、イスラエルがヨルダン川西岸地区でのテロに対する「先制攻撃」を行わない限り、10月7日のような事態が再び起こる可能性があると警告しています。


4.イスラエル国内も分断


一方、イスラエル世論も沸騰しています。

人質・行方不明家族フォーラムは、人質と停戦の合意に達しなかった政府を激しく非難し、「国の完全な閉鎖を要求する大規模なデモに参加する」よう国民に呼びかけました。

それに呼応してか、9月1日の夕方、イスラエル国民数十万人がテルアビブに集まり、さらに数万人が国中で10月7日以来最大規模の抗議デモを行っています。

人質・行方不明家族フォーラムは、また同時に強力な労働組合ヒスタドルトに対し、2日に大規模なストライキを行うよう呼びかけていたのですけれども、ヒスタドルート労働連盟のアルノン・バル・ダビド代表は、政府がガザで人質解放を実現できなかったことに対し、1日午後、ゼネストを宣言。ダビド代表は、テルアビブでの記者会見で、この行動は10月7日以来の組合の政治活動となるが、午前6時に開始され、現在は1日ストライキとして計画されており、月曜以降の決定は後日下されるとしています。

ダビド代表は、さまざまな治安当局者らと話し合った結果、この合意が行き詰まっているのは「政治的配慮のせい」だと考えていると述べ、政治的二極化により「我々はもはや一つの国民ではなく、陣営同士が対立している」ため、「イスラエル国家を取り戻す必要がある」と主張。「我々は取引の代わりに遺体袋を受け取っている。我々の介入のみが移送を必要とする人々を移動させる可能性があるという結論に達した……私はイスラエル国民に今夜と明日、街頭に出てストライキに参加するよう呼びかける」と述べています。

ダビド代表はイスラエル国内でも分断が起きているとしているのですね。


5.罠に嵌ったネタニヤフ


では、今回の人質6人の殺害で、停戦交渉は頓挫してしまうのか。

これについて、ワシントン・ポスト紙はバイデン大統領政権の匿名の高官の話として、アメリカはエジプト、カタールと協力して、イスラエルとハマスのテロ組織間の停戦および人質合意の最終案をまとめている、と報じています。

この提案は、今回の人質殺害が明らかになる前から準備されていたもので、拒否されればアメリカの調停努力の終わりを意味する可能性があるとしています。

それでも、当局者は「合意が頓挫するかと言えば、そうではない。むしろ、すでに進行中のこの最終段階にさらなる緊急性を加えることになるだろう」と述べつつ、このことは、交渉におけるハマスの真剣さに「疑問を投げかける」ものだとしています。

8月8日のエントリー「イランの戦略に踊らされるイスラエル」で、筆者は、イランは、イスラエルに対して、他国からの支援をさせなくすると同時に「全面攻撃するぞするぞ詐欺」をして、イスラエルを極度な緊張体制に置き続ける戦略を取っていると述べたことがありますけれども、ハマスもそれに連動する形で、交渉を拒否しているのではにないかと思います。

つまり、ハマスはずっと粘ることで、イスラエルの方が疲弊して戦時体制が続けられなくなり瓦解することを狙っているのではないかということです。

ネタニヤフ首相がアメリカを巻き込んでイランを壊滅させようと挑発するも、イランはのらりくらりとかわして乗ってこない。その間にヒズボラがイスラエルを攻撃して、どんどん疲弊させていく。罠に嵌めるつもりが、罠に嵌ったのはネタニヤフ首相の方ではないかとさえ。

イスラエルとていまの戦時体制でいつまでもいれる訳もありません。あるいは本当にネタニヤフ政権が崩壊するときが来るかもしれませんね。



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