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1.新米大幅値上げ
令和の米騒動が世間を賑わせています。
スーパーなど小売店ではコメが品薄となり、「お店に行っても買えなかった」という声も上がっています。
8月27日、坂本哲志農相は記者会見で、小売店などでコメが品薄になっている問題について、新米が出回る9月ごろに解消するとの見通しを示しました。
足元の状況を巡っては、8月は在庫が最も少なくなる端境期であることに加え、南海トラフ地震臨時情報や台風により買い込む人がいたことが影響したと説明。年間出荷量の4割程度が出回る9月にかけてコメ不足は順次解消していくとし、「必要な量だけ買うなど、落ち着いた購買行動をお願いしたい」と呼びかけています。
けれども、米不足が解消しても値段は高いままという見通しが出ています。
テレ朝の報道によると、米の卸業者が小売業者に出した新米価格の最新のリストでは、千葉産の同じ品種のコメが去年は60キロ=1万4300円で売られていた物が、今年は2万7000円。1万2700円と大幅に値上げされているのだそうです。
実際、8月のコメの価格は前年同月比で26.3%と大幅に上昇していて、さらなる影響が懸念されています。
コメの流通は主に農協ルートと民間の集荷業者を通す、2つルートを通して店頭に並びます。
通常、農協が農家に支払う「概算金」と呼ばれる価格が基準となり、その基準額が、全国的に急上昇。JA茨城では、前年比で4割以上も上がっています。
一方、民間の集荷業者ルートでも、買い占めが起きているという指摘もあります。
茨城県龍ヶ崎市の横田農場の横田修一代表は「去年がだいたい1万2〜3千円ぐらいで売っていたのが、今年で言うと2万5〜6千円ぐらい60キロですね。倍ぐらいの値段で集荷しているっていうことだと思います。当然そういう仕入れた値段で、またその値段でさばかないといけないですから。でないと彼らも赤字になってしまいますから。だから皆さん本当に困っていますね。ただこれ(値上げ)でやるしかないですからね、この状況ですから」と集荷価格が倍になっていると述べています。
2.米の需要と供給
お米にかかわらず、商品の値段は、市場の需要と供給で価格は決まります。
では、今年2024年は 米の需要が増しているのかというと、高まる理由としていくつか挙げられています。
2022年からのロシア-ウクライナ戦争によって小麦価格が上昇。パンをはじめとする小麦製品が高騰し、パン食から米食にうつる人が増えたこと、更にコロナ自粛が明けた事によって、外食の増加やインバウンドによる外国人旅行者の米食の需要が高まったなどと言われています。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると2024年6月の訪日外国人数は310万人(2019年比+8.9%)で、単月としては過去最高の人数を記録しました。
更に、観光庁による訪日外国人消費額(2024年4月~6月)の発表では、全体的な消費額の増加、飲食費に関しては2019年比170%増となっています。
ただ、それで米需要が激増するかというとそうともいえず、毎月300万人の旅行者が日本に7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、消費量の0.5%増にしかならないという試算もあるようです。
農水省が今年3月に出している「米の消費及び生産の近年の動向について」によると、米の需要量については、長期的に減少傾向で推移すし、人口減少効果を加わって毎年10万トン程度需要が減っていると報告しています。
この状況では、多少、小麦から米に戻ったところで、劇的な需要増にはならないと思われます。
では、供給の方はどうかというと、ぱっと見ではそれほど減っている訳ではありません。
米の収穫高を計る指標の一つに「作況指数」というのがあります。これは、水田10a当たり平年収穫量(平年値)を100とし、その年の収穫量を示す指数です。作柄の良否(作況指数)は良(106以上)、やや良(105~102)、平年並み (101~99)、やや不良 (98~95)、不良 (94以下)に5区分に分かれており、数値が100を上回るほど豊作、下回るほど不作を意味します。
8月当たりまでで出回っている米は大体、昨年の米なのですけれども、2023年産米の作況指数は101と平年並みでした。
なのになぜ、市場に出回っていないのか。
米の流通業界は、猛暑の影響で品質が低下し一等米の比率が減少したと説明しています。
一等とか二等とかいう米の等級は、一定量の米の中に、粒のそろった米(整粒)の比率が高いか低いか、白濁した粒など被害を受けた粒の比率がどのくらいなのか、などで決定されるのですけれども、イネの穂が出た後に高温が続くと、米の内部に亀裂が生じてしまう「胴割れ粒」やでんぷんの形成が悪く白く濁ったように見える「乳白粒」などが生じるのだそうです。
この「胴割れ粒」は精米にする際に割れてしまうそうで、この割合が多いと精米歩留まりが低下し、商品としての評価が下がります。要するに、見た目の悪い割れたコメや被害のあったコメなどを流通段階で取り除いた後の「売り物になる米」は少なくなったということのようです。
3.減反政策
けれども、これら以外に米生産において根本的な問題があると指摘されています。減反政策です。
減反政策とは、米の生産量を調整するために、米の作付面積を減らす政策のことで、米の消費量が減り、米が余るようになったことを背景に、1960年代から試験的に実施され、1971年に本格的に導入されました。
この減反政策で次の施策がなされました。
・米農家に転作を支援するための補助金を支払うこれによるメリットとデメリットとは次の通りです。
・一時的に耕作をやめる休耕を行う
・田んぼを畑などに変える転作を行う
・1970年に新規の開田を禁止
メリット :政府の方針に従えば収入がある程度確保される。減反政策では、国が都道府県ごとの生産量を決めた上で、各地の農業協同組合などが農家ごとに生産量を割り当てていました。
水田で米以外の作物を生産する際の補助金も大きな収入源
デメリット:農家が自らの経営判断で米の生産などを実施しづらくなった
2002年、政府は消費者、市場重視の需要に即応したコメ作りを推進するとした米政策改革大綱を策定。2007年に生産調整の決定主体を国から産地に移し、減反政策を実質的に止めたのですけれども、この年の米価が前年から7%下落したことで反発が起きたため、すぐに生産調整の主体を国に戻した経緯があります。
最終的に減反政策は2018年に廃止されるのですけれども、その後も、人口減少の影響もあり、飼料用を除くコメの生産量は減少を続けています。
2021年産は756万トンで、2000年産の947万トンから20%減少。2023年産の米生産量は前年の670万トンから9万トン減少しています。
要するに、作付け面積という母数自体が減り続けているので、いくら作況指数が100だったとしても、生産量そのものは減ってしまうという訳です。
現在、JA農協と農林水産省は、主食用の米の生産量を650万トン程度に抑制することを目標にしているそうです。
4.来年も米騒動
2023年産の米は減反により前年産より9万トン少なかったことは前述しましたけれども、7月30日、農林水産省は、6月末時点の米の民間在庫量が前年同月より41万トン少ない156万トンで、比較可能な1999年以降で最も少なかったと発表しています。
一方、直近1年の主食用米の需要実績は、前年比1.6%増の702万トンと、10年ぶりに前年を上回ったとしています。
ロシア-ウクライナ戦争による小麦価格の高騰で、パン食から米食にうつる人が増え、インバウンドによる米の需要が高まったことは先述しましたけれども、需要が毎年10万トン減っていることから、結局「行って来い」になっていることが分かります。
2023年産の米生産量が661万トン、需要実績が702万トンで、差し引きマイナス41万トン。米の民間在庫量の減少量とぴったり合います。
つまり、今年の状況が来年も続くのであれば、来年も米不足になるということです。
では来年はどれくらい米不足になるのか。
今年産の供給量もコメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反しているとすれば、基準年に供給された2022年産の670万トンから20万トン少なくなるはずなのですけれども、農水省は令和5年10月19日公表の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」で令和6年産の主食用米等の生産量は、令和5年産のそれと同水準の669万トンと設定しています。
来年の米の需要が今年と同じの702万トンだったとすると、来年は差し引き33万トンの不足になります。もし、今年産米で、民間在庫が減った分を穴埋めするとなると更に41万トン、都合74万トンの不足になってしまいます。
穴埋めしなくても、33万トンと今年の41万トンに迫る量が不足になるとすると、来年も今年同様の米騒動が起こらないとも限りません。
今回の米騒動は、国の農業政策の在り方に注意を向ける切っ掛けになったのではないかと思います。
2018年に減反政策を廃止した筈なのに、現実はそれ以降も米の生産量は減り続けています。
農水省が令和6年産の米等の生産量は、令和5年産と同じとしたのが本当にそうなるのか。注目したいと思います。
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