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1.河野太郎の総裁選出馬会見
8月26日、河野太郎デジタル相は記者会見を行い、自民党総裁選への出馬を表明しました。記者会見の要旨は次の通りです。
【決意】:欧州でウクライナへの侵略が起こり、アジアでは一方的に力で現状変更しようとする動きがある。世界の形を議論しなければならない総裁選だ。改革と言うのは簡単だ。傷だらけになりながら改革をとことん進めていく。筆者にしてみれば、ツッコミどころが沢山あるのですけれども、財政規律を取り戻すと分厚い中間層を作るというのが両立するのか。どうやるのかは気になるところです。
【政治資金問題】:政治の信頼回復は急務だ。政治資金収支報告書への不記載額の返納でけじめとし、前へ進んでいきたい。報告書のデジタル化で透明性を高くする。
【不記載議員の公認】:捜査権を持った検察が調べて分からない。真相究明は難しい。返納でけじめがつけば、自民候補として国民の審判を仰ぐことになる。
【エネルギー政策】:電力需要が急速に伸びている。今は電力を最大限供給するため、水素やアンモニア、核融合の技術、リプレース(建て替え)も選択肢としてある。
【憲法改正】:憲法議論を前に進め、なるべく早く発議に持っていきたい。
【選択的夫婦別姓】:認めた方がいいと思っている。
【経済・財政政策】:経済を言い訳にせず、財政規律を取り戻す。日本の将来のためにやらなければいけない改革をしっかり進め、分厚い中間層をもう一度つくっていく。
2.ブロックする人に総理の資質はあるのか
その記者会見の場で注目したいことの一つにSNSのブロック問題です。
河野デジタル相は、会見で「一般ユーザーをブロックする行為が総理大臣の資質として相応しいのか」と問われ、次のように答えています。
・SNSでの誹謗中傷が増えてきている。Twitterの場合はXと名前が変わってから誹謗中傷あるいはフェイクニュースがあまり管理されなくなってきてしまったのではないかと残念に思っている質問に対して、いまひとつ嚙み合ってない回答のように見えるのですけれども、弁護士で日本公共利益研究所主任研究員の楊井人文氏は次のようにのべています。
・誹謗中傷がある程度野放しになったことで、政治家や芸能人、さらにはオリンピック選手なら誹謗中傷して良いんだと、誹謗中傷される対象がどんどん広がっている。あるいは一般の方も何かあるとXで誹謗中傷される状況になっている。誹謗中傷する方は、SNSの匿名の壁の後ろで人を傷つけて面白がっているのか楽しんでいるのかわからないが、特に責任を問われることもなく誹謗中傷や人を傷つけている人が多数いる
・私はこれは非常にネットの大きなマイナス面だと思っている。何らかの形で止めなきゃいけない。一つは法的な手段に訴えるということもあるが、もう1つは誹謗中傷する人をブロックすることだ」
・私が懸念しているのが、誹謗中傷してきた人をブロックした人に対して、『ブロックするのはけしからん』と批判すると、今度はブロックすると批判されるからと怖がってブロックしなくなることだ。誹謗中傷されている人はブロックされればその誹謗中傷を見なくても済む。誹謗中傷をネットで受け止める必要は全くない。誹謗中傷されたらまずはブロックをおすすめしたいし、ブロックしたことを批判するというのは問題だと声を大にして言いたい
問われているのは「一般ユーザーをブロックする行為が総理大臣の資質としてふさわしいのか」であり、誹謗中傷へのブロックの是非でも、私人どうしのブロックの是非でもありません。
河野氏は4月、X上で「誹謗中傷もしていないのにブロックされたという声も時々聞きます。そのような方には申し訳なく思っています。もしそのような方がいれば、フォローしているどなたかを通じてでもお知らせいただければ解除いたします」と投稿し、「過剰ブロック」を事実上認めていました。ところが、今日の会見ではこうした趣旨の発言はなく、ブロック行為の正当化に終始していたようです。
公人による私人に対するブロックは、私人どうしの場合とは大きく異なる影響、意味を持つことに留意することが必要です。
楊井人文氏も質問に答えていないとした上で、公人による私人に対するブロックと、私人同士のそれとは異なると指摘しています。
3.質問をはぐらかす河野太郎
河野デジタル相は、ブロック行為について他の番組でも指摘されているのですけれども、自説を曲げる気配はありません。
9月1日、フジテレビ番組に出演した河野デジタル相は、首相になった場合は国民の表現の自由に配慮し、内容が誹謗中傷といえるかやブロックするかどうかは司法判断に任せるべきではないかと問われると、「裁判では時間がかかる。総理だから誹謗中傷していいのか、大臣だったら誹謗中傷していいのかとなる……SNSの匿名性を利用して人を傷つけていることに対して、やっぱり世の中、強く出る必要がある」と答えました。
内容が誹謗中傷かどうか司法判断に任せないということは、「俺が誹謗中傷と思ったら誹謗中傷なんだ」という俺解釈でブロックするんだと受け取られてしまう可能性があります。
番組では、反対意見に応じない印象を国民に与えかねない懸念が出たのですけれども、これに対しては「決してそういうことではない。公の発信と、個人で楽しくやっているものとは違う。反対意見は受け止める」と答えています。
こうした河野デジタル相の見解について、法政大学大学院の白鳥浩・教授は次のように述べています。
首相だけでなく、政治的なリーダーに求められるのは、自分とは異なる意見に対する寛容性である。なるほど「誹謗中傷はだめだ」というのは一般論だが、何が誹謗中傷にあたるのかを判断するのは、個人ではないのかもしれない。白鳥教授は、自分で誹謗中傷であると決めつけるのは政治的なリーダーとして相応しくないと指摘していますけれども、これは要するに、「一般ユーザーをブロックする行為が総理大臣の資質として相応しくない」ということです。
自分で誹謗中傷である、と決めつけて、断じてしまえば、その意見は聞かなくて良いというのは政治的なリーダーとしてはいかがなものかという意見はある。
最近も、「嘘八百」と自分にとって都合が悪い表現を、決めつけた知事が問題となっている。それでは河野氏も、この知事と変わらないということになりはしないだろうか?という懸念がある。
やはりリーダーとして寛容性こそが必要なのではないだろうか。河野氏に、期待する国民もいる。自分の意見とは異なる意見に寛容である方向に変化することもお考えになってはどうか、と考える方もいることは心にとめておいても良いだろう。
また、ITジャーナリストで炎上解説やデマ訂正を専門とする篠原修司氏は次の様に述べています。
どこまでが誹謗中傷にあたるかは個人の感覚で異なるため、誹謗中傷かそうでないかではこのブロック問題は解決できません。この問題は、河野太郎氏が個人のアカウントで情報の発信を行っていることが原因です。篠原氏は、河野デジタル相が個人のアカウントで情報の発信を行っていることが問題であり、問題解決のためには個人と公人を分けて発信すべきと提案しています。
河野氏はXのかなりのヘビーユーザーのようですので、自分への批判は目にしたくないことでしょう。そのため、ブロックを止めるとは考えにくいです。一方、国民は首相が発信する情報を受け取りたいですし、受け取れるようにするべきです。
これを解決するには、個人アカウントと首相アカウントで分けるしかありません。つまるところアカウントの使い分け、使い方の問題だと私は考えます。首相になられた際は、政治的な発信はすべて「河野太郎(首相)」のようなアカウントで運用するようにし、「河野太郎(個人)」では個人的な発信に留めるようにすると良いと思われます。
これら意見を含め、先述の楊井人文氏は次のように述べています。
問題は誹謗中傷に当たらない意見や、直接何も言っていなくてもブロックされている点なのですが、多くの人が指摘しているのでここでは割愛します。番組では「誹謗中傷といえるかは司法判断に任せるべき」との指摘がなされたようですが、公人による一般人への提訴を勧めるべきではないでしょう。また、アカウントを公的なものと私的なものに分けるというのも一つの考え方ですが、首相や閣僚が公の場で発信したものは全て公的な意味を帯びるので、私的なアカウントからの発信でも誰でも閲覧できるようにするのが原則だと考えます。楊井氏は「首相や閣僚が公の場で発信したものは全て公的な意味を帯びる」と指摘した上で、SNS事業者側で技術的に誹謗中傷対策を取るべきだと述べています。
人間社会である以上、誹謗中傷は無くなりません。道徳論では全く解決しませんので、受け取る側の精神的負荷を軽減させるための技術的な仕組み(例えば、そうしたメッセージを安易に閲覧させることを防ぐ仕組み)の実装をSNS事業者に求めるといった問題解決型の議論が必要と考えます。
4.誹謗中傷という言葉を盾に権力振りかざす恐れ
先述の楊井氏は、河野デジタル相のブロックについて「問題は誹謗中傷に当たらない意見や、直接何も言っていなくてもブロックされている点だ」と指摘しているのですけれども、ここにズバリと切り込んだ人がいます。フジテレビの竹俣紅アナです。
8月26日放送のBSフジの報道番組『プライムニュース』で、竹俣アナは「視聴者からの意見」として、1通の視聴者メールを紹介しました。その内容は「誹謗中傷に対してブロックすることは理解できるが、自分の都合の悪い意見などまでブロックしているように見えるので、このような方が総理総裁になっても『国民の意見を聞かない総理になるのではないか』と心配になる」というもので、これに対し、河野デジタル相は「誹謗中傷はブロックしますけど、時々そうでないものを『間違えてブロックしてませんか?』と言われて解除することはあります」と答えました。
これに対し、竹俣アナは「政治家の場合、やはり芸能人ですとかオリンピック選手とは違って、誹謗中傷という言葉の中に、正当な批判ですとか反対意見も含んでしまうことによって、誹謗中傷という言葉を盾にして権力を振りかざす恐れもあるのかなと思うんですけど。その辺りはどうですか」と質問しました。
河野デジタル相は、「政治家だからいい、芸能人だからいいということをやっていたから、ここまで誹謗中傷が広がってしまったので、あらゆる誹謗中傷はダメだということがまず大前提……別に個人のXに誹謗中傷もどきで意見を言わなくても、色んな場面で意見を言うことはできますから。私はそれよりはこの誹謗中傷をいかに防ぐか、というのが今、SNSの中で大事なことだと思います」と応じたのですけれども、竹俣アナの「誹謗中傷だと受け取った中に正当な批判がある場合があるのではないか」という指摘に対しては直接的に答えることはしませんでした。
これは総裁選出会見で、「一般ユーザーをブロックする行為が総理大臣の資質としてふわさしいのか」と問われ答えなかったのと同じ対応です。
このやり取りにSNSでは「竹俣アナよく切り込んだ」「会心の一撃だったのでは」「答えが飛躍している」などと話題となったようです。
筆者は、女流棋士だった竹俣アナがいつの間にアナウンサーになったのか、ちょっとびっくりしたのですけれども、棋士だからなのか、きっちり詰めていくところは流石だと思います。
5.国民を馬鹿にしているとしか思えない
ただ、今回の河野デジタル相の人気は前回と比べると陰りを見せています。
2024年8月24、25日に行われた最新のANN世論調査で、次期総裁に期待する人物を訪ねたところ、1位:石破茂氏(27%)、2位:小泉進次郎氏(23%)、3位:高市早苗氏(9%)、4位:上川陽子氏、河野太郎氏、小林鷹之氏(同率6%)という結果となっています。
9月3日、河野太郎デジタル相は記者会見で、自身の支持が下がっている要因に関し、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせるマイナ保険証への一本化推進を挙げ、「『なぜこんなことをしなくてはいけないのか』との声は当然出てくる。承知の上で改革をしなければ国のためにならない」と述べました。自覚はあるようです。
ただ、承知の上で改革しているという割には、投げやりというか説明を尽くして国民の理解を得ようとする態度は見えません。
例えば8月8日の記者会見では、東京新聞の記者と次のような質疑応答をしています。
(問)マイナンバーカードについて、現行の健康保険証が新規発行されなくなるまで4か月を切りました。保険証を廃止してマイナ保険証に一本化することで、事実上マイナンバーカードの取得を強制することにはならないでしょうか。全く説明していません。
(答)全くならないと思います。なぜそういう議論になるのかよくわかりません。
(問)実際に勘違いして取得された方もいますが、その辺りはどうでしょう。
(答)勘違いして取得されたという話はあまり私聞いておりません。今日この後も新たな使い道の発表がありますが、マイナンバーカードを使うことで様々に生活等が便利になっていますので、大いに使っていただきたいと思います。
(問)高齢者や障がい者からは、マイナ保険証が使いづらいという声もあります。こういった方々が誰一人取り残されないようにするためにも、選択肢の一つとして現行の保険証を残した方がいいのではないでしょうか。
(答)論理が飛躍しているのではないかと思います。現行の保険証は偽造・なりすましを防ぐことができませんから、続けていくということは問題をそのまま引きずることになりますので、現行の保険証を残すことは全く考えておりません。
(問)偽造・なりすましの点について、現行の保険証でそのような問題が、廃止しないといけなくなるほど起こっているのでしょうか。
(答)現状でそういうことがあることは既に確認されておりますから、やめた方がいいと思います。
(問)現状、マイナ保険証やマイナンバーカードについて、メリットやデメリットが全部把握することができなくてどうすればいいのか分からないという声も東京新聞にたくさん届いています。保険証が廃止となる4か月間でこういった方々の理解を得て、不安を取り除くことはできるとお考えですか。
(答)東京新聞を読んでいる方でそのような声があるならば、東京新聞で是非メリットを伝えていただきたいと思います。
こうした河野氏の態度に街の人は怒りをあらわにしています。件の東京新聞は次のように報じています。
【前略】身から錆というか、河野デジタル相は自分で自分の評価を落としているように見えます。
こうした受け答えを繰り返す姿勢に東京都内の30代女性は「説明は不十分。否定的な意見は全く聞かない、国民を馬鹿にしているとしか思えない」と憤る。
千葉県松戸市の60代女性も「河野さんは保険証をなくすことは強制にはならないと言うが、間違いなく強制だ」と批判した。
東京都武蔵野市の50代女性も「河野大臣の傲慢で拙速な態度が逆に、国民の心をかたくなにし、疑念の思いを抱かせているのではないか?」と感じている。
この女性は、顔認証が使えない人、暗証番号が覚えられない人への対応など、マイナ保険証の懸念点を挙げた上で、「政府は今一度落ち着いてほしい。じっくりと時間を掛けて国民と対話してほしい」と希望した。
河野氏が4月、自民党の国会議員にマイナ保険証が使えない医療機関の通報を促す文書を配ったことを疑問視する声もあった。
長野市の40代男性は「使えない医療機関があったら通報しろと。いまの国がやろうとしていること、何かが大きく間違っていると思います」と訴えた。
東京都世田谷区の50代男性は「政府が国民に信頼されているなら、とっくに導入は進んでいる」とアンケートに書いた。詳しい意見を取材で尋ねると、男性から河野氏の名前が出た。
男性は、河野氏が通報を促したことを「多くの人が(現行の)保険証との併存を訴え、署名活動などが行われているにもかかわらず、見直す様子がないどころか、圧力を強めるような態度」だと指摘。マイナ保険証がないと病院にかかれない制度にまもなく変えるのではないか、と疑念を抱くようになったという。
【後略】
河野デジタル相について、「否定的な意見は全く聞かない」との街の声がありますけれども、世間はそのようにみているのですね。
河野デジタル相は、誹謗中傷はブロックするのは当たり前だと主張していますけれども、何が誹謗中傷になるのかを示せないままでは、ブロック太郎の二つ名は消えることはないと思いますね。
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