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1.パレスチナが国連総会に出席
9月10日、アメリカ・ニューヨークの国連本部で第79回国連総会が開幕しました。
今回から、パレスチナが国連総会での加盟国の一人として参加が可能になります。
今年4月18日、国連安全保障理事会は、パレスチナの国連加盟の勧告を求める決議案の採決を行ったのですけれども、常任理事国のアメリカが拒否権を行使して否決。これを受け、アラブグループを代表してアラブ首長国連邦(UAE)が安全保障理事会に対し、パレスチナの国連加盟を再検討するよう求める決議案を提出しました。
5月10日、国連総会は、パレスチナ自治区ガザ地区の危機に関する緊急特別会合を開催し、パレスチナの国連加盟を支持する決議案を採決したのですね。
採決の結果、177カ国中143カ国が賛成し、採択に必要な3分の2の票を得て採択。主要国ではオーストラリア、ブラジル、中国、フランス、インド、インドネシア、日本、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ共和国、トルコなどが賛成した。反対はアルゼンチン、チェコ、ハンガリー、イスラエル、ミクロネシア連邦、アメリカ、パプアニューギニア、ナウル、パラオの9カ国にとどまった。棄権はカナダ、ドイツ、イタリア、イギリスなど25カ国でした。
この決議案の採択によって、パレスチナは現在の「非加盟オブザーバー国家」の地位に加え、9月の国連総会から、加盟国の中にアルファベット順に着席する権利や、グループを代表して発言する権利、グループを代表して提案や修正案を提出する権利、国連総会本会議や主要委員会の役員に選出される権利などが付与されることになりました。
そして、めでたく、今月開催の第79回国連総会にパレスチナ代表団が出席したという訳です。
パレスチナの国連特使リヤド・マンスール氏は10日の午後、スリランカとスーダンの間にある「パレスチナ国家」と記されたテーブルに着席し、エジプトのオサマ・マフムード・アブデルハレク・マフムード大使が「これは単なる手続き上の問題ではない。私たちにとって歴史的な瞬間だ」とは語りました。
一方、イスラエルの国連大使代理ジョナサン・ミラー氏は決議採択時と同様に、「国連総会であれ二国間であれ、パレスチナ人の地位を向上させるいかなる決定や行動も、現在ではテロリズム全般、特にハマスのテロリストに対する報奨となっている」と非難しました。
更に国連総会はイスラエルに対し「パレスチナ占領地における不法なプレゼンス」を6ヶ月以内に終わらせるよう求める決議案を採決する見通しだと報じられています。
パレスチナ自治政府が作成したこの決議案は、イスラエルによるパレスチナ自治区の占領と入植活動は違法で、撤退すべきだとする7月の国際司法裁判所の勧告的意見を受け入れることが主な目的で、アラブ・グループ、イスラム協力機構、非同盟運動が9日、193ヶ国が加盟する国連総会で9月18日に採決するよう求めています。
これに対し、イスラエルのダノン国連大使は「この不名誉な決議案を全面的に拒否し、代わりにイスラム組織ハマスを非難し人質全員の即時解放を求める決議案を採択する」よう国連総会に求めていますけれども、イスラエルも大分追い込まれている感があります。
2.カナダがイスラエルへの武器販売許可停止
時を同じくして9月10日、カナダのメラニー・ジョリー外相は、カナダはイスラエルへの武器販売許可30件を停止し、ケベック州製の弾薬をイスラエル軍に販売するアメリカ企業との契約を破棄したと発表しました。
ジョリー外相は、アメリカ・ゼネラル・ダイナミクスのカナダ支社が製造した弾薬(カナダ製)がイスラエルに転売されるために他国に販売または出荷されることを政府は認めないと強調しました。
この発表に、カナダ最大のイスラム教擁護団体であるカナダイスラム教徒全国評議会(NCCM)は、「ジョリー大臣は、カナダの対イスラエル武器禁輸政策は継続すると明言し、明確なメッセージを発した……彼女は、ジェネラル・ダイナミクスによる最近の爆発物販売計画に関して、カナダ政府はいかなる抜け穴も利用しないつもりだとはっきり示唆した」と歓迎のコメントをX(旧ツイッター)に投稿しています。
ジョリー外相は「ジェネラル・ダイナミクスに関する質問については、我々の方針は明確だ……いかなる形の武器、あるいは武器の部品もガザに送られることはない。以上だ。どのように送られるか、どこに送られるかは関係ない。したがって、私の立場は明確であり、政府の立場も明確であり、我々はジェネラル・ダイナミクスと連絡を取っている」とコメント。
これに対し、イスラエル・ユダヤ人問題センターは、ジョリー氏の発言はカナダ政府の政策における「憂慮すべき転換」を物語っていると述べています。
ここでもイスラエルに逆風が吹いています。
3.ハンニバル指令
9月7日、オーストラリアのABCニュースは、「イスラエル軍は10月7日の混乱時に『ハンニバル指令』に基づき自国民を殺害したと非難されている」という記事を掲載しました。
件の記事の冒頭部分を引用すると次の通りです。
「エレツのハンニバル、ジク(攻撃ドローン)を派遣せよ」と10月7日に命令が下された。ハマスがやったとされた昨年10月7日のイスラエル国民殺害は、イスラエル軍によるものだというのですね。
イスラエルの新聞ハアレツが7月に報じたこれらの言葉は、10月7日にイスラエル南部で起きたハマスの攻撃以来、多くのイスラエル人が恐れていたことを裏付けるものだ。
イスラエル軍は自国民を殺害した。
イスラエル当局は、10月7日に800人以上の民間人と約300人の兵士が死亡したと発表した。
それ以来、ガザでは多数のイスラエル人人質が死亡した。
イスラエル国民は、イスラエル史上最も血なまぐさい一日となったハマス主導のテロ攻撃の恐怖と苦痛からまだ立ち直れていない。
しかし、イスラエル軍は、ハマスによるイスラエル南部のコミュニティへの攻撃の混乱の中で、イスラエル軍兵士、パイロット、警察によって自国民が何人殺害されたかを明らかにするよう、ますます圧力を受けている。
生存者や遺族は「何が悪かったのか」だけでなく、軍が物議を醸した「ハンニバル指令」を適用し、撤回したかどうかについても疑問を抱いている。
イスラエル国防軍(IDF)は、この指令はコンピュータープログラムによってランダムに命名されたものだと述べたが、ハンニバルはローマ軍に捕らえられるより毒を飲んだ有名なカルタゴの将軍である。
この教義は、レバノンでのイスラエル兵誘拐事件を受けて1986年に作成されたもので、イスラエル軍が敵の仲間を人質に取った場合、人質の危険を冒してでも発砲することを認めていた。
指令の作成者は、この指令は捕虜の殺害を認めるものではないと述べたが、批評家は、時が経つにつれて、捕虜を捕らえるよりも仲間を殺害する方がよいという解釈が軍内に広まったと指摘している。
「彼らは、誘拐を阻止するために兵士を故意に、意図的に殺害する意図があると解釈したが、それは間違っていた」と、イスラエル国防軍の倫理規定を起草したイスラエルの哲学者アサ・カシャー氏はABCに語った。
「それは法的にも道徳的にも倫理的にも間違っており、あらゆる点で間違っている」
2011年、ハマスはイスラエル人人質を利用して大規模な捕虜交換を成功させ、イスラエル兵の戦車砲手ギラッド・シャリート氏と、ハマスの現指導者ヤヒヤ・シンワル氏を含む1,000人以上の捕虜を交換した。
10月7日以降、ハマスの攻撃に応じたイスラエル軍が自国民を殺害したというイスラエルの民間人や軍関係者の証言がいくつかあった。
それにもかかわらず、さらなる証言やイスラエルのメディア報道によってそれが真実であることが確認される前に、多くのイスラエル人とイスラエル支持者は、それが起こったと示唆する者を非難した。
イスラエル国防軍は、ハンニバル指令の特定のバージョンが10月7日に適用されたかどうかについては確認も否定もせず、その日について調査中の多くの事柄のうちの1つであるとだけ述べている。
イスラエル軍はABCの質問に答えて、「イスラエル国防軍は現在、テロ組織ハマスの脅威を排除することに重点を置いている」との声明を発表した。
「この種の疑問については、後ほど検討される予定だ」
【以下略】
事件からほぼ1年経ってから、このような報道がされるということは、いかに今のイスラエル政府、ネタニヤフ政権が追い詰められているかの証左だと思います。
4.アメリカがイスラエルを支援する理由
もはや今の世界で、イスラエルを公然と支援する国はアメリカくらいしか残ってないようにさえ見えますけれども、ではなぜ、アメリカはそこまでイスラエルに肩入れするのか。
これについて7月17日、東洋経済オンラインは「トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由」という船津靖・広島修道大学教授の寄稿記事で説明しています。
件の記事の概要は次の通りです
・アメリカはなぜ、「アメリカ第一主義」のトランプ前大統領も、リベラル派のバイデン大統領も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか?アメリカがイスラエルに肩入れするのは、両国がユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化を共有し、それを基盤として「特別な同盟関係」にあるからであり、アメリカの聖地のユダヤ国家に抱く「偏愛」がそれを支えているというのですね。
・2023年10月7日、地中海沿岸のパレスチナ自治区ガザを支配するイスラム主義組織ハマスが、イスラエル人や外国人約1200人を無差別に殺害しました。イスラエルのネタニヤフ右派政権は「ハマス壊滅」を掲げてガザ地区を猛攻し、パレスチナ人の犠牲者数は千、万単位で増えていきました。大規模テロへの報復としても「目には目」どころか「目には十の目」でも足りない凄まじさです。
・この日を境に、ガザ、ハマス、イスラエルという名前を聴かない日はないほどです。それまで国際ニュースの焦点はロシアのウクライナ侵略でしたが、様変わりしました。
・パレスチナ紛争はなぜこれほど世界の注目を集めるのでしょう? それには、紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります。
・バイデン米大統領は、大規模テロ直後の10月半ばイスラエルへ飛び、動揺するイスラエル国民に寄り添いました。大量の武器弾薬を供与し、近海に空母を2隻派遣しました。けれども、ハマスの戦闘員に加え、女性や子供多数を含む死傷者数が恐ろしい勢いで増えるにつれ、バイデンは、リベラルとされる与党民主党の「進歩派」「左派」「アラブ系」の人々から強い批判を受け始めました。
・米大統領の親イスラエル外交では前任者のトランプが突出していました。トランプは米大使館の聖地エルサレム移転を強行しました。これは国連安保理決議を無視する国際法違反でした。「トランプの共和党の支持基盤が保守的なキリスト教福音派(ふくいんは)だから」といった説明を聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。
・アメリカはなぜ、保守派の共和党もリベラル派の民主党も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか? それは、アメリカとユダヤ国家イスラエルが「特別な関係」にあるからです。「特別な関係」とは特別な同盟関係のことです。
・「特別な関係」という言葉をアメリカとイギリスの同盟関係に使って有名にしたのはイギリスのチャーチル前首相です。アメリカとイスラエルの「特別な関係」に初めて公式に触れたのはチャーチルを尊敬していたケネディ米大統領でした。
・アメリカとイスラエルの特別な関係の基盤は何なのでしょうか? 「聖書」です。古代のユダヤ人が編集した「旧約聖書」(ヘブライ語聖書)とキリスト教の「新約聖書」(ギリシア語聖書)です。
・旧約はユダヤ教とキリスト教両方の聖書、新約はキリスト教だけの聖書。アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です。
・「旧約聖書」の「出エジプト記」によれば、古代イスラエルは、神に選ばれたユダヤ人がエジプトのファラオの専制支配を逃れ、自由を求めて神の「約束の地」につくった国です。
・現代イスラエルの建国物語は、この「出エジプト」神話をなぞっています。17世紀に、北米大陸に入植したキリスト教プロテスタントのピューリタン(清教徒)も「新大陸」に自由な「新しいイスラエル」をつくる宗教的な熱情に突き動かされていました。「約束の地」の「自由の物語」は、独立宣言や合衆国憲法の基盤を成し、アメリカの国民的アイデンティティやリベラルな価値観を形づくっています。
・旧約の「ヨシュア記」は、「神の選民」が「約束の地」で自由を得るまでに起きた先住民の殺戮や支配の過程も克明に描きます。まるでアメリカ先住民やパレスチナ・アラブ人の苦難を先取りしているかのようです。
・トランプ支持者に多い保守的なキリスト教福音派は、「新約聖書」の「ヨハネの黙示録(もくしろく)」などを解釈した聖書預言、終末論の影響を受けています。「世界の終わり」に、救世主(メシア)イエスが聖地エルサレムに再臨し、善と悪の最終戦争(ハルマゲドン)を経て「千年王国」(ミレニアム)が出現する、とする黙示思想です。荒唐無稽なファンタジーのようですが、黙示思想はアメリカの政治文化、大衆文化に広く、深く浸透しています。
・アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです。
・「ユダヤ・キリスト教」と、ふたつの一神教をひとくくりにする思想は、アメリカが無神論のマルクス・レーニン主義国家ソ連と対立した冷戦期に強調されました。宗教のような伝統文化は固有で本質的なものに思えますが、その時々の政治的な都合で「発見」されたり、強調されたりもします。聖書の編集そのものも、古代の政治権力の野心と密接に関係していたらしいことが、近年の聖書考古学で指摘されています。
・両国の「特別な関係」を支えているのは、超大国アメリカの側が聖地のユダヤ国家に抱く「偏愛」です。イスラエルの対米観は意外にドライです。これほど緊密な同盟関係にありながら、日米安全保障条約のような正式の二国間条約がありません。
・「聖書の同盟」の背景をたどると、日本の同盟国アメリカの、普段はあまり意識されない不思議な「国のかたち」が見えてきます。日本は一神教の信徒が人口の2%にも満たない世界でもまれな国。多くの日本人にはわかりにくい、アメリカの独特な宗教・政治文化が浮かび上がります。
・日本人とユダヤ人の歴史的、文化的な状況はまったく似ていないように思われます。けれども、西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません。
・日本人は大多数が日本に住み日本語を話します。ユダヤ人は古来、世界中の国・地域に「異教徒」「ユダヤ人」として住んできました。言語もさまざまです。イスラエル以外ではヘブライ語を話せないユダヤ人が普通です。現代のユダヤ人の大半はニューヨークをはじめアメリカとイスラエルにほぼ半々の割合で住んでいます。
・ユダヤ人の人口は、定義により多少の増減がありますが、多めに数えて1600万人程度と推計されています。ヒトラーのナチスがドイツで政権を握った1933年に約1530万人でした。100年近くかけ当時の人口を回復したかどうかという状況です。当時約900万人とされたヨーロッパ・ユダヤ人の3分の2、約600万人が虐殺されました。その影響の凄まじさがわかります。
・世界人口は2023年に80億人を超えました。人類の過半数がユダヤ教を母胎とするキリスト教、イスラム教という一神教の信徒であるか、その文化圏で暮らしています。ユダヤ人は世界人口の約0.2%。でもノーベル賞受賞者の20%を超えるといわれます。相対性理論のアインシュタイン、『変身』『城』の小説家カフカ、精神分析のフロイト、『資本論』のマルクス。さかのぼれば『エチカ(倫理学)』の哲学者スピノザ、現代では「未知との遭遇」「シンドラーのリスト」の映画監督スピルバーグや世界的投資家ソロス……と、きりがありません。ブリンケン米国務長官、エマヌエル駐日米大使もユダヤ人です。現代の国際政治で最も有名なユダヤ人はウクライナのゼレンスキー大統領でしょう。
・アメリカは和平交渉で「公平な仲介者」を自任してきました。しかし国際社会はそうは見ていません。アメリカはイスラエルを特別扱いしている、と批判されてきました。イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。
・イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました。
・アメリカのイスラエルへの特別扱いは核兵器の不拡散政策において最も著しい、といえます。核不拡散条約(NPT)は1968年、米ソ2超大国が協力して成立し、国際法としては異例の実効性を保ってきました。米中露英仏という大国の利害が、核兵器不拡散では一致しているからです。この5か国はNPTの合法的な核兵器保有国で、安保理の常任理事国でもあります。
・アメリカのブッシュ(子)政権(共和党)は2003年、イラクの大量破壊兵器(WMD)保有疑惑などを理由にイラクに侵攻し、フセイン政権を崩壊させました。アメリカはイランの核開発計画にも一貫して厳しい姿勢で臨んできました。でも核兵器保有が「公然の秘密」とされるイスラエルへの対応はまったく異なります。
・イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています。私は共同通信のエルサレム支局長だったころにラビン、ペレス、ネタニヤフという3人のイスラエル首相にそれぞれ直接、核兵器保有の有無を問いただしました。3人の首相からは、「イスラエルは中東に核兵器を持ち込む最初の国には決してならない」という公式見解が判で押したように返ってきただけでした。
・研究者や調査報道記者の努力で、共和党のニクソン大統領が1969年秋、訪米したイスラエルのゴルダ・メイヤ首相に、核兵器の秘密保有を黙認すると伝えたことが確実視されています。日本の佐藤栄作首相が沖縄返還交渉で、有事の核兵器再持ち込みをアメリカに事実上約束した「核密約」とほぼ同時期です。それ以後、歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。
・イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました。
・アメリカは超大国です。同盟国イスラエルの盛衰、命運をアメリカが握っているように見えます。イスラエルはアメリカの51番目の州と呼ばれることもあります。両国は自他共に認める緊密な同盟国ですが、両国間に正式な安全保障条約はありません。
・イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました。
・イスラエルが第三次中東戦争で大勝利を収めると、両国の方針が変化します。イスラエルは広大な地域を占領し、国防上のクッション「戦略的深奥(しんおう)性」を獲得しました。卓越した戦闘能力を世界に見せつけました。アメリカはイスラエルが戦略的「資産」になるのでは、と評価し始めます。イスラエルは、王族や独裁者が支配する国が大半の中東で、リベラル・デモクラシーの価値も共有します。米ソの国益が衝突する中東で、アメリカニズムの旗振り役をやってくれそうです。
・一方、「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう。
そして、イスラエルが第三次中東戦争で大勝利を収めると、アメリカがイスラエルは「使える」のではないかと評価し始めたのに対し、イスラエルは、自身の占領地にアメリカが口出ししてくるのを疎ましく思うようになったというのですね。
要するに、アメリカはイスラエルを「使える駒」と見ているのに対し、イスラエルはアメリカに口出しするなと「増長」しているということです。
これが背景にあるとみれば、アメリカがイスラエルをコントロールしようと苦心し、イスラエルが反発していうことを聞かないという今の姿が説明できるようにも思います。
ただ、それではいつまで経っても拉致が空きません。アメリカ以外の国をみれば、国連を筆頭にイスラエルに停戦圧力をどんどん掛けてきています。
イスラエルが、未来永劫その圧力を跳ね除け続けられるとも思えません。遠からず、何らかの動きが出るのではないかと思いますね。
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