NHK乗っ取り放送への対応

今日はこの話題です。
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1.NHK役員処分


9月10日、NHKのラジオ国際放送で中国籍の男性スタッフが尖閣諸島を「中国の領土」などと主張した問題で、NHKは「NHKの存在意義を揺るがすきわめて深刻な事態である」として、稲葉延雄会長以下役員4人が役員報酬月額50%(1カ月)を自主返納し、男性と契約していたNHKグローバルメディアサービスの元社長の傍田賢治理事が同日付で辞任すると発表しました。

更に、NHKグローバルメディアサービスでは、神田真介代表と馬場広大専務が役員報酬月額30%(1カ月)を自主返納。NHK国際放送局の天川恵美子局長を減給、同局の職員4人を懲戒処分としました。

NHKは昨年7月、2023年度予算で未認可の配信業務に絡む不適切な支出を決定していた問題で、決定に関わった前田晃伸前会長の退職金を10%減額。更に決定に関与した前田氏以外の役員6人を稲葉会長が同日付で厳重注意したほか、6人が報酬の一部を自主返納する処分をしています。


2.ラジオ国際放送問題への対応について


9月10日、NHKは今回のラジオ国際放送での問題についての報告書を出しています。

一部抜粋すると次の通りです。
ラジオ国際放送問題への対応について

2024年8月19日午後l時12分、ラジオ国際放送などの中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフが、沖縄県の尖閣諸島の帰属などをめぐって、原稿にはない、日本政府の公式見解とは異なる発言を行った。
いわば「放送の乗っ取り」とも言える事態で、自ら定めたNHK国際番組基準に抵触するなど、NHKが、放送法で定められた担うべき責務を果たせなかったという極めて深刻な事態となった。

これを受け、8月26日、副会長をトップとする検討体制を設置し、可能な限りの原因究明を行うとともに、短期・中期的な再発防止策の策定、関係する役職員の責任の所在の明確化を行うこととした。

今回の事案では、予期しておくべき事態にも関わらず、事案の発生時に即座に対処できなかっただけでなく、本来の意図を取り戻すべく行うべき正確な放送の訂正の実施、視聴者・国民への適時の説明などにおいても、対応が十全ではなかった。
また、当該外部スタッフに見られていた、"事前の兆候"について、察知して対処するには至っていなかったことが判明した。
なお、当該外部スタッフに関わる過去の放送内容についてチェックをしたところでは、今回の事案のような行為に至った事実はなかった。

こうした事態を招いた背景には、NHKの危機意識の乏しさがあった。
さまざまな衝突や紛争が生じ、激変する世界情勢において、報道内容だけでなく、NHK自身もその環境の例外ではない。
こうした安全保障の観点について、NHK自身のマネジメントの危機意識も高まってしかるべきであったが、ラジオ国際放送の制作体制の中では、現場における緊張感、適切な現場マネジメントが欠けるものとなっていた。
国内放送などでは実施されている)レールの規定、マニュア)レの整備、定期的な訓練なども行われていなかった。

上記のような重大な事態を引き起こしたこと、また、事前に備えれば対応し得る状況であったこと、発生後の放送対応、広報対応で十全な対応が行えなかったことを踏まえ、以下のように責任の所在を明らかにすることとした。

NHK会長 稲葉延雄 役員報酬 自主返納50%•1か月
副会長 井上樹彦 同上
専務理事 山名啓雄 同上
理事 中嶋太一 同上
理事 傍田賢治 辞任(9月l0日付)

株式会社NHKグローバルメディアサービス
代表取締役 神田真介 自主返納30%•1か月
専務取締役 馬場広大 同上

NHK国際放送局長 天川恵美子 減給
このほか、同局の職員4人を懲戒処分している。

また、当該外部スタッフについては、信用毀損などの損害賠償を求める訴訟をNHK自身から提起した。
刑事告訴については、様々な観点から慎重に検討を進めていく。

【中略】

(2)当日の経緯について

(放送前の状況)
NHKワールドJAPAN(ラジオ)は、国際放送局の主に多言語メディア部が制作を担当し、報道局などが出稿したニュースをl7の言語で放送している。
このうち中国語ニュースは、多言語メディア部の中国語班が制作と送出を担当し、平日は午後1時1分からの14分間で、9本前後のニュースを放送している。
多言語メディア部では、その日に伝えるべき主なニュース項目と優先順位を決めているRS(リージョナルサービス)デスクの方針をもとに、主にNHKが業務委託している外部ディレクターが、各地域の事情にあわせてニュース項目とその放送順の案を作り、最終的にはRSデスクが決定している。

8月19日、この日の中国語のニュースを担当する外部ディレクターと中国語班の基幹職のデスクAは、午前8時半ごろ出勤し、外部ディレクターはその日放送するニュース9項目と順番の案を決めた。
今回の事案を起こした中国籍の外部スタッフは、株式会社NHKグローバルメディアサービス(以下Gメディア)と業務委託契約を結び、ニュースの中国語への翻訳とアナウンスの業務を行っている。
当該外部スタッフは、午前9時半ごろ出勤し、割り振られた項目の翻訳作業に取り掛かった。
そして、「靖国神社の石の柱に落書き」というニュースを翻訳していた午前11時半前、日本語原稿の中の、「(石の柱には)トイレを意味する中国語に似た字のほかアルファベットなどが書かれていた」という部分について、「実際には何が書かれていたのか」と外部ディレクターに尋ねた。
2人は、それぞれNHKのニュースサイトに掲載されている画像と動画を確認したが、アルファベットは見当たらず、当該外部スタッフはどんどん怒り出した。
そして、「NHKの原稿はあいまいで、あいまいなものをそのまま翻訳して中国語で放送したら、個人に危険が及ぶ」「NHKはその責任をどう考えるのか」などと声を荒らげ、強く反発した。
その勢いは、近くの席で別の業務に当たっていた中国語班の基幹職のデスクBが「大きな声を出すのは止めてください」と止めに入るほどだった。

外部ディレクターから相談を受けたデスクAは、アルファベットの落書きの内容がはっきりせず、この部分を削除してもニュースの趣旨は変わらないと考え、翻訳からこの一文を削除する判断をした。
その後、当該外部スタッフは落ち着きを取り戻した。
デスクAは、午前ll時33分に、外部スタッフのシフト管理などを担当していたGメディアの担当部長に、当該外部スタッフが大声を出したことを電話で伝えた。
担当部長はこの時、放送できそうか、読み手を替えるかとデスクAに尋ねたのに対し、デスクAは、当該外部スタッフが落ち着きを取り戻しており、放送時間が迫る中、要員交替は難しいと考え、大丈夫だと答えたと話している。
なお、このことを重く見たGメディアの担当部長は、放送前の午後0時46分、休暇中だった中国語班のチーフ・プロデューサー(以下CP)にショートメールを送り、【外部スタッフが靖国神社の落書きのニュース原稿のことで外部ディレクターを怒鳴ったとデスクAから連絡を受けました。内容の真偽とは別に、職場で怒鳴るのは、論外です。放送が終わってから本人と話します】と報告した。

外部スタッフは翻訳作業を続けた後、午後0時過ぎから午後0時半頃まで、外部ディレクターともう1人の外部スタッフの3人で、本番前の原稿の読み合わせを行ったが、特に変わった様子はなかった。

午後0時45分頃、当該外部スタッフの携帯電話に着信があり、日本語で応対しながら居室の外へ出た。
連絡先や内容は判明していない。

スタジオに入ったのは、定刻の放送10分前より5分ほど遅い午後0時55分頃だった。

【以下略】
今回の問題が起こる予兆が十分にあったことが分かります。


3.再発防止策で許してやる


9月11日、総務省は、今回の問題について、NHKに対し今後このようなことがないよう注意するとともに、再発防止策の徹底とその順守状況の公表を求める行政指導を文書で行いました。

この中で総務省は、今回の事案は公共放送としての使命に反するもので誠に遺憾であり、放送法の規定に抵触するものと認められるとして、今後、このようなことがないよう注意するとしています。

そのうえで、公共放送としての社会的責任を深く認識し、放送法および番組基準などの順守と徹底はもとより、再発防止策の徹底とその順守状況の公表を求めています。

そして13日、松本総務相は閣議後記者会見でこの問題について問われ、公共放送としての使命を深く認識して再発防止などに取り組むよう求めました。

件の質疑応答は次の通りです
問: NHKラジオ国際放送などの中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフが、沖縄県の尖閣諸島を中国の領土などと原稿にない発言をした問題を巡って、総務省は、NHKに文書で注意する行政指導を行いました。今回、NHKに対して「注意」とする行政指導を行った理由と、今後の対応について大臣のお考えをお聞かせください。

答: まず、当該事案の発言でありますが、改めて、尖閣諸島が我が国固有の領土であることは、歴史的にも国際法上も明らかであると申し上げます。また、当該事案の原稿にないその他の発言も、我が国の立場とは全く相容れないものであると申し上げています。

NHKの国際放送は、我が国に対する正しい認識を培うことにより、国際親善の増進等を図るという重要な役割を有したものでありまして、今般の事案はこうした国際放送を担う公共放送としての使命に反するものであり、遺憾であると申し上げてきたところでありますが、本件につきまして、NHKが9月10日に調査結果を公表されておられます。

「自ら定めたNHK国際番組基準に抵触するなど、NHKが、放送法で定められた担うべき責務を果たせなかったという極めて深刻な事態となった」、「こうした事態を招いた背景には、NHKの危機意識の乏しさがあった」とし、責任の所在が示されたと承知しております。

その上で、再発防止策として、事前収録への切り替え、国際番組基準遵守の再確認等の短期的対策の確実な実施のほか、国際放送と国内放送の編集体制の連携強化、NHKグループ全体でのリスク再点検及びルール見直し等の組織の対策を行うものとお聞きしているところであります。

総務省といたしましては、本件は、NHKが公表された調査結果にもありましたように、番組基準に抵触するということで、番組基準の策定等を定めた放送法第5条第1項の規定に抵触すると認められることであると申し上げなければならない案件で、看過できないという視点から行政指導をさせていただいたわけであります。

NHKにおかれては、問題を直視し、しっかり対応すべく短期的な対策に既に着手した上で、今後の再発防止策も示しておられますので、9月11日に、NHKに対して注意する行政指導を行ったところでございます。

NHKにおかれましては、国際放送を担う公共放送としての使命を深く認識して、放送法及び番組基準などの遵守はもとより、再発防止に取り組んでいただきたいと考えております。
松本総務相は「今後の再発防止策もすでに示していることから注意する指導を行った」と述べていますけれども、これは裏を返せば、この再発防止策で注意だけにしてやる(許してやる)ということです。


4.驚くべき記述がある


けれども、肝心なことはNHKの出した再発防止策で本当に再発を防げるのか、という点です。

これについて、国民民主党の玉木代表は12日に次のようにX(旧ツイッター)にツイートしています。
NHKの報告書を改めて読んだが、驚くべき記述がある。

まず、当該中国籍スタッフは、「中国は一党独裁で、政局の予測が不可能であり、年齢など自分のプライバシーを公表することは控えてほしい」と当時のデスクに伝えるなど、中国当局の反応への不安や懸念を職員に伝えることがあった、とされている。

また、事案後にNHKが連絡を試みた際、「日本の国家宣伝のために個人がリスクを負うことはできない」などと話していたとのこと。

そして、現在まで「連絡が取れない状況が続いている。」

これは、当該中国籍スタッフが、中国当局からの監視を警戒し、またNHKが用意した原稿を「日本の国家宣伝」と認識し、それを読むことにリスクを感じていたことが明らかになっている。

この事案に、中国の「海外警察拠点」が関与しているがどうかは必ずしも明らかではないが、もし何らかの関与があるとすれば、我が国の国家主権の侵害にあたる可能性があり、NHKに調査を丸投げするのではなく、政府としても調査・捜査すべきだ。

まずは、総務委員会の閉会中審査を行い、事実関係を明らかにする必要があるが、総裁選・代表選のため、自民党・立憲民主党の動きが鈍い。やるべきことは同時並行でできるし、やるべきだ。

こうした事案を放置して、安全保障の強化といっても響かない。
玉木代表は「NHKに調査を丸投げするのではなく、政府としても調査・捜査すべきだ」と主張していますけれども、国家主権に問題であることを考えると当然だと思います。



また、9月11日、日経新聞は「NHK、危機意識乏しく 国際放送の不適切発言で対応後手」という記事で次のように指摘しています。
・NHKの国際放送は日本の情報を海外発信する中心的な役割を果たすが、事前に問題の兆候があったにもかかわらず危機意識が乏しく対応が後手に回った。

・ラジオ国際放送では8月19日に中国籍の外部スタッフが沖縄県・尖閣諸島は「中国の領土」とし、「南京大虐殺を忘れるな」など約20秒間にわたって原稿にない発言をした。発言中にマイクの音声を止めたり、発生後すぐに訂正したりするといった対応も取れなかった。

・総務省は2022年にもBS番組を巡りNHKに行政指導している。

・自民党の情報通信戦略調査会は11日、NHKに聴取した。会合の出席議員からは「処分が甘すぎる」などの声が出た。調査会として今後もNHKの改善策の進捗状況を注視し、必要に応じて会合を開く方針だ。

・NHKの国際放送はテレビやラジオと同じく、放送法で規定された必須業務に位置づけられる。ラジオはニュースや情報番組を17言語で、テレビの国際放送は英語で放送している。

・放送実施にあたっての番組基準として「日本の重要な政策や国際問題に対する公的な見解、世論の動向を正しく伝える」などと規定している。今回の不適切発言は尖閣諸島は日本固有の領土であるという政府見解と反する放送を許してしまった形だ。

・背景にはNHKの危機意識の乏しさがある。10日にまとめた調査報告書によると、問題となった中国籍スタッフは02年に業務委託契約を結んだベテランだったが、近年は中国当局の反応への不安や懸念、待遇への不満を職員に伝えていたという。

・放送前にも翻訳するニュースの事実関係で不満を漏らすなど様々な問題の兆候はあったが、ニュース番組の生放送で不規則発言するという事態を想定しておらず、対応も後手に回った。報告書では「生放送のリスクに対する危機意識の欠如」と指摘した。

・国際放送関係経費は24年度予算で240億円。05年度の2倍強に増えているが、多くが英語でのテレビ放送の充実に充てられてきた。外部委託が増え、ラジオではNHKの職員が1人しかいない言語班が大半となっている。報告書は「いわば単純な面的拡大を行ってきたきらいもある」と指摘し、管理がおろそかになり、問題を引き起こす遠因となったとした。

・NHKは再発防止策としてラジオ国際放送の事前収録の実施、人工知能(AI)音声の導入などを挙げた。立教大学社会学部の砂川浩慶教授は「今回の問題が起きた遠因として、ラジオ国際放送への予算配分が少なく、外部スタッフへの依存度が高いことがある」と運営体制の問題点を指摘している。
危機意識が欠如している組織がつくる再発防止策で、ちゃんとした危機管理ができるのか。何か自己矛盾を起こしているように感じてしまいますけれども、外部委託で手が回らないのであれば、それこそ危機管理の専門組織に委託して管理すべきではないのか。

政府には、原因究明のみならず、危機管理の側面からしっかりとした対応を取っていただきたいと思いますね。



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