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1.長距離ミサイル使用許可議論は変わった
9月11日、ウクライナ訪問中のイギリスのデイヴィッド・ラミー英外相は、BBCのインタビューで、イランによるロシアへの弾道ミサイル供給によって、ロシア軍が「ウクライナのさらに奥に侵入」することが可能になるとし、「明らかに議論が変わる……それは非常に危険なことだ……ロシアは自分たちの提携国と協力しており、それによって弾道ミサイルがイランからロシアに運ばれている。私たちにとっては、ウクライナが努力して勝利するため、さらに支援することが重要だ」と述べました。
ラミー外相は11日、アメリカのブリンケン国務長官とロンドンで会談後、共にウクライナの首都キエフを訪れ、ゼレンスキー大統領と会っています。
これまで、イギリスはウクライナに対し、射程距離約250キロメートルのミサイル「ストームシャドウ」を供与しているのですけれども、ウクライナ領内のロシア軍への攻撃でしか使われていません。
ゼレンスキー大統領は、西側から供与された武器の使用制限の緩和を繰り返し求めているのですけれども、アメリカとイギリスは、戦闘拡大への懸念から、それぞれがウクライナに提供した長距離ミサイルをロシア国内の目標に対して使うことを認めていません。
この日、キエフで米英ウの共同記者会見が行われたのですけれども、アメリカとイギリスが長距離ミサイルの使用を認めるかについて、記者質問が飛びました。
そのときのやり取りは次の通りです。
司会者: それではまず、スカイニュースのドミニク・ワグホーン氏です。アメリカとイギリスが長距離ミサイルの使用を認めるかについて、ラミー外相は言及を避ける一方プーチン大統領を「有利にするつもりはない」とも述べました。
質問: ありがとうございます。国務長官、あなたは今日、新たな制裁を発表しました。私たちは多くの制裁を受け、戦争は、あなたが言うように、3度目の冬まで続いています。ウクライナが望んでいるのは、そして伝えられるところによると、あなたの英国の同盟国も非公式に同じことを言っているのは、あなたが彼らに供給している長距離ミサイルを、そのミサイルが本来の目的であるロシアの奥地の標的を攻撃し、滑空爆弾や、あなたが弾道ミサイルの供給によってロシアが使用できるようになると言っている新型ミサイルの発射源を攻撃するために使用する自由です。その時が来たのでしょうか。来ていないとすれば、その理由は何ですか。そして、あなたは何を恐れているのですか。
ブリンケン国務長官: ですから、今回の侵略に対抗するためにウクライナを支援する我々の取り組みの初日からの特徴は、ロシアの侵略に最も効果的に対処できるよう、ウクライナが必要なときに必要なものを確実に得られるように努力することだと考えています。そして、皆さんもご覧になったと思いますが、我々は戦場の状況、ロシアが特定の場所で特定の手段で行っていることに基づいて、継続的に調整し、適応してきました。そして、それは我々が行ってきたことすべてにおいて一貫したものです。
これまで何度も言ってきたので、同僚たちはもう聞き飽きているかもしれませんが、こうした決定を下す際には、多くの重要な要素を考慮することが非常に重要です。重要なのはシステム自体だけではありません。ウクライナ人がそれを効果的に使用できるかどうか、ウクライナ人がそれを効果的に使用できるかどうか、そしてそのためには相当の訓練が必要になることもありますが、私たちはそれを行ってきました。彼らにはそれを維持する能力があるでしょうか。繰り返しますが、これは私たちが取り組んできたことです。そして、それは効果的な戦略の一部でしょうか。これらすべては、私たちが絶えず自問している質問です。オースティン国防長官、英国のカウンターパート、そして先ほど集まった防衛側の他の人たちも、常にこれらの問題に取り組んでいます。
さて、私たちが一緒に行う今回の訪問の目的の一つは、ゼレンスキー首相を含むウクライナの指導者たちから直接、正確にはゼレンスキー大統領から、ウクライナ人が現時点でどのようなニーズを捉えているのか、どのような目標に向かっているのか、そしてそのニーズを支援するために私たちは何ができるのかを聞くことです。ですから、私が言えるのは、私たちはウクライナのパートナーたちの話を熱心に聞くということです。私たちは数日中に首相とバイデン大統領に報告する予定です。そして、金曜日の会談で彼らがこの件を取り上げることは間違いないだろうと私は確信しています。
司会者: 素晴らしい。ありがとうございます。ロイターのダフネ・プサレダキスです。
質問: ありがとうございます。ブリンケン長官、米国は2022年以来ウクライナに数十億ドルの軍事援助を行っていますが、米国の兵器の使用はウクライナ領土と国境を越えた防衛作戦に限定しています。ウクライナのゼレンスキー大統領は長距離兵器を供給した同盟国に反発していますが、ウクライナはロシアの奥深くでそれらを使用することはできないと述べています。そこで同僚の質問に続きますが、今週の訪問中にこの点についてウクライナにどのようなメッセージを送る予定ですか?また、より広い視点で、イランがロシアに弾道ミサイルを供給することの潜在的な軍事的影響についてどうお考えですか?
国務長官、英国はウクライナがストームシャドーミサイルを使ってロシア国内の標的を攻撃するのを許可する承認を得ましたか?また、あなたはこれを推進しましたか?ありがとうございます。
ブリンケン国務長官: ありがとうございます。前回の回答を参照したい気持ちもありますが、もう一度強調したいのは、いつものように、私たちは見聞きし、何が必要か、今後数週間、数か月でウクライナのパートナーがどのような目標を持っているか、そして私たちが彼らをどのように支援できるかについて、私たちなりに最善の評価をするつもりだということです。そして、私たちはそれを持ち帰り、私たちの上司である首相と大統領に伝えます。そして、私はそれが金曜日の彼らの会話の一部になると確信しています。
こうした決定には多くの要素が絡んでいますが、その過程のあらゆる段階で、私たちの目的はウクライナ人がロシアの侵略をできるだけ効果的に撃退できるようにすることです。そして実際のところ、私たちが今いる場所を見れば、この侵略を考えると困難な日々ですが、ウクライナは引き続き力強く立ち続けています。そして私は、ウクライナが軍事的にも経済的にも、民主主義的にも、自らの力でしっかりと立ち、ヨーロッパとますます一体化していく軌道に乗っていると信じています。そしてプーチン大統領はウクライナの戦略的失敗を認識し続け、ウクライナ人は強く活気のある国を築く戦略的成功を認識するでしょう。しかし、それが実現するようにするには、さらに多くの作業が必要です。私たちはこれに非常に熱心に耳を傾け、報告します。
イランの兵器については、先ほど申し上げたように、ロシアにさらなる能力と柔軟性が与えられます。ロシアはすでに弾道ミサイルを保有していますが、今回入手するイランのミサイルには一定の射程距離があります。つまり、ロシアは自国の弾道ミサイルをより長距離の標的に向けることができるのです。短距離の標的には使用しないのです。なぜなら、イランのミサイルは射程半径約75マイルなので、ロシアは短距離の標的に使用しないからです。ですから、ロシアの能力が高まり、戦争が活発化するのです。
ロシアに支援を提供している者は、それがイランや北朝鮮のような直接的な致死的支援であろうと、中国のような防衛産業基盤への支援であろうと、戦争を永続させ、紛争を煽っている。そしてこれはウクライナとウクライナ国民に対する脅威であるだけでなく、ヨーロッパ全体に対する脅威でもある。ヨーロッパの同僚に尋ねれば、冷戦終結以来、ロシアがヨーロッパの安全保障に対する最大の脅威であると見ているでしょう。したがって、ロシアに供給することでこれに加担している国々は、ウクライナだけでなく、より広い意味でヨーロッパに対する脅威を煽っており、特にヨーロッパとの関係においてそのことを考慮に入れなければなりません。
ラミー外務大臣: ご想像のとおり、トニーと私は就任以来、ほぼ隔週でウクライナについて議論してきました。本日は実りある議論ができました。冒頭で申し上げたように、私たちが一緒にウクライナのカウンターパートやゼレンスキー大統領から現地の状況評価や現地でのニーズを聞くために旅をすることは非常に重要です。しかし、このようなフォーラムで運用上の問題の詳細についてコメントするのはまったくの間違いです。なぜなら、恩恵を受けるのはプーチン大統領だけであり、私たちは彼の違法な侵略に有利になるようなことは何もしないからです。
イランからの弾道ミサイルの移転については、これはイランで見られる憂慮すべき傾向です。これは明らかに重大なエスカレーションであり、私たちは行動を調整しており、これについてはまもなくさらに詳しくお伝えする予定です。
一方、ブリンケン国務長官は、バイデン米大統領が13日にホワイトハウスでイギリスのスターマー首相と会談する際、長距離ミサイルの使用について話し合う可能性が高いとコメントしています。
これに対し、イランのアッバス・アラグチ外相は、ロシアへのミサイル供給を否定。西側諸国が「誤った情報と欠陥のある論理に基づいて行動している」と非難しています。
2.概念をすり替えようとする試み
このウクライナのロシア領内へのミサイル直接攻撃検討の動きについて、当然ながらロシアは反応しています。
9月12日、ロシアのプーチン大統領はメディア関係者からの質問に次のように答えています。
質問:ここ数日、英国と米国のかなりの高官から、キエフ政権が西側諸国の長距離兵器を使ってロシアの奥深くの標的を攻撃することを許可されるだろうという声明が聞こえてきました。どうやら、私たちが見る限り、この決定はまもなく下されるか、すでに下されたかのどちらかのようです。これは実に異例なことです。何が起こっているのかコメントしていただけますか?プーチン大統領は、NATO兵器を使ってのウクライナのロシア領内へのミサイル攻撃について、ミサイル自身がNATO軍しか扱えないことから、ウクライナの攻撃でなく、NATOによるロシア攻撃だという認識を示し、この決定はNATO諸国が軍事紛争に直接参加するという決断をするかどうかと同義だと定義したのですね。
プーチン大統領:私たちが目にしているのは、概念をすり替えようとする試みだ。なぜなら、これはキエフ政権がロシア領土内の標的を攻撃することが許されるかどうかという問題ではないからだ。キエフ政権はすでに無人航空機やその他の手段を使って攻撃を行っている。しかし、西側諸国製の長距離精密兵器を使うとなると、話は全く別だ。
事実は、私が言及したように、ウクライナ軍は西側諸国から供給された最先端の高精度長距離システムを使用する能力がないということだ。それは、我が国と西側諸国の専門家なら誰でも認めるだろう。彼らにはそれができない。これらの兵器は、ウクライナが持っていない衛星からの諜報データなしには使用不可能だ。これは、欧州連合の衛星、または米国の衛星、一般的にはNATOの衛星を使用してのみ実行できる。これが最初のポイントだ。
2つ目のポイントは、おそらく最も重要で、鍵となるポイントだが、これらのミサイルシステムに飛行任務を割り当てることができるのはNATOの軍人だけだということだ。ウクライナ軍人はこれを行うことができない。
したがって、ウクライナ政権がこれらの兵器でロシアを攻撃することを許可するかどうかという問題ではなく、NATO諸国が軍事紛争に直接関与するかどうかを決定する問題なのだ。
この決定がなされれば、それは直接関与に他ならない。NATO諸国、米国、欧州諸国がウクライナ戦争の当事者となることを意味する。これはこれらの国々が紛争に直接関与することを意味し、紛争の本質、性質そのものが劇的に変わることは明らかだ。
これはNATO諸国、つまり米国と欧州諸国がロシアと戦争状態にあることを意味する。そして、もしこれが事実であるならば、紛争の本質の変化を念頭に置き、我々にもたらされる脅威に対して適切な決定を下すことになる。
この指摘を是とした場合、ロシアに戦争を仕掛けるのはNATO諸国だということになります。
3.米英首脳会談
当然、NATO側はプーチン大統領の指摘を認めることは出来ません。
9月12日、イギリスのスターマー首相は、アメリカのバイデン米大統領との会談のためワシントンDCへ向かう途中、機内で報道陣から、プーチン大統領の発言について問われると、次のように述べました。
・この紛争を始めたのはロシアだ……ロシアがウクライナを不法に侵略した。ロシアはこの紛争を直ちに終わらせることができる記者団によると、スターマー首相はまったく動揺しているようには見えず、自信に満ちた態度を保っていたそうです。
・繰り返すが、そもそもこれを始めたのはロシアだ。ロシアが紛争を引き起こした。不法行為をしているのはロシアだ
・今後数週間から数カ月の間に、ウクライナと中東の両方で、非常に重要な展開がありそうだ。いくつかの戦術的決断がなされることになるだろう
イギリスに続き、EUもプーチン大統領の警告を拒絶。EU報道官のピーター・スタノ氏は、プーチン大統領は定期的に虚偽の発言をしており、ウクライナに対する違法な戦争を続ける限り、EUの立場は変わらないと述べました。
これらを背景に翌13日、スターマー首相はバイデン大統領と首脳会談を行ったのですけれども、会談についてのホワイトハウスの声明は次の通りです。
・バイデン大統領は本日、英国のスターマー首相とホワイトハウスで会談した。突っ込んだ議論とかゆるぎないウクライナ支援という文言はあるものの、ロシアへの長距離兵器使用許可はおろか重大な決定といった文言すらありません。
・両首脳は、相互の関心事である様々な外交政策問題について突っ込んだ議論を行った。
・両首脳は、ロシアの侵略から防衛を続けるウクライナへの揺るぎない支援を再確認した。
・両首脳は、イランと北朝鮮がロシアに殺傷力のある武器を提供していること、そして中華人民共和国がロシアの防衛産業基盤を支援していることに深い懸念を表明した。
・彼らは、イスラエルの安全保障への鉄壁のコミットメント、人質を解放し、ガザでの救済を拡大することを可能にする停戦合意の緊急の必要性、そしてイスラエルが民間人を保護し、ガザの悲惨な人道状況に対処するためにもっと努力する必要性を繰り返した。
・また、イランが支援するフーシ派による紅海での商業船舶への攻撃を非難した。両大統領は、クリーンエネルギーと先端技術に関する米英協力、AUKUSについて、また米英の強固な経済関係を深める機会について協議した。
・バイデン大統領は、ベルファスト/グッド・フライデー協定への支持と、北アイルランドの平和と安定の維持におけるその役割を強調した。
会談後の記者会見で、スターマー首相は、ストームシャドーミサイルについては最終決定は下されていないと述べ、「数日後には国連総会で、より幅広いメンバーを集めて議論を再開することになるのは明らかだ」とコメントしました。
スターマー首相は更に「これは特定の能力に関する会議ではなかった」と主張する一方、「我々は強い立場に至った」と付け加え、「いや、ウクライナ情勢と中東情勢の両方を見れば、他国でどのようなスケジュールが組まれていようとも、今後数週間から数ヶ月の間に本当に重要な展開が起こる可能性があることは明らかだと思う」と述べるにとどめています。
当然ながら、記者から、ウクライナがロシアに長距離ミサイル「ストームシャドウ」を発射することを許可するようバイデン大統領を説得したのかと尋ねられたのですけれども、スターマー首相は、「皆さんの予想通り、ウクライナをはじめ、中東やインド太平洋など、多くの面で長く生産的な話し合いをした」と明言を避けています。
4.プーチンは長距離ミサイルについて新しいレッドラインを引いた
傍からみれば、米英首脳が、プーチン大統領の脅しともいえる警告に屈したようにも見えるのですけれども、プーチン大統領は次々と手を打ってきています。
9月13日、ロシア連邦保安局(FSB)は、モスクワにある英国大使館に勤務する外交官6人をスパイ容疑で追放したと発表しました。
ロシア連邦保安局(FSB)は、追放した外交官は「ロシアに戦略的敗北をもたらすことが任務だった」と強調。確認できる資料を受け取ったと訴え、「秘密情報の収集や破壊活動を行う兆候が見つかった」と主張しています。
6人は8月に追放され、数週間前にロシアを離れたそうですけれども、それをこのタイミングで発表するということは、明らかに米英首脳会談に対する牽制でしょう。
スターマー首相に同行した記者によると、このニュースが流れた後、スターマー首相とラミー外相は完全に沈黙し、展開する出来事に対する短い反応さえも拒否したそうです。
これら一連のプーチン大統領の動きについて、14日、BBCロシア編集長のスティーヴ・ローゼンバーグ氏は「プーチン氏、長距離ミサイルについて新しく一線を引く」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
ロシア紙コメルサントの見出しが、現状の劇的な性質をとらえていた。ローゼンバーグ氏は、ロシア領を西側のミサイルシステムを使って攻撃すれば、この紛争は新しい段階に進むとプーチン大統領は認識しているとし、西側の標的を攻撃するため、西側に敵対する国々に武器を提供することまでロシア政府はすでに検討していると警告しています。
「ウラジーミル・プーチン、一線を引く」というものだった。
「レッドライン」とも呼ばれる「越えてはならない一線」のことだ。これを西側は越えるのだろうか。その場合、ロシアはどう反応するのか。
ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルクで、西側にはっきり警告した。西側の長距離ミサイルを使ってウクライナがロシア領内を攻撃することを、決して認めるなと。
そうなればロシア政府は、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国がウクライナでの戦争に「直接参加」しているとみなすと。
「これは紛争の本質、性質を大きく変えるものだ」と大統領は続け、「それはすなわちNATO諸国が、アメリカや欧州諸国が、ロシアと戦っていることを意味する」と述べた。
プーチン氏は、ロシア国内へミサイルを発射するには、ウクライナは西側の人工衛星データを必要とするし、「NATO諸国の軍人しか、これらのミサイルシステムに飛行任務を入力できない」と主張した。
ロシアはこれまでもたびたび「レッドライン」を設定してきた。そして、西側がそれを越えるのを見てきた。
2022年2月24日に本人が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ全面侵攻開始を宣言した際、プーチン大統領は「外部から介入したいと思うかもしれない者たち」へ警告した。
「誰が我々の邪魔をしようとしようが、我が国と国民に対する脅威を作ろうとしようが、ロシアは直ちに反応する。そのことを、その者たちはわきまえておくべきだ」と大統領は宣言し、「そのようなまねをすれば、自分たちの歴史でいまだかつて見たこともないような結果に見舞われる」と述べた。
核攻撃の脅しだと当時広く受け止められたこの警告を、西側首脳はおおむね無視した。以来、西側諸国はウクライナに戦車や高度なミサイルシステム、そして最近ではアメリカ製のF16戦闘機を提供してきた。
ロシアは今年すでに、ウクライナがアメリカ製の長距離地対地ミサイル「ATACMS」を使って、クリミアを攻撃していると非難している。クリミア半島はロシアが2014年に併合した。
それに加えて過去2年の間にロシア当局とロシアの国営メディアは、西側が「ロシアと戦い」、ロシアに対して「戦争」を開始したと非難している。ウクライナに侵攻したのは、ロシアなのだが。
しかしプーチン大統領の最新発言の口調から、国際的にロシア領と認められている地域を西側のミサイルシステムを使って攻撃すれば、この紛争は新しい段階に進むと認識しているのは明らかだ。
明らかにしなかったのは、ロシア政府としてどう対応するかだ。
「我々に対して作られる脅威をもとに、それに対する決定をする」とプーチン氏は述べた。
ロシア政府は13日、イギリス外交官6人がロシアの安全保障を脅かす「スパイ活動」を行っているとして、外交官認定を取り上げて国外追放にした。
しかし、プーチン大統領の反応はこれよりはるかに多岐にわたる可能性がある。今年6月の時点で、いくつか手掛かりとなる発言をしていた。
諸外国の報道機関の幹部との会談で、こういう質問が出た。もしもウクライナが、欧州提供の武器でロシア領内の標的を攻撃する機会を得たとしたら、ロシアはどう対応するのかと。
「まずもちろん、防空システムを改良する。そして相手のミサイルを破壊する」と大統領は答えた。
「次に、そのような兵器を戦争地帯へ提供し、我が国の領土を攻撃し、我々に難題を与えるなど、そのようなことが可能だともしも誰かが考えているなら、ロシアにそうする諸国の重要拠点を攻撃してもらうため、我々が同じ等級兵器を世界各地に提供してはいけないということがあるか?」とも、プーチン氏はつづけた。
要するに、西側の標的を攻撃するため、西側に敵対する国々に武器を提供する――そのことをロシア政府はすでに検討しているということだ。
今月初めにロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、核兵器使用の軍事ドクトリンを見直す用意があると発言した。このドクトリンはつまり、ロシアがどういう状況で核兵器の使用を検討し得るか、明示する文書だ。
リャブコフ氏は、ドクトリン見直しの決定は「(ロシアに敵対する)西側諸国がエスカレーションの道を進んでいるからだ」とも話した。
他方、キア・スターマー英首相はジョー・バイデン米大統領と会談するためワシントンを訪れている。
アメリカへ向かう機内でスターマー首相は同行記者団に、「この戦争を始めたのはロシアだ。ロシアが不法にウクライナを侵略した」として、「ロシアはこの紛争を直ちに終わらせられる」と述べた。
どちらがより重大だと思うのか、西側首脳は決める必要がある。この紛争がエスカレートするリスクか。それとも、ウクライナが西側兵器を使うにあたって制限を解除する必要性か。
当初、ワシントンに向かう機内で強気の姿勢を見せていたスターマー首相が急に萎んだのも、あるいは、プーチン大統領が引いた新たな一線の危険性を認識したのかもしれません。
ひとまず、先送りになったロシア領内への直接ミサイル攻撃許可について、国連会議でどう議論され、どういう結論になるのか。注目したいとおもいます。
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