ポケベル同時多発爆発

今日はこの話題です。
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1.ポケベル同時多発爆発


9月17日、レバノンのヒズボラの戦闘員らが保有している無線通信機がレバノン各地で一斉に爆発する事件が発生しました。レバノン保健相などは、ヒズボラの戦闘員を含む少なくとも8人が死亡し、2750人以上が負傷したと明らかにしています。このうち200人は重傷だそうで、無線機は日本で「ポケットベル」と呼ばれていたタイプで、イスラエルによるサイバー攻撃だった可能性があるとみられています。

報道によると、一連の爆発は午後3時45分ごろから、首都ベイルート南部を中心にレバノン各地で発生。シリアでも同様の爆発があったとの情報もあるようです。ソーシャルメディアには、市場や店舗などで小規模な爆発が起き、所有者が倒れる場面を映した複数の動画が投稿され、ロイターの記者はベイルート南部で、ヒズボラのメンバー少なくとも10人が負傷したのを確認したと述べています。

中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」は、ヒズボラの指導者ナスララ師が数カ月前、イスラエルによるサイバー攻撃などを警戒し、戦闘員に対してスマートフォンの使用を控えるよう求めていたとし、この通信機器が主要な連絡手段となっていました。ナスララ師自身には被害はなかったと報じられています。

爆発の正確な原因はまだ確認されていないのですけれども、専門家は、通信機器は、ひどく改竄されたり爆発物が混入されたりしない限り、爆発する危険はないとコメントしています。

ニューヨーク大学のサイバーセキュリティ教授ジャスティン・カポス氏は、さまざまな電池、特に危険な火災を引き起こしたリチウム電池に損傷を与える可能性があると述べる一方で「この装置は、世界中の誰もが使用しているポケベルではなく、作動時に爆発するように意図的に設計されているようだ……リチウムイオン電池を持っている普通の人であれば、これについて過度に心配することはないだろう」と指摘しています。

またサイバーセキュリティ研究者でプレディクタ・ラボのCEOであるバティスト・ロバート氏は、ポケベルはハッキングされたのではなく、出荷前に改造された可能性が高いと述べています。

ロバート氏は、爆発の規模から、これは組織的かつ洗練された攻撃であったことがわかると指摘。セキュリティおよびリスク管理コンサルティング会社、ル・ベック・インターナショナルの情報責任者マイケル・ホロウィッツ氏も、「この戦術がこれほどの規模で使用されているのを見たことはないが、これはすべてのポケベルに影響を与える攻撃ではないことを意味する。これが正しければ、これらのデバイスに対するヒズボラのサプライチェーンへの侵入度が非常に高いことを示唆することになる」と爆発はサイバー攻撃ではなく、機器の改造が原因の可能性が高いとコメントしています。

要するに普通のポケベルではこんな爆発は有り得ないというのですね。




2.爆発物が埋め込まれていた


専門家は、爆発したポケベルについて改造された可能性を指摘していますけれども、元米国家安全保障局情報分析官のデビッド・ケネディ氏は、オンラインで共有された動画に映っている爆発から次のように述べています。
・ポケベルに過負荷をかけ、リチウム電池の爆発を引き起こすような遠隔からの直接的なハッキングとしては規模が大きすぎる
・イスラエルがヒズボラに人間の工作員を派遣していた可能性の方が高い。
・ポケベルには爆発物が埋め込まれており、特定のメッセージが受信された場合にのみ爆発する可能性が高い
・これをやり遂げるには信じられないほどの複雑さが必要だった。
・多くの異なる諜報コンポーネントと実行が必要だっただろう。
・これをやり遂げるには、ポケベルを改造するためにサプライチェーンを傍受するとともに、ヒューマンインテリジェンス(HUMINT)が主な手段となるだろう
また、17日、ニューヨークタイムズ紙は「ヒズボラを狙ったポケベルの爆発で11人死亡、数千人負傷」でポケベルの爆発について次のように述べています。
【前略】

ヒズボラは、メッセージの傍受を困難にするため、何年も前からポケベルを使用してきた。攻撃に詳しい当局者2人によると、午後3時30分、ポケベルはヒズボラ指導部から発信されたと思われるメッセージを受信した。ポケベルは数秒間ビープ音を鳴らした後、爆発した。

この爆発は、10月7日にハマスがイスラエルを攻撃し、その同盟国であるヒズボラが支援のためイスラエル北部にロケット弾を発射し始めた後に激化したイスラエルとヒズボラ間の紛争における最新の一斉射撃とみられる。両過激派グループはイランの支援を受けている。

イスラエル当局は爆発に対する責任を認めも否定もしていないが、イスラエルは敵対国に対して高度な破壊活動や暗殺作戦を行ってきた長い歴史を持っている。

この攻撃について説明を受けた米国当局者らによると、イスラエルはレバノンに輸入された台湾製のポケベルの中に爆発物を隠していたという。

当局者2人によると、爆発物はわずか1オンスか2オンスで、各ポケベルの電池の隣に挿入されていた。ポケベルはヒズボラが台湾のゴールド・アポロ社に発注したもので、当局者の一部によると、レバノンに到着する前に改ざんされていたという。ある当局者によると、爆発物の大きさを考えると、ヒズボラと関係のない人々に危害を加えるリスクは低いとイスラエルは計算したという。

当局者らによると、ゴールド・アポロ社には3,000台以上のポケベルが発注された。ヒズボラはレバノン全土の同組織の構成員にポケベルを配布し、一部はイランやシリアにある同組織の同盟国にも届いたという。

【後略】
ニューヨークタイムズ紙の報道通りだとすると、問題のポケベルには爆発する改造が施され、おそらく、特殊なメッセージを受け取ることで爆発するようになっているものと思われます。だとすると、今回爆発したポケベル以外にも別のメッセージで爆発するよう細工されたポケベルが同様にばら撒かれている可能性も考えられます。

18日、ポケベルの製造元と報道された台湾メーカー「ゴールド・アポロ」の代表は、記者団の取材に製造したのはハンガリーの企業で「ブランド名を貸しただけ」だと、ヒズボラが使っていた機種の製造、販売に同社は関わっていないと釈明。今回の爆発を受け、同社は「被害者」との立場を強調し、「非常に困惑している」と話しています。

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3.爆発はヒズボラへのメッセージ


今回のポケベル爆発について、17日、CNNは「レバノンのポケベル爆発の波はヒズボラへのメッセージ」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
これはより広範囲な攻撃の前兆なのか、それともヒズボラへのメッセージの総体なのか?これは中東における今後48時間の重要な問題であり、レバノンの過激派グループは、彼らの最も神聖な通信の全面的な妨害と侵害を受け入れようとしている。

火曜日にレバノンで起きた一連の爆発は、秘密主義とメンバーが固守する技術的オメルタを誇りとする党(通称「党」)に傷跡を残すことになるだろう。しかし、追跡が容易なスマートフォンではなく、ローテクのポケベルを使用するという秘密を守ろうとする彼らの試みこそが、数人の死者と数千人の負傷者を出した原因であるようだ。

ヒズボラのメンバーたちは今や、同僚と連絡を取っても安全かどうかだけでなく、その同僚たちが無事であるかどうかも尋ねており、大きな衝撃を与えているだろう。

イスラエルはこれまでも犯行声明を出していないが、レバノンやヒズボラが言うようにイスラエルが攻撃の背後にいるとすれば、この大規模かつ前例のない攻撃はより広範な戦闘の前兆となることを意図したものだったのかどうかが疑問となる。

グループに対する軍事的により大規模な攻撃の直前に、このような激しい混乱の瞬間を分散させることは戦略的に理にかなっているだろう。

タイミングは物語っている。ちょうど月曜日、イスラエルのヨアブ・ギャラント国防相は、米国のアモス・ホクシュタイン特使との会談で、ヒズボラとの外交交渉の時期は過ぎ、軍事力が中心となる可能性があると述べた。その文字通り数時間後、敵の通信インフラ全体が攻撃を受けた。レバノンの安全保障筋によると、攻撃にはヒズボラが「ここ数ヶ月」に購入したポケベルが使われており、作戦計画には長い準備期間が必要だったという。

この暴力は、イスラエルと敵対勢力の間にある技術的な隔たりを改めて物語っている。このことは、過去数年にわたるテヘランでの注目度の高い殺人事件で繰り返し見てきた。2020年にアルカイダの指導者に対して行われたモサドによると思われる攻撃の精度。核科学者 モフセン・ファクリザデ氏の殺害の背後にある魔術では、顔認識技術を使って機関銃を発射したと報じられている。そして、最近のハマス指導者イスマイル・ハニヤ氏の暗殺では、客室に隠された遠隔操作爆弾が使用されたと報じられている。

同じ優れた情報と能力がレバノン全土で発揮され、民間人は正確さが不十分な広範囲の爆発に巻き込まれたようだ。数百の同時発生と思われる小規模だが親密な爆発の恐怖は、一般のレバノン国民に感じられ、2006年の南隣国との戦争で全国にもたらされた被害を思い出させる。10月7日の攻撃以来、イスラエルとの広範囲にわたる戦争の危険性が再び現実のものとなった。

しかし、ヒズボラは混乱に陥り、再び力を発揮しなければならないという大きなプレッシャーにさらされ、再び脆弱な立場に立たされている。8月に上級司令官フアド・シュクルが暗殺された後も、同じジレンマに陥った。ヒズボラは反撃し、抑止力を維持する必要性を感じていた。しかし、ヒズボラにはより大きな紛争に対する熱意が欠けていることが徐々に明らかになった。指導者ハッサン・ナスララは、ヒズボラの対応を自らが選んだ時期まで遅らせ、8月25日に続いたロケット弾と空爆の静かな応酬が手に負えなくなるのを防いだ。

同時に、イスラエルも戦争を望んでいないという既成概念が崩れつつある。イスラエルの空爆はほぼ毎日イスラエルの北方を攻撃しており、ヒズボラの反応に対する懸念は薄れつつある。火曜日のレバノンに対する広範囲にわたる攻撃により、ヒズボラは報復を通じて力を誇示する何らかの手段を見つける必要に迫られるだろうが、これもまた、イスラエルと南の隣国との能力の差を物語っている。

両者の地上戦が長期化すれば、1年にわたるガザでの残忍な作戦で疲弊しきったイスラエル軍は、ハマスよりも新しく訓練された敵と北で対峙することになる。ヒズボラは、全面戦争が勃発すればイスラエルに多大な損害を与えることができるだろう。しかしイスラエルは、ヒズボラが戦争を回避しようとしているとあまりにも明確に判断し、繰り返し挑発できるかもしれない。

それはまさに紛争の拡大につながる誤算なのかもしれない。イスラエルがヒズボラを永続的な脅威として退けたと判断した瞬間こそ、彼らが最も暴力的な行動を取らざるを得ないと感じる瞬間となるだろう。

ポケベルの連打は、一方が技術的に圧倒的な優位性に自信を持っている一方で、敵に広範囲にわたる恥辱を与えるリスクも受け入れる用意がある戦争を物語っているのかもしれない。攻撃の背後にある計算が戦争の激化を回避したのか、それとも激化を助長したのかは、今後数日でわかるだろう。
記事では、イスラエルとヒズボラの軍事技術力の格差を指摘した上で、今回のポケベル爆破がヒズボラとの戦争激化を回避したのか逆に助長したのか、すぐに分かるだろうと指摘しています。

ただ、記事にあるように、ヒズボラが戦争に本気ではないとイスラエルが信じているのなら、今後も似たような、あるいはもっと大規模な攻勢に出る可能性は考えられます。

また、ポケベルの爆発という手段を使ったことについて、CNNの法執行・情報担当主任アナリスト、ジョン・ミラー氏は「我々はいつでもどこでも、我々が選んだ日時に、ボタンを押すだけでお前達に連絡できる」という、ヒズボラに対する明確なメッセージだと指摘。

また、イスラエルの元軍事情報局長で戦略専門家の一人であるアモス・ヤドリン氏は、イスラエルの攻撃は非常に印象的な侵入能力、技術、情報を披露したとした上で、「ナスララ氏のジレンマを鮮明にするメッセージを伝えるのが目的だったようだ。イスラエルへの攻撃を続け、シンワル氏を支援するために、ナスララ氏はどれだけの代償を払うつもりなのか……秘密主義と高いレベルのセキュリティを誇るこの組織は、侵入され、危険にさらされたのだ」と指摘しています。

更に、レバノン人ジャーナリストでアトランティック誌の寄稿者であるキム・ガッタス氏は、これは「ヒズボラを屈服させ、イスラエルに対する攻撃を強めればさらなる暴力に直面することを明確にする」試みであり、「ヒズボラが最新のSFのような工作員への攻撃による混乱に直面している時期に、イスラエルがレバノンに対して行う大規模な作戦の前兆」なのかもしれないと警告しています。

これらの分析をみる限り、イスラエルはヒズボラを甘くみて、攻勢にでようと考えているように見えなくもありません。


4.迎撃に失敗した極超音速ミサイル


ただ、イスラエルを敵視する存在はハマスやヒズボラだけではありません。

9月15日、イスラエル軍はイエメンから発射された地対地ミサイルがイスラエル中部の「空き地に落下した。負傷者の報告はない」と発表しました。

このミサイルにより、テルアビブとベングリオン国際空港を含むイスラエル中部全域で空襲警報が鳴り、住民は避難したのですけれども、イスラエルの緊急サービス機関であるマゲン・ダビド・アドムは、Xへの投稿で、避難中に9人が軽傷を負ったと述べています。

一方、フーシ派のサバ通信は、イスラエルの防衛システムはイエメンのミサイルを撃墜できず、火災が発生したと伝え、フーシ派メディア関係者のナスルディン・アメル氏は「イエメンのミサイルがイスラエルに到達したが、20発のミサイルが迎撃に失敗した」とXに投稿しました。

更に、同グループの軍事報道官ヤヒヤ・サリー氏は、イスラエルの防空システムを回避した「新型極超音速弾道ミサイル」で「ヤッファ地域のイスラエルの敵軍の陣地を標的にした」「ミサイルは2040キロの距離を11分半で移動し、シオニストを恐怖とパニックに陥れた」と発表しています。

フーシ派は、ハマスと連帯しており、たびたびイスラエル攻撃していますけれども、極超音速弾道ミサイルがイスラエルの迎撃システム「アイアンドーム」で完全には迎撃できないとなると、フーシ派が何本持っているか知りませんけれども、極超音速弾道ミサイルで飽和攻撃されようものなら堪ったものではありません。

ポケベル爆破が更なる戦線拡大に繋がらないのか。緊張が一段と高まったことは間違いないと思いますね。


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この記事へのコメント

  • ルシファード

    なんか今回のポケベル爆発事件を見ていると怪奇大作戦の〈死を呼ぶ電波」や「呪いの電話」を思い出すのは私だけでしょうか(二階堂ドットコムでこの事をやってたみたいですが)

    2024年09月19日 11:08