

1.納得と共感内閣
10月1日、石破新内閣がスタートしました。組閣にあたっては自民党派閥の政治資金問題に関わった議員を登用せず、刷新を図ったものの女性閣僚は2人にとどまりました。
続く3日、臨時閣議で、副大臣と政務官の人事を決定。閣僚となった副大臣の後任など新たに起用された8人を除き岸田内閣の副大臣と政務官が再任されました。このうち副大臣は、自民党の2人、公明党の3人の合わせて5人が新たに起用されることとなりました。
この石破内閣について、白河桃子 ・相模女子大特任教授は、 「自民党派閥の政治資金問題に関わった議員を登用せず、国民の不信感に向き合おうとする姿勢が見られた。だが、岸田政権下で5人にまで増えた女性閣僚が、今回は2人にとどまった。女性登用の意識が低いと言わざるを得ず、『また女性2人内閣』と命名したい」とコメント。 牧原出・東京大教授は「大臣としての省庁運営能力が未知数の初入閣組が13人と多く、『軽量内閣』と言える。民間登用はゼロで若手が少なく、刷新感に乏しい。ただ石破さんは議論を大事にする印象なので、政治改革や災害対応、経済対策など山積する課題について、中身のある国会論戦を期待したい」と述べています。
10月2日、石破総理は内閣発足についての記者会見を行っています。
その見出しとポイントだけ抜き出すと次の通りです。
・この内閣は、「納得と共感内閣」というふうに考えております。国民のための政治。共感と納得の政治を、真っすぐ進めてまいります。石破総理は自身の内閣を「納得と共感」の内閣だとし、そのための方策として、5つの「守る」を挙げています。
・この内閣での基本方針は、「守る」ということであります。5つの「守る」ということを実行いたしてまいります。
・第一に、「ルールを守る」という政治であらねばなりません。
我々は、国民を信じ、勇気と真心を持って真実を語りたいと思っております。
・第二は、「日本を守る」ということであります。
国家安全保障戦略に基づき、平和を守るための抑止力の強化、防衛力の抜本強化に取り組んでまいります。
「経済あっての財政」との考え方に立ちまして、デフレ脱却最優先の経済財政運営を行ってまいります。
・第三は、「国民を守る」ということであります。
今般の経済対策におきまして、低所得者世帯向け給付金など、物価高への緊急対策を行います。
・第四は、「地方を守る」ということであります。
・第五は、「若者・女性の機会を守る」ということであります。
2.報道各社の世論調査
では、国民は、石破内閣にどれだけ「納得と共感」をしているのか。
内閣発足を受け、報道各社が世論調査を行っています。
朝日新聞社は10月1、2日、全国世論調査を実施。内閣支持率は46%で、不支持率は30%でした。これは、現行方式で調査を始めた2001年の小泉純一郎内閣以降、発足直後の内閣支持率としては、岸田文雄内閣の45%に次いで、2番目に低く、不支持率は、麻生太郎内閣の36%に次ぎ、2番目に高い結果です。
同じく、読売新聞の世論調査では、石破内閣の支持率は51%と、岸田内閣末期の9月調査の25%を大きく上回り、不支持率は32%と前回の63%からほぼ半減しています。
また、日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査では、内閣支持率は51%で、岸田文雄政権の発足時の59%を下回っています。
3日放送のTBS系「ひるおび」に出演した政治ジャーナリストの田崎史郎氏は、石破内閣の支持率が岸田政権から上積みされていることについて「これ当たり前なんですよ。辞めた人と比較しても、あまり意味ないんですよ。上がって当たり前なんです……歴代政権で発足時にいくらだったんだ、それと比べてどうなんだ、と言うと、石破政権は非常に低い方ですよ」と語り、石破政権の支持率について「総裁選が終わった直後に調査をかけていたら、もっと高かったと思いますよ。60%、70%行ったと思いますよ。しかし、この3、4日の間に、ひとつは解散時期をめぐるブレで、言行不一致ではないか、と。今日も批判されていますよね。2点目は閣僚の布陣を見たら期待が持てないということですよね。3つめに、そういうマイナス要因をはね返す機会として記者会見があったのに、バチッとしたものを言えなかった。その3つが重なったら、まあこれぐらいだろうなと思います」と批評しています。
3.葛藤が顔に出ている石破総理
石破総理の2日の会見について、テレ朝の「報道ステーション」は次の様に報じています。
キャスター:Q.これまでの自身の発言との“ブレ”についてテレ朝によると、この日の石破総理は、「葛藤が顔に出ている」とのことです。9月30日のエントリー「石破茂の政権運営を見通してみる」で、筆者は、石破総理の政策を読み解くカギは「公平・公正」だと述べましたけれども、解散を巡る発言をブレは確かに「公平・公正」を欠くものでしょう。国民に判断材料を提供すべきだといっておきながら、それを反故にした訳ですから。
政治部 千々岩森生 官邸キャップ:
「まさに石破総理自身が気にしている。側近議員も、過去の自分の発言との戦いになるんだと心配している」
「石破総理を見ていて感じるのは、直近8年間はずっと無役だった。第一線を離れて“党内野党”としての発言が国民に支持されていた」
「それが今、実際の為政者となって初めて現実に向き合うなかで整合性が問われている」
キャスター:Q.記者会見の印象は
千々岩キャップ:
「きょう一日石破氏を見ていて、うつろな表情も見られた。“解散”で批判されて葛藤が顔に出ているなと」
「ただ、先ほどの会見自体は落ち着いた印象ではあった」
「会見の中身を紹介すると、自らの内閣を“納得と共感の内閣”と名付け、これは石破氏がかねがね言ってきたフレーズ」
「さらに、これまで同様に使ってきた『国民に勇気と真心を持って真実を語る』というフレーズを、冒頭で2回も繰り返した」
「いろいろとやりたいことも並んだが、それよりも政治家としての“政治姿勢”をより強調した会見となった印象」
キャスター:Q.政治姿勢の“ブレ”は今後の衆議院選挙にどのような影響が?
千々岩キャップ:
「野党もすでに選挙モードで、格好の攻撃材料になっている」
「最初から思い通りにいく政権は一つもないが、来週にかけて国会論戦が続くので、懸念を払拭できるか見ていく必要がある」
ただ、石破総理にとって「公平・公正」は、それだけ大きなものであることの裏返しだともいえる訳です。
4.訳あり商品在庫一掃セールをしたダメダメ銀行員
10月2日、ニッポン放送「垣花正 あなたとハッピー!」に出演した経済アナリストの森永卓郎氏は、今回の石破内閣について、次のように述べています。
・最短3カ月、持っても1年未満ってところでしょうね「在庫一掃セール」とは酷い言われようですけれども、自民党議員の多くは石破氏を嫌っているようです。
・ハネムーン期間はあんまり悪口言わないって大原則がある中、もう誰に聞いてもこの内閣に期待できるって言ってる人は1人も知らないですね
・友達がいないから、過去に派閥が推薦した小物を集めたわけですね。閣僚のうち13人が初入閣で、その13人全員が閣僚待機組だったわけ。小物ばっかり押し付けられて、その中で森山さんが言ったといわれているんですけれども、“さっさと選挙やれよ”って言われて、言うことを聞かざるを得なかった
・訳あり商品在庫一掃セールを押し付けられちゃった。でもしようがないんですよ。だって石破さんのために命張ってでも閣僚として頑張るぞって言う人が1人もいない
『現代ビジネス』編集次長の近藤大介氏は10月2日付の現代ビジネス記事「『あの男だけは、誰もが嫌っている』…石破茂新政権は長続きできるのか」を書いています。件の記事の一部を引用すると次の通りです。
【前略】傲岸不遜。そんな言葉が浮かびます。石破総理は自身の著書で、「ダメダメ銀行員」だった時代の秘話の中で「厳しい上司の中には、本当に自分の出世しか考えていない人と、実は心の温かな人がいる。そんな見分けは自然とついてきたように思います」と語っていますけれども、厳しいかどうかは兎も角、今度は自身はその「上司」となった訳で、自分が「本当に自分の出世しか考えていない人」なのか「実は心の温かな人」なのかが判断されてしまう立場になったことをよくよく自覚しないといけないのではないかと思います。
だが実際に、自民党議員たちの「石破アレルギー」は相当なものがある。私も少なからぬ議員たちから、様々なエピソードを聞いたものだ。今回の自民党総裁選の間も、永田町界隈では、「石破茂の裏切りの歴史」なる文書が拡散されていたほどだ。
コロナ禍の前のことになるが、ある自民党本部の幹部職員が定年退職し、数名の記者で退職祝いをやった。その中で、「自民党職員たちから見て、総理総裁になってほしい政治家は誰ですか?」と、記者の一人が質問した。すると元幹部職員は、赤ら顔を和ませ、たちまち10人近くの名前を挙げて、「わが党は人材の宝庫だ」と胸を張った。
そこで私が、「では逆に、自民党職員から見て、総理総裁になってほしくない政治家は?」と水を向けた。すると即座に、こう答えたのだ。
「石破茂! あの男だけは、党職員の誰もが嫌っている」
その後は、酔いも回ってか、呆れるようなエピソードを次々に披歴した。重ねて言うが、酒席の話で裏を取ったわけではないので、事実かどうかは不明だ。
だが、実は私にも、苦い経験が一つある。2012年9月の自民党総裁選で、「安倍vs石破」の自民党史に残る対決となった時のことだ。当時所属していた『週刊現代』で、「2強の誌面対決」のページを作るべく、両者にインタビューを申し込んだ。すると、両候補とも「30分だけなら」と快諾してくれ、同日に時間差でのインタビューとなった。
まずはカメラマンと二人で、国会議員会館の石破事務所を訪ねた。少し早く着いて、応接間で待たされたが、書棚には重厚な本がぎっしり並んでいた。失敬して何冊か取り出してみたら、どの本にも要所に赤鉛筆で波線が引かれ、文字の上の隙間には、本人の所感が書かれていた。
さすが政界一の勉強家と、尊敬の念を深くして待っていると、まもなく本人が現れた。私とカメラマンは、立ち上がって名刺を差し出し、「本日はよろしくお願いします」と頭を下げた。
すると石破氏、「言っとくけど、きっかり30分だよ」と言って、われわれの名刺を見もせずに、ポイと机上に投げ捨てた。そのうち一枚が床に落ち、慌ててカメラマンが拾って机上に置いた。
「君たちが聞きたいのは、キャンディーズのことかい? でもそんなこと聞いてると、時間が経っちゃうよ」
そう言って、ヘラヘラ笑い出した。そのうち、われわれの名刺を、まるでルービックキューブでも遊ぶように、両手でクルクルと回し始めた。そして5分経つごとに、「ハイ、あと20分!」などと言って、せせら笑う。
こちらは、当時問題になっていた中国との尖閣諸島の問題などを聞きたかったのだが、常に「上から目線」で、まるで初心者相手のように説くので、噛み合わなかった。一度だけ、石破氏の回答が事実関係と異っていて突き詰めたら、キッとなった。そして書棚に駆け寄り、関連関書を開いて「そうだな、アンタの言う通りかもな」とつぶやいた。
最後は、「ほらほら、ラスト5分だよっ、キッキッ」と冷笑した。そしてほどなく、おもむろに立ち上がると、無言のまま離席してしまった。27分が経ったところだった。
私はトイレにでも行ったのかと思い、しばし待ったが、ついぞ戻ってこなかった。カメラマンが三脚を片付けて、事務所を出た。石破氏の名刺は、受け取らずじまいだった。
【後略】
5.石破を縛る党内基盤の弱さ
では、石破総理は、女系天皇容認だとか増税だとか、自身の持論を次々と実行に移すのかというと、必ずしもそうはならないという情報も出てきています。
9月30日、麻生太郎前副総裁が自民党最高顧問に就きましたけれども、この役職は中曽根康弘元首相が1994年に退任して以来、約30年間絶えていた職です。
麻生氏がこれまで就いていた党副総裁は幹事長や総務会長ら党四役とともに執行部として位置づけられてきた一方、最高顧問は名誉職の意味合いが強く、現在の党則では「顧問は総裁又は党執行機関の諮問に応じて意見を述べる」となっています。
麻生氏がこんな「お飾り職」を良く受けたものだと思ったのですけれども、長島昭久衆院議員によると、男系男子皇位継承死守を条件に党最高顧問を引き受けたのだそうです。
なるほど、お飾り職でも使い方はあるものです。これで女系天皇容認論に蓋をしてしまった訳です。
断言します。石破総理は女系継承を容認しません。今上陛下から皇嗣殿下を経て悠仁親王殿下に至る皇位継承順位は守ると公に明言してますし、麻生元総理が党の最高顧問を受諾する際の唯一の条件も、「男系継承の堅持」だったと側聞しております。 https://t.co/DVnt2RN7V0
— 長島昭久🇯🇵🇺🇦東京30区(府中、多摩、稲城市) (@nagashima21) October 2, 2024
このように、取引で石破総理の手足を縛るというのは他の議員もやっています。前述した長島昭久議員です。
長島昭久議員は石破氏が総裁選に出馬する際の推薦人に名を連ねているのですけれども、NHK党の濱田聡参院議員によると、歴史学者の倉山満氏の9月27日のメルマガで長島昭久議員ら推薦人が、推薦の条件として次を約束させたのだと紹介しています。
・女系天皇はやらないこの話が本当だとすれば、最悪の最悪だけは回避されるのかもしれません。石破総理の党内基盤の弱さが逆に功を奏した形です。
・消費増税はやらない
・原発ゼロはやらない
けれども、逆にいえば党内基盤が強くなれば、この条件も反故にされる可能性もある訳です。何せ、過去の石破総理の言動がそれを裏付けてしまってますからね。
その意味では、今度の衆院選は非常に重要ですし、石破総理の党内基盤がどう変化するかは日本の将来にも関わってくると思いますね。
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