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1.日本の外交政策の将来
内閣発足した途端、変節しまくっている石破総理が提唱する「アジア版NATO」が波紋を広げています。
9月25日、石破総理はアメリカのシンクタンク・ハドソン研究所に「日本の外交政策の将来」と題する論文を寄稿しています。
件の論文を引用すると次のとおりです。
・アジア版NATOの創設
安全保障環境はウクライナ戦争で一変した。ウクライナ戦争は国連常任理事国のロシアによるウクライナに侵攻することで始まった。これは国連という集団的安全保障体制の限界である。バイデン大統領は「ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に加盟していないから防衛義務を負わない」「ウクライナはNATOに入っていない。だからアメリカは軍事力行使はしない」 それがアメリカの理屈であった。
国連憲章51条により、「被攻撃国から救援要請があった場合に国連安保理の決定がなされるまでの間、集団的自衛権を行使することができる」というのは、すべての国の権利である。それはウクライナがNATO加盟国ではないからと否定されるものでないのであるが、米国はそのような行動はとらなかった。
今のウクライナは明日のアジア。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。この状況で中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠である。
そのためには日本は安倍政権のときに憲法解釈の変更を行い集団的自衛権の行使を認める閣議決定をした。日本への直接的な攻撃に対して最小限の武力行使しか許されなかった自衛隊は、親密な他国が攻撃を受けた場合でも、一定の条件を満たせば反撃可能になったのである。その後、岸田政権下で「安保三文書」を閣議決定し、防衛予算を国内総生産(GDP)比2%へ増加させ反撃能力を確保した。
・国家安全保障基本法の制定
しかし、これらの措置は閣議決定や個別の法律で定めているに過ぎない。日本では、国政の重要課題は、国会で基本法を制定し、その方向性を国民の前に明示し個々の政策を進めるのが通例だが、安全保障に関しては、基本法がないまま今日に至っている。我が国を取り巻く地政学的危機はいつ戦争が起こってもおかしくない状況にまで高まっている。その危機への対処のために「国家安全保障基本法」の制定が早急に不可欠となる。「国家安全保障基本法」は自民党内でも検討を重ねたものであり、私の外交・安全保障政策の柱の一つであり、続けて自民党の悲願である憲法改正を行う。
現在、インド太平洋地域において、QUAD(アメリカ、日本、オーストラリア、インド)は首脳会談レベルまで引き上げられ、2021年9月にはAUKUS(オーストラリア、イギリス、アメリカ)が創設された。さらに、また、日米韓の安保協力関係が深化し、首脳会談の定例化をはじめ、共同訓練や情報共有など多くの枠組みを制度化し、実質的な「3か国同盟」に近づいてきている。ここでは、自衛隊と在日米軍の指揮統制の見直しやミサイルなどの防衛装備品の共同開発・生産を打ち出し、米国の拡大抑止の調整もなされている。
最近では、ロシアと北朝鮮は軍事同盟を結び、ロシアから北朝鮮への核技術の移転が進んでいる。北朝鮮は核・ミサイル能力を強化し、これに中国の戦略核が加われば米国の当該地域への拡大抑止は機能しなくなっている。それを補うのはアジア版NATOであり、そこでは中国、ロシア、北朝鮮の核連合に対する抑止力を確保せねばならない。アジア版NATOにおいても米国の核シェアや核の持ち込みも具体的に検討せねばならない。
現在、日本は日米同盟の他、カナダ、オーストラリア、フィリピン、インド、フランス、イギリスと準同盟国関係にある。そこでは「2+2」も開催されるようになり戦略的パートナーシップの面として同盟の水平的展開がみられる。韓国とも日米は安全保障協力を深化させている。これらの同盟関係を格上げすれば、日米同盟を中核としたハブ・スポークスが成立し、さらにはアジア版NATOにまで将来は発展させることが可能となる。
他方、潜在的「脅威」を低減させる信頼醸成措置(CBM)も重要となる。日本は、2024年の元旦は能登半島地震が起こった。近い将来、南海トラフ地震、首都直下地震、富士山噴火の可能性が高まり、米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)に準ずる「防災省」の設置が喫緊の課題となっている。アジアに目を転じてみるとフィリピン、台湾、中国は大きな地震、水害、津波にたびたび見舞われ、その対処として多国籍軍によるHADR(人道及び自然災害)活動がある。中国もHADRに力を入れており海軍の病院船を「リムパック16」に派遣したこともある。国連防災機関(UNDRR)などと協力しながらアジア太平洋地域における防災に対するHADR活動をアジア版NATOと連携しながらさらに強化し、信頼醸成措置を展開させる。
・米英同盟なみに日米同盟を強化する
日本は、戦後80年近くにわたり安全保障上の課題をひとつひとつ乗り越えてきた。石破政権では 戦後政治の総決算として米英同盟なみの「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することを目指す。安全保障政策を総合的に推進する枠組みを築くことで、日本の独立と平和を確保し、安定した国際環境の実現に主体的かつ積極的に寄与すべきと考える。
日米安全保障条約は、日本の戦後政治史の骨格であり、二国間同盟であり時代とともに進化せねばならない。アーミテージ・ナイ・レポートはかつて米英同盟の「特別な関係」を同盟のモデルとして、日米は「対等なパートナー」となることを提案した。今、それが可能となり、米国と肩をならべて自由主義陣営の共同防衛ができる状況となり、日米安全保障条約を「普通の国」同士の条約に改定する条件は整った。
アメリカは日本「防衛」の義務を負い、日本はアメリカに「基地提供」の義務を負うのが現在の日米安全保障条約の仕組みとなっているが、この「非対称双務条約」を改める時は熟した。日米安全保障条約と地位協定の改定を行い自衛隊をグアムに駐留させ日米の抑止力強化を目指すことも考えられる。そうなれば、「在グアム自衛隊」の地位協定を在日米軍のものと同じものにすることも考えられる。さらに、在日米軍基地の共同管理の幅をひろげていくなどすれば在日米軍の負担軽減ともなろう。
米英同盟なみに日米同盟を引き上げることが私の使命である。そのためには日本は独自の軍事戦略を持ち、米国と対等に戦略と戦術を自らの意思で共有できるまで、安全保障面での独立が必要である。保守政治家である石破茂は、「自分の国家は自分で守れる安全保障体制」の構築を行い、日米同盟を基軸としてインド太平洋諸国の平和と安定に積極的に貢献する。
2.短期的には不可能
この「アジア版NATO」について、海外の反応は冷ややかです。
アメリカ国務省のクリテンブリンク国務次官補は「時期尚早」と述べ否定。ワシントン・ポストは「ワシントンでは懐疑的な見方が多い」と報じた。インドのジャイシャンカル外相も1日、「我々はそのような戦略的な枠組みは考えていない」と支持しない考えを表明。「我々には異なる歴史があり、異なるアプローチの方法がある」と述べています。
アメリカのシンクタンク・CNASのリチャード・フォンテインCEOは“アジア版NATO”について、「インド太平洋の将来の安全保障について、広範に考えることは歓迎すべきことであり、非常に長い目で見れば可能性はあるかもしれない」としつつも、「短期的には不可能」と断言。「この地域で、アメリカは日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイと同盟を結んでいるが、いずれの国も互いに同盟を結んでいない。日本と韓国の間には、おそらく永遠に消え去らないであろう歴史的な緊張関係があるし、インドは他のどの国とも同盟しておらず、同盟を望んでもいない」と分析しています。
明海大学の小谷哲男教授は、石破氏の論文を「暴論だ」と一蹴。「アメリカの核の傘は機能しないと言っており、その発言こそが抑止の信頼性を低下させる……今後、拡大抑止の認識についてアメリカ側とのすり合わせを強化する必要がある」と指摘しています。
また東京大学の佐橋亮准教授は、「石破氏がこれまで広げたアイディアを、今後どうやって回収・撤収するのか問われる」と述べ、防衛関係者からは「理想を振りかざす書生論でしかない」「戦略や道筋が見えず、日米や日中関係に悪影響を与えるだけ」との声もあがる一方、外交関係者からは「あくまで思想の表明で、現実の外交はこれからだろう」との声も出ています。
10月2日、岩屋外相は記者会見で、アジア版NATOについて問われ、中長期的に検討する課題だと答えました。
件のやり取りは次の通りです。
【日経新聞 馬場記者】アジア版NATOと核共有についてお伺いいたします。一言でいえば時期尚早。構想自体は理想的だとしても、現実にやるには課題があまりにも多すぎます。
石破総理は、総裁選期間中も、アジア版NATO構想を唱えられ、核共有の必要性についても言及をされています。アジア圏での防衛義務を負うのであれば、日本の集団的自衛権や憲法改正にも関わります。これをどう認識されているか、政権として、どのように対応されていくかお伺いします。
また、この構想には、中国側からは「緊張を高める」などの反発の声も聞こえますけれども、この受け止めも併せてお伺いいたします。よろしくお願いします。
【岩屋外務大臣】よろしいですか。アジア版NATOについてのお尋ねでしたけれども、今、日本を取り巻く環境というのは、戦後一番厳しい状況にあるというふうに申し上げました。
一番、まず、大事なことは、同志国・同盟国とのネットワークを、更に重層的・多層的に編み上げていくということが、まず、最初に取り組むべきことだと考えております。そのことによって、抑止力というのを高めていきたいと思っております。
今、お尋ねのあったアジア版NATOについてですけれども、これは、もちろん将来の一つのアイディアとしてはあるというふうに思うのですけれども、やはり時間をかけて、中長期的に検討すべきだと考えております。
政府としては、従来からお答えしているとおりに、現行憲法上、他国をもっぱら防衛するということを目的とする集団的自衛権の行使は認められないという考え方を堅持しております。
また、インド太平洋地域においては、欧州とは、やはり少し様相が違って、各国の発展段階とか、政治体制・経済体制、そして、安全保障政策にも、様々なバリエーションがございますので、そういうことも、しっかり考慮していかなければいけないと思っています。
したがって、そういうことを考えますと、今、直ちに、相互に防衛義務を負うような機構をアジアに設立するということは、なかなか難しいと考えておりまして、したがって、将来のビジョンの一つとして、中長期的に検討していくべきだと思っているところです。
当面は、冒頭に申し上げたように、今のFOIPの枠組みですとか、様々な多国間の安全保障協力関係を、丁寧に、しっかりと積み上げていく努力をしていきたいというふうに思います。
なお、したがって、このような構想・発想が、何か特定の国に向けられているというものではないと御理解いただきたいと思いますし、将来の理想は、インド太平洋、アジア全体、どの国も排除しない安全保障の協力関係ができるということが最も望ましいと、私(岩屋大臣)は考えております。
3.石破総理の本音
ここで、件の石破論文の要旨を順を追って、整理すると次のようになるのではないかと思います。
a)アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在せず、相互防衛の義務がない。だから戦争が勃発しやすい。a)からg)まではアジア版NATOについてですけれども、h)からj)になると、いきなり日米同盟を日英同盟に引き上げるとなっていて、論理の流れとしてダイレクトに繋がっていない印象があります。
b)「安保三文書」は閣議決定や個別の法律で定めているだけで安全保障に関する基本法がない
c)その為、「国家安全保障基本法」が必要で、その先には憲法改正がある
d)東アジアでのアメリカの拡大抑止は機能しなくなっている。アジア版NATOはその補完になる
e)核抑止力を持つためにはアメリカの核シェアや核の持ち込みも検討の必要がある
f)日米同盟を中核として、カナダ、オーストラリア、フィリピン、インド、フランス、イギリスとの関係を同盟にまで格上し、その後、アジア版NATOにまで発展させる
g)潜在的「脅威」を低減させる信頼醸成措置(CBM)も重要となる。
h)石破政権では 戦後政治の総決算として米英同盟なみの「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することを目指す。
i)アメリカは日本「防衛」の義務を負い、日本はアメリカに「基地提供」の義務を負うのが現在の日米安全保障条約の仕組みとなっているが、この「非対称双務条約」を改める時は熟した。
j)日米安全保障条約と地位協定の改定を行い、米英同盟なみに日米同盟を引き上げることが私の使命である
マスコミは、石破論文について、アジア版NATOばかり取り上げていますけれども、筆者には、石破総理の本音は、日米を対等の関係にすることなのではないかという気がします。
4.米軍の手足の自衛隊
9月27日、現代新書メディアは、ジャーナリストの布施祐仁氏の「まるで米軍の「手足」…!戦後日本「対米従属」の「異常すぎる」歴史に呆然」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
・自衛隊と米軍の新たな指揮・統制構造は一見すると、日本と米国が横並びで調整し連携するように見える。しかし、軍事力においては圧倒的に非対称な関係であるこれが現実です。石破総理は、日米安保の「非対称双務条約」を改めるべき時が来た、と述べていますけれども、アメリカ軍の手足になっている自衛隊が対等な関係になるためには、軍の編成や装備含めて、独立した軍として組織する必要があるのではないかと思います。
・1970年代後半に自衛隊制服組トップの統合幕僚会議議長を務めた栗栖弘臣氏は、自衛隊と米軍の関係について、「日本の現在置かれているポジションと自衛力形成の過程を見ますと、陸上自衛隊は米陸軍、海上自衛隊は米海軍、航空自衛隊は米空軍が、それぞれ自分の手足として使う目的で育ててきた」と発言している
・「手足」はちょっと言葉が悪いですが、米国は自衛隊に米軍の戦力を補完する役割を求めてきた。
・戦後米国が日本を再武装させたのも、自らの戦争に日本の戦力を活用するためだった。
・世界戦争(グローバル・ウォー)が起きた時に、アメリカが日本の戦力を活用できることが、アメリカの戦略にとって極めて重要であり、そして、恐らくは世界戦争で最終的にうまくいく結果をもたらすことになるだろう。
・統合参謀本部は次のように考えている
A 日本は効果的な自衛力をもつために、実質的に適切な再武装をさせる必要がある。
B アメリカが日本についてとる措置は、すべて再武装した友好国・日本むけの暫定的措置であるべきである。
C 世界戦争に際しては、日本の戦力がアメリカにとって利用できるものであるべきである。
・こうした米国のビジョンの下、早くから米軍と一体化してきたのは、海上自衛隊だ。創隊以来、米軍のニーズに応えて対潜水艦戦と対機雷戦に特化した能力を整備してきた。
・海上自衛隊の実戦部隊を統括する自衛艦隊の司令部は米海軍第七艦隊の本拠地となっている横須賀に置かれ、早くから米軍と緊密な調整の下で活動してきた。
・2019年6月、南シナ海で米海軍第七艦隊と海上自衛隊の共同訓練が行われたが、その目的はこの海域で威圧的な行動を強める中国を牽制するためだと思われる。
・第七艦隊の原子力空母「ロナルド・レーガン」で哨戒長を務める士官は「海上自衛隊と共に行動し続けることで、我々は結束した単一の部隊になります。彼らは我々の空母打撃群にとって、あらゆる状況に対処する能力を倍加させる不可欠なパーツです」と発言しているが、彼らにとって自衛隊は、巨大な米軍の「パーツ」になっているという認識なのだ。
アジア版NATOにしても、自衛隊が普通の軍として独立して行動できるようになっていないと議論の遡上にも上がらないのではないかとさえ。もちろん法的整備も必要で、自衛隊ではなく自衛軍にしないとダメでしょう。結局は憲法改正の話になるということです。
憲法改正については否定しませんけれども、それ以前にやることはあまりに多すぎます。今の石破政権で出来ることがあるとすれば、自衛隊の装備や編成を見直し、継戦能力を高める措置をするくらいしかないのではないかと思いますね。
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