危機のレバノンとフランス

今日はこの話題です。
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1.フランスは何も提供していない


10月5日、フランスのマクロン大統領は、ラジオ局フランス・アンテルのインタビューで、イスラエルのネタニヤフ首相がレバノンで地上作戦に踏み切ったことについて批判しました。

その内容は次の通りです。
・今日、最優先すべきことは、政治的解決に戻り、ガザでの戦闘に武器を供給するのを止めることだ
・フランスは何も提供していない
・私たちの声は聞き入れられていないと思う……イスラエルの安全保障を含め、これは間違いだと思う…戦争が「憎悪」を招いている
・レバノンでの緊張の高まりを避けることが「優先事項」だ
・レバノンは新たなガザになることはできない
この発言について、ガザ停戦交渉の主要仲介国であるカタールは、「戦争停止に向けた重要かつ評価すべき一歩」だと評価。ヨルダンもフランス指導者の発言を歓迎し、「イスラエルへの武器輸出の全面禁止を課すことの重要性」と同国の行動に対する「現実的な結果」を強調しています。

一方、イスラエルは猛反発。

ネタニヤフ首相は首相官邸が出した声明で次のように述べました。
・イスラエルがイランが率いる野蛮な勢力と戦う中、すべての文明国はイスラエルの側にしっかりと立つべきだ
・しかし、マクロン大統領や他の西側諸国の指導者たちは今、イスラエルに対する武器禁輸を求めている。恥を知れ。
・イスラエルは最大の敵国であるイランが支援するグループと複数の戦線で戦争を繰り広げている
これに対し、マクロン大統領の事務所は、フランスは「イスラエルの揺るぎない友人」であり、ネタニヤフ首相の反応はフランスとイスラエルの友好関係から逸脱した過剰なものだ、と反論しています。




2.レバノンの元宗主国


同じく5日、マクロン大統領は、パリで行われたフランス語を公用語とする国・地域などでつくる「フランコフォニー国際機関(OIF)」の会合で、この問題に再び触れ、次のように述べました。
・マクロン大統領は「ネタニヤフ首相が別の選択をし、特にレバノン領土での地上作戦の責任を引き受けたことを残念に思う」と述べた。
・フランスやカナダを含む国際フランコフォニー機構(OIF)加盟国88カ国は、レバノンでの「即時かつ永続的な」停戦を求めている
・しかしマクロン大統領はイスラエルの自衛権を再確認し、月曜日にガザで人質となっているフランス系イスラエル人の親族と面会する予定だと述べた。
そして、マクロン大統領はこの会合の閉幕会見で、イスラエルの地上侵攻を受けるレバノンを支援するため、月内に「人道支援の提供や国際社会の取り組み強化、レバノン南部での治安確保のための同国軍支援」を議題とする国際会議を開催すると表明しました。

フランスはレバノンと深い繋がりがあります。

レバノンは、第一次世界大戦後、オスマン帝国の支配から解放されたのですけれども、セーヴル条約でフランスの委任統治領のシリアの一部とされました。

1941年にフランスはキリスト教徒を保護する名目でレバノンをシリアから分離させ、1943年に独立させました。

シリアからの独立に際して、有力宗派間で国民協約を締結。フランス委任統治下の1932年の人口統計に基づき、大統領はキリスト教マロン派から、首相はイスラーム教スンナ派から、国会議長はイスラーム教シーア派からだすこととし、キリスト教徒とムスリム(イスラーム教徒)の国会議員の議席割合を6:5に規定して、バランスをとることとなりました。

独立後、レバノンは宗教各派の勢力の均衡をとりながら、西欧型の経済を発展させてきたのですけれども、1948年、隣接する南部にイスラエルが建国され、パレスチナ難民がレバノン領内にも移住し、民族構成が複雑なモザイク国家です。

1920~1946年のフランスの委任統治時代までに、レバノンにはすでにフランス式学校とフランス語話者のネットワークがあり、それは現在まで続いています。さらにフランスはレバノンの陰の実力者たちとも親密な関係を当時から築いているそうです。


3.歴史を作ることができるのは皆さん自身です


一方、レバノンの民衆からもフランスを頼りにする声も上がっています。

2020年8月4日、レバノンの首都ベイルートにあるベイルート港で、218人が死亡、7,000人以上が負傷し、最大で30万人が家を破壊されて住む場所を失うという大爆発事故がありましたけれども、それから数日後、レバノンの指導者たちは「国を守り、管理する能力が全くない」として、フランスに対しレバノンの委任統治を一時的に復活させるよう求めるネット署名が現れました。

爆発によって荒廃したベイルートを訪問したフランスのマクロン大統領は、混乱した群衆を慰め、街を再建すると約束し、この爆発はフランス自身も身を切られるような思いだとし「フランスはレバノンを見放さない……フランス人の心はまだベイルートと共に生きている」と述べました。

この提案について、欧州の指導者が中東の紛争地での影響力を回復し、国内で高まる問題から目をそらそうと、新植民地主義的に侵攻しようとしていると非難する声が上がる一方、爆発の原因となった政治の腐敗と杜撰な管理についてレバノンの政治家を非難するマクロン大統領を称賛する意見も上がました。

フランス政府の元大臣で、現在パリのアラブ世界研究所理事長のジャック・ラング氏は「我々は瀬戸際にいます。レバノンの人々を救い、支援し、勇気づけねばなりません。しかし同時に我々が新たな保護領を作ろうとしているという印象を持たれてはいけません。それはまったく愚かなことです……レバノンの人々を救うには、新しい知的な解決法を探す必要があります」とコメントしています。

当時、 マクロン大統領自身はベイルートの市民に対して「歴史を作ることができるのは皆さん自身です」と語りかけたのですけれどども、署名は6万人を数え、中にはフランスのレバノン人ディアスポラ2万5,000人以上と、政治階級に対して失望と不信感を訴えたいレバノン在住者をも含まれていたようです。

当時、マクロン大統領は、委任統治復活について「あなた方の指導者の代わりを私に頼むことは出来ない。それは不可能だ……それはフランス的な解決方法ではない」と拒否したのですけれども、元宗主国のフランスとしては、イスラエルの攻撃を受けるレバノンの現状を放置してはおけないのでしょう。


4.終わらない戦争


一方、イスラエルは依然、レバノンへの空爆を継続・強化しています。

10月5日、イスラエル軍はレバノンの首都ベイルートにあるヒズボラの武器貯蔵施設やテロリストのインフラ施設を狙った過去最大の空爆を行い、翌6日、再びベイルートのダーヒエ地区を爆撃しました。

イスラエルは親イラン過激派を国境地帯から放逐することで、数十万のイスラエル国民が故郷に戻れるようにするのが狙いだと主張していますけれども、これまでに民間人、医療関係者、ヒズボラ戦闘員など1400人のレバノン人が死亡、120万人が住む家を追われています。

そんな中、アメリカ国務省は、レバノンとその周辺地域での紛争の被害を受けた人々を支援するため、新たに約1億5700万ドルの人道支援を行うと、10月4日の声明で発表しました。

声明の内容は次の通りです。
米国は、レバノンおよび周辺地域での紛争の被害を受けた人々を支援するため、新たに約1億5,700万ドルの人道支援を提供する。この資金は、レバノン国内および彼らを受け入れている地域社会における国内避難民および難民の新たなニーズと既存のニーズに対応する。この支援は、隣国シリアに逃れる人々も支援する。

アメリカ国民からのこの命を救う支援には、国務省人口・難民・移民局を通じて即時に利用できる約 8,200 万ドルと、米国国際開発庁人道支援局を通じて利用できる 7,500 万ドルが含まれます。この総額のうち、USAID はすでに 1,150 万ドルを投入しており、議会と協力して今後数週間でさらに 6,350 万ドルを利用できるようにし、最も脆弱なコミュニティに不可欠な人道支援が引き続き届くようにする予定です。この緊急食糧、シェルター、毛布、衛生キット、保護、水、衛生支援は、想像を絶する苦難に耐えてきた人々にとって重要なライフラインとなります。

米国は、紛争の激化の影響を受けたレバノンとシリアの脆弱な人々を支援するため、昨年、約3億8,600万ドルを提供しました。この新たな人道支援は、100万人以上が家を追われ、レバノンが壊滅的な人道危機に陥っている時期に行われました。米国は、レバノンおよび地域全体で最も弱い立場にある人々を支援することに尽力しています。私たちは、他の援助国にも、こうした新たな人道的ニーズへの貢献に加わるよう呼びかけます。
爆撃で被害を受けたから人道支援するなどといってますけれども、そもそも空爆しなければ、被害も発生しないわけで、それこそ、マクロン大統領ではないですけれども、武器の提供を止めるのが、もっと手っ取り早いはずです。

イスラエルとしては、ヒズボラというテロ組織を壊滅させなければ脅威は減らないのだ、民間人の犠牲は仕方ないなどという理由を持ち出すかもしれませんけれども、10月2日、レバノンのハビブ外相はCNNのインタビューで、何せヒズボラと停戦合意できていたと暴露しています。

停戦合意を無視してヒズボラのナスララ師を殺害したのはイスラエル側であることを考えると、アメリカがレバノンに人道支援するといっても、どこかマッチポンプのように聞こえてしまいます。

もっとも、そのアメリカにしても、このタイミングでレバノンに「人道支援」するということ自体、イスラエルに対していい加減にしろとメッセージを送っているとみるべきなのかもしれません。

ただ、ヒズボラにしても、あるいはハマスもそうかもしれませんけれども、停戦合意して油断させて空爆するような相手のいうことなど今後一切信用しないでしょう。

ネタニヤフ首相は、戦いは止めないのでしょう。この戦いはどちらかが全滅するか、戦いたくても戦えない状態になるまで終わらないのではないかと思いますね。




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この記事へのコメント

  • 名無し3号

    イスラエルの敵はイラン
    イランの敵はイスラエル(米国)
    ハマスとヒズボラとの戦いは代理戦争
    その中で一般人がどんどん消されていく
    イスラエルはイランからの再攻撃を待って
    いるのかもしれない
    その時は核を躊躇無く使用しそうで怖い
    米国は大統領選挙中…何が起こっても驚かない
    2024年10月08日 15:51