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1.政治と金で非公認
10月6日、石破総理は、次の衆議院選挙に向けて、自民党の政治とカネをめぐる問題で政治資金収支報告書に収入を記載せず「党員資格停止」の処分を受けた議員などを公認しない方針を明らかにしました。
公認されないのは、既に行った党の処分を踏まえ次の3通りになる見通しです。
1)非公認より重い処分を受けた人。1)は「党員資格停止」となった旧安倍派幹部の西村康稔元経産相、下村博文元文科相、高木毅元国対委員長が対象で、2)は萩生田光一元政調会長、三ッ林裕巳衆院議員、旧二階派の平沢勝栄元復興相らが非公認となる見通しとされているようです。3)については、日本大学危機管理学部の西田亮介教授は、衆院では最大44名になるはずだと見積もっています。
2)現時点で処分が継続していて、政治倫理審査会で説明責任を果たしていない人。
3)説明責任を十分に果たさず、地元での理解が十分に進んでいないと判断される人。
さらに、派閥の政治資金パーティーを巡る不記載があったその他の議員についても、「比例名簿への搭載はしない」として、重複立候補を認めない方針とのことです。
石破総理は、「結果として相当程度の非公認が生じることとなるが、有権者一人一人に真摯に向き合い、国民の納得と共感を求める。国民の信頼を得る観点から公認権者として責任を持って最終的に判断していく」と強調しています。
今回の方針について党内からは「これくらいの対応をしないと世論は納得しない」など理解を示す意見がある一方、非公認や比例代表との重複立候補が認められない議員が多い旧安倍派を中心に「すでに処分が終わっているにもかかわらずゴールポストを動かすようなもので『旧安倍派潰し』だ」など強い反発が出ています。
これら措置について、識者は次のようにコメントしています。
・JX通信社 代表取締役 米重克洋氏このように、選挙に弱い議員にとって党の非公認は死活問題であることと、非公認の選定に恣意的な判断を許す余地があることから危険視する見解を示しています。
非公認とは、自民党を名乗って選挙に出られなくなることだ。政党の看板を頼りに投票する有権者の割合は高いので、非公認になった議員は純粋に政治家個人として支持される必要がある。更に、いわゆる裏金に関係した議員に比例重複立候補を認めないとの意思を示したというが、この場合、小選挙区で落選したら比例名簿で復活当選することはできない。選挙に弱い議員にとっては死活問題だ。
非公認となる人の基準にはなお曖昧なところが残るので、結果、何人の議員が対象になるのかははっきりしないが、実際に「相当程度の」非公認が生じるならば、石破氏は厳しい姿勢を貫いたことになるだろう。ここ数日、一部では裏金に関係した議員も「全員公認される」「比例名簿にも載る」といった趣旨の、外堀を埋めるような話が報じられてきた。それらへの反発の厳しさを目の当たりにして、党内事情より世論を意識した判断にシフトした可能性もある。
・日本若者協議会代表理事 室橋祐貴氏
選挙区の有権者からは直接選出されていない比例への重複立候補を認めないのは、「選挙で禊が済んだ」と言える最低限のラインだと感じるのが一般感覚だと思うので、それは満たした形でしょうか。一部比例代表にのみ立候補している議員もいると思いますが、そこは立候補を認めるのでしょうか。少なくとも名簿の順位は下げる必要性を感じます。こうなると、石破政権としては世論頼みになるため、これまでの「正論」を貫き、党内力学よりも世論を重視して改革を進めてもらいたいところです。
・法政大学大学院教授 白鳥浩氏
これはかなり恣意的な判断を許す内容となっている。
「説明責任を十分に果たさず、地元での理解が十分に進んでいないと判断される人。」というのは、石破首相がそのように判断すれば、公認されないということだろう。
おそらくこれは裏金の多寡ではない。ある意味で、石破政権にとって運営上不都合な方を排除するということともとらえられ、さらに旧安倍派との間の距離は離れていくこととなる。
一律の何らかの措置や明確な基準が必要なのではないだろうか。措置に濃淡があるようでは問題がある。
2.選挙で勝てるかという観点から判断した
7日夜、自民党の全国幹事長会議に出席した石破総理は、政治とカネの問題で、収支報告書に不記載のあった議員の一部を公認しない方針について、「どのようにすれば選挙で勝てるかという観点から判断した……国民の批判は思ったよりはるかに強く、批判や怒りに真摯な姿勢を示しつつ、誠心誠意この選挙を戦っていく」と述べ、公明党の石井代表は、自民党が公認しない議員は党としても推薦しない考えを明らかにしました。
ただ、自民党の森山幹事長は、7日夜、衆議院選挙の対応をめぐり、記者団に対し、公認しない議員について「対立候補を立てることは考えていない」と、対立候補は擁立しない考えを示しました。
記者団が「都道府県連から公認申請があった場合でも、小選挙区の情勢が厳しければ公認しない可能性があるのか」と質問したのに対し、森山幹事長は「情勢調査を吟味することになる。全く当選の見込みのない人を公認することは避けなければいけない」と述べました。
世論の逆風が怖いから、政治とカネの問題で厳しい態度とったはいいが、政権を失っては困るからと手心を加えるといった中途半端な処分のように見えなくもありません。
2005年、小泉純一郎元総理は郵政解散の折、郵政法案に衆議院で反対票を投じた全議員に自民党の公認を与えず、郵政民営化賛成派候補を擁立したことがありましたけれども、それと比べると、随分と迫力がありません。
石破総理も、総裁選で言っていたことを本当にやりたければ、それこそ刺客を立ててでもやるしかない筈ですけれども、これでは、短命政権だとの声があがっても仕方ありません。
3.誰よりマシか
総裁になった途端に掌返ししまくっている石破総理ですけれども、新総裁誕生から新内閣発足への一連の動きについて、時事通信は、自民党の久米晃元事務局長へのインタビュー記事を掲載しています。
件の記事を引用すると次の通りです。
―自民党総裁選の結果をどう見ましたか?元内部関係者からは、こう見えるということです。特に、今回総裁選に出馬した候補の推薦人になった塊が新しい派閥になるという点と、選挙で「自民党は駄目だな」と思われたら、野党に票は入るという指摘は重要だと思います。
「誰がいいか」というより、「誰よりいいか」「誰よりマシか」という話。結局、消極的選択ということでした。
今回、候補者が総裁選への準備を何もしていなかったというのは非常に問題だと思っています。もし総裁選出馬の意思があるなら、水面下でもいいからもっと前から人を集めておくとか、公約を考えておくとか準備しておくべきでした。推薦人を20人集められるかどうかばかりが焦点になってしまい、それでは、国民に訴えるべきものや熱意が伝わりません。
―岸田内閣の閣僚も出馬し、候補者は9人にもなりました。
何も準備せず、思いつきのようにやっているから、20人集められない人もいました。去年から、岸田文雄首相(当時)の続投はもう無理だと分かっていたのに、今回の立候補者9人はあまりにも準備不足。石破さんは5回目の出馬なのに、当初20人集まるかどうか分からないという局面もあり、いかがなものかと思いました。
当初は小泉進次郎さん、石破さん、高市早苗さんが先行したけど、小泉さんにとって、最初の関門は記者会見そして候補者の討論会でした。そこで経験不足などが明らかになるだろうと思っていたら、案の定で、そこから急速に支持は沈んでいきました。
―最初の出馬表明の記者会見が「小泉人気」のピークだったのではないかと思います。
9人の候補が並んだ日本記者クラブの記者会見でつまずきました。論戦の受け答えで経験不足が露呈して、小泉ブームが沈んで、その代わりに石破さん、高市さんが浮上しました。
決選投票の結果は「高市さんよりは石破さんの方がマシだろう」ということでしょう。高市さんの論は、かつての「暴支膺懲」(ぼうしようちょう)政策と同じようなものです。「暴れる支那(しな)を懲らしめよ」「中国何するものぞ」という論です。日本らしさを貫き通すことは当然のことですが、しかし、ことさら過大に中国を敵視することは、今は得策ではないように思います。その通りにやっていたら、中国だけでなく、韓国、米国との関係も良くなるわけがない。威勢のいいことを言うのはいいが、戦前と今とでは明らかに国力が違います。
―石破氏と高市氏との決選投票では、実力者や派閥的思惑で議員票が動いたようですが。
岸田内閣で高市さんがどれだけ足を引っ張ったかを考えると、岸田さんの石破さん支持という対応は分かります。全体を見ると、派閥的な動きは若干残っていましたけど、高市さんを支持した麻生派の動きは、完全に崩壊したに等しい。
今までは、総裁候補を持たない派閥が多かったけど、これからは9人の候補の推薦グループが総裁候補を持つ派閥になり得ます。総裁候補者を持つグループという新しい動きになるでしょう。だけど、それも本人たちの努力次第です。
―高市氏が1回目の投票で議員票2位、党員・党友票がトップだったのは意外でしたか?
やっぱり、高市さんは旧安倍派の票を集めたのでしょう。安倍晋三元首相が石破さんを嫌っていたことが影響しているのでしょう。旧安倍派には石破さんに対する嫌悪感がそこそこあるけど、高市さんに対する嫌悪感もあります。だから、よりマシな方を選んだということじゃないですか。
―総裁選後の自民党だが、ノーサイドの雰囲気はあまりないようですが。
ないですね。新総裁が石破さんに決まったら、それに従うのがこれまでの自民党の伝統でした。高市さんの支持者の中には「敵に塩を送る必要はない」と言っている人もいるようで、これはいいことではありませんね。
―石破政権の閣僚・自民党役員人事をどう見ますか?
石破さんは5回も総裁選に出たけど、信頼できる参謀や手駒がいない。せっかく内閣はできたのに、華がない。初入閣組が13人いるとはいえ、内閣がどこへ向かおうとしているのかはまだよく分かりません。
―新総裁就任後の記者会見で、衆院選投開票日を10月27日と表明しました。総裁選期間中、石破氏は国会の予算委員会で論戦を行った上で解散する意向を示していましたが、手のひらを返して早期解散論を打ち出し、野党は「うそつき」と反発していますが。
石破さんの取りえは何かと言えば、例えば、自説を曲げないことでした。総裁選中と違うことを言ったので、石破さんらしくないと批判されています。
それは、石破さんにそう言わせた人がいるんです。「鉄は熱いうちに打て、野党の準備が整わないうちに総選挙をやった方が(自民党の)得だ」という論です。しかし、この早期解散論で、石破さんらしさ、石破さんのカラーが完全になくなり、自民党にはマイナスに働くと思います。
―各社の新内閣支持率をどう見ますか? 新内閣発足に伴う「ご祝儀」は出なかったようですが。
マスコミ各社とも内閣支持率はおおむね50%前後で、これまでの内閣発足時に比べて低いとされていますが、私は、国民の半分近い支持があったことに、正直驚いています。国民が期待している証拠です。
岸田内閣発足後の2021年衆院解散・総選挙で自民党は261の議席を獲得しました。しかし、今回はこれを増やすことは難しいでしょう。せっかくのご祝儀相場も、あの早期解散論によって石破さんらしさが吹っ飛んでしまいました。いつも早期解散を主張する理由は、相手の準備が整ってない方がいいと、それだけです。
選挙はやってみないと分からないが、国民は石破さんに対する「がっかり感」の方が強いのではないですか。結局、石破さんは弁解せざるを得なくなりました。選挙は弁解するようでは負けますから。
―石破内閣は「納得と共感」を打ち出していますが、なかなか国民の「納得と共感」は得られないのでは?
私の持論だが、選挙というのは自民党に入れたいか、野党に入れたいかではない。野党の準備が整っていないから、というのは自民党の得にはなりません。自民党に入れたいか、入れたくないかですから。野党の準備が整っていなくても、「自民党は駄目だな」と思われたら、野党に票は入るのです。
「裏金議員」に対しても、世論は厳しい対応を求めています。厳しい対応をしたら、それを穴埋めするような時間はもうないんです。公認するかしないか。小選挙区と比例代表の重複立候補を認めないという案もあるようだけど、国民がそれで留飲を下げて納得するかどうかは分かりません。
一方で、一回処分を下しているのに、何でまた処分を下すのかという党内の声もあり、そういう議員に同情する声もあります。議員だって、5年間で(政治資金収支報告書の不記載額が)10万円程度の人と2000万円以上の人と同じにするのかという意見もあります。
最初に岸田さんがきちんと対応して、国会の政治倫理審査会に全員出ろと言っておけば、それで収まったと思いますよ。それを出るも出ないも人任せみたいな感じでやって、誰も出ないから岸田さん自身が出ました。そういう対応が国民の不信感を今日まで引きずっているんじゃないですか。
―自民党の衆院議席は前回をかなり下回るのではないでしょうか?
これからいろいろ予想が出てくるでしょうけど、前回よりプラスと言う人は一人もいない。マイナス20~30か、あるいは与党で過半数割れという数字ばかりです。せっかく石破内閣が発足したのに、石破さんらしくない対応をして、国民が納得する説明をできないなら、選挙結果にも影響を与えるし、前途は多難だと思います。
石破さんは幹事長も官房長官も「外様」に頼むしかない。これは、そのポストを頼める側近をつくり、総裁選に出るための兵を養い軍師をつくるという、当たり前の作業をしてこなかったつけでしょう。「石破さんらしさを封じられた石破内閣」です。しかし、この総選挙を乗り切ったら、石破さんらしさを出して、言ったことはやり切るしかないでしょう。そう願いたいものです。
4.自民・単独過半数割れ予測
先述した久米晃元事務局長は、今度の総選挙での議席は、マイナス20~30か、あるいは与党で過半数割れという数字ばかりとコメントしていますけれども、「週刊文春」が衆院選289選挙区「完全予測」リストを報じ、話題になっているようです。
それによると、自民36議席減で単独過半数割れと予測。X(旧ツイッター)では、「予想以上の惨敗になる気がしますがね、岸田さん」、「自民が保守捨てて伸びるはずがない。安倍さんが復活させた自民党が地崩れ起こして壊れていく。36議席減では収まらないだろう」、「じゃあ、石破は1年も持たないだろな。半年くらいで終わるかも」という声で溢れる一方、小選挙区の当落予測リストは精度が高いという評価もあるようです。
また、週刊ポストセブンは、政治ジャーナリストの野上忠興氏による289小選挙区の最新情勢分析記事を挙げています。
それによると、自民はなんと53議席減の202議席。公明は7議席減の25議席と与党で227議席と過半数割れ。対して野党は立憲が98議席から50議席増の148議席。自民の議席減がほぼそのまま立憲に乗る形です。
野上氏は「立憲、維新、共産党など野党各党はバラバラで候補者擁立を進めてきたから、多くの小選挙区は候補者乱立状態です。一本化されれば自民党には脅威だが、そのためには野党間で話し合ってどの選挙区にどの党の候補者を出すかを調整し、すでに立候補が決まっている候補者を説得して降りてもらわなければならないから時間がかかる。石破首相は野党にその候補者調整の時間を与えないために、いきなり解散を選んだ。野党候補が乱立して潰し合ってもらったほうが、自民が有利になると考えたわけです。総理が交代しても、有権者の裏金問題や旧統一教会問題への批判は消えていません。自民党の裏金議員たちは小選挙区で厳しい審判を受けることになる。自民党支持層が自民離れを起こしているため、自公両党ともに比例代表でも票を大きく減らすことが予想されます」と分析していますけれども、さらに野党の選挙協力がなされ、自民党への対立候補が一本化されれば野党が逆転勝利可能な選挙区が53もあるのだそうです。
ネットでは総裁選で石破氏に投票した議員のリストが出回っていますけれども、それと小選挙区の結果がどこまで連動するのか、筆者はこの点にも注目したいと思います。
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