高すぎる総選挙の勝敗ライン

今日はこの話題です。
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1.与野党七党首討論会


10月12日、衆議院議員選挙を前に、7党の党首による日本記者クラブ主催の討論会が行われました。

登壇したのは、 石破茂・自由民主党総裁、野田佳彦・立憲民主党代表、馬場伸幸・日本維新の会代表、石井啓一・公明党代表、田村智子・日本共産党委員長、玉木雄一郎・国民民主党代表、山本太郎・れいわ新選組代表です。

内容については既に各種メディアで報じられていますけれども、その中から筆者が気になった部分だけピックアップすると次の通りです。
【経済政策】
質問者 デフレ脱却の判断材料は。金融政策への口先介入は禁じ手だ。

石破茂首相(自民党総裁) 個人消費が着実に上がっていくことが確認されないとデフレ脱却は難しい。口先介入は厳に慎まなければならない。口先介入と捉えられないよう努力していく。

質問者 これから個人的な見解を言わないか。

首相 期待を申し上げることはあるが、介入と捉えられないよう、よく考えていかなければならない。政府が何と言ったとしても、日銀は独自の判断がある。

野田佳彦立憲民主党代表 アベノミクスの功罪のうち、罪の部分の副作用をどう克服していくかが日本経済にとって一番大事ではないか。

首相 コストカット型の経済は良くなかった。実質の国内総生産(GDP)はほとんど上がらなかった。個人消費が上がっていかない限り、デフレの脱却はあり得ない。安倍政権で幹事長と地方創生担当相を務めた。私も共に責任を負わないといけない。コストカット型の経済は是正されなければいけない。

質問者 物価も金利も上がる中でデフレ時代と同じ手法を取るのは乱暴ではないか。

馬場伸幸日本維新の会代表 物価が高まっていく中で賃上げが追い付いていない。消費を刺激し、国民にお金を使っていただく。経済を大きくするところから再スタートさせる。

玉木雄一郎国民民主党代表 この30年のデフレマインドを脱却する。あと半年から1年くらい今の政策を継続的にした方がいい。若い人の社会保険料負担を抑えることが消費を活性化し、次の好循環と賃金上昇を生み出す。

田村智子共産党委員長 最低賃金1500円を実現しようとすれば、中小企業への支援が鍵になる。賃上げ減税は直接支援だ。黒字の大企業には賃上げを直接支援しながら、中小企業・小規模事業者への直接支援を否定するのか。

首相 価格を転嫁し、生産性を上げ、ふさわしい賃金を払うことができるか。中小企業にきちんと賃上げができる態勢を必ず整えていく。

山本太郎れいわ新選組代表 先進国で30年間も不景気が続く国は日本だけだ。新型コロナウイルスと物価高を含め国民は三重苦だ。失われた30年が40年になる。大胆な経済政策が必要だ。

福島瑞穂社民党党首(収録動画参加) 「頑固に平和、暮らしが一番、税金は暮らしに」を訴えていく。給食の無償化、大学の授業料、入学金の無償化を実現していく。

神谷宗幣参政党代表(同) 積極財政と減税で国民が使えるお金を増やし、経済の力を取り戻す。教育によって、若い人たちのアイデンティティーを高め、日本を良くすると考える国民を増やしていく。

【野党連携】

質問者 野党の選挙協力が実現していない。候補が小選挙区に乱立して政権交代を実現できるのか。

野田氏 代表に就任し、誠意ある対話を各党としてきているつもりだ。15日の公示まで限られた時間だが、粘り強く続ける。

質問者 共産はなぜ選挙協力できないのか。

田村氏 それぞれの地域でこれまでの経緯を踏まえた対応をしている。安全保障関連法の廃止という野党共闘の基盤が損なわれている下では、これまでと同じ対応はできないという立場だ。


【政権枠組み】

質問者 衆院選後に自公過半数割れになった場合、閣外協力、部分連合、政権参加の可能性は。

馬場氏 従来、各党と是々非々で対応してきた。選挙後、各党の議席数が今後の判断に大きく影響してくる。

玉木氏 政策本位だ。政策で一致できれば協力するし、一致しなければおかしいと言っていく。


【核抑止】

野田氏 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞授与が決まった。地道な取り組みが評価され、意義がある。核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか、疑問だ。核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加すべきだ。

首相 核のない世界を究極的にはつくっていきたい。ウクライナはブダペスト覚書によって核を放棄し、侵攻された現実もある。現実的に抑止力は機能している。どうやって核廃絶に結び付けるか議論したい。

田村氏 被団協へのノーベル平和賞授与は、被爆者が核兵器の非人道性を、身をもって示してきたからだ。政府は、被爆者が切望する核兵器禁止条約を批准すべきだ。

首相 核の悲惨さを全世界の人が知らなければいけない。核抑止力から目を背けてはいけない。

質問者 米国の核抑止に頼ることと核兵器禁止条約に参加することは両立できるのではないか。

首相 いろんな可能性がある。抑止力を認めながら核兵器廃絶が本当に両立可能なのか検証が必要だ。

質問者 公明は平和の党としてオブザーバー参加を主張してきた。

石井氏 核兵器国と非核兵器国の橋渡し役を担うのが日本の役割だ。批准への環境整備を進めていきたい。


【消費税】

田村氏 消費税廃止に向け、税率を5%に引き下げる。軍事費ではなく社会保障と教育の予算を増やす。

山本氏 消費税廃止や社会保険料減免、物価高収束までの現金給付を行う。消費税増税が景気を冷え込ませたことを認めるか。税率を引き下げるべきだ。

首相 将来の社会保障には安定した財源が必要だ。消費税は景気にほとんど影響されない。引き下げは現在のところ考えていない。

石井氏 立民は消費税の逆進性対策として、軽減税率ではなく、給付付き税額控除を掲げている。食料品の税率を8%から10%に上げることになり、物価高に直面する国民の痛税感がさらに増す。

野田氏 本当に困っている人に的を絞った対策としては、給付付き税額控除が正しい。現行の確定申告や年末調整の中でも対応できる。軽減税率はお金をたくさん使うお金持ちの方が減税額が多く、デメリットもある。

山本氏 消費税減税には時間がかかるのか。

野田氏 衆院選に勝利し来年の通常国会で税制改正の法案を通そうとしても、ねじれ国会では自民、公明両党が参院で認めてくれないはずだ。だとすれば、すぐには実施できない。
今回の党首討論について、「従来の言いっ放し、聴きっ放しではない、聞きごたえのある論戦」と評する声もあるようですけれども、政治ジャーナリストの泉宏氏は、次のように述べています。
特に、馬場氏が憲法改正について「衆参両院の憲法審査会で改憲論議が進まない。この壁を突破するために首相がスタートボタンを押すべきだ」と注文をつけると、石破首相も「(改憲は)自民の党是だ。党総裁として改憲が発議され、国民投票をする日が一日も早くなるよう、可能な限り努力する」と応じた。

また、田村氏が「最低賃金の大幅引き上げには、中小企業への直接支援が必要」などと要求したのに対し、石破首相は「全体主義国家ではないので政府が直接お金を払う手法が必ずしも正しいとは思えない」と反論しつつも、「あなたの思いは私とも共通する部分がある」などと、あえて寄り添う姿勢もにじませた。

石破首相は討論の最中には、身を乗り出して相手の主張、要求を聞き、大きくうなずく場面も多かった。その一方で、石破首相の背後に陣取った与党幹部や閣僚たちは総じて複雑な表情で見守る場面も多かった。とりわけ、石破氏の力を込めた反論に苦笑する閣僚もあり、従来の党首討論に比べて与党席からの拍手もまばらだったことが、「石破首相に対する党内の不満の広がりを浮き彫りにした格好」(自民長老)だ。
石破総理の言説はやはり、リベラルに寄りすぎていて、そのままでは党内からあまり支持を得られない雰囲気が窺えます。


2.与党過半数は高過ぎる勝敗ラインになった


10月1~2日、日経新聞とテレビ東京は緊急世論調査を行いました。

次期衆院選で投票したい政党を聞いたところ、自民党と答えた割合は40%で、前回の9月調査に比べ2ポイント下がりました。立憲民主党は3ポイント上昇の15%、日本維新の会は2ポイント上がり8%になりました。

投票先を地域別にみると東京、千葉、埼玉、神奈川の首都圏は自民党が33%で首位。立民17%、維新8%でした。

大阪、京都、奈良、兵庫の関西圏も自民党がトップの33%を占め、維新22%、立民13%でした。維新は前回調査から9ポイント上がっています。

また、無党派層の投票先は自民党20%、立民10%、維新8%。望ましい衆院選後の与野党の議席について、「与党が野党を上回る」「与野党が互角になる」「野党が与党を上回る」の3択から選んでもらったところ、半数超の52%が与野党伯仲を望み、与党の過半数維持は27%、野党過半数は11%となりました。

大枠では自民支持であるものの、好き勝手するのは許さない、という世論の雰囲気が見えてくるようです。

もちろん、この世論調査は2週間前のものですから、今はどうか分かりませんし、各種議席予想では、自公でも過半数割れという観測も出ています。

10月9日、石破総理は、首相官邸で会見し、今回の解散を「日本創生解散」と命名し、勝敗ラインについては「自公両党での過半数(233議席)の獲得」と明言しました。

この勝敗ラインは、2012年暮れの第2次安倍政権発足以来、安倍元総理、菅元総理、岸田前総理が掲げたものと同じです。これらは、従来、簡単に超えられるハードルだったのが、今回は「身長を超える高さ」という見立ても出てくる程です。

こうしたことから与党のある閣僚経験者は「自公過半数割れとなったら、石破首相の責任が厳しく問われ、政局が大混乱に陥る」との臆測も広がっているようです。


3.キシダ政治を許さない


前述した7党党首討論では、「聞きごたえのある論戦」と評価する声もあることを紹介しましたけれども、消費税に関して、石破総理は「引き下げは現在のところ考えていない」とノッケから否定しています。野党第一党立憲民主の野田代表もたとえ衆院選で勝っても、ねじれ国会では自公が認めない筈だからすぐには出来ないと消極的。自公が認めない筈と、与党が減税などするはずがないと決めて掛かっているところが残念というか、思考が硬直しています。

それでも野党は、給付金配布など、補助金を出すべき論を唱えています。

では、石破自民が衆院選で大敗したら、そちらの方向に少しでも動くのか。

これについて、自公は負けても増税に走るという意見もあります。

政治外交ウォッチャーで佐藤総研代表の佐藤鴻全氏は、言論プラットフォーム「アゴラ」に、10月10日付の記事「石破大敗も野田立憲と大連立か:増税翼賛体制を阻止せよ」を寄稿しています。

その内容は次の通りです。
今月の解散総選挙(9日解散、27日投開票)を経て、来夏の参院選後の国政選挙が無い3年間に、財務省の悲願の増税ラッシュがやってくると言われている。

仮に石破政権が自公で過半数割れした場合でも、野田立憲と大連立を組めば増税指向は同じなので財務省としては痛くも痒くもないだろう(なお、岸田政権時代にはSNSで増税リストと言うのが拡散されていた)。

筆者はこれを是非避けたいと考えるが、もし有権者として同じ考えに立つならば与野党を超えてこれに反対する候補者に投票する以外にはないだろう。増税と政府の統制を強めたり国益を重視しない姿勢はベクトルとして往々にして重なり合う。そのため筆者は候補者の公約や主張が概ね次のような項目により多く当て嵌まる事を、投票先の基準として提案したい。

・少なくとも向こう5年の増税凍結
・緊急事態条項の阻止
・マイナンバーカード化による紙の保険証廃止の阻止
・コロナワクチン健康被害に関する全面的情報開示と対策
・いわゆる「移民」促進政策の見直し
・食糧自給率の向上

各政党、候補者の主張も様々で、各項目についての賛否もそれぞれで濃淡もあるだろうが、概ね自民党現政権と立憲民主党の主流派、及び公明党は全て外れるだろう。即ち投票対象は非主流派及びその他の諸政党、無所属のうち、より上記の条件に近い候補者となる。

石破首相は解散総選挙に当たって、所謂「裏金議員」のうち主だった者を非公認にするとともに大量に比例重複立候補から外して臨むようだ。当初はそういった措置は取らない方針が流れたが、それを観測気球として上げ敢えて世論の反発を誘い、シナリオ通りに持って行った感もある。

さて、総選挙では、裏金に加えて経済政策を始めブレブレである事等もあり苦戦は避けられないだろう。自公で過半数を割る事も有り得、その場合は野田新代表率いる立憲民主党との大連立を組む可能性も出て来る。その大連立を仕切れれば、大敗しても石破氏の首も繋がるかも知れない。

石破氏は元々、党内野党と言われるようにリベラル色が強く、緊縮財政・増税主義者で、立憲民主党と馬が合う。野田氏は、民主党政権末期の首相時代に公約の真逆の消費税増税に舵を切った上、幹事長に起用した小川淳也氏は、かつて「消費税は最低で北欧並みの25%は必要」「所得税だって昔70%、80%払っていた。相続税も強化する必要がある」と発言していたという。

「増税が好き」という国民は少ないが、増税は仕方ないと考えている国民は多いだろう。我が国の財政が逼迫している原因としては、少子高齢化という構造的な問題もあるが、半分は男女共同参画政策とか海外へのバラマキ、外国人への過度な優遇、脱炭素への傾倒等々の無駄な支出に問題がある。筆者は、先ずは少なくとも安易な増税をストップさせる事が必要と考える。

増税と統制強化、国民を置き去りにしてどこを向いているのか分からない政治の流れを断ち切るために、筆者は有権者には諸課題を深慮の上で主体的な投票を期待したい。
佐藤氏は、6つの判断基準を出して、なるべくこれに沿う主張をする候補者に投票すべきだと述べています。けれども、これら6基準の反対の政策を進めていいたのが岸田政権でした。

もし国民はこれら6基準をもとに投票行動して、自民が負けたとするならば、それは表向き石破自民を否定しているようで、実際は”岸田政治”を否定していることを意味します。

一部では、岸田前総理は、自民大敗の責任を石破総理に負わせ、自身が返り咲くことを画策しているとも囁かれていますけれども、自民の敗北原因が、実は「キシダ政治を許さない」という国民の意思表示になるかもしれないことには注意した方がよいかもしれませんね。



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