イランへの報復に向かうイスラエル

今日はこの話題です。
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1.国連レバノン暫定軍の拠点に侵入したイスラエル戦車


10月13日、レバノン南部に展開する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)は、イスラエル国境に近いラミヤの拠点で、イスラエル国防軍(IDF)の戦車2台が正門を破壊し、「強制的に拠点に侵入」して照明を消すよう要求したと発表しました。

国連レバノン暫定軍(UNIFIL)によると、その約2時間後、近くで発砲があり、キャンプ内に煙が流れ込んだため、平和維持要員15人が皮膚の炎症や胃腸障害の症状を訴えたと述べています。

これについて、イスラエル国防軍(IDF)は対戦車ミサイルで負傷した兵士を避難させるために、UNIFILの拠点に入ったとし、「銃撃の脅威のために前進できない場所で、負傷者を避難させるため、戦車2台がUNIFILの拠点に向かって数メートル後退した」と説明。避難援護のため発煙弾を発射したことや、UNIFILと「継続的に連絡を取り合っていた」ことを付け加えた上で、「IDFの活動によるUNIFIL部隊への脅威はない」と強調しています。

UNIFILは「イスラエル軍の存在が隊員を危険にさらしている」として抗議。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、平和維持要員に対する攻撃は「戦争犯罪に該当する可能性がある」と警告しています。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は13日、首相官邸が発表した動画の中でUNIFILに対し、「ただちに」軍を「危険地域から撤退させる」よう要請。この地域におけるUNIFILの存在は「ヒズボラの人質」となっていると主張しています。

これに対し、UNIFILは、「ここ数日で4度目となるが、我々はイスラエル国防軍およびすべての関係者に、国連の職員および資産の安全とセキュリティーを確保し、国連施設の不可侵性を常に尊重する義務があることを改めて伝える」と述べ、ラミヤの施設への侵入を「国際法に対するさらなる明白な違反」だとし、ネタニヤフ首相の撤退要求を拒否しています。

ただ気になるのは、平和維持要員15人が、キャンプ内に流れ込んだ煙のため、皮膚の炎症や胃腸障害の症状を訴えたという箇所です。

その様子について、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)は次のようにツイートしています。
・防護マスクを着用していたにもかかわらず、煙がキャンプ地に入った後、15人の平和維持要員が皮膚炎や胃腸障害などの症状を呈した。平和維持要員らは治療を受けている。
・さらに昨日、イスラエル国防軍兵士らがメイス・エ・ジェベル付近でUNIFILの重要な兵站活動を阻止し、通過を阻止した。この重要な活動は完了できなかった。
・我々は、イスラエル国防軍とすべての関係者に対し、国連職員と財産の安全とセキュリティを確保し、国連施設の不可侵性を常に尊重する義務があることを4日間で再度喚起する。
・国連の立場を破って侵入することは、国際法と安全保障理事会決議1701(2006年)のさらに甚だしい違反である。平和維持活動員に対するいかなる意図的な攻撃も、国際人道法と決議1701の重大な違反である。
・UNIFILの任務は、その活動地域における移動の自由を規定しており、これに対するいかなる制限も決議1701に違反する。
・私たちは、これらの衝撃的な違反行為についてイスラエル国防軍に説明を求めた。
防護マスクを着用していたにもかかわらず、皮膚炎や胃腸障害になったということは何なのでしょう。少なくとも普通の煙ではないのではないかと思いますし、ネットではマスタードガスを使ったのではないかという見方もあるようです。


2.対イラン報復は致命的なものに


10月9日、アメリカのバイデン大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話会談し、イスラエルのイランへの報復計画について話し合ったと報じられています。

アクシオス」によると、その概要は次の通りです。
・ホワイトハウスによると、ハリス副大統領も電話会議に参加した。
・この電話会談は、8月21日以来、バイデン氏とネタニヤフ氏の間で行われた最初の電話会談であり、イスラエルが地域戦争を大幅に激化させる可能性のあるイランへの大規模攻撃を検討している中で行われた。
・ホワイトハウスの報道官カリーヌ・ジャンピエール氏は、電話会談は30分続き、「率直かつ生産的」だったと述べた。
・ホワイトハウスは発表文で「レバノンについて、大統領はブルーラインの両側にいるレバノンとイスラエルの民間人を安全に自宅に帰還させるための外交的取り決めの必要性を強調した」と述べた。
・「大統領は、過去1年だけでイスラエルに数千発のミサイルやロケット弾を発射したヒズボラからイスラエル国民を守るイスラエルの権利を認めるとともに、特にベイルートの人口密集地域の民間人への被害を最小限に抑える必要性を強調した。」
・「ガザ問題について、首脳らは、ハマスに拘束されている人質を解放するために外交を再開する緊急の必要性について協議した。大統領はまた、ガザの人道状況や、ヨルダンからの回廊を直ちに再活性化するなど、北部へのアクセスを回復する必要性についても協議した。」
・バイデン氏は水曜遅くに行われたユダヤ系アメリカ人のラビとの電話会議で、米国は「イランとその代理勢力からイスラエルが自国を防衛する権利を全面的に支持する」と述べた。
・イスラエル当局者2人によると、ネタニヤフ首相は火曜の夜、高官らやイスラエル軍・諜報機関の長官らと何時間も会合し、イスラエルの攻撃の範囲と時期について話し合った。
・イスラエル当局は、報復は大規模なものになると予想されており、イラン国内の軍事施設への空爆と、テヘランでハマス指導者イスマイル・ハニヤを殺害したような秘密裏の攻撃の組み合わせが含まれる可能性が高いと述べている。
・ネタニヤフ首相は木曜日に安全保障閣僚会議を招集する。イスラエルの法律によれば、イランとの全面戦争につながりかねない重大な軍事行動には首相の閣議投票が必要だ。
・バイデン氏とネタニヤフ氏の電話会談は、イスラエルによるハマス、ヒズボラ、イランの高官らの一連の暗殺への報復として、イランがイスラエルに向けて約180発の弾道ミサイルを発射した1週間後に行われた。
・多くが迎撃されたが、イスラエルの空軍基地2か所が構造上の損害を受けた。テルアビブのモサド諜報本部付近に数発のミサイルが着弾したが、被害はなかった。
・テヘランは、イスラエルがイランを攻撃しない限り、対応はそこで終了すると述べた。一方、イスラエルは報復を誓っている。
米国とイスラエルの両当局者は、報復合戦は今後も続くだろうと考えており、イランの潜在的な反撃に対抗するには米国とイスラエルが協力する必要があると考えている。
この記事では、イスラエルは、イラン国内の軍事施設への空爆と、秘密裏の攻撃の組み合わせが含まれる大規模報復を考えているとしています。

この日、イスラエルのガラント国防相は「我々の攻撃は致命的で、驚くべきものになるだろう」と述べていますけれども、イスラエルによる報復攻撃の標的を巡っては、イランの軍事施設や石油関連施設のほか、一部からは核施設を狙うよう求める声も出ているようです。

一応、アメリカのバイデン政権はイスラエルの報復は容認する姿勢である一方、イラン側からの激しい対抗措置が予想される核施設や石油施設への攻撃には反対していると伝えられています。


3.THAAD配備


イスラエルがイランに何らかの報復をした場合、当然、イランからの再報復が予想されます。

実際、イラン革命防衛隊のファダビ副司令官は、石油関連施設などが攻撃された場合は「イスラエルのガス田などを標的にする」とさらなる報復を警告しています。

これに対し、イスラエルは追加の備えを整え始めました。

10月13日、アメリカ国防総省は、イスラエルにTHAADを配備するとの声明を発表しました。

声明の内容は次の通りです。
オースティン国防長官は大統領の指示により、4月13日と10月1日のイランによる前例のないイスラエルへの攻撃を受けて、イスラエルの防空体制強化を支援するため、終末高高度防衛(THAAD)砲台と米軍人関連クルーのイスラエルへの派遣を承認した。THAAD砲台はイスラエルの統合防空システムを補強する。この措置は、イスラエル防衛と、イランによるさらなる弾道ミサイル攻撃からイスラエル在住の米国人を守るという米国の確固たる決意を強調するものである。これは、イスラエル防衛を支援し、イランとイランと連携する民兵による攻撃から米国人を守るために、ここ数カ月間に米軍が行ってきた幅広い調整の一環である。

米国がこの地域にTHAAD砲台を配備したのは今回が初めてではない。大統領は昨年10月7日の攻撃を受けて、この地域の米軍と権益を守るため、軍にTHAAD砲台を中東に配備するよう指示した。米国は2019年にも訓練と統合防空演習のためTHAAD砲台をイスラエルに配備した。
THAADは、終末高高度防衛ミサイル(Terminal High Altitude Area Defense missile)の略称で、アメリカ陸軍が開発した弾道弾迎撃ミサイル・システムです。敵の弾道ミサイルが、その航程の終末にさしかかり、大気圏に再突入の段階で、迎撃・撃破します。

従来このような役目には、パトリオットPAC-3が配備されてきたのですけれども、パトリオットPAC-3は、比較的小規模で展開しやすいかわりに射程が短いという弱点があり、高速で突入してくる中距離弾道ミサイルなどへの対処が難しく、また、迎撃に成功した場合でも地上への被害が大きくなるという問題が指摘されていました。

これらの問題を解決するため、パトリオットPAC-3よりも高い、成層圏よりも上の高度で目標を迎撃するために開発されたのがTHAADです。

10月3日のエントリー「イランの弾道ミサイル飽和攻撃」で述べましたけれども、イスラエルの防空高層、中層、低層のそれぞれで別の迎撃システムを使うというものです。

けれども、10月1日のイランからのミサイル飽和攻撃を完全に防ぐことはできず、いくつかは着弾しています。

イランの弾道ミサイルに対応できるのは、高層で迎撃するアローミサイルだとされていますけれど、THAADを追加配備するということは、このアローミサイルを補完するものですから、イランの再報復は弾道ミサイルによるものだろうと見ているものと思われます。

アメリカ国防省によるとTHAADの運用の為、アメリカ兵100人をイスラエルに派遣するとしていますけれども、ミサイル迎撃システムの運用人員としては一般的なのだそうです。もっとも、アメリカがイスラエルにTHAADを配備するのは今回が初めてではなく、2019年にも演習目的で配備していたとのことです。


4.なぞの煙


では、イスラエルの報復はどのようなものになるのか。「アクシオス」が報じたように、大規模空爆と暗殺の組み合わせになるのか。

10月10日、ロイターは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールを含む中東の湾岸諸国が、イスラエルによるイランの石油施設に対する報復攻撃を阻止するようアメリカに働きかけていることが分かったと報じています。

湾岸諸国の関係筋によると、湾岸諸国はさらに、いかなるイラン攻撃においてもイスラエルに領空の使用を認めず、イスラエルのミサイルの通過も認めない考えで、その方針をアメリカ政府に伝えたとのことで、より広範囲な地域紛争の可能性を巡る懸念も明確にしたとしています。

湾岸諸国の領空を爆撃機もミサイルも通過が認められないとなると、イランへの空爆はかなり難しくなります。

となると、先日のポケベル爆弾のような大規模テロ攻撃がメインになるのか。

仮にそうだとすると、今度は、毒ガスのような化学兵器を使ってくる可能性を筆者は危惧しています。

冒頭で取り上げた国連レバノン暫定軍(UNIFIL)拠点へのイスラエル軍の侵入と、謎の「煙」によって、UNFIL隊員に皮膚の炎症や胃腸障害の症状が起こっています。それは防護マスクをしていても効かなかったのです。これが致死性の毒ガスだったとしたら、ひとたまりもありません。

あるいは、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)拠点に煙を流したのは、その効果と範囲を事前にチェックするためだったのではないかとさえ。

イスラエルのやり方は、報復のためなら何でもありのおよそ人道的配慮を無視したものです。それを考えると、石油施設を空爆できないならと、広範囲の無差別テロ攻撃をしかけてもおかしくない。

非常に危険な段階に突入したのではないかと思いますね。



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