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1.衆院選終盤情勢
衆院選が大詰めを迎えています。
10月21日、産経新聞社はFNNと合同で行った衆院選情勢調査に取材を加味し、終盤情勢をまとめました。
それによると、自民党は大きく議席を減らす見通しで、連立政権を組む公明党と合わせても、計465議席の過半数(233議席)を割り込む可能性があると報じまました。
自民は、289小選挙区のうち約100で優位に戦いを進める一方、約90は接戦とのことで、接戦区の多くを落とした場合、比例代表との合計で、公示前の256議席から60議席程度減少する可能性があるとし、与党全体でも公示前の288議席から70議席程度の落ち込みも予想されるとのことです。
一方、立民は約70の小選挙区で先行し、公示前の98議席に50議席程度を積み増すと見込まれています。
日本維新の会は、優位に立つ小選挙区が大阪府内を中心とする20弱にとどまり、比例代表でも苦しい戦いが予想され、小選挙区と比例の合計で公示前の43議席を維持するのは困難な情勢のようです。
公示前議席10の共産党は、小選挙区への積極擁立方針が比例票の掘り起こしにつながっているとみられ、合計で数議席の増加が見込まれています。
今回、大躍進すると見られているのが公示前議席7の国民民主党で、3倍程度に議席を増やすのではないかと見られています。
主要政党以外では、れいわ新選組が数議席の伸びを視野。社民党は公示前1議席を維持。参政党は議席を獲得できるかが焦点で、政治団体「日本保守党」は、政党要件を満たす「所属国会議員5人以上」が実現するかもともいわれています。
この情勢について、識者は次のようにコメントしています。
中北浩爾・中央大学法学部教授序盤は、過半数を割りそうなのは自民単独で、自公の与党ではなんとか過半数と報じられていたのが、今や与党でも過半数がヤバいとなっています。
この産経新聞による終盤の情勢調査は、朝日新聞の今朝の朝刊と近い数字です。朝日新聞の中心値は、自民党が200、公明党が25、合計で225。産経新聞はそれ以上に厳しい予想で、自民が196程度、与党合計で218程度。いずれも与党過半数割れ。自民党の単独過半数は難しいとしても、自公で過半数に達するのではないかという見通しが序盤にはありましたが、与党に厳しいトレンドになっているように見えます。
自公で過半数割れした場合、注目点は2つ。一つは、衆議院の過半数を与党がどうやって確保するのかという問題。産経新聞の予想だと、過半数の233には15程度、足りない計算です。復党・追加公認、無所属では十分ではなく、いずれかの野党を抱き込む必要が生じそうです。もう一つは、自民党執行部の責任問題。総裁選で勝ったばかりの石破総裁を代えるのは難しいけれども、さすがに200を割り込むと、そういう声が出てくるでしょう。
白鳥浩・法政大学大学院教授
石破首相の責任問題すら噴出する可能性がある。
そもそも、就任直後の期待と高揚感で、衆院選に勝利して、党内基盤の弱い石破首相に対する求心力を獲得するという狙いがあったはずだ。
しかしながら、党内基盤の弱さが、政策的にぶれた発言と受け止められる軌道修正を余儀なくし、石破政権に対する期待は減少し、高齢の男性で占められる組閣も高揚感を失わせるに十分だった。石破内閣は「普通の自民党内閣」になってしまった。それでは就任直後の「ご祝儀相場」による勝利は難しいものとなった感もある。
今後どのような対応を行うのか。石破氏の判断が必要となる可能性がある。
2.出口調査で嘘ついた
与党で過半数が厳しいという予想に対し、過半数を獲得する可能性の方が高いとみる識者もいます。
10月21日、元内閣官房参与で嘉悦大教授の高橋洋一氏はニッポン放送「垣花正 あなたとハッピー!」に出演し、自公過半数割れの確率について「私は全部、確率で出すんです。私のは、世論調査じゃないから、客観的なもので出すから結構当たるんだけどね。今の段階で50%ちょっとで自公は過半数割れをしないかも知れない。52、53%です」と現時点では、過半数割れしない確率の方が高いとの分析結果を明かした。
もっとも、「でも、動くから分かんないです。天気、投票率によってちょっと変わるんで。それで若者がちょっと増えるから。それで違うから読めないですよ……今の段階でね、統計だから正直言ってブレがあるから、それで考えるとこんなもんです」と述べています。
また、高橋洋一氏は選挙の出口調査の問題についても言及しています。
高橋氏は、選挙速報は出口調査をもとにしていると言い、「出口調査は正しいと思われていたんだけれども、最近は“マスコミの〇〇です”って言って出口調査っていうとわざとウソつく人が凄く多くなった。要はマスコミが信用されてないということ」と指摘。これにパーソナリティーの垣花正アナウンサーが「信用されてないというか嫌われている」と言うと、高橋氏は「だから“マスコミです”って名乗ったら、その調査は当てにならないというくらいの感じになっているんですよ……だから8時にみんなビクビクだと思うよ。各社、出すか出さないかで」とコメントしています。
実際、ネットでは、「出口調査で嘘をついた」というツイートが少なからずあり、日刊ゲンダイは次のように述べています。
【前略】井上氏は出口調査で嘘をつくケースは少ないのではないかと述べていますけれども、嘘をつかなくて、事前予想が外れることがあるとすれば、調査対象が偏っているか、予測のやり方が間違っているということでしょう。
また、このような投稿がいつ頃から出ていたかだが、少なくとも、まだ平成だった2017年10月22日に行われた第48回衆議院選挙については、確かに《自分も投票所に出口調査きてたからこたえたケド、ウソ書いて出した》といった声が出ていた。
さらに、理由を併せて投稿している例としては、《「秘密投票」 秘密にするのは義務だと私も思います。この不気味さこそが大切だと思います。なので出口調査なんてウソを言っても良いと思ってます》と、自らの信念を披露するものや、《みんなで出口調査はウソつけば楽しいかもね。出口調査で本当のことを答える義務なんかないよね》といったいろいろなものがあるが、これらの投稿を行っている人はどのような性格の持ち主なのだろうか。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、「あくまでも自分の体感だが、特定のクラスターの中では3人に1人ぐらいが『ウソをついてきた』という話で盛り上がっていたことがある」と語る。
「主にXの陰謀論界隈では、『出口調査でウソをついてきた』という話題で盛り上がることが、近年見られます。論調としては『選挙結果はディープステートがすでに決めているから、出口調査にまともに答えても仕方がないのでウソをついた』といった具合にです」
陰謀論は関係なく、マスコミが嫌いであるがゆえに、「攪乱させてやれ」といった意図でウソをついている者も多いのではないだろうか。実際、Xには《もうみんな出口調査で正直に答えすぎ。ウソついてマスゴミをギャフンと言わせたかった》という投稿があったが、井上氏は「なきしもあらずだが、非常に少ないのではないか」と語る。
「出口調査に出くわした方の感想なのですが、『非常にびっくりした』というものがほとんどでした。恐らく、その状況でウソをつける方は少ないのではないでしょうか。その一方で、ウソをつこうという信念を抱いて投票所に行っても、そこで出口調査に出会う確率の方が低いですから、そのような意思を持って投票所に行き、目論見通りウソをつくことが出来てそれを報告できる人は、ほんの一握りなのではないでしょうか」
併せて井上氏は、目論見通りにはならなかったものの、「マスコミをかく乱させてやれ」という思いで「出口調査でウソをついてきた」とウソをついている者がいると考えた方が自然ではないかとも指摘した。
どのような信念で行っているかまではさすがに調べようもないが、「出口調査でウソをついてきた」と報告している者は相当なひねくれものである可能性は高そうだ。
マスコミの議席予測が当たらなくなってきているのが事実であれば、調査から予測からその手法を見直す時が来ているのかもしれません。
3.与党過半数割れしたときには
こうなってくると、自公で過半数を取れない場合に備えて、更にどこかの野党を連立に引き込むことも視野に入ってきます。
今回の総選挙の告示前日の10月14日、TBS「News23」で行われた7党首の党首討論で、司会の星浩氏から、石破総理に対し「今回の目標は自公で過半数ということですが、当然、過半数を獲れない場合は何らかの責任を取るということでしょうか」との質問が飛び出しました。
この問いに石破総理は「自公で過半数を目指して、明日から本当に死にものぐるいで、全身全霊で戦う時に、もしこうなったらなぞということは、考えません……有権者の、主権者の厳粛な審判に従うのは当然のことですが、明日から選挙という時に、そのような事は申しません。有権者の審判にはきちんと謙虚に向かい合わなければならないのも当然です」と強い口調で答えました。
これから選挙が始まるというときに、戦う前から負けた後のことを口にする党首はリーダー失格です。その意味では石破総理の受け答えは当然のものですけれども、わずか1週間半で、それが現実味を帯びてきました。
ただ、与党過半数割れしたときには、まずは、裏金で自民非公認となった12人のうち当選した議員を追加公認して数合わせを図るものと思われます。
4.最後は連立
それで過半数が確保できればよいですけれども、それでも足りなかった場合はいよいよ更なる連立協議を考えなければならなくなります。
10月20日、自民の森山裕幹事長は、与党が過半数割れした場合の対応について「過半数割れしようとしまいと、同じ政策をもって国の発展を図ろうという政党とは前向きに協議していくべきだ」と、早くも予防線を張り始めました。
これに対し、野党はというと、22日、立憲民主党の野田代表は埼玉県春日部市で記者団に「内閣不信任決議案を提出した。その対象政党と組むのは基本的にはあり得ない」と述べ、国民民主党の玉木雄一郎代表は東京都内で記者団に「ありません。政治とカネの問題はとても賛同できない……政策本位だ。良い政策には協力する」と連立入りは否定する一方、政策や法案ごとに与党と連携する「部分連合」には含みを残す発言をしています。
この対応について、前述した法政大学大学院教授の白鳥浩氏は次の点を指摘しています。
・ドイツなどでいわれているような「大連立」の可能性も取り沙汰されているが、ドイツの例を見てもわかるように、その大連立を組んだおかげで、政治の対立軸がおかしくなってしまい、「AfD」などの極右政党の進捗を許したことがある。また、弁護士の楊井人文氏が次のように述べています。
・そうした経験を日本政治も学び、あくまでも労使の対立を軸とする、保守と革新の対立を維持するのか、それとも自民党の政権維持のために「自社さ」政権を構成した時の様に、連立政権に入るのか、判断が求められるだろう。
・政権に参画して、政権の運営を学ぶというのも一つの可能性である。コーポラティズムという政労経による支配形態もある。今後の日本政治をどう考えるのか、選挙結果によって両党の行動は決めても良いだろう。
・総選挙後30日以内に開かれる特別国会で石破内閣は総辞職し、内閣総理大臣指名選挙が行われます(憲法54、70条)。仮に自・公が過半数割れし、1回目の首班指名で過半数を得た者がいなかった場合、上位2人の決選投票で、より多く得票した議員が新首相となり、組閣することになります。過去にも似た事例はありそうですけれども、今回は石破自民自体が内部対立を抱えガタガタになっています。とりわけ、非公認になっても選挙に勝って戻ってきた議員の石破総理に対する”怨念”たるや相当なものが予想されます。
・自公過半数割れとなった場合、まず追加公認、無所属議員の入党等によって過半数形成に努め、それでも足りなかった場合、連立を組む党を増やすか、閣外協力の政策合意も選択肢となります。
・1996年総選挙では自民党は過半数を得られず、それまで与党だった社民・さきがけも政権から離脱しました。自民党は半数を満たないのに1回目の首班指名で橋本龍太郎首相が選ばれ、自民単独政権を作りました(第二次橋本内閣)。閣外協力の政策合意をした社民・さきがけ議員の多くが(一部造反は出たものの)橋本氏に投票したためです。こうしたパターンも想定されます。
もし、与党過半数が確保できなかったら、自公はどんな手を使ってくるのか。それ以前に、石破総理の責任問題はどうなっていくのか。このままだとかなりの波乱になるのではないかと思いますね。
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