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1.BRICSサミット
10月22日から24日に掛けて、ロシアのカザンでBRICSサミットが開催されました。
BRICSには今年1月、アラブ首長国連邦(UAE)とイラン、エジプト、エチオピアが新たに加盟。昨年までブラジルとロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の5ヶ国体制だったBRICSが9ヶ国となってから初の首脳会議となります。
更に、タイやニカラグアなどに加え、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコを含め30ヶ国以上がBRICSに加わることに関心を示しているとのことですけれども、BRICS拡大については現加盟国の間で意見が分かれているとされています。
プーチン大統領はBRICS首脳会議で、「BRICSは国際社会の主要部分、いわゆる世界の多数派の願いに応えるものだ……真に劇的な変化が世界で起こり、多極世界の形成が進行している現在の状況において、BRICSは特に必要とされている」とBRICSの拡大は「多極世界」が形成されつつあることを示しているとの認識を示しました。
ブーチン大統領は「グローバルサウス、グローバルイーストの国々が示すBRICSとの関係強化への前例のない関心を無視することは間違っている……同時にバランスを保つことも必要だ」と主張。
その後、首脳会議の合間にトルコのエルドアン大統領およびイランのペゼシュキアン大統領と個別に会談しました。
主要7ヶ国(G7)の国内総生産(GDP)は世界全体の44%、人口は10%相当であるのに対し、BRICS加盟9ヶ国の経済規模は世界経済の26%、人口は世界の45%を占め、無視できない存在になっています。
2.カザン宣言
23日には、BRICSの首脳会議の全体会合が開かれ、「公正なグローバル開発のための多国間主義の強化」と「開発と安全保障のための多国間主義の強化」と題した共同宣言「カザン宣言」を発出しています。
カザン宣言は32頁、134項目にもわたる長いもので、冒頭の5項目だけを引用すると次の通りです。
1. 我々、BRICS諸国首脳は、2024年10月22日から24日まで、ロシア連邦カザンで開催された第16回BRICS首脳会議に出席した:「公正なグローバル開発と安全保障のための多国間主義の強化」をテーマに開催された。「カザン宣言」では、「違法な制裁を含む非合法な一方的強制措置が、世界経済や国際貿易に及ぼす悪影響を深く懸念する」と明記。BRICSの枠組みにおける金融協力についても、加盟国間の決済における自国通貨の使用拡大を引き続き検討するとしました。
2. 我々は、相互の利益と重要な優先事項に基づき、BRICSの連帯と協力を更に強化し、我々の戦略的パートナーシップを更に強化することの重要性を再確認する。
3. 我々は、相互尊重と理解、主権的平等、連帯、民主主義、開放性、包摂性、協力及び合意というBRICSの精神へのコミットメントを再確認する。我々は、16年間のBRICSサミットを基礎として、政治と安全保障、経済と財政、文化と人的協力の3本の柱の下で拡大したBRICSにおける協力を強化し、世界の利益のために戦略的パートナーシップを強化することにさらにコミットする。平和、より代表的でより公正な国際秩序、再活性化され改革された多国間システム、持続可能な開発、包括的な成長の促進を通じて、我が国の人々に貢献する。
4. 我々は、ロシアのBRICS議長国が、EM諸国が参加する「アウトリーチ」/「BRICSプラス」対話を主催したことを称賛する。
我々は、ロシアBRICS議長国が、アフリカ、アジア、欧州、中南米、中東からのEMDCの参加を得て、「BRICSプラス」対話を開催したことを称賛する: 2024年10月24日にカザンで開催される。
5. 我々は、BRICSに対するグローバル・サウス諸国の大きな関心を歓迎し、BRICSパートナー国カテゴリーのモダリティを支持する。
我々は 我々は、BRICSのパートナーシップをEMDCと拡大することが、連帯の精神と万人の利益のための真の国際協力の強化に更に貢献することを強く信じる。我々は、BRICSの制度的発展を更に促進することを約束する。
また、BRICSの国々との関係強化などを目指す「パートナー国」の資格を設けることを支持するとしたほか、ウクライナ侵攻でロシアが欧米などから制裁を科されていることを念頭に「国際法に反する一方的な経済制裁の撤廃を求める」などとしています。
更に、ウクライナ侵攻をめぐり、今年5月に中国とブラジルが独自の和平案を提案したことを念頭に、「対話と外交を通じた紛争の平和的解決に向けた仲介には注目する」とし、イスラエルの軍事作戦に伴うパレスチナ自治区ガザの人道状況に危機感を表明しています。
3.ウクライナでの戦争めぐりプーチン氏を追及
プーチン大統領は、BRICSサミット後に記者会見を行っていますけれども、BBCは「ウクライナでの戦争めぐりプーチン氏を追及、BBCロシア編集長が記者会見で」という記事を掲載しています。
件の記事は次の通りです。
ロシア中部カザンで開かれたロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国(BRICS)首脳会議は24日、最終日を迎えた。これだけの記事で「プーチン氏を追及」と見出しを打つのは、ちょっと言い過ぎというか、無理があり過ぎるのではないかと思いますけれども、実際の質疑は次の通りです。
BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長は記者会見で、ウクライナでの戦争を念頭に、「正義と安全保障」についてロシアのウラジーミル・プーチン大統領に質問した。
プーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)の拡大はロシアの安全保障を「侵害」していると述べた。そして、「ここに正義はない。我々はこの状況を変えたい」と付け加えた。
ローゼンバーグ・ロシア編集長は、ロシアの情報機関が「イギリスとヨーロッパの街中で持続的な騒乱」を引き起こすことを使命にしているとする、英情報局保安部(MI5)の最新の報告についてもプーチン氏に尋ねた。
これに対し、「まったくくだらない」とプーチン氏は答えた。
BBC(スティーブン・ローゼンバーグ):私はBRICSの最終声明を読みました。そこには世界と地域の安定、安全、公正な平和の必要性が述べられています。一般的に、ロシアのBRICS議長国のモットーには、正義と安全といった概念が含まれているように私には思えます。しかし、これらすべてが、ウクライナ侵攻を含む過去2年半のあなたの行動とどう関係しているのでしょうか。正義、安定、安全、そしてロシアの安全はどこにあるのでしょうか。特別軍事作戦の開始前には、ロシア領土へのドローン攻撃も、ロシアの都市への砲撃も、ロシア領土を占領する外国軍もありませんでした。これは起きなかったのです。BBCのロシア編集長は、BRICSの声明に「世界と地域の安定、安全、公正な平和」があるが、ロシアのウクライナ侵攻、そして、ロシアがロシアが放火や破壊活動などで英国とヨーロッパの街に大混乱をもたらそうとしていると英国諜報機関が声明とどう整合するのか、と質問したのですけれども、これに対し、プーチン大統領は実に詳しく回答しています。
そして最後に、ロシアが放火や破壊活動などで英国とヨーロッパの街に大混乱をもたらそうとしているという英国諜報機関の最近の声明と、このすべてはどのように一致するのでしょうか。安定性はどこにあるのでしょうか。
ありがとうございます。
ウラジーミル・プーチン大統領:ロシアの安全保障から始めたいと思う。それは私にとって最も重要なことだ。
あなたはドローン攻撃などについて言及した。しかし、もっとひどい状況もあった。西側諸国との接触や関係を構築するために、私たちが常に粘り強く提案し続けた結果、私たちは常に窮地に追い込まれていたのだ。これは確かなことだ。穏やかなように見えたが、基本的に我々は常に窮地に追い込まれていた。
そして結局、そのような立場に置かれたことで、ロシアは二流国の範疇に入り、国の主権をある程度、そして、大きく失い、原材料の付属品としてしか機能しなくなった。そのような能力では、ロシアは発展できないばかりか、存在することもできない。主権を失えばロシアは存在できない。これが最も重要なことだ。ロシアがそうした状態から脱却し、主権を強化し、経済的、財政的、軍事的な独立を図ることは、我々の安全保障を強化することであり、ロシアが将来、独立した一人前の自給自足国家として着実に発展するための条件を整えることだ。
開発と安全保障の分野における正義については、私なりの主張があり、あなたの質問に答えようと思う。以下が私の主張だ。
開発に適用される正義とは何か?コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)で起こった最近の出来事を考えてみよう。その時何が起こったのか?私はこの問題に、あなた方と他のすべてのメディア関係者の注意を喚起したい。あの期間、米国は約6兆ドル、ユーロ圏諸国は約3兆ドル、あるいはそれをわずかに上回る金額を印刷した。そのお金はすべて、世界市場であらゆるものを買うために使われた。主に食料品だが、医薬品やワクチンも同様で、これらは賞味期限が過ぎたため、現在大量に廃棄されている。彼らはこれらの製品をすべて市場に出し、それによって世界中で食品インフレやその他のさまざまなインフレを引き起こした。
世界の主要国は何をしたのか?ドルとユーロの両面で、グローバル金融における独占的地位を乱用したのだ。お金を刷って、自分たちが最も必要としている製品を買い占めるために使ったのだ。彼ら、つまりあなた方は、生産量や購入資金を上回るものを消費しているのだ。これは公平だろうか?私たちはそう思わない。これがBRICSが行っていることである。
さて、安全保障全般についてだ。ロシアの安全保障に関する私の見解はすでに述べた。言っていることはわかる。しかし、NATOを東方へ拡大しないようにという我々のパートナーに対する再三の要請を何年も無視してきたことは、安全保障の観点から公正なのだろうか? 歯に衣着せぬ物言いをすれば、NATOは拡大しないと言いながら、公約に反して拡大したことは公正だろうか? ウクライナというわれわれの地下に入り込み、軍事基地の建設--建設の準備ではなく、実際に建設している--を始めたことは公正だろうか? これは公正なのか?
国際法や国連憲章を完全に無視して、クーデターを起こしたことは公正だろうか? 外国、特にウクライナでの政府クーデターに資金を提供し、ウクライナ情勢を熱狂的な局面に追いやったことは公正だろうか? 世界の安全保障上、これは公正なことなのか?
すべての西側諸国が「いかなる国も他国の犠牲の上に自国の安全を確保してはならない」という文書に署名したときに、OSCE内での約束に違反したことは公正なのか。われわれは、NATOの拡大はわれわれの安全保障を侵害するものだと警告した。それにもかかわらず、あなた方はそれを行った。これは公正なのか?
フェアではない。我々はこれを変えたいし、変えるつもりだ。
質問の最後の部分をもう一度お願いする。
BBC(スティーブン・ローゼンバーグ):ロシアが英国の路上で騒乱を引き起こしているという英国諜報機関の主張に関するものです。
ウラジーミル・プーチン 質問のこの部分を繰り返してくれてありがとう。しかし、それは全くくだらないことだ。
これらの国の国内政策が、我々がヨーロッパのいくつかの都市の路上で目撃しているところの光景をもたらしたのだ。しかし、欧州経済が景気後退の瀬戸際に立たされていること、ユーロ圏の主要国が事実上景気後退に突入していることは、皆さんも私もよく知っているし、私の発言でもすでに触れた。仮に0.5%というわずかな景気拡大に成功したとしても、それは大手製造業のない南部や不動産業、観光業などに起因する。しかし、私たちはそれを非難されるべきなのだろうか?私たちはこれと何か関係があるのだろうか?
突然、西側諸国、つまりヨーロッパ諸国が、私たちの燃料やエネルギーを使わないと決めたのだ。私たちは彼らに背を向けたことはない。ところで、バルト海にはまだ機能しているパイプラインがある。ドイツ当局はボタンを押すだけで供給を再開することができる。しかし、彼らは政治的な理由でこうしたことを行っているのではない。彼らの主要パートナーが、ドイツ経済の1つのセクター全体を米国に移転させるという状況を仕組んだのだ。その理由を考えてほしい。米国政府がより好ましいビジネス環境を提供しているからだ。
アメリカでは一次エネルギーがヨーロッパの3倍か4倍安く、税制も違う。彼らは自分たちが何をしているのかわかっている。しかし、こうした状況で私たちは何をしなければならないのだろうか?
生活水準の悪化と物価の上昇に直面し、人々はそれに応じて対応してきた。これは極めて明白であり、欧州諸国の統計がこのことを明確に示している。しかし、私たちはこのことと何の関係があるのだろうか?誰がどうやって私たちを責めることができるのか?これは他者に責任を転嫁し、誤った経済政策や国内政策の責任を回避しようとしているに等しい。
経済に関して言えば、公平な専門家であれば、このことは誰の目にも明らかだと思う。しかし、環境問題や気候変動関連については、米国だけでなく欧州やその他の国々でも悪用しようとする動きが広まっており、現在も続いている。彼らは特に理由もなく、列車の先頭を走っている。というのも、こうした行動が意味を持つような段階には、技術がまだ到達していないからだ。彼らは原子力発電に関連するすべてのものを閉鎖し、石炭はもっと早くから閉鎖しており、全般的に炭化水素の取り締まりを開始している。
しかし、誰も計算したことがないのだろうか?アフリカは炭化水素なしでやっていけるのか?答えはノーだ。彼らは環境保全のための最新の手段や解決策を、アフリカ諸国や他の発展途上国に押し付けようとしているが、これらの国にはそれを支払うお金がないのだ。それなら金を出せばいい。しかし、彼らはそれを手に入れることはできない。同時に私は、西側諸国が使っている手段は、これらの国々を屈辱的にし、西側の技術や融資に依存させることからなる新植民地主義だと考えている。これらの国々が決して返済できないように、略奪的な貸し付けを行っている。これもまた、新植民地主義の手段だ。
だからこそ我々は、欧米がその経済、金融、国内政策で何を成し遂げたかを見ることから始めなければならない。もちろん、国際情勢が悪化したり、中東やウクライナなどさまざまな紛争地域でエスカレートを目撃したりするたびに、人々は恐怖を感じる。しかし、このエスカレーションの背後にいるのは我々ではない。緊張をエスカレートさせようとするのは常に相手側なのだ。
しかし、我々はこのエスカレーションに備える準備はできている。こうしたことを行っている国々にも準備が整っているかどうかは、あなた方次第だ。
なのに、BBCは前者については「NATOの拡大はロシアの安全保障を”侵害”していると述べた」とし、後者については「まったくくだらないと答えた」とだけした伝えていません。あまりに雑です。
たとえそれが、プーチン大統領の主観に基づいた主張であったとしても、報道という立場に立てば、きちんと要約して伝えるべきだと思います。
4.BRICS経済圏の弱点
筆者は、ロシアのウクライナ侵攻直後の2022年3月12日のエントリー「プーチンの世界構想と相手にならないバイデン」で、プーチン大統領はドル覇権に挑戦し、中国、インド、ラテンアメリカ、アフリカ、イスラム世界と東南アジアを取り込む、新ロシア経済圏を構築する狙いがあるのではないかと述べたと思いますけれども、BRICS拡大によって、いよいよこれが実現しつつあるように見えます。
今回のBRICS首脳会談について、識者は次のように論評しています。
今村卓/丸紅経済研究所社長・CSO補佐BRICS経済圏について、今村氏は「域内に輸出を吸収できる巨大な内需のある国がない」という欠点があると重要な指摘をしています。本当はここに日本がうまくジョイントできれば、エネルギーや食糧といったBRICS加盟国の輸出を吸収できる内需国として存在感を発揮できると思うのですけれども、今の石破政権では、ちょっと無理ではないかと思います。返す返すも、今、安倍総理がいたら、など思ってしまいます。
BRICSの経済連携の枠組みとしての弱点は、加盟国がそろって輸出指向、域内に輸出を吸収できる巨大な内需のある国を欠いていることだと思います。中国やインドは経済大国ですが、加盟国からの輸入を受け入れてその国の経済発展を支える寛容さなどなく、せいぜいロシアからエネルギーを大量に輸入するぐらいでしょう。新たな加盟国、パートナー国は輸出先の拡大を期待していると思いますが、景気停滞の中国と保護主義のインドを前に当てが外れることになるのでは。ただ、それらの国々には米国など先進国はもっと期待できない国・地域に映っているはず。逆に言えば、今からでも日本のやるべきことはたくさんあると思います。
柯隆/東京財団政策研究所・主席研究員
制裁に懸念を表明するならば、侵略戦争をまずやめるべきである。ウクライナから撤退して、それでも制裁が解除されなければ、懸念を表明すればいい。そもそもウクライナから撤退すれば、制裁されることはなかった。一方、BRICSになぜか北朝鮮が加わっていない。このままでは、BRICSは烏合の衆でしかない
もちろん、BRICSがここまま一大経済圏として成長するのかどうか分かりませんけれども、無視できる存在でもなくなっています。日本政府も先をみて、下準備というか手を打っておくべきではないかと思いますね。
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