首班指名を巡る多数派工作

今日はこの話題です。
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1.党内論理を優先したことが厳しい結果につながった


10月28日、石破総理は記者会見で「『自民党は目に見えて変わったね』と実感していただくことが肝要だ」と述べ、政策活動費の廃止などを表明し、自らの退陣を否定しました。

前日27日、石破総理は衆院選大敗の理由について「政治とカネの問題について理解をいただく努力が足りなかった」などと険しい表情で振り返り、報道特番で繰り返し問われたのが2000万円の支出問題について「法的には問題ない。我が党の政策をご理解いただくには、当然それなりの費用が必要」と説明していましたけれども、政策活動費の廃止を打ち出したということは、やはり、政治とカネの問題が響いていると考えているということでしょう。

けれども、明らかな大敗。石破総理自ら設定した勝敗ラインを割ったにも関わらず、続投に意欲をみせる石破総理の思惑を横目に党内では「石破おろし」が始まっています。

28日、小野田紀美参院議員は28日、自身のSNSで「自民党石破政権への信を問うてこの結果、ということを軽視しすぎではないのか」と投稿。山田宏参院議員も「選対委員長の辞任で済む話ではない」と投稿しています。更に、小林鷹之元経済安全保障担当相も党幹部の責任論に言及しています。

石破総理は、党内の反発について「等閑視するつもりは全くない」と語る一方、「党内融和よりも国民の理解を優先していかねばならない。党内論理を優先したことが厳しい結果につながった」という認識を示しています。

あくまでも政治と金、あるいは裏金議員の非公認など、選挙戦略が敗因だと見ているということのようです。

石破総理は今後の対応について「国政の停滞を避け、政治改革や経済対策に先頭になって取り組む」と明言。経済対策の策定や補正予算を国会に提出する時期を問われると、「党派を超えて優れた政策を取り入れていく、その中で検討したい」と述べ、野党とも協議する考えも明らかにする一方、野党と「今この時点で連立を想定しているわけではない」と、政策協議を通じて信頼関係を構築したいと述べています。


2.幹事長レベルで接触があった


10月28日、BS日テレの「深層ニュース」に出演した国民民主党の玉木代表は、今後の連携をめぐって自民党側から接触はあったかとの問いに、「私にはありませんが、幹事長レベルでは一定の接触をしている」と明らかにした上で、石破総理との党首会談に応じる考えがあるかについては、「石破総理だろうが、野田代表だろうが、党首会談はしっかりやりたい」と答えました。

玉木代表は、自民党との協力については「政策実現できるなら協力する」との姿勢を見せる一方、「石破執行部への不満が漏れ聞こえてくる……いまの執行部との交渉が続くものなのか、慎重に見定めていかなければならない」と警戒心を見せています。

また、首班指名の対応をめぐっては、現時点では玉木代表を指名するとした上で、「政策実現について、所属議員や支援者の理解や納得を得られるならば、また別の判断はある」と、他党の党首の指名に含みを持たせています。

玉木代表は29日の会見でも衆院選の結果について「票を伸ばした政党が掲げている政策は今の民意。もっと謙虚に、多様な民意に耳を傾ける姿勢が必要だ……とにかく政策実現に全力を傾けるので、連立することない」と、連立政権入りの可能性を改めて否定しています。


3.首班指名を巡る多数派工作


与党過半数割れしている以上、首班指名を巡って当然多数派工作が行われます。

28日、立憲民主党は、党本部で執行役員会を開きました。

この中で、今回の選挙について、自民党の政治とカネをめぐる問題に焦点をあて、政治改革を訴えたことが支持の広がりにつながったといった意見が出され、それを踏まえた上で、首班指名で野田代表への投票の協力をはじめさまざまな連携を、ほかの野党に呼びかけていく方針を確認しました。

役員会後、小川幹事長は記者団に対し「極めて重要な意思決定であり、各党に対して謙虚に、丁寧に、真摯に呼びかけを行っていく。必ずしも首班指名だけに限定したものではなく、さまざまな連携や協力の可能性について呼びかける」と述べました。

また、同じく28日、泉健太前代表は読売テレビの「かんさい情報ネットten.」に出演し、「連立を組むわけではなくても、野党系無所属の方もいらっしゃる中、過半数の233に到達する可能性は十分にある。現執行部とも話したが、維新を含めて『野田佳彦』と書いていただけるようにお願いしたい」とし、「大阪は維新一色だが、京都ではそこまで維新の風を感じるということはなく、むしろ政治改革については立憲民主党の方で」と語りました。

その上で、「足がかりは間違いなくできた。私が代表にのときは150議席を下回ったら『辞任する』と言っていた。今回、野田さんがそれで辞任するわけではないが、50議席増えたのはかなりの足がかりとなった」と手応えを述べています。

国会の首班指名で、各党がそれぞれの党の代表を選んで、過半数に届かなかった場合、現在の議席数では、自民の石破氏か立憲の野田氏か上位2人で決選投票になるだろうと見られていますけれども、どの党も過半数を議席を獲得していないことから、首班指名でどこの党が組むかが一つのポイントになってきます。

泉前代表は、維新や国民、共産、れいわなど様々な野党と結集する可能性について問われると、「政権としては立憲民主党と国民民主党、場合によっては維新さんがそこまで入るかどうかというのはあるが、あとは首班指名のみで協力をお願いしたりする。教育無償化や防衛増税反対などのスタンスは共産党などとも一緒で、そのような共通のものを見つけて、十分連携はできると思う」との認識を示しています。


4.連立を組む気はない


筆者としては、やはり国民民主の動きが一番のキーになるような気がしているのですけれども、28日、国民民主党の玉木代表は日テレのインタビューに応じ、連立について次のように答えています。
鈴江キャスター
「一方で野党系は過半数を超えています。野党でまとまれば政権を取れる議席ですが、そこの可能性は探らない?」

国民民主党・玉木代表
「いまの野党全部まとめて政権取ってもらいたいと思います? 私が一番心配しているのは外交・安全保障なんですよ。今こういうふうに与党も野党も単独で過半数取る状況じゃない。極めて不安定。来月にはアメリカの大統領選挙がある。日米の安全保障を担当する責任者が代わったり、あるいはカウンターパートが変質する可能性があって、そういう中において、仮に安全保障で一致できないような、そもそも閣内で揉めるような形だと、南西諸島方面に対してすぐに領空侵犯、領海侵犯、またいわゆる有事が起きる可能性もあるので。外交安全保障とか原発を含めてエネルギー政策とか、国家の基本政策について一致できない人が集まってやっても、これは国のためにならないので」

「さきほど政策が大事だと言いましたけど、野党に対してもそうだし、野党がまとまるにしても政策の一致なくしてやろうとしても、結果としてそれは安定的な国の運営に反することになると思いますので、なかなか難しいなというのが正直な印象だし、それをそもそもまとめるのは野党第一党である立憲民主党がどうするのか、まだ何の声かけもありませんから、そこはまず、どういうふうに考えるのか、よく見定めたいと思います」

鈴江キャスター
「特別国会での首相指名、国民民主党としてはどうするのでしょうか?」

国民民主党・玉木代表
「玉木雄一郎と書きます。それが基本ですね。決選投票になったらどうするのかということもありますけど、そこはどういう形でそれぞれ各党、何もなくて書くわけじゃないですから、その場合は決選投票でも、無効になるかもしれませんが玉木雄一郎と書くしかないですね」

鈴江キャスター
「選挙結果を受けて、何も決められない政治になるのではないかという不安感が早くも上がっています。それに対してどう進めていくか、国民民主党の立ち居振る舞いがとても大きな意味を持ってきます。まず、国民民主党としてどういう政策から何を優先順位に訴えて進めていこうと思いますか?」

国民民主党・玉木代表
「2つあって、当面、臨時国会があります。その臨時国会の主要課題は補正予算だと思う。もちろん能登半島に対する対応とかしっかり入れていくよう求めていきますが、最近多いのは、災害が真夏とか真冬に発生して、体育館が避難所になるので、そこにエアコンがちゃんとあるっていうのは、避難して来られる方の…」

鈴江キャスター
「環境としても大事ですね」

国民民主党・玉木代表
「環境としても非常に重要。これは補正に適していると思うので、補正予算をつけて早期に急速に整備していくというのは、こういうことは公約にも書いてますから求めていきたい。それから年末の税制改正はなんといっても基礎控除を引き上げて、103万の壁をぜひ引き上げて、もっと働きたい人が働く、人手不足で困っている店長が困らないようにする。そして多くの働いている人の控除額を増やして課税対象所得を減らして、みんなに減税効果を及ぼして正に手取りを増やす経済政策。これを最優先に取り組みたい」

鈴江キャスター
「与党入りはない、というお話ですが、与党が今訴えている政策をのむかわりに、もう少し踏み込んだ連携を提案されたらどうしますか?」

国民民主党・玉木代表
「我々ポストはいらない。閣僚とかそういうのは全然いらなくて、国民のための政策が欲しい。今回、野党が躍進し与党が議席を減らした。政治報道なのでどうしてもそうなるが、どっちが増えようが減ろうが、国民生活関係なくて、困っていますよ、本当に。物価が上がる、でもなかなか賃金や年金は増えないと」

「いままでは自民公明で過半数占めてますから、何かをやろうと思ったら、自民党・公明党のOKさえ取っとけば、あとは部会でOKとってまとめたものを国会に出せば、最後は多数決を押し切れるから、あまり国会での議論は重視されなかった。しかし我々、野党第一党ではないですけど、国民民主党の声を、あるいは国民民主党を支持する人たちの声を無視しては物事が決まらない、そういう新しい状況になった。そこに真摯に謙虚に向き合って、いろいろな声を聞きながら政策を決めていく。その新しいルール作りが求められていますし、国民民主党としてはいい政策を決めるルール作りについては、前向きに協力したいと思っています」
閣僚ではなくて政策が欲しい。国民民主の声を聞かなければ物事が決まらない状況になった、というのは心強い言葉ですけれども、それもこれも多数派工作の行方と政権与党が国民民主をどう扱うかに掛かっています。


5.左派政党は支持を失っている


今回の選挙では、立憲が50議席増と躍進し、自民が支持を失い、立憲が支持を伸ばしたという意見もあるようですけれども、比例票をみるとそうでもないようです。

ネットで、前回と今回の各党が獲得した比例票の一覧が出回っているのですけれども、それによると次の通りです。
比例票遷移2021年→2024年
自民…1991万→1458万(-533万)
立憲…1149万→1155万(+6万)
国民…259万→616万(+357万)
公明…711万→596万(-115万)
維新…805万→509万(-296万)
れいわ221万→380万(+159万)
共産…416万→336万(-80万)
参政…なし→187万(+187万)
保守…なし→114万(+114万)
社民…101万→93(-8万)
自民が533万票失う中、なんと、立憲はプラス6万票とほとんど票を伸ばしていません。代わりに国民民主、参政、保守の各党がぐっと票を伸ばしています。他方、共産、社民は票を減らしています。

これをみると既存の左派政党が支持を失っていることが分かります。

畢竟、党内野党、党内左派だった石破氏を総裁にしたことで保守票が逃げたのは、ある意味当然だともいえます。

石破総理は衆院選の敗因を政治と金、党内政局だと述べていますけれども、国民が左を支持していない中、自民党内の保守派を蔑ろにしたら、どうなるか火を見るよりも明らかです。この期に及んで、いまだに政治と金云々を悪者にしているとするならば、石破総理は
民意を正しく掴んでいるのか疑問になります。

28日、ブルームバーグは、「戦略ミス重ねた石破首相、日本の混迷に現実味」という記事で、石破総理は間違いを犯したと評しています。

件の記事を引用すると次の通りです。
米政界に「スカラムッチ」という言葉がある。ホワイトハウスの広報部長を10日ほど務めたアンソニー・スカラムッチ氏のことだが、今では短命を意味するようになっている。

日本では、石破茂氏が同様の意味をもたらすようになるかもしれない。戦後の政治を牛耳ってきた自民党の総裁であり、首相でもある石破氏は、自身の任期をこのような限定的な期間で捉えることにもなりそうだ。

先月、自民党総裁に選出されたばかりの石破氏にとって、当面の責務は明白だった。 世間一般で人気の石破氏は自身の手腕で歴史的な低支持率に苦しむ自民党を立て直す必要があった。だが石破氏は党にとって近年まれに見る最悪の夜を総括することとなった。

27日投開票の衆議院選挙で自民党は2009年以来となる過半数割れに終わっただけでなく、長年のパートナーである公明党との連立与党としても、過半数を割り込んだ。

長い間、比較的安定していた日本政治は、不安定な時代に突入しようとしている。さまざまな考えを持つ多くの政党から成る連立政権や短期間での首相交代の可能性も現実味を帯びてきた。

なぜこのような事態になったのだろうか。石破氏は、単に人気があるというだけではなく、自民党内で最も尊敬を集める議員となるはずだった。先月の自民党総裁選での逆転勝利は、裏金疑惑に最も深く関与していた旧安倍派による10年以上にわたる支配を否定するものだった。

だが、石破氏はほとんど全てで間違ってしまった。5回の総裁選出馬を経て党のトップになった経験豊富な政治家が、なぜこれほどまでに準備不足だったのか理解に苦しむ。

石破氏はまず、党内の保守派を敵に回した。故安倍晋三元首相が中心だった旧安倍派は裏金問題で鼻を折られて当然だったかもしれないが、自民党は基本的に中道右派の政党だ。石破氏が党内の保守派に歩み寄ることはなかった。

むしろ、石破氏は村上誠一郎氏のような人物を閣僚に任命。村上氏は2年前、安倍氏が銃弾に倒れて間もなく、安倍氏を「国賊」と呼び、党から処分を受けていた。

右派を怒らせた石破氏は次に、自らの支持者の期待を裏切り、主要な政策や信念を安易に変えることで評判を落とした。総裁選選に勝利しても総選挙を急ぐつもりはないと示唆していたにもかかわらず、前言を撤回。世論調査で自身の人気を裏付けるデータを待つという通常のプロセスも踏むこともなかった。

国民は変化を求めていたが、石破氏は全くそれに応えることができず、代わりに岸田文雄前首相が使っていたような古いキャッチフレーズを使い回し、遊説先での演説も場当たり的で謝罪に終始した。ほとんどの政治家は、恐らく実現できないであろうビジョンを明瞭に語る。しかし、石破氏はビジョンすら提示できなかった。

石破氏は選挙戦で09-12年の民主党政権を「悪夢のような」と批判。だがかつて、同氏自身がこうした言葉を用いた安倍氏を非難していた。裏金スキャンダルにけじめをつけようとする取り組みもむなしく、石破氏の苦戦は明らかだった。

それでも、今回の大敗ぶりは驚くほどだ。今後どうなるかはまだ不透明だ。石破氏には国会召集まで30日間が与えられている。同氏は連立し得る政党の合意を取り付け、新政権を発足させなければならない。

国民民主党の玉木雄一郎代表にとっては、非常に幸運な一夜だった可能性もある。議席数を4倍に増やした同党は、拡大連立に参加し得る論理的な選択肢であるように見受けられる。しかし、妥協による政権にはつきものの党内対立や意見の相違は避けられない。玉木氏は28日、自公連立政権に参画する考えはないと表明した。

誰がその調整役を担うことになるのか、まだ分からない。勝敗ラインを定めたのは石破氏であり、自公による過半数獲得を自身の目標だと宣言していた。伝統的に、掲げた目標を達成できなかった自民党総裁は、07年の参院選で敗北した安倍総裁(当時)のように時間を置かず辞任する。

しかし、自民党は過去最多の候補者で競った総裁選を終えたばかりであり、再び党首選びを行う意欲があるかどうかは不明だ。同党は今、2000年代後半の混乱を警戒していると言われている。5年半続いた小泉純一郎政権が終わると、総裁が約1年ごとに交代し、09年には政権を失った。

総裁として石破氏を引き継ぐ有力な候補者がいるわけでもない。先月の総裁選で、決選投票で石破氏に敗れた高市早苗氏は党内融和派ではない。総裁選3位の小泉進次郎氏は、党にとってより望ましい候補者だったかもしれないが、総選挙惨敗の責任者である選挙対策委員長であるため、総裁候補となる立場にはない。同氏は選対委員長を辞任した。

自民党には、再編に向け残された時間はほとんどない。来年夏には参議院選挙が控えており、それまでに野党が勝つために必要な選挙協力を行う可能性もある。そして日本には、そうした空白期間を許容する余地はほとんどない。どのような尺度で測っても、石破氏に時間的余裕はない。
ブルームバーグは、石破総理は、「党内の保守派を敵に回し」「自らの支持者の期待を裏切り」「ビジョンすら提示できなかった」と選挙の敗因を列挙しています。政治と金なんて少しも出てきません。

筆者はブルームバーグの分析の方がよっぽど的を得ているように思います。もし石破総理をはじめとする自民党執行部がこれを認識していないのなら、この先、石破政権も長くないと思いますね。



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