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1.上田市のキノコ工場火災
10月29日、29日午後8時半ごろ、上田市塩川にあるきのこ生産大手「ホクト」の上田第一きのこセンターで火災が発生しました。
消防車両40台あまりが出動し消火活動にあたり、火災は発生からおよそ43時間経った31日午後3時半ごろ、ようやく鎮火しました。
燃えたのは出荷に向けて製品を包装する作業などを行う「作業棟」と呼ばれる鉄骨2階建ての建物です。
出火当時、工場内に従業員はおらず、警察によると、怪我人や連絡が取れなくなっている人はいないということです。
上田第一きのこセンターは、延べ床面積が2万70平方メートルで、ブナシメジを生産していて1日の出荷量はおよそ10トンにのぼるということです。
マスコミの報道ではただ火災というだけで、どこから火が出たのかちっとも報じていないのですけれども、現場映像を見る限り、明らかに建物屋上一杯に敷き詰められた太陽光パネルが燃えていることが見て取れます。
大規模な消火活動が行われていたにもかかわらず、鎮火まで丸2日近く掛かったこともあってか、ネットでは「ソーラーパネルが燃えていると何でNHKは書けないのかな?」「やっぱりソーラーパネルは危険。こんなの東京中の屋根につけたらどうなるか。火の海ですよ」「事実上の放送禁止用語w 誰のために仕事してるんだか」といった批判の声が殺到しています。
この太陽光発電設備から火災が発生している事例は他にも多数あり、昨年12月には横浜市の小学校の変電室内の蓄電池から出火。今年3月には鹿児島県伊佐市で蓄電池設備が入った建屋が全焼。4月13日には北海道根室市の太陽光発電施設で、約1200平方メートルの草地などが焼け、その2日後には、仙台市の太陽光発電所で出火。草など約4万平方メートルを焼き、鎮火まで約22時間かかる火災事故が発生しています。
このときも「環境破壊でしかない」「立派な迷惑施設」「どこが持続可能エネルギーなんだよ」といった批判の声がネットに溢れました。
2.太陽光発電システム火災と消防活動における安全対策
前述の仙台市の太陽光発電所での消火活動で時間がかかったことについて、仙台の消防局は「感電しないように慎重に消火に当たったうえ、広大な敷地で火種の確認を人海戦術で行ったため時間がかかった」と説明していますけれども、太陽光パネル火災では、特に感電に注意する必要があるのだそうです。
太陽光パネル火災での感電は主に火災により断線したケーブルが原因とされています。消火時は、放水の影響で断線したケーブル周りが水浸し状態となるため、その水に触れた人が感電する危険があるというのですね。
消防庁から、消防士が消火活動中に感電した事例が複数報告されていますけれども、消火後の残火確認の際にパネルを持ち上げる作業などでの感電が多いとのこと。また、金属製の柱と発電モジュールを触った時などに感電してしまう事例もあります。
感電してしまう要因のひとつとして、太陽光パネルは、火災時も発電していることが挙げられます。太陽光パネルは数枚~複数枚で構成されているのですけれども、パネル全部ではなく、一部のパネルから出火している場合、燃えていない他のパネルは通常どおり発電しています。生産された電気はケーブルで送り続けられているため、感電につながってしまうというのですね。
2014年3月、消防庁は「太陽光発電システム火災と消防活動における安全対策」という報告書を出しています。
報告書では、火災事例と感電事例のまとめとして次の8点を挙げています。
・一般的な電気製品と同様に、構成機器や配線からの出火の可能性がある濡れた手袋や破壊機器を通じての感電はまだ分かるのですけれども、放水を通じて感電する可能性があるというのは驚きです。
・アーク放電におる着火の可能性がある
・濡れた手袋や破壊機器を通じて感電する場合がある
・棒状放水を通じて感電する可能性がある
・壊れていても、太陽光や火災光があると発電を継続する
・感電で致命傷にならなくとも、感電のショックで消防隊員が屋根上から落下する危険がある
・モジュール及び大きなガラス片が落下してくる可能性がある
・モジュールの樹脂部分が加熱や燃焼により有毒ガスが発生する可能性がある
消火活動における放水には、消化パイプからまっすぐに水を放水する「棒状放水」と、送水された水を微粒子状にするとともに拡散させて効率よく広範囲に放水する「噴霧放水」の、大きく2つに分けられます
前者は放水射程を大きくとれる一方、放水の大部分が塊状の水によるため気化潜熱による冷却が効率的でない弱点があります。一方後者は、放水射程や放水反動力は棒状放水に劣るものの冷却消火効果、窒息消火効果が高いというメリットがあります。
消化現場では、火災の状況によって、これら放水方法を変えています。
けれども、太陽光パネルの消化では、射程の長い棒状放水は感電の危険があるからと使えないとなると、火元に近づいての噴霧放水になってしまいます。それでも感電の危険がゼロになるわけではありません。
3.四段階の発火プロセス
そもそも、太陽光発電設備でどうして火災が起こるのか。
2019年1月28日、消費者庁は、住宅用太陽光発電システムから発生した火災などに関する報告書を公開しています。
報告書では、13件の火災などの事故調査を経て、4段階からなる発火に至るプロセスを推定しています。
それは次の通りです。
第1段階:配線接続部の高抵抗化第1段階では、半田による配線の接続部が高抵抗化します。太陽光パネル内の配線(インターコネクタ、横タブなど)の半田接続部が、経年劣化や半田強度が不十分といった製造上の問題により電気抵抗が大きくなっていきます。
第2段階:バイパス回路の常時通電
第3段階:バイパス回路の断線
第4段階:配線接続部の断線又は異常発熱
第2段階になると、バイパス回路が常時通電し、半田接続部の高抵抗化が進んだ結果、安全保護回路であるバイパス回路が常に作動する状態になります。
第3段階として、バイパス回路が断線。常時通電した状態が長く続いたバイパス回路が、耐久性能を超えて断線し、安全保護回路としての機能を失った状態になります。
第4段階になると、半田による配線の接続部が断線したり、異常に発熱。バイパス回路が断線すると、高抵抗化した半田接続部に再び電気が流れ始め、さらに高抵抗化が進むことで、半田接続部が断線するか、断線する前に異常に過熱していきます。
この半田配線の断線により、断線部にシステム全体の電圧が加わって過電圧となって、アーク(火花)の放電が生じる可能性がでてきます。このようなアーク放電や過熱によって、半田接続部を覆っている封止材が発火する危険があるとしています。
報告書では、製品の製造業者6社と、住宅・建築業者5社を対象として、製品の火災事故等の安全対策に関する聞き取り調査を行っています。
その結果は次の通りです。
(2)製造業者への聴取り調査結果個々の施工については、それなりに対策しているものの、常時通電に対する認識が甘い印象を受けます。もちろん5年前の報告ですから今では違うかもしれません。
製造業者への聴取り調査(平成30年6月26日から同年7月19日までの期間に実施)の結果を以下に示す。
① モジュールの安全設計について
安全保護回路としてのバイパス回路について、6社全ての製造業者が、常時通電をシステムとして異常と認識しているものの、その状態を所有者に知らせるアラーム機能を自社の製品には装備していない。また、封止材の燃焼性は、1社の製造業者の製品を除き可燃性である。
② ケーブルの施工について
一部の製造業者の製品は、ケーブル敷設専用フレームやケーブル保持金具等により、ケーブルの挟み込みを防止する構造やケーブルがルーフィングの表面に敷設されない施工方法となっている。なお、6社全ての製造業者は、緩み防止機能付きのコネクタを使用している。また、一部の製造業者は、小動物によるケーブルへの噛害対策を準備している。
③ パワーコンディショナの地絡検知について
一部の製造業者のパワーコンディショナには、地絡検知機能が装備されていない。
④ システムの運用について
一部の製造業者は、地絡発生時の処置方法を定めていない。また、発電量などを遠隔監視するサービスを行っている製造業者はあるが、各社ともに安全の観点では活用していない。
(3)住宅・建築業者への聴取り調査結果
住宅・建築業者への聴取り調査(平成30年6月20日から同年7月18日までの期間に実施)の結果を以下に示す。
① 施工について
5社全ての住宅・建築業者が施工を行っており、製造業者の施工ID取得者又は自社の施工講習等を受講した者が施工を行っている。
② システムの運用について
5社全ての住宅・建築業者は、発電量などを遠隔監視するサービスを行っているが、1社を除き安全の観点では活用されていない。
4.現実に追いつかない対策
報告書では、「再発防止策及び意見」として次のように提言しています。
モジュール又はケーブルが発火箇所とされた火災事故等において、野地板へ延焼して被害が大きくなっていたものは、モジュールの設置形態が鋼板等なし型であったことが認められた。このことについて各設置形態の構造を調べた結果、鋼板等なし型は、モジュール又はケーブルが発火した場合は、ルーフィング及び野地板へ延焼する可能性が考えられた。モジュールの発火は、経年劣化や製造上の問題が原因であると推測する一方で、安全対策や保守点検が徹底されてないというのですね。
また、モジュールの発火は、経年劣化や製造上の問題により発生すると考えられ、さらに、そのような不具合は複数の製造業者の製品において確認された。
よって、当面の火災事故等の発生のリスクを低減するためには、既に設置されている製品のうち、鋼板等なし型(住宅用太陽光発電システム累積設置棟数の約4.5%と推定)を使用しているものに対象を限定した上で、速やかな対応を行うことが必要である。具体的には、製造上の問題に対応すべく、製品のリスクアセスメントを早急に行うとともに、経年劣化にも対応すべく、他のモジュールの設置形態への変更や、導入時の保証期間を超えたものについては応急点検を行うべきである。
他方、今回調査・分析を行う中で、鋼板等なし型の製品については、新たに設置する製品における火災事故等のリスクを低減するための対策の必要性も明らかになったことから、それらに関する再発防止策も併せて示すこととする。
また、ケーブルの施工不良及び地絡に起因する火災事故等や、パワーコンディショナ又は接続箱から発生した火災事故等については、モジュールの設置形態に関係なく発生するリスクが認められたことから、鋼板等なし型に限定することなく、全ての住宅用太陽光発電システムに共通する再発防止策として示すこととする。
加えて、事故等の再発防止のためには、定期的な保守管理等を実施することが重要であると考えられる。しかしながら、改正FIT法の施行前には保守点検等の実施が所有者に対して義務付けられていなかった。
また、従前からの所有者については、改正FIT法により、購入時には想定していなかった点検の義務が追加的に課された状況にあり、結果、点検の実施割合が低い現状となっていると推測される。以上の点を踏まえると、保守点検などの安全に係る観点からの施策が、これまで必ずしも十分ではなかったと考えられる。
保守点検の確実な実施を図るためには、このような実態を踏まえつつ、所有者に対し、自らが保守点検について責任を負うことを改めて認識させるとともに、所有者が保守点検を容易に実施できるよう、必要な措置を講じることが重要である。
特に、そもそも住宅用太陽光発電システムは、屋根上に設置される機器であることなどから、その状況を所有者が確認することが難しいという特性を有している。そのため、保守管理等の運用には、機器の状況を点検する能力を有する製造業者に頼らざるを得ず、また、その円滑な実施のためには、販売において所有者の窓口となっている住宅・建築業者の協力も不可欠である。ついては、製造業者や住宅・建築業者において、再発防止のために講じるべき取組についても示す。
また、今後、住宅用太陽光発電システムの安全性向上のために検討されるべき開発課題についても提言することとする。
法整備含め、対応が現状に追いついていない姿が浮かび上がってきます。
5年前にここまで指摘されていながら、いまだに火災事故が起こっている事実を考えると、単純な安全対策とか保守点検の徹底のみならず、太陽光発電は決められた場所でしかできないなど、ちゃんとコントロールできる環境を整える方が先ではないかと思いますね。
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