

1.総務省も年収の壁見直しに反対
国民民主党が減税策として主張する「年収の壁」見直し等について、政府とマスコミはザイゲンガー、ゼイシュウガーと大合唱していますけれども、村上誠一郎総務相も地方自治体の減収になると繰り返し発言しています。
11月5日の会見では個人住民税について、8日の会見ではトリガー条項の凍結解除に関する減収について述べています。それぞれのやり取りについて次の通りです。
11月5日会見:年収の壁対策で見込まれる影響(1)
問: 国民民主党は、年収の壁対策を実施して非課税枠を103万円から178万円に75万円程度引き上げるべきと主張していますが、総務大臣としての見解をお伺いしたいです。また、林官房長官は、会見で「国、地方で合計7~8兆円程度の減収が見込まれる」と言及していますが、これの地方への影響額をお伺いしたいです。
答: ご高承のように、今、政党間の協力にあたっての個別政策の取扱いについては、各政党間で議論されるべき事柄であり、政府としては、コメントすることは差し控えたいと思います。税調でお互いに議論されることだと思います。 その上で、仮に単純に基礎控除の額を、国・地方において75万円ずつ引き上げた場合は、一定の仮定をおいて機械的に計算すれば、地方の個人住民税だけで4兆円程度の減収と見込まれております。
11月8日会見:トリガー条項地方への影響について質問されているのに、減収額だけ答え、手取りが増えることによる経済効果について何一つ言及していません。せめて額が分からないまでも、地方経済活性化などプラス面に1ミリも触れないのは片手落ちだと思います。
問: 今週、自民党税調のインナー会合が開催されました。今後、税制改正大綱の取りまとめなど進んでいくかと思いますが、国民民主党がトリガー条項の凍結解除に意欲を示しています。総務大臣としての見解と、仮に凍結解除した場合の地方税への影響額についてお伺いします。
答: これは、前も申し上げましたが、政党間の協力にあたっての個別の政策の取扱いについては、各政党間で、各党税調で議論されるべき事柄でありますので、政府としては、コメントすることは差し控えたいし、見守りたいと考えております。その上で、トリガー条項については、発動された場合、地方財政への影響が生じるとともに、販売、流通現場への影響など、実務上の課題が指摘されているところであります。特に、地方への影響については、軽油引取税と地方揮発油譲与税の合計で年間5,000億円程度の減収が見込まれています。
2.全国知事会も反対
地方自治体の税収減について、13日、全国知事会長の村井嘉浩・宮城県知事は記者会見で「年収の壁」を見直した場合、住民税や地方交付税の減収が見込まれるとの試算を示し「国民の負担が軽くなることは誰もが反対しづらいが、減収が地方に回ってくると結果的には大きく住民サービスが下がることになる……私も今回いろいろレクを受けて分かったんですが、103万円の壁、いろいろな壁がたくさんあって、いろいろな難しい仕組みがあって、ぎりぎりのところでバランスを保ちながら成り立っているんですよね。これをずばっと短期間のうちにメスを入れるというのは、私は簡単にできることではないと思いますけれどもね。少なくとも、私が総理ならば首は縦に振らないです……減収分の財源を『与党が考えろ』ではなく、自分の主張を言うべきだ」と述べています。
これについて、13日夜、TOKYOMXの報道番組「堀潤LIVE Junction」に出演した国民民主党の玉木代表は「まずですね、今、一生懸命総務省から全国知事会や各自治体の首長さんに対して工作やってますね。工作というのは、こういう発言をしてくれ、こういう減収があるからやめてくれということを村上大臣自身から知事会の会長などに連絡をして、発言要領までつくって、そういうことをするのは私はいかがなものかと思います。国が一生懸命、総務省が一生懸命工作するのはやめてもらいたい」と暴露し、厳しく総務省側を批判しました。
これに対し翌14日、村井嘉浩・宮城県知事は、東京都内で記者団に「村上総務相が他の知事にどうお話ししたのか、玉木氏がどなたから聞かれたのか、私にはわからない……少なくとも総務省、村上総務相から私に何かアプローチがあったということはない……103万の壁を取り払い、減った分は地方で考えろといったようなことは無責任だ」と玉木氏を批判しました。
村井知事は、総務省から私に何かアプローチがあったということはないと述べていますけれども、13日に村井知事本人が「レクを受けて分かった」と発言しています。このレクなるものは、総務省以外のどこかの省庁から受けたとでもいうのでしょうか。
3.浜田聡事務所より総務省へ
これらについて、NHK党の濱田参院議員の事務所から総務省へ事実関係の問い合わせを行っていて、その内容をX(旧ツイッター)で公開しています。
その内容は次の通りです。
浜田聡事務所より総務省へ下記質問を送りました。回答が来ましたら公開します。少なくとも総務省がレクを行ったことは事実のようです。けれども、その減収となった試算に使った計算式が驚くほど単純です。現状の基礎控除での減収額をもとにして外挿しただけ。通りで村上総務相が4兆円の減収になるという発言の枕詞に「機械的に計算すれば」と付け加える訳です。
【質問内容】
上記、国民民主党の玉木代表の発言にあります、全国知事会などに対して、総務省及び総務大臣が行っているレク内容について
①全国知事会に対して、総務省が国民民主党の何らかの減税施策(103万円の壁の撤廃など)について
レク又は何らかのを行ったというのは事実でしょうか。
②①事実であれば、当該資料及びその内容を全て教えて頂きたいです。
③①全国知事会以外に行った事実があれば、その詳細を教えてください。
④103万円の壁撤廃(基礎控除引き上げ)を含め、国民民主党の政策について総務省が何らかの見解を出しているのであれば、その詳細を教えてください
総務省の担当課の方より連絡があり、事務所へご説明に来てくださいました。
【要旨】
①全国知事会へレクを行ったのは事実か。
→基礎控除引き上げなど、国民民主党の減税施策について、全国知事会の事務方へ総務省よりレクを行った。
レクを行った背景としては、全国知事会とは日々いろいろなやり取りがあり、そのやりとりの中で今話題の基礎控除引き上げ等について総務省から説明をすることとなった。
②説明資料
※↓ポストにて共有(合計9枚、基礎控除引き上げ部分のみ抜粋)
③なし
④見解は出していない。玉木代表の発言にある「発言要領」等も含め、村上総務大臣が個別にどこへどのような連絡をしたかなどは承知していない。
地方税の減収額は総務省で試算されたそうで試算式を伺いました。
【試算式】
現行制度の基礎控除(地方分43万円)の下での減収額は2.5兆円程度と試算されており、これを単純に基礎控除1万円当たりにすると550億円程度となるため、試算式は
基礎控除1万円当たりの減収額550億円×75=約4兆円
との事でした。
浜田聡事務所より総務省へ下記質問を送りました。回答が来ましたら公開します。
— 村上ゆかり (@yukarimurakami5) November 14, 2024
【質問内容】
上記、国民民主党の玉木代表の発言にあります、全国知事会などに対して、総務省及び総務大臣が行っているレク内容について… https://t.co/uyHordq4xp
4.地方税収は増えている
繰り返しになりますけれども、総務省あるいは村上総務相は、103万円の壁の撤廃について減収することばかり主張して、手取りが増えることによる経済効果について何一つ言及していません。
では、実際のここ数年の税収はどうなっているのか。
7月12日、総務省は12日、2023年度の地方税収の決算額が前年度より5197億円(1.2%)多い45兆7064億円となり、3年連続で過去最高を更新する見込みだと発表しています。
全体の約3割を占める個人住民税は前年度比3711億円(2.7%)増の13兆9240億円で過去最高。住宅の建て替えなどが進んだ影響で、固定資産税は2300億円(2.4%)増の9兆7711億円となっています。
また、企業が納める地方法人二税(法人住民税・法人事業税)は235億円(0.3%)増の9兆1360億円。納税時期の関係で、好業績が目立った今年3月期決算分は反映されておらず、微増にとどまったものの、企業の好業績や歴史的な賃上げは24年度以降の税収に反映されるため、今後、地方税収はさらに増える見通しとしています。
既に地方税収が過去最高を更新し、前年度比で6000億以上増えています。ここに賃上げや企業好業績で24年度以降は更に税収が上がる見込みなのですね。これで103万円の壁を撤廃したら、更に税収が増えることは容易に予想できます。
11月8日、外国特派員協会で、記者から「178万円への引き上げで地方税減収との報道があったが?」と問われた、国民民主の玉木代表は「需要に対して労働供給の制約が外れることになるので売り上げが伸び、法人税や消費税などが増えることに繋がる。経済の活性化の税収増も併せて考える必要がある」と答えていますけれども、103万円の壁撤廃による税収増見込みがどれくらいあるのかの試算もせずに、政府や総務省が減収だ減収だとばかり言い募るのは、流石に杜撰に過ぎます。
5.総務省の工作活動
総務省が全国知事会に対してレクは行ったとして、では、玉木代表がいう工作活動が行われたのか。
これについてジャーナリストの堀潤氏は、総務省の工作関与を示す独自文書を入手したとする記事を公開しています。
一部引用すると次の通りです。
【前略】この記事の通りであれば、無茶苦茶工作していることになります。よくこれで、村井嘉浩・全国知事会長は、「総務省、村上総務相から私に何かアプローチがあったということはない」とシラをきれるものです。
ここでいう、レクとは一体、どのようなものなのか。
今回、私は、村上総務大臣や総務省側から全国知事会に対してレクを行なっていることを窺わせるメールのやり取りや資料を独自に入手した。全国知事会の税財政常任委員会のメンバーである自治体の知事から寄せられたメールと、全国知事会長や、地方税財政常任委員会委員長名義で、自民党政策懇談会に合わせた「緊急要請」の文案に関する資料などだ。
こうした文書に書かれた内容が事実なのかを確認するため、TOKYOMXや弊メディア8bitNewsで検証すると地方税財政常任委員会の委員長県である、宮崎県が「調整中」だとした上で、取材に対しその内容を認めた。
入手したメールには、総務省側が知事会に対してどんな働きかけを行なっているのかを時系列のメモがまとめられていた。内容を抜粋して箇条書きであげると以下の通り。
①今週、村上総務大臣から村井会長宛に「103万円の壁」の件で電話があり「野党の言うことを全て聞くと地方財政が持たないので知事会として反対の意見を言って欲しい」と伝えられた。
②会長は、マスコミに聞かれたら知事会会長の立場として「地方財源に対する問題の議論を脇において検討が進むことについて反対である」と答えるとのこと。
③今月19日に自民党の総務部会「予算・税制等に関する政策懇談会」が開催される連絡があり、河野知事がそこに出席するため急遽調整が始まった。
④本日の会長レクで緊急提言を調整(原文では調製)することとなり、19日に河野知事が上京のタイミングで、自公の政調や税調メンバーに打ち込んでいく想定。
⑤今回の緊急提言は、会長+委員長名で行うため、会長県+税財政常任委員会の構成県でのみ行う。
⑥現在、明日~明後日には意見照会をかけられるよう、案文を宮崎県で作成中。意見の採否等は会長と委員長に一任いただくことになる可能性が高い。
このメールには、3つの文書が添付されており、そのうちの一つが「基礎控除の引き上げ及びトリガー条項の凍結解除に関する緊急要請について」というタイトルの文書で、全国知事会会長、地方税財政常任会委員長の名義での「緊急要請」の文案が記されていた。そのほかの文書は、想定問答集や「個人住民税の概要」、「トリガー条項が発動された場合の留意点 財務省作成資料(非公表)」という説明資料だった。
上記①から⑥の内容に関して、TOKYOMXと8bitNewsが共同で、総務省や全国知事会、委員長県である宮崎県などに取材を行なった。
まず、総務大臣からの電話やレクについて、総務省に聞いた。文書に示されていた自治税務局の担当課長などに確認をすると、文書の作成やレクの有無について「存じ上げてないです」と回答。そして全国知事会調査第一部の担当者は、「事務局ではわからない」「知事への電話ということであれば知事に聞いて欲しい」と述べ、全国知事会を担当する宮城県企画総務課は「「把握していない」「この話自体が今初めて聞いた状態ですので…」と回答するにとどまった。村上総務大臣からの電話については、前述した通り、村井会長自身が否定したと報道されている。
次に、③から⑥であげられていた、自民党総務部会での全国知事会の会長、委員長名義による緊急要請について確認を行った。
文書に示された要望の原案には(委員長県たたき台)として、次のように示されている。
○地方が安定的に行政サービスを維持しつつ、重要課題へ的確に対応できるよう、基礎控除額の引き上げ及びトリガー条項の凍結解除の検討に当たっては、地方財政を通じた行政サービスへの影響を最小限に留めるべく、下記に掲げる事項を考慮し、地方財政への影響に十分配慮することを強く求める。
記
1 巨額な税収減や、所得税の減収に伴う当該税目の約 3 割を占める地方交付税原資の減(政府試算に基づき 9,930 億円から 1 兆 3,240 億円程度)
2 個人住民税非課税世帯の増加に伴い、当該世帯を対象とした行政サービスに係る歳出の拡大や、地方のシステム改修費の発生、事務負担の増大
3 トリガー条項の凍結解除により、揮発油税等の対象外である重油・灯油への対応や、発動前の買い控え等による配送の乱れ・品不足といった流通及び販売現場での混乱等
この要請書の名義は「全国知事会会長、地方税財政常任委員会委員長」とあり、委員長県である宮崎県に取材を申し込んだ。
宮崎県の河野俊嗣知事は、昭和63年に自治省に入省し官僚としてのキャリアがスタート。総務省で自治税務局企画課税務企画官などをつとめた後、宮崎県に出向。副知事などを経て、知事を4期務めている。
宮崎県の地方税財政の担当者は、河野知事に対する総務省ないし村上大臣からの連絡の有無については「承知していない」と述べ、レクに対しては否定的な考えを示す一方で、「「叩き台的なものは委員長県である我々でも準備して調整している」「(文書の作成について)昨日ぐらいから調整している」と述べ、緊急要請のたたき台の作成を認めた。19日の自民党総務会に河野知事が参加するかどうかは「調整中」だとした。
一方、地方税財政常任委員会に入っていない自治体、岡山県に確認をすると全国知事会から緊急要請に関する連絡は来ておらず、文書にあった「⑤今回の緊急提言は、会長+委員長名で行うため、会長県+税財政常任委員会の構成県でのみ行う」という内容に符合する。
もしも、これに限らず、過去にもこんなことが「国民の目に見えない」ところで行われていたとしたらゾッとしますけれども、裏を返せば、こんな好き勝手な工作をさせていた国民の側にも責任があります。
今回、与党が衆院過半数割れし、国民民主が103万の壁撤廃やトリガー条項凍結解除を主張したことで、ようやく、ブラックボックスだった議論が可視化されることになりました。
これは決して悪いことではありませんし、国民は自身の税の使われ方について厳しい目を向け、どんどん声を上げていく必要があるのだと思いますね。
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