ウクライナのATACMS攻撃とプーチンの胸先三寸

今日はこの話題です。
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1.ウクライナのATACMS攻撃


11月19日、ウクライナはアメリカ製の長距離ミサイル「ATACMS」を初めて国境越しに撃ち込み、ロシア領内の武器庫を攻撃したとアメリカ当局者2人が明らかにしました。

ATACMSは、ロッキード・マーティン社により製造され、アメリカ陸軍を中心に使用されている地対地ミサイルの1つ。

重量2トン、全長4mの弾道ミサイルだで、固体ロケットモーターと、950個の擲弾サイズのM74子弾を内蔵する弾頭(Block I)を搭載してい

ATACMSは、装軌式のM270多連装ロケットシステム(MLRS)や装輪式の高機動ロケット砲システム(HIMARS)から発射されれば慣性誘導のもとで最大約300km飛ぶとされています。

アメリカのバイデン政権は、17日にロシア領内の目標に対する長距離兵器の使用許可をウクライナ政府に与えたばかりだったのですけれども、ウクライナ側は早速使った訳です。

ウクライナ軍は、国境からおよそ100km離れたロシア西部ブリャンスク州カラチェフのロシア国防省ロケット・砲兵総局第67兵器廠に向けてATACMSを一斉発射したようです。この兵器廠は少なくとも3.5平方km程度の広さがあり、ロシア国防省の大規模な弾薬保管施設のひとつ。

ウクライナ軍は10月8日にもドローンでこの施設を狙って攻撃していました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は19日の記者会見で攻撃を肯定も否定もしなかったものの、「ウクライナには長距離能力がある。ウクライナは国産の長距離ドローンを保有している。ネプチューン(ウクライナの巡航ミサイル)も保有しており、それも1基だけではない。今や我々はATACMSを手にした。これら全てを駆使するつもりだ」と表明しています。

一方、ロシア側は、ウクライナのATACMSミサイル6発のうち5発はロシアの防空システムが迎撃し、残り1発も損傷したと発表。損傷したミサイルの破片が軍事施設の敷地に落下し、火災が発生したものの、消し止められ、死傷者や被害は出ていないとしています。

もっとも、ロイター通信によると、アメリカ当局者はATACMS8発が発射され、ロシア側が撃墜したのは2発だとしています。

現地はどうかというと、19日朝にソーシャルメディアで拡散した動画には、第67兵器廠の敷地とされる場所から激しく炎が立ち上る様子が映っていて、攻撃で大きな被害が出たのではないかとも見られています。


2.戦争研究所の評価


このATACMSによる攻撃について、戦争研究所は19日、次のように論評しています。
・ウクライナ軍は、11月18日から19日にかけての夜間にロシア領土に対する初のATACMS攻撃を実施し、ブリャンスク州カラチェフにあるロシアの弾薬庫を攻撃した。

・これは、こうした攻撃の許可を得てから数日後のことだった。ウクライナ参謀本部を含むウクライナ軍当局者は11月19日、ウクライナ軍が11月18日から19日にかけての夜間にカラチェフ近郊にあるロシア軍第1046兵站支援センターの第67軍事・砲兵総局(GRAU)兵器庫を攻撃し、この攻撃で最初の爆発と12回の二次爆発が発生したと報告した。

・ウクライナ軍筋は11月19日、ウクライナのメディアRBK-ウクライナに対し、ウクライナ軍は攻撃に米国提供のATACMSミサイルを使用したと語った。ウクライナの偽情報対策センター長アンドリー・コヴァレンコ中尉は、第67GRAU兵器庫には北朝鮮提供の砲弾を含む砲弾のほか、誘導滑空爆弾、防空ミサイル、多連装ロケット砲(MLRS)用のロケット弾があったと述べた。

・ロシア国防省は、ウクライナ軍がATACMSを含む6発の弾道ミサイルをブリャンスク州の軍事施設に発射し、ロシアのS-400およびパンツィリ防空システムがミサイル5発を撃墜し、1発に損傷を与えたと主張した。

・ロシア国防省は、ミサイルの破片がブリャンスク州の軍事施設に落下し火災が発生したが、この攻撃で損害や死傷者は出なかったと主張した。ロシアの反体制派メディア「アストラ」は、ウクライナ軍がカラチェフ、ポドソソンキ、バイコヴァの「ヴェザ」換気施設や建物も攻撃したと報じた。ロシアの情報筋は、ATACMSの攻撃とその後の様子を映したと思われる映像を投稿した。

・西側当局者らはまた、ウクライナが西側から提供された長距離兵器システムを使用してロシアの軍事施設を攻撃する能力についても、さらに明確な情報を提供した。EUのジョセップ・ボレル高等弁務官は11月18日、米国はウクライナが米国提供の兵器をロシア国内300キロ以内で使用することを承認したと述べた。

・ブライアン・ニコルズ米国務次官補は11月19日、ブラジルのメディアO Globoに対し、バイデン米大統領がウクライナに対し、米国提供の兵器を使用してロシアを攻撃することを承認したと語り、この承認によりウクライナの自衛能力が向上すると述べた。

・ISWは以前、ウクライナのロシア領への長距離攻撃能力を制限することで、ロシアは近距離および遠距離に聖域を維持し、その聖域を対ウクライナ軍事作戦に活用できると評価した。

・これらの許可が、報道されているほど広範囲にわたるものであれば、ウクライナにとって新たな能力となり、ロシアの戦争努力を著しく低下させる可能性がある。
下図は、ウクライナ国境からATACMSの射程範囲を示したものですけれども、射程300㎞ではモスクワにまでは届きません。従って射程内のロシア軍基地をメインに攻撃することになるのではないかと思います。

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3.ロシアの評価


これに対するロシアの反応はどうか。

11月18日、ロシア外務省のザハロワ報道官は、この件についてのメディアの質問に次のように答えています。

質問:西側メディアは、バイデンがキエフに対し、アメリカのATACMSミサイルによる、そしてフランスとイギリスによるそれぞれSCALPとSTORM SHADOWミサイルによるロシア領土奥深くへの攻撃を許可したとされる報道を流布しています。この情報についてどのようにコメントできますか?

ザハロワ報道官:これらの申し立てが公式情報源に基づいているかどうかはまだ不明です。一つ明らかなことは、キエフ政権の敗北を背景に、西側の支持者たちがロシアに対して引き起こされたハイブリッド戦争の最大限のエスカレーションに賭け、「モスクワに戦略的敗北を与える」という幻想的な目標を達成しようとしているということです。しかし、ゼレンスキーとその手下たちが「祈っている」「奇跡の兵器」は、SVOの進路に影響を与えることはできません。

ロシアのV.V.プーチン大統領が、NATO高精度長距離兵器の使用に「許可を与える」という文言が実際には何を意味するのかを明確に述べたことを思い出しましょう。同氏は、ウクライナ自体には宇宙衛星の使用やNATO諸国の軍人による飛行任務の導入なしにはそのような攻撃を実行する能力がないことを強調しました。

我が国の領土を攻撃するためのキエフによる長距離ミサイルの使用は、米国とその衛星がロシアに対する敵対行為に直接参加することを意味するとともに、紛争の本質と性質の根本的な変化を意味します。この場合、ロシアの反応は適切かつ具体的なものとなるでしょう。
また、翌19日、同じ質問がメディアからされ、今度はラブロフ外相が次のように答えています。

質問:サミットで他国(西側諸国または友好国)の代表と、長距離ミサイルでわが国の領土を攻撃することをアメリカが許可したことについて議論しましたか? もしそうなら、どのような意見を聞きましたか? そのような許可や議論がありますにもかかわらず、アメリカの指導者も国務長官もこの決定を公式に発表していありませんのはなぜだと思いますか?

攻撃はブリャンスク地方で6発のATACMSミサイルで行われました。その正確な改良はまだ不明ですが、あなたの意見ではどうですか?この承認に関します議論と関係がありますか?

セルゲイ・ラブロフ:『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じたことが真実なのか、それとも地面を探ろうとしたものなのか、私にわかるわけがない。私にはわからない。今夜ブリャンスクでATACMSが繰り返し使用されたことは、彼らがエスカレーションを望んでいるというシグナルだ。アメリカ抜きでこのハイテクミサイルを使うことは不可能だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、このことについて何度も語っており、彼らが今、憶測しているこの長距離ミサイル(最大300キロ)が承認されれば、我々の立場がどう変わるかについて警告している。

実際には、これはウクライナが長距離ミサイルを使用することを 「承認 」したのではなく、300キロまで打つようになったという発表なのだ。皆がさも決定事項であるかのように書いているので、私はこれを確認することができない。

EUのJ・ボレル外交部長は、「すでに公式なものだ」と述べた。ヨーロッパ諸国は議論し、ウクライナに長距離兵器の使用を認めるかどうかは、皆が自分たちで決めることにした。

それについて推測するつもりはない。今日、我々はロシア連邦の核ドクトリンの基礎を正式に発表した。そこであるべてが確認され、すでに法律に明記されている。ウラジーミル・プーチン大統領は、2024年9月12日にそれを公言した。このドクトリンが、国連憲章を読むように、必要なものだけを読むのではなく、その全体像と相互関連性を理解した上で読まれることを願っている。

ある人が傍聴席で私に尋ねた。私は、真実かどうかはわからないと答えた。

私たちは自分たちの安全を守るのが仕事だ。これについて考えている人たちが知る必要のあることはすべて、私たちは公式に述べており、ロシアのプーチン大統領は、私たちはすでに公式文書に明記していると答えた。
ザハロワ報道官もラブロフ外相もどちらもプーチン大統領の発言を引き合いに出しています。

このプーチン大統領の発言とは、9月12日に、滞在先のサンクトペテルブルクでの国営テレビの取材での発言だと思われますけれども、これについては9月17日のエントリー「新たなレッドラインを引いたプーチン」で取り上げています。一部抜粋すると次の通りです。
質問:ここ数日、英国と米国のかなりの高官から、キエフ政権が西側諸国の長距離兵器を使ってロシアの奥深くの標的を攻撃することを許可されるだろうという声明が聞こえてきました。どうやら、私たちが見る限り、この決定はまもなく下されるか、すでに下されたかのどちらかのようです。これは実に異例なことです。何が起こっているのかコメントしていただけますか?

プーチン大統領:私たちが目にしているのは、概念をすり替えようとする試みだ。なぜなら、これはキエフ政権がロシア領土内の標的を攻撃することが許されるかどうかという問題ではないからだ。キエフ政権はすでに無人航空機やその他の手段を使って攻撃を行っている。しかし、西側諸国製の長距離精密兵器を使うとなると、話は全く別だ。

【中略】

この決定がなされれば、それは直接関与に他ならない。NATO諸国、米国、欧州諸国がウクライナ戦争の当事者となることを意味する。これはこれらの国々が紛争に直接関与することを意味し、紛争の本質、性質そのものが劇的に変わることは明らかだ。

これはNATO諸国、つまり米国と欧州諸国がロシアと戦争状態にあることを意味する。そして、もしこれが事実であるならば、紛争の本質の変化を念頭に置き、我々にもたらされる脅威に対して適切な決定を下すことになる。
このようにプーチン大統領は、ロシア領内の攻撃に長距離ミサイルを使用することは、NATOと戦争状態になると警告しています。


4.ロシアの修正核ドクトリン


実際、19日、プーチン大統領はロシアの核ドクトリンを改定しています。

発表されたドクトリンの改定版では、ロシアは核保有国が参加する非核保有国からの侵略行為を同国への共同攻撃とみなすとしています。

この日、ロシアのペスコフ報道官は、記者団に対し、この変更はロシアまたはベラルーシに対する通常兵器による攻撃があった場合、ロシアが核兵器を使用する権利を留保することを意味するとし、「この文書の重要な要素は、核抑止力はロシアやその同盟国が攻撃を受けた場合の報復が不可避であることを潜在的な敵国に確実に理解させることを目的としているという点だ」とコメントしています。

この改定について、各メディアは新しい危機の段階に入ったと警告しています。

一方、この核ドクトリンの修正について、先述の戦争研究所は19日のレポートで次のように評価しています。
・ロシアのウラジミール・プーチン大統領は11月19日、バイデン政権によるロシアへの長距離攻撃の承認決定に対する明確な回答として、また西側諸国の意思決定者にウクライナへの追加支援を控えるよう働きかけるプーチン大統領の継続的な取り組みの一環として、ロシアの核ドクトリン更新版に署名した。

・プーチン大統領は2024年9月に、ロシアの核使用に必要な前提条件について「明確化」を導入するために核ドクトリンを調整していると述べていたが、その後「核抑止力の分野におけるロシア連邦の国家政策の基本の承認について」という政令に署名した。

・ロシアが最後に核ドクトリンを更新したのは2020年6月である。2024年のドクトリンでは、ロシアに対する侵略の準備と実行のために「支配下にある領土、空域、および/または海域と資源」を提供する国に対してロシアが核抑止力を行使するとしている。軍事連合、ブロック、同盟の一部である国によるロシアへの侵略は、連合全体による侵略とみなす。また、核保有国の参加または支援を受けた非核保有国によるロシアおよび/またはその同盟国への侵略は、ロシアへの共同攻撃とみなす。

・この新しいドクトリンでは、ロシアにとって「軍事的脅威に発展する可能性のある主な軍事的危険」のリストに、ロシアが核抑止力を発揮する追加の考慮事項が追加された。これには、ロシア国境に「接近」することになる、新しい軍事連合、ブロック、または同盟の創設または既存の軍事連合の拡大、重要な輸送通信へのアクセスの遮断を含む、ロシア領土の一部を孤立させることを目的とした行動、ロシアの環境的に危険な物体の破壊を目的とした行動、およびロシア国境付近での大規模な軍事演習の計画と実施が含まれる。

・新しいドクトリンでは、ベラルーシに対する侵略、または戦略および戦術航空機、巡航ミサイル、無人航空機、極超音速航空機を含む「大規模な」航空宇宙攻撃兵器の発射または離陸、およびそれらのロシア国境の通過に関する信頼できる情報をロシアが受け取った場合、ロシアは核兵器を使用する「可能性」を維持していると述べられている。

・新しいドクトリンは、ロシアがロシア領土またはロシアの同盟国の領土を攻撃する弾道ミサイルの発射に関する情報を受け取ったことを「ロシアの核兵器使用の可能性を判断する」条件として説明した2020年のドクトリンと同じ文言を維持しており、したがって、一部の報道がそうではないことを示唆しているにもかかわらず、弾道ミサイルに関するこの文言はロシアの核ドクトリンの変化を表すものではない。

・更新されたドクトリンは、ロシアが核兵器を「もっぱら」抑止手段と見なしているとはもはや述べておらず、ロシアは「潜在的な」敵に対して核抑止力を行使すると付け加えている。

・ロシアの核ドクトリン修正案の採用は、現在頻繁に行われているロシアの核威嚇の最新の反復であり、ロシアの核態勢、ドクトリン、または核兵器使用の脅威の実質的な変化を意味するものではない。米国中央情報局(CIA)長官ウィリアム・バーンズ氏は9月7日、西側諸国の政策立案者に対し、ロシアの定型的な核威嚇を恐れないよう警告した。

ブルームバーグは11月19日、米国国家安全保障会議の報道官が、米国は核態勢を調整する理由はないとし、ロシアのドクトリン調整の決定は驚きではなく、2022年のウクライナ侵攻以来ロシアが用いてきたのと同じ「無責任なレトリック」の継続であると述べたと報じた。

・国防総省のサブリナ・シン副報道官は11月18日、ロシアのいかなる軍事的威嚇も「信じられないほど危険」かつ「無謀」であると述べた。シン氏は、米国はロシアの軍事的威嚇を監視し続けるが、ロシアの核態勢に変化は見られないと述べた。ISWは、ロシアがウクライナやその他の場所で核兵器を使用する可能性は非常に低いと引き続き評価している。

・クレムリンは、ウクライナに対する西側諸国の軍事支援を抑止するために核兵器による威嚇を継続的に利用しようとしており、情報空間に核兵器の脅威を注入するクレムリンの継続的な取り組みは、西側諸国が提供する兵器によるウクライナのロシア攻撃の戦場への影響についてクレムリンが懸念していることを示している。ワシントンポスト紙は2024年9月、クレムリンがウクライナ支援に反対する西側諸国の意思決定に影響を与える核兵器による威嚇の有効性を再検討している可能性があると報じた。

・しかし、クレムリンは、西側諸国の意思決定者がウクライナによる西側諸国が提供する兵器を使用したロシアの合法的な軍事施設への攻撃に対する制限を解除することを思いとどまらせるために、同じ定型的な核兵器の脅威を使用し続けており、クレムリンがロシアへのウクライナの長距離攻撃の可能性を恐れていることを示している。クレムリンは、ウクライナへの軍事支援に関する西側諸国の重要な協議の際、核兵器の威嚇を日常的に強めてきたが、ロシアの「レッドライン」に対する西側諸国の違反とみなされるものに対しては、これまで一度もエスカレートしたことはない。

・クレムリンと関係のある著名なロシアの軍事ブロガーは、11月19日に更新されたロシアの核ドクトリンに反応し、西側諸国はもはやクレムリンの核の脅威を恐れておらず、西側諸国の恐怖心のなさが「ロシアの行動の余地を狭めている」と不満を述べた。

・この軍事ブロガーは、この西側諸国の恐怖心のなさは、クレムリンが以前ロシア国内の軍事施設に対して行ったウクライナの攻撃(クレムリンが以前から行っていたいわゆるレッドラインの1つ)に対するクレムリンの無反応に起因するとしている。

・他のロシアの軍事ブロガーは、11月19日のウクライナのブリャンスク州でのATACMS攻撃に対するロシア政府の反応を待っていると述べた。

・この記事の執筆時点では、クレムリンはATACMS攻撃に対して明確な反応を示していない。
このように戦争研究所は、ロシアの核ドクトリン修正は、従来のロシアの核ドクトリン、または核兵器使用の脅威の実質的な変化を意味するものではない、と評価しています。


5.なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか


そもそも、緊張を高めることになると分かり切っているのに、なぜ今頃になって、アメリカは、長距離ミサイルによるロシア攻撃の許可を出したのか。

これについて18日、ニューズウィーク誌は、「なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか、ウクライナ戦争をめぐるバイデン最後の賭け」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・ロシアとウクライナの戦争が長引くなか、ジョー・バイデン米大統領は11月17日、ウクライナに対し、米国製の長射程ミサイル「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」を使用してロシア領内深くを攻撃することを承認したと報じられた。これに対して、ドナルド・トランプ次期大統領の支持者らがソーシャルメディア上で反発している。

・ロイター通信は、バイデン政権の今回の決定に詳しい3人の情報筋の話として、バイデンはウクライナに対し、アメリカが提供する兵器をロシア領内の攻撃に使用することを許可する予定であり、国境深くへの最初の攻撃は数日中に行われる可能性が高いと報じた。使用されるのは、最大射程300キロのATACMSミサイルになる模様だという。

・ウクライナは何カ月も前からロシア領内への長距離攻撃の許可を求めてきたが、バイデンは戦争の拡大を恐れてこれを許可しなかった。だが、ロシアが北朝鮮兵をウクライナ戦線に派遣するという決定を下したことで、政権の考えは一変した。

・プーチンは9月12日、西側の長距離ミサイルをロシアに使用することを可能にする決定は、NATOがロシアとの戦争に直接参戦するものとみなされ、「戦争の本質」を大きく変えるだろうと述べて牽制した。

・バイデン政権の決定はすぐに反発を招き、トランプ支持者の一部がX(旧ツイッター)で、戦争の早期終結という公約のトランプに対し、任期残り2カ月のバイデンがウクライナ戦争をエスカレートさせるようとしていると非難した。

・ジョージア州選出の共和党議員のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、バイデンをこう非難した。「アメリカ国民は11月5日の大統領選投票日に、外国の戦争に資金を提供したり戦ったりすることを望まないという考えを明らかにした。われわれは自分たちの問題を解決したいのだ。もうたくさんだ。こんなことはやめなければならない」

・ベンチャーキャピタリストで政治経済の話題を配信するオールイン・ポッドキャストの共同ホストを務めるデービッド・サックスもXに投稿し、「トランプはウクライナでの戦争を終わらせる権限を勝ち取った。では、バイデンは任期最後の2カ月で何をしようというのか? 大規模な戦争拡大だ。彼の目的はトランプに最悪の状況をもたらすことだ」

・ユタ州選出のマイク・リー上院議員(共和党)がXに投稿した「リベラルは戦争が大好き」「戦争は大きな政府を促進する」というコメントに対しては、実業家でトランプ政権に入る予定のイーロン・マスクが「これは真実だ」と返信した。

・バイデンの決断についてトランプはまだ声明を出していないが、長男のドナルド・トランプ・ジュニアはXにこう書いている。「軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!」

・保守系学生団体ターニングポイントUSAの創設者チャーリー・カークは、Xでこう主張した。「バイデンは第三次世界大戦を起こそうとしている。病的だし、完全に頭がおかしい。アメリカの兵器をロシアの内陸に撃ち込んだりするべきではない!ロシアがアメリカにミサイルを撃ち込むためにミサイルを供与するようなものだ」

・一方、トランプは以前、自分が大統領だったウクライナ戦争は「24時間以内に」終わらせると言った。

・しかし、戦争の解決を急げばロシアに占領されたウクライナの領土を奪われたままになるなどウラジーミル・プーチン大統領に有利になる、とトランプの方針を批判する声もある。

・これに対してバイデン政権は、政権末期の数カ月間、ウクライナに対する米軍の支援をできるだけ急ぎ、強化し続けることを約束したと、アントニー・ブリンケン米国務長官は13日に確認した。

・ロシア軍は最近、ミサイルとドローンでウクライナの首都キエフを73日ぶりに攻撃した。

・ブリンケンは、ブリュッセルのNATO本部で、同盟国の特使やウクライナ政府高官との会合に先立ち、記者団に語った。「われわれは、ウクライナがロシアの侵略から効果的に自国を防衛できるよう、ウクライナのために行っているすべてのことを強化し続ける」

・さらにこの方針は、北朝鮮が最近、約1万人の精鋭部隊をロシアのクルスク州に派遣したことを踏まえて決定された。ウクライナは今年の夏、国境を越えて予想外の大攻勢をかけ、ロシアとの交渉材料にするためクルスクの一部を占領したが、ロシアは手薄だったクルスク奪還部隊を北朝鮮兵で補強してきたのだ。

・バイデン政権は、前線に投入される北朝鮮軍の部隊が今後さらに増え、ロシア軍部隊が優位に立つことを恐れている。米国務省のベダント・パテル報道官は先日、記者団に対し、ワシントンはクルスクの動向について「非常に懸念している」と述べた。
記事では、ロシアが北朝鮮兵をウクライナ戦線に派遣するという決定を下したからだとしていますけれども、共和党やトランプ支持者たちは「バイデンは戦争拡大し第三次世界大戦を起こそうとしている」と批判の声を上げていることも紹介しています。

残り2カ月しか任期が残っていないバイデン政権が土壇場になって戦争拡大を起こして何の得があるのか、さっぱり分かりません。トランプ次期大統領の嫌がらせだとしても、やり過ぎでしょう。

ただ、本当に戦争が拡大するのか、拡大した場合その規模がどうなるかは、ロシアの反撃とそれに呼応する勢力があるかどうかです。

先述したとおり、ロシア政府の方針は9月にプーチン大統領が発言したことに従うで一致しているように見えます。ということは、ここから先の展開はプーチン大統領の胸先三寸で決まるとも言えます。

果たして、プーチン大統領はどういう対応を見せるのか。ロシアがウクライナ東部にICBMを打ち込んだなんて情報もあるようです。

トランプ大統領就任までのこの2カ月は正念場になるのではないかと思いますね。


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