ロシアの中距離弾道ミサイル発射とプーチンのレッドライン

今日はこの話題です。
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1.RS-26ルベジ改


11月21日、ウクライナ軍は「ロシア軍がウクライナ東部への攻撃の中でICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した」と発表しました。

これについて、ゼレンスキー大統領はSNSに公開した動画の中で「ロシアの新型ミサイルだ。速度や高度などあらゆる特徴がICBMだったことを示している」としています。

翌22日、ウクライナ国防省情報総局は、問題のミサイルについて、ロシア南部アストラハン州から約800キロ先のウクライナ東部ドニプロまで飛行し、最高速度はマッハ11を超えたと発表。発射から着弾までは15分で、六つの弾頭にそれぞれ六つの子爆弾を搭載していたと分析しています。

国防省情報総局のスキビツキー副局長は、この最新の弾道ミサイルについて、ロシアが10発程度を保有している可能性があるとの見方を示したと地元メディアが報じています。

一方、アメリカ国防総省のシン副報道官は、記者会見で、「ロシアが発射したのは実験的な中距離弾道ミサイルだ……戦場に投入された殺傷能力の高い新たなタイプの兵器であり、懸念している。このミサイルが戦場で使われたのを確認したのは初めてだ」と述べ、今回のミサイルが通常弾頭で発射されたとしつつ、核弾頭も搭載できると指摘しています。

ロシアは世界で最も多くの核弾頭を保有する、アメリカとならぶ核大国で、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を推し進めてきました。

イギリスのシンクタンク、IISS(国際戦略研究所)が世界各国の軍事力などを分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」などによると、複数の核弾頭を搭載できるICBM「ヤルス」が多く配備されているほか、極超音速弾頭を含む幅広い種類の弾頭を搭載できる新型の大型ICBM、「サルマト」が実戦配備されています。

アメリカ国防総省の当局者によると、新型中距離弾は大陸間弾道ミサイル(ICBM)「RS-26ルベジ」をベースにした設計とのことです。

「RS-26ルベジ」は2000年代の終わりに設計されたRS-26 は、RS-24ヤーズ大陸間弾道ミサイルの進化版ですけれども、ルベジはヤーズよりも射程が短いものの、極超音速の弾道弾です。

今回のミサイルの発射に先だって、ロシアからアメリカに対して通告があり、また通常弾頭であったことを考えるとまだ状況をエスカレートさせたくないというメッセージが垣間見えます。

アメリカも「実験的な」と枕詞をつけてコメントしていますから、ロシアのメッセージを受け取ったと解釈してもよいかもしれません。




2.全世界を世界的紛争に巻き込んでいるのはアメリカだ


今回の中距離弾道弾発射について、21日、ロシアのプーチン大統領は次の声明を出しています。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領:私は、ロシア連邦軍の軍人、我が国の国民、世界中の友人、そしてロシアに戦略的敗北をもたらすことができるという幻想を持ち続けている人々に、西側諸国の長距離兵器による我が国の領土への攻撃を受けて、特別軍事作戦の地域で今日起こっている出来事について知らせたいと思っている。

西側諸国が扇動したウクライナ紛争の激化は続いており、米国とそのNATO同盟国はロシア連邦内での攻撃に長距離高精度兵器の使用を承認すると発表している。専門家は十分に認識しており、ロシア側も繰り返し強調しているが、こうした兵器の使用は製造国の軍事専門家の直接的な関与なしには不可能である。

11月19日には、米国製のATACMS戦術弾道ミサイル6発が、また11月21日には、英国のストームシャドウシステムと米国製のHIMARSシステムによる合同ミサイル攻撃で、ロシア連邦内のブリャンスク州とクルスク州の軍事施設を攻撃した。その時点から、これまでの通信で繰り返し強調してきたように、西側諸国が引き起こしたウクライナの地域紛争は、世界的な性質を帯びるようになった。我が国の防空システムは、これらの侵入にうまく対抗し、敵の明らかな目的の達成を阻止した。

ブリャンスク州の弾薬庫で発生したATACMSミサイルの残骸による火災は、死傷者や大きな被害なく鎮火した。クルスク州では、我が北方集団の指揮所の1つが攻撃の標的となった。残念ながら、攻撃とその後の防空戦闘により、周辺警備部隊と整備要員に死傷者が出た。しかし、管制センターの指揮官と運用要員に死傷者は出ず、敵部隊をクルスク州から排除し追い出す我が軍の作戦を効果的に管理し続けている。

敵によるこうした兵器の使用が特別軍事作戦地域での戦闘作戦の進路に影響を与えることはないことを改めて強調したい。我々の部隊は接触線全体にわたって順調に前進しており、我々が設定した目標はすべて達成されるだろう。

米英の長距離兵器の配備に対抗するため、ロシア軍は11月21日、ウクライナの防衛産業団地内の施設に共同攻撃を実施した。野外環境では、ロシアの最新中距離ミサイルシステムの1つ、つまり、我が国の技術者がオレシュニクと名付けた非核極超音速弾道ミサイルを搭載したシステムのテストも実施した。テストは成功し、発射の目的を達成した。ウクライナのドニプロペトロフスク市では、ソ連時代から続く最大かつ最も有名な工業団地の1つが攻撃を受け、ミサイルやその他の兵器の生産が続いている。

我々が中距離・短距離ミサイルを開発しているのは、米国が欧州やアジア太平洋地域に中距離・短距離ミサイルを生産・配備する計画に対応しているからだ。米国は2019年に突飛な口実でINF条約を一方的に破棄したが、これは間違いだったと我々は考えている。現在、米国はこうした装備を生産しているだけでなく、我々が知る通り、米国は先進的なミサイルシステムを、部隊の訓練演習中に欧州を含む世界各地に配備する方法を編み出している。しかも、こうした演習の過程で、それらを使用する訓練も行っている。

念のため言っておくと、ロシアは、米国のこの種の兵器が世界のどこかの地域に出現するまで、中距離および短距離ミサイルを配備しないと自発的かつ一方的に約束している。

繰り返するが、我々はNATOのロシアに対する攻撃的な行動に対抗するため、オレシュニク・ミサイルシステムの実戦テストを行っている。中距離および短距離ミサイルのさらなる配備に関する我々の決定は、米国とその衛星国の行動次第である。

ロシア連邦の安全に対する脅威に基づき、先進ミサイルシステムのさらなる試験の際、我々は標的を決定する。我々は、我々の施設に対して武器の使用を認める国の軍事施設に対して、我々の武器を使用する権利があると考えている。攻撃行動がエスカレートした場合、我々は断固として、かつ鏡のように対応する。ロシアに対して自国の軍事部隊を使用する計画を立てている国の支配層は、これを真剣に検討することを推奨する。

言うまでもなく、必要であれば報復措置としてウクライナ領内のオレシュニクなどのシステムによる攻撃の標的を選択する際には、その地域に居住する民間人や友好国の国民に対し、危険地帯から退避するよう事前に勧告する。人道的理由から、公然と公然と勧告する。敵もこの情報を受け取ることになるが、敵からの反撃を恐れることはない。

なぜ恐れないのか?それは、今日ではそじみた兵器に対抗する手段がないからだ。ミサイルはマッハ10、つまり秒速2.5~3キロメートルの速度で標的を攻撃する。現在世界で利用可能な防空システムや、アメリカがヨーロッパで構築しているミサイル防衛システムは、そのようなミサイルを迎撃することはできない。不可能だ。

国際安全保障体制を破壊し、覇権に固執しながら戦い続けることで、全世界を世界的紛争に巻き込んでいるのはロシアではなく米国であることを改めて強調したい。

我々は常にあらゆる紛争を平和的手段で解決することを好んできたし、今もその用意がある。しかし、いかなる事態の展開にも対応できる準備もできている。

もし誰かがまだこれを疑っているなら、誤解しないで欲しい。必ず反応があるだろう。
プーチン大統領は、先日アメリカ、イギリスの長距離ミサイルをウクライナが配備、発射したことによる対抗策として今回のミサイル発射に及んだと述べています。


3.オレシュニクを量産する


翌22日、プーチン大統領は、国防省幹部やミサイルシステム開発代表者との会談を行い、その模様を公表しています。

その内容は次の通りです。
昨日、私はロシア軍関係者、ロシア国民、世界中の同盟国、そして力で我々を脅迫しようとしている人々に、ロシアの最新中距離ミサイルシステムについて知らせたことを皆さんはご存知だろう。これは我々の、皆のシステムであり、皆がオレシュニクと名付けた、非核極超音速弾道ミサイルだ。

客観的な制御データに基づいて、テストは成功だったことは誰もが知っている。お祝い申し上げる。そして、すでに言ったように、ロシアに対する安全保障上の脅威の状況と性質に応じて、戦闘条件を含め、これらのテストを継続する。そのような製品の備蓄、そのようなシステムの備蓄が準備されているので、なおさらである。

私が今日この会議を招集するよう依頼した目的は、ほぼただ一つ、あなた方とオレシュニク システムの開発者、そしてその開発に関わったすべての研究、製造、労働チームに、あなた方の成果に感謝することだ。これには、極超音速技術を開発し、弾道学を分析し、最先端の材料、制御システム、マイクロエレクトロニクスなどの製造を習得した設計者、研究者、エンジニア、労働者を含む協力ネットワーク全体が含まれる。

皆の功績と、この新システムの開発に要した短期間は、誇りと賞賛を呼び起こす。これらの功績は、国内のロケット工学の流派が大きな可能性を秘めており、ロシアの安全と主権を確保するための最も複雑な課題に取り組む能力があることを説得力を持って示している。

この文脈で重要なのは、オレシュニク・システムは旧ソ連時代のシステムのアップグレードではないということだ。私たちは皆、もともとソ連のシステムから来ており、前の世代の成果に基づいて育ち、ある程度、その成果の上に築き上げてきた。しかし、このシステムは実際には、現代ロシア、新ロシアで行われた皆さんの取り組みの結果だ。このシステムは、現代の最先端のイノベーションに完全に依存している。

新たな脅威や課題が増大する今日の状況において、このような兵器システムの開発は我が国にとって特別な、あるいは極めて重要な意味を持っていると言わざるを得ない。

改めて強調したいのは、特別軍事作戦の一環としての任務の遂行とロシアの将来は、第一に我々の兵士と将校、突撃部隊と砲兵、戦車兵と空挺部隊、工兵、パイロット、ドローン操縦士、海軍歩兵の勇気、そして軍の全部門の協調した努力にかかっているという事実だ。

最前線にいる我々の部隊は、成功裏に、有能に、勇敢に、そして専門的に活動している。彼らは日々戦闘経験を積み、攻撃能力を高めている。繰り返すが、特別軍事作戦の任務を成功裏に遂行できるかどうかは、主に我々の兵士と将校の専門性、勇気、英雄的精神にかかっている。

同時に、最前線の部隊と、より広く国民の両方にとって、我々が安全を確保するための広範な技術基盤と強固な産業・研究基盤を有していることを知ることは極めて重要だ。昨日テストされた兵器システムは、ロシアの領土保全と主権のもう一つの信頼できる保証人として機能する。

我々も皆も知ってのとおり、世界でまだこうした兵器を持っている国はない。実際、遅かれ早かれ他の主要国もそれを手に入れるだろう。そこでどのような設計が進められているかはわかっている。しかし、それは明日のこと、あるいは1、2年後のことかもしれない。その間、私たちは今日このシステムを持っている。そしてこれは不可欠なものだ。

ここでもう一つ強調したいことがある。オレシュニク・ミサイルシステムは、効果的な極超音速兵器というだけではない。その打撃力により、特に大量に使用し、ロシアが保有する他の長距離精密システムと組み合わせて使用​​した場合、敵の標的に対して使用することは、効果と威力において戦略兵器を使用するのに匹敵する。実際にはオレシュニク・システムは戦略兵器ではないが、いずれにせよ、大陸間弾道ミサイルではなく、高精度兵器であるため、大量破壊の手段でもない。

同時に、すでに述べたように、こうしたミサイルに対抗する手段はなく、今日の世界にはそれを迎撃する手段は存在しない。そして、私はもう一度強調するが、私たちは最新のシステムのテストを継続する。

量産を開始する必要がある。このシステムの量産の決定が下されたと仮定しよう。実際のところ、すでに実質的には組織化されている。

この兵器の特別な強さ、威力を考慮すると、戦略ミサイル部隊に配備されることになるだろう。

また、オレシュニク・システムに加え、現在ロシアで同様のシステムがいくつかテストされていることも重要だ。テスト結果に基づいて、これらの兵器も生産される予定だ。言い換えれば、中距離および短距離システムの全ラインが揃っていることになる。

現在の世界の軍事的、政治的状況は、主に新技術、新兵器システム、経済発展の創出における競争の結果によって決定されている。しかし、私が何度も言ってきたように、私たちの最大の資産は人材である。前線で戦う人々の勇気、工場や設計局、科学センター、経済のあらゆる分野の企業で働く人々の才能とスタミナである。そして、私たちはそじみた人々を誇りに思っている。そうした人材がいれば、私が言ったように、特別軍事作戦のすべての任務は確実に解決され、ロシアの安全は確実に確保されるだろう。

あなたとあなたの同僚の皆の懸命で重要な生産的な仕事、達成された高い成果、そして我が国の安全保障と防衛力の強化、そして最も広い意味での祖国の防衛への貢献に改めて感謝したいと思う。

そして、オレシュニク・ミサイルシステムの開発者、最新の複合施設の設計と生産を組織した人々は、間違いなく国家賞を授与されるだろうと私は言いたい。

【以下略】
プーチン大統領は、今回のミサイルについて量産を始め、テストを継続すると述べた上で、現在、このミサイルシステムを迎撃できる手段を持つ国は存在しないと宣言しました。

ウクライナ国防省情報総局は、今回の最新弾道ミサイルについて、ロシアが10発程度を保有している可能性があると分析したことを紹介していますけれども、プーチン大統領が「量産をする」という発言が図らずもそれを証明しているように思われます。

このプーチン大統領の発言に対し、軍事産業委員会第一副委員長のヴァシリー・トンコシュクロフ氏は「このタイプの兵器の連続生産をできるだけ早く開始することは可能」とし、「防衛産業の生産能力を強化するための大規模な投資プログラムが実施されており、現在の武器の生産と供給のペースから、戦略核戦力に最新型の武器や特殊装備を装備する割合は 95 パーセント以上、航空宇宙軍では 82 パーセント以上に達することになる」と報告しています。

また、戦略ミサイル部隊司令官のセルゲイ・カラカエフ氏は「オレシュニク中距離弾道ミサイルのテストは成功し、ウクライナ領土の戦略目標が攻撃されたこと。発射の結果、設計、エンジニアリング、および技術的ソリューションの正確性、および問題の仕様によるミサイル複合体の実現可能性が確認された」と分析し、「中距離ミサイル複合体オレシュニクは、既存および将来のすべてのミサイル防衛システムを打ち破り、単独の標的から広範囲の標的まで、幅広い標的を効果的に攻撃できる」と報告しています。

そして、「この兵器の本来の任務と射程距離を考えると、ヨーロッパ全域の標的を攻撃することができ、他の長距離精密兵器に比べて大きな利点がある」と指摘しています。


4.クレムリンのレッドラインには一貫性がない


11月21日、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、プーチン大統領の声明について次のように分析しています。
ロシアのプーチン大統領は、11月21日にウクライナに対して複数の再突入体を使った派手な弾道ミサイル攻撃を実施し、ウクライナとその西側パートナーに対する反射的統制キャンペーンを強化した。ロシア軍は11月21日朝、ドニプロペトロフスク州ドニプロ市の重要インフラと工業企業に対して複合攻撃を実施した。伝えられるところによると、これにはタンボフ州から発射されたKh-47M2キンジャール弾道ミサイル、ヴォルゴグラード州から発射された7発のKh-101巡航ミサイル、アストラハン州から発射された再突入体を備えた実験的な中距離弾道ミサイル(おそらく改良型RS-26「ルベジ」中距離弾道ミサイル(IRBM))が含まれていた。

ウクライナ空軍は、ウクライナ軍が6発のKh-101巡航ミサイルを撃墜し、残りのミサイルは大きな被害を与えなかったと報告した。ウクライナ当局は、この攻撃により、特定されていない工業企業(おそらくミサイルや宇宙ロケットを製造しているウクライナのピヴデンマッシュ工場)、医療施設、ドニプロ市の住宅街が被害を受け、ロシアのミサイルがドニプロペトロフスク州のクリヴィーイ・リフの住宅街にも被害を与えたと報告した。西側諸国の当局者は、西側メディアに対し、ドニプロ市を標的とした弾道ミサイルは大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではなく、射程距離の短い弾道ミサイルである可能性が高いと語った。

プーチン大統領は、ロシアがロシア国内でのウクライナの徹底攻撃を支持する西側諸国を攻撃する可能性があると明確に脅迫し、11月21日の弾道ミサイル攻撃をロシアの核能力と修辞的に結び付けた。これは、西側諸国によるウクライナへの継続的な軍事支援を阻止するために、明白な脅迫と核による軍事的威嚇を利用することを目的とした既存のロシアの情報作戦の顕著な強化である。プーチン大統領は11月21日夜の演説で、ロシア軍がドニプロ市に対して、新型の「オレシュニク」非核弾道ミサイル(報道によるとRS-26ミサイルの実験的派生型)を含む複合ミサイル攻撃を実施したと主張し、この攻撃をロシア国内の軍事施設に対するウクライナの最近のATACMSとストームシャドウ攻撃 、およびロシアに対するNATO諸国の「攻撃的行動」とされるものへの直接的な報復であると位置付けた。プーチン大統領は、ウクライナによるロシアへの攻撃を許可している西側諸国の軍事施設を攻撃すると脅迫した。プーチン大統領の11月21日の発言は、クレムリンが西側諸国のウクライナ支援を阻止するために利用しようとした「レッドライン」を定義する以前のクレムリンの公式声明と一致している。

プーチン大統領の11月21日の声明は、モスクワの絶え間ない軍事的威嚇が主に修辞的なものにとどまっていることを示している。プーチン大統領の最近の西側諸国に対する脅しは、西側諸国がウクライナに「ロシア領土」への長距離攻撃を許可することに集中しているが、ウクライナ軍はクレムリンが違法に「ロシア領土」と定義している地域を長い間攻撃してきた。クレムリンは、2014年のロシアによるクリミアの違法併合以来、占領地のクリミアをロシアの一部と違法に定義しており、ウクライナ軍は2023年4月以来、米国提供のATACMSミサイルと英国提供のストームシャドウミサイルで定期的にクリミアを攻撃している。

クレムリンの「レッドライン」レトリックの適用は非常に一貫性がなく、ロシアの全体的なエスカレーションの物語を弱めている。プーチン大統領は、西側諸国の決定を顧みず、一貫して自ら戦争をエスカレートさせており、西側諸国がウクライナへの支援を強めるたびに、一貫して報復を拒否してきた。プーチン大統領は以前、西側諸国がウクライナにロケット砲、戦車、戦闘機、ロシアへの攻撃能力を提供すれば、厳しい報復を行うと脅しており、西側諸国がプーチン大統領のブラフを見破るたびに、常に目標を変更してきた。

オレシュニク弾道ミサイル攻撃もプーチン大統領の11月21日の声明も、ロシアの攻撃能力や核兵器使用の可能性に大きな変化をもたらしたわけではない。ロシア軍は定期的に核搭載可能なイスカンデル弾道ミサイル、キンジャール極超音速弾道ミサイル、核搭載可能なKh-101巡航ミサイルをウクライナに向けて発射している。これまでのロシアのミサイル攻撃は、ドニプロ市を含む産業インフラや重要インフラを標的とし、より大きな被害をもたらしてきた。

11月21日のドニプロ市に対するロシアの攻撃で唯一根本的に新しい特徴はオレシュニクミサイル自体であり、攻撃のスペクタクルを増幅し、核の脅威をさらに暗示するために、これ見よがしに再突入体を披露した。西側諸国は信頼性の高い抑止オプションを維持しており、プーチン大統領の核の威嚇が西側諸国の当局者らがウクライナをさらに支援するという選択を妨げるべきではない。米中央情報局(CIA)長官ビル・バーンズ氏は2024年9月、プーチン大統領の核発言を恐れないよう西側諸国の政策立案者に警告し、プーチン大統領を「時折軍事的威嚇を続ける」「いじめっ子」と表現した。

ロシアのプーチン大統領が和平交渉に応じる姿勢を見せようとしているにもかかわらず、クレムリンはウクライナおよび西側諸国との「交渉」の可能性を利用してウクライナ国家の完全な破壊を追求することに全力を尽くしていることを示し続けている。

ウクライナの情報機関インターファクス・ウクライナは11月20日、ウクライナの情報筋を引用して、ロシア国防省が2045年までの世界の軍事的・政治的発展を予測し、ウクライナの将来に関するロシアのビジョンを提案する文書を起草したと報じた。この文書では、自由で独立したウクライナ国家やウクライナの領土主権のいかなる痕跡も完全に消し去っている。

ロシア国防省の文書は、ウクライナを3つの異なる部分に分割することを提唱している。1つは、占領下のルハンシク、ドネツィク、ザポリージャ、ヘルソンの各州と占領下のクリミアのロシアによる完全な併合を認めるものである。もう一つは、ロシア軍の占領下にあるキエフを中心とする親ロシア傀儡国家の樹立、そしてウクライナ西部地域を「係争地域」に指定し、ウクライナの最西端の隣国で分割するという内容である。この文書はまた、将来の世界シナリオを概説しており、ロシアがウクライナを打ち負かし、ロシア主導の多極的国際秩序を確保するシナリオを優先している。ISWはそのような文書の存在を確認できず、報告された文書自体の内容も確認していないが、インタファクス通信のウクライナに関する報告は、クレムリンがウクライナに完全な屈服と誠意ある交渉への無関心を強いる意図があるとISWが継続的に評価していることと一致している。この内容はまた、米国政権や西側諸国に関係なく、クレムリンがウクライナの主権を解体し、世界における西側の影響力を弱めるという戦争において、同じ妥協のない戦略目標を維持していることを明らかにしている。
戦争研究所は、プーチン大統領の11月21日の声明について、「モスクワの絶え間ない軍事的威嚇が主に修辞的なものにとどまっている」とし、クレムリンの「レッドライン」には一貫性がなく、西側諸国がプーチン大統領のブラフを見破るたびに、それを変更してきた、と指摘しています。


5.オレシュニクは新しくない


また、戦争研究所は、プーチン大統領と、国防省幹部やミサイルシステム開発代表者との会談についても、22日のレポートで次のように分析しています。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領とロシア軍指導部は、ロシア軍が11月21日にウクライナに向けて発射した弾道ミサイルを絶賛し続けている。これは、ロシアの能力に対する期待を人為的に膨らませ、西側諸国とウクライナの自主抑止力を高めるためだと思われる。

プーチン大統領は11月22日、ロシア国防省指導部、ロシアの防衛産業基盤の代表者、ロシアのミサイル開発業者らと会合を開き、ロシアを「脅迫しようとしている者」への対抗手段として、ロシア軍がオレシュニク弾道ミサイルの「成功した」テストを実施したことを祝福した。

プーチン大統領は、オレシュニクミサイルは旧ソ連のミサイルの近代化ではなく、ロシアの設計者が「現代の最先端の開発に基づいて」作成したと主張した。プーチン大統領は、オレシュニクに対する防御システムは存在しないという主張を繰り返し、ロシアはすでにその生産量を増やす計画があると報告した。ロシア戦略ミサイル軍司令官セルゲイ・カラカエフ大将はプーチン大統領に対し、オレシュニクはヨーロッパ全土の標的を攻撃できると語り、世界中どこにもオレシュニクに類似するものは存在しないと強調した。

しかし、11月21日の弾道ミサイル攻撃に関する米国とウクライナの報道では、オレシュニクミサイルは本質的にロシアの新しい能力ではないと強調されている。ホワイトハウスと国防総省の当局者は、ロシアがウクライナに向けて中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射したことを確認し、国防総省の報道官サブリナ・シン氏は、ロシアは既存のロシアのRS-26ルベジ大陸間弾道ミサイル(ICBM)モデルをベースにIRBMを開発したと述べた。シン氏はまた、ウクライナはオレシュニクよりも「大幅に大きい」弾頭を持つミサイルによるロシアの攻撃にすでに直面していると繰り返した。

ウクライナの軍事情報局(GUR)は11月22日、ロシアが11月21日に発射したIRBMは実際には「ケドル」ミサイルであるとウクライナは評価していると述べた。これは、ロシアが2018年から2019年にかけて、ヤルスICBMモデルをより短い距離に更新する取り組みの一環として開発してきたものである。GURのキリロ・ブダノフ中将は、ウクライナは「オレシュニク」がケドルミサイルのミサイル研究開発プロジェクトのコードネームであると考えていると明言した。

ISWはこれらのGURの声明を独自に確認することはできないが、11月21日のロシアの弾道ミサイル攻撃はロシアの根本的に新しい能力を示すものではないというISWの評価は注目に値し、一致している。ロシアは11月21日の攻撃をめぐる誇張された宣伝から利益を得ており、オレシュニクミサイル発射に対する懸念を煽ることで西側諸国がウクライナへの支援を縮小することを期待している可能性が高い。

ロシアは、同様の修辞効果を得るために、今後数日中に同一または類似の弾道ミサイルの試験発射も行う可能性がある。ロシアの情報筋は、ロシアがミサイル試験のため11月23日から24日に領空の一部を閉鎖すると主張したが、ロシア軍が試験するミサイルの種類については明らかにしなかった。GURのヴァディム・スキビツキー副司令官は11月22日、ロシアはおそらく最大10発のオレシュニクミサイルを保有しており、今後これらすべてのミサイルの試験発射を行う可能性が高いと警告した。
戦争研究所は、オレシュニクミサイルは本質的にロシアの新しい能力ではないと評価し、21日のミサイル発射は、それを煽ることで、西側諸国のウクライナへの支援を縮小させようとするブラフだと分析しているようです。

確かに、これまでを振り返れば、プーチン大統領の「レッドライン」はズルズルと後退していっていることは事実だと思いますけれども、だからといって、それが将来に渡ってもそうであるという保証はありません。


6.停戦・講和への道


23日、ロイター通信は、ウクライナによるロシア西部への越境攻撃について、ウクライナが当初、掌握したロシア領土の40%以上を失ったと伝えています。

ウクライナ軍参謀本部の関係者の情報によると、ウクライナは今年8月にロシア西部クルスク州への越境攻撃を開始した際、およそ1400平方キロメートルのロシア領土を掌握したものの、その面積はこれまでにおよそ800平方キロメートルまで縮小したとのことです。

ウクライナは、ロシア軍による反撃が繰り返し行われた結果だとし、ウクライナ軍参謀本部の関係者は「軍事的に妥当な限りにおいて、この地域を維持する」と述べ、残された地域の掌握に全力をあげるとしています。

また、この関係者はロシアに派遣された北朝鮮軍の部隊について、およそ1万1000人がクルスク州に到着したものの、その大部分は依然、訓練の最終段階にあると明らかにしています。

一方、ロシア軍の侵攻が続くウクライナ東部ドネツク州の状況については、ロシア軍が要衝ポクロウシクへの足がかりとなる地域で、1日あたりおよそ200メートルから300メートルのペースで前進を続けているとして、ウクライナ軍にとっての脅威となっているという見方を示したとのことです。

このままいってもジリ貧です。既に大勢が決した以上、ロシア・NATOの公式戦争への拡大、そして、第三次世界大戦を食い止めるべく、停戦・講和の道を探るべきではないかと思いますね。


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