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1.国民民主党が単独法案提出
11月28日、国民民主党は「年収103万円の壁」の見直しに向け、政府が講じる措置などを定めた法案を衆院に単独で提出しました。国民民主は先般の衆院選で議席が28に増え、法案提出に必要な21議席を超えたことから、衆院では初の単独提出となりました。
法案の要綱は次の通りです。
賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するために所得税に関し講ずべき措置に関する法律案要綱このように、所得税がかかる課税水準を178万円に引き上げるとばっちり明記しています。
一 趣旨
この法律は、物価が上昇し、日常生活を営むのに必要な費用が増加している現下の経済状況において、名目賃金の水準の上昇に伴うその上昇率を上回る率の国民の所得税の負担の増加及び現行の所得税制度がもたらす国民の就労の抑制(以下「賃金上昇を上回る所得税の負担増加等」という。)が国民生活及び国民経済に悪影響を及ぼしていること等に鑑み、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障に資する観点から、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するために所得税に関し講ずべき措置について定めるものとすること。(第1条関係)
二 現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するための措置
1 現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するため、令和7年分以後の所得税について、次に掲げる措置を講ずることにより所得税の課税最低限(所得税が課される最低限度の所得額をいう。三の2において同じ。)を引き上げるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとすること。
①平成7年度の地域別最低賃金(最低賃金法第9条第1項に規定する地域別最低賃金をいう。以下同じ。)の平均額に対する令和6年度の地域別最低賃金の平均額の比率に基づき基礎控除の最高控除額及び給与所得控除の最低控除額の合計額を103万円から178万円に引き上げること。
②扶養親族のうち年齢16歳未満の者に対する扶養控除を導入すること。
③特定扶養親族(所得税法第2条第1項第34号の3に規定する特定扶養親族をいう。③において同じ。)に係る扶養控除の適用を受けるための特定扶養親族の合計所得金額の上限額を引き上げること。(第2条第1項関係)
2 1に定めるもののほか、政府は、この法律の施行後速やかに、現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するため、物価上昇率、名目賃金上昇率、地域別最低賃金の平均額の上昇率、租税収入の動向等を勘案して、所得税の税率構造における各税率区分の幅を定める金額の引上げ及び税率区分の細分化その他現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等を緩和する措置について検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。(第2条第2項関係)
3 政府は、1及び2に定める措置を講ずる場合においては、当該措置を講ずることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとすること。(第2条第3項関係)
三 継続的な検討
1 政府は、二の1の①に定める合計額について、地域別最低賃金の平均額の上昇等に応じて、その引上げについて不断に検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。(第3条第1項関係)
2 1に定めるもののほか、政府は、二に定める措置が講ぜられた後においても、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処する観点から、毎年、物価の状況、名目賃金の水準、地域別最低賃金の平均額の状況、国民の所得税の負担の状況等を踏まえ、所得税の課税最低限の引上げ、所得税の税率構造の見直し等を行う必要の有無及びその内容について検討を行い、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。(第3条第2項関係)
3 二の3は、1及び2に定める措置を講ずる場合について準用すること。(第3条第3項関係)
四 施行期日
この法律は、公布の日から施行すること。(附則関係)
法案提出について、玉木雄一郎代表は記者団に対し「我が党が衆議院で単独で提出する最初の法案である。衆議院選挙で訴えた『手取りを増やす』経済政策を具体的な法案のかたちでお示しすることができたのは、私達に期待を寄せていただいた国民の皆様の一票の結果である。そのことを自覚し、これからも政策実現に取り組んでいきたい」と語りました。
2.内閣府による所得減税の影響試算
自民、公明、国民民主の3党は、所得減税のための協議を始めていますけれども、11月20日の3党税制調査会長らによる協議で、国民民主は減税の経済効果を示すよう求めていました。
これに対し、11月28日の協議の場で、所得税減税を行った場合の経済への影響について試算が提示されました。
試算は内閣府が、直近2024年7~9月期のGDP速報値や24年度の国と地方の税収見込みなどを基に推計。所得税を名目GDP(国内総生産)1%相当額に当たる6.1兆円分継続して減税した場合、1年目は税収が6.0兆円減少する一方、実質GDPは1.2兆円の拡大にとどまり、2年目は5.6兆円、3年目には5.3兆円それぞれ減収となるが、実質GDPはいずれの年も1.8兆円の拡大にとどまるとしています。
この試算は「税収減が、景気拡大を通じた増収で相殺される程度は小さい」と、減税による消費拡大が経済全体の活性化につながるとする国民民主の主張とは食い違っています。
これだけ聞くと、国民民主のいう「103万円の壁」引き上げは大したことないのか、なんて聞こえなくもないですけれども、この政府試算について、日本維新の会の金子洋一元参院議員は、次の様にツイートしています。
「税収減、景気拡大でカバーできず」と宮沢自民党税調会長側が出してきた内閣府の試算だが、騙されてはいけない。そもそも政府が6.1兆円減税したということは、国民が6.1兆円分豊かになったということ。それに加えてGDPが1.2兆円増えればそれだけでも大きな効果だということは言うまでもない。
また、それに加えて技術的な論点になるが、この内閣府の計量モデルは簡単にいえば戦前に作られたケインズ経済学のIS-LM分析を多少改造した短期的な経済の需要サイドの予測しかできないモデルで、財政出動や給付金の効果は比較的正確に予測できるが、一方で、供給サイドにも効果が出る減税の効果は計測しても正確さは期待できないモデル。
例を上げれば、103万円の壁が撤廃されて、より多くの人々がパートに出ることになって労働力供給が増えることとか、減税で国民がより消費に積極的になる(消費性向が上がる)ことは原理的に計算に入っていないもので、減税の効果は過小評価になってしまう性質のもの。
その意味で、減税の計算に短期経済モデルを使うのはインチキとまでは言わないが誤解を招く使い方だ。内閣府、経済企画庁の先輩として忠告するが、他の役所からの依頼があったからといって、唯々諾々と短期モデルを減税のケースで使っていては官庁エコノミストの名がすたるよ。
金子氏は、経済企画庁(現・内閣府国民生活局)に入庁後、関東学院大学経済学部非常勤講師やOECDエコノミストを務めるなど、経済官僚出身で、今回の政府試算のやり方から苦言を呈しています。
「税収減、景気拡大でカバーできず」と宮沢自民党税調会長側が出してきた内閣府の試算だが、騙されてはいけない。そもそも政府が6.1兆円減税したということは、国民が6.1兆円分豊かになったということ。それに加えてGDPが1.2兆円増えればそれだけでも大きな効果だということは言うまでもない。… pic.twitter.com/FQhSe7SQUx
— 金子洋一神奈川20区(相模原市南区、座間市)日本維新の会 (@Y_Kaneko) November 28, 2024
3.短期日本経済マクロ計量モデル
金子氏が指摘した政府のマクロ計量モデルとは、おそらく内閣府のこちらのサイトにある「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の構造と乗数分析」のことではないかと思われます。
件の文書の冒頭部分を引用すると次の通りです。
1-1 モデルの基本的構造金子氏が「戦前に作られたケインズ経済学のIS-LM分析を多少改造した短期的な経済の需要サイドの予測しかできないモデル」と指摘するように、文書では、「「マンデル=フレミング・モデル(IS-LM-BP モデル)を基本のフレームワークとしつつ、価格をフィリップス曲線で内生化した「価格調整を伴う開放ケインジアン型」として構築されている」と記されています。そもそも、題名から「短期日本経済マクロ計量モデル」とありますからね。
内閣府・経済社会総合研究所では、様々な政策や外的ショックが日本経済に与える影響を定量的に評価するために、「短期日本経済マクロ計量モデル」を開発し公表している。このモデルは、1年程度の短期的な調整過程を描くことに主眼をおいたもので、マンデル=フレミング・モデル(IS-LM-BP モデル)を基本のフレームワークとしつつ、価格をフィリップス曲線で内生化した「価格調整を伴う開放ケインジアン型」として構築されている。
今回公表する 2022 年版のモデルは、方程式数 152 本(うち推定式 47 本)の中型モデルで、そのパラメータには、(原則)2020 年迄の四半期マクロ時系列データを用いて得られた推定値を活用している。
「短期日本経済マクロ計量モデル」については、その活用の実情にも鑑み、モデルの最初の公表(堀・鈴木・萱園 [1998])以降、モデルの定式化の改良と現実の経済構造の経年変化を踏まえた再推計が(3~4年毎の頻度で)行われており、その結果は、方程式体系および乗数を含む資料として代々公開されてきた 。本 2022 年版モデルは、初代(1998 年版)から数えて 10 回目の改訂版(第 11 版)に相当する。
モデルは、財貨・サービス市場、労働市場、貨幣市場、及び外国為替市場の4市場から構成されており、それぞれの市場に関するモデルの基本構造は以下の通りである。
(1) 財貨・サービス市場
需要側は、家計と企業の経済行動で定まる民間消費、投資(企業設備、住宅)、外生扱いの政府支出、所得要因と相対価格要因から定まる外需(輸出-輸入)の合計として決定される。このうち民間消費は、短期的には可処分所得に影響を受けるが、長期的には家計保有の資産に依存する。また設備投資は、要素価格均等化式(資本の限界生産力が資本コストに等しい)に基づく均衡資本ストックへの現実資本ストックの調整を基本としつつ、調整速度が短期的な経済状況に依存するような定式化が考えられている。GDP水準は、価格調整が完全でない短期においてこの総需要により定まり、その関係がモデルの IS 曲線を構成する。
一方、供給側では、短期的には所与である生産要素(労働供給、資本ストック)が生産関数を通じ潜在 GDP に変換される。長期においては、生産水準と潜在 GDP から定まるマクロの稼働率(GDP ギャップ)がフィリップス曲線等を通じ物価や労働供給に影響を与え、調整メカニズムが働いて均衡稼働率水準への回帰が生じる。
(2) 労働市場
伝統的なモデルでは、労働市場に関し古典派の第一公準(労働の限界生産性が実質賃金に一致)を基礎とした実質賃金での調整を考える。しかし、我が国において賃金が労働市場を均衡に向かわせる力はあまり顕著ではなく、むしろ雇用状況(景気状況)に応じて労働分配率が調整されていると考えるのが現実的だろう。本モデルでは、景況を踏まえた労働分配率の調整により賃金が定まるメカニズムを大枠としつつ、労働需要はそこで与えられた労働分配率と生産水準から定まる設計になっている。他方、労働供給は、人口や高齢者の割合、実質賃金に依存して定まる。
(3) 貨幣市場
貨幣市場では、短期利子率が、いわゆるテイラー・ルール(GDP ギャップや物価上昇率の状況を踏まえた短期金利の調整)に従った政策反応関数によって決定される(但し、近年のゼロ金利状況を踏まえ、ルールに基づく金利水準がマイナス値を取る場合、正の下限値0.001%で固定した)。マネーサプライはマネーの需要関数により内生的に定まる。長期金利は、短期金利との期間構造から決定される。このようにして定まった名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利が、財貨・サービス市場の総需要水準にも影響する。
(4) 外国為替市場
為替レート決定のメカニズムは、内外相対価格による均衡レートおよび内外金利差に依存するいわゆるアセット・アプローチによる。為替レートは輸出入価格、実質輸出入及び要素所得の受け払いに影響を与え、それらから経常収支が決定される。資本収支は、外国為替市場の均衡関係(BP 曲線)により、定義的に定めている。
なお、政府部門は一般政府ベースで定義されている。支出側は、政府投資と政府消費および社会保障給付であり、このうち政府投資は外生的に、他は内生的に決定される。歳入側は、個人税、法人税、間接税(含む消費税)および社会保障負担から構成されている。
以上の4市場と政府・財政部門の構造は、以下の表の形で要約できる。
【以下略】
更に、金子氏は、「103万円の壁が撤廃されて、より多くの人々がパートに出ることになって労働力供給が増えることとか、減税で国民がより消費に積極的になる(消費性向が上がる)ことは原理的に計算に入っていないもので、減税の効果は過小評価になってしまう」と指摘していますけれども、モデルを構成するとしている財貨・サービス市場、労働市場、貨幣市場、外国為替市場の説明を見ても、労働供給は「人口や高齢者の割合、実質賃金に依存して定まる」となっていて、「103万円の壁」による「働き控え」の要素は見当たりません。
また、減税については、文書中の「2-1-3 個人所得税減税」で次のように説明されています。
2-1-3 個人所得税減税金子氏は、消費性向が上がると指摘しているのに対し、政府のモデルでは、「みんな貯金するから消費性向が上がらない」というのですね。まぁ、ここは人によって見方が分かれるところでしょう。
個人所得税を名目 GDP の1%相当額継続的に減税した場合の実質 GDP の拡大率(1年目)は、概ね 0.2%程度である(表 2-3 参照)。減税乗数が公共投資乗数に比べて小さいのは、公共投資が公的部門の支出という形で需要を直接的に拡大するのに対し、減税の場合、可処分所得は増加するが、家計の支出行動によってその効果が左右される(貯蓄への漏れが生じる)ことによる。
国際収支への影響を見ると、内需の増加を受けて輸入が増加し、かつ金利上昇による対外利払いが増えるため、経常収支の名目 GDP 比は 0.1%ポイント前後悪化する。
ただ、仮に「みんな貯金して金を使わない」がその通りだったとしても、それは2022年のモデルでの話であって、「エンゲル係数」が爆増し、G7でトップとなってしまった今では、その貯金する余裕すらなくなっているであろうと推測できます。食うのに最低限必要な金は貯金できないからです。
4.減税したらどれだけ税収は増えるのか
減税効果について、金子氏は、減税したらどれだけ税収は増えるのかとの質問をいただいたとして、別のツイートで次のように述べています。
「6.1兆減税した結果、GDPが1.2兆(0.22%)増えるとした場合、税収弾性値を考慮すれば税収はいくら増えるのでしょうか?」というご質問をいただきました。税収弾性値とは、経済成長(GDP成長)に伴い税収がどの程度変化するかを示す指標であり、具体的には、「GDPが1%成長した場合に、国の税収が何%増えるのか」を表します。現在のようにGDPギャップがあるとき(つまり経済が過去の巡航速度よりも低い場合)には2~3程度であるので、仮に3と置いておおざっぱに計算すると、金子氏は政府のGDP1.2兆円(0.22%)増加という試算は計算モデル自体が不適切であり、実際はもっと増加する筈だと述べています。畢竟、GDP増加率に連動する税収も増えることになります。
GDP増加率0.22%× 税収弾性値 3.0倍=国の税収0.66%増
2024年度の税収を73.5兆円とすると、73.5×0.66=0.5 となり来年度には約5千億円の税収増が見込めることになります。
ただし、この短期経済モデルでのGDP1.2兆円(0.22%)増加という計算結果は、103万円の壁が撤廃されて、より多くの人々がパートに出ることになって労働力が増えることとか、恒久的な減税で国民がよりお金を使うようになる(消費性向が上がる)ことなどは原理的に計算に入っていないため、減税の効果はGDP増1.2兆円を大きく上回ることは明らかでしょう。
「6.1兆減税した結果、GDPが1.2兆(0.22%)増えるとした場合、税収弾性値を考慮すれば税収はいくら増えるのでしょうか?」というご質問をいただきました。税収弾性値とは、経済成長(GDP成長)に伴い税収がどの程度変化するかを示す指標であり、具体的には、「GDPが1%成長した場合に、国の税収が何%増… pic.twitter.com/VtTfOuXJuK
— 金子洋一神奈川20区(相模原市南区、座間市)日本維新の会 (@Y_Kaneko) November 29, 2024
5.減税によって税収増を果たした名古屋市
翻って、減税によって税収増を果たした”今をときめく”名古屋市はどうなっているか。
名古屋市の税収増について市の資料では次のように説明されています。
市税収入は、近年、増収傾向にありますが、令和3年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響などにより減収となりました。近々の税収増は、企業業績が上向いたことで、定額減税による減収を補って、上回ったからだと説明しています。
なお、税制改正の影響として、平成30年度は、個人市民税が、県からの税源移譲により増収となり、令和2年度は、法人市民税が、法人税割の一部国税化の拡大により減収となりました。
令和6年度予算では、個人市民税が国の経済対策である定額減税により減収となるものの、法人市民税が企業業績の改善により、固定資産税が3年に一度の評価替えなどにより、それぞれ増収となることから、3年連続で過去最高となりました。
この資料では消費性向について説明されていないのですけれども、名古屋市は2012年から市民税5%減税を実施しています。河村・前名古屋市長が名古屋市長に初当選したのは2009年で、ずっと減税しているのですね。
名古屋市は2014年に、市民税5%減税検証報告書を出しています。
この報告書では、市民税 5 %減税と歳出削減を実施するケースⅠと、これらを実施しなかったと仮定したケースⅡとで比較シミュレーションをしており、その検証結果のまとめとして次のように述べられています。
第 4 市民税 5 %減税に関する検証結果のまとめこのように市民税 5 %減税によって、減収分を補うほどの増収効果はないとする一方、名古屋市GDPは年平均で0.17%程度押し上げるとしています。
アンケート調査や名古屋市計量モデルによるシミュレーション分析の結果については、すでに第 2 及び第 3 において述べたところであるが、今回、実施した市民税 5 %減税の検証は、この報告書の冒頭においても述べたとおり、「市民税の減税について、その目的を踏まえ、検証するものとする」と規定した減税条例附則第 4 項に基づいて行ったものであるため、この章においては、先述した検証結果を「市民生活の支援」、「地域経済の活性化」、「将来の地域経済の発展」という市民税 5 %減税の目的との関係において改めて整理し、検証結果全体を総括する。
1 「市民生活の支援」
「市民生活の支援」という制度目的に対して市民税 5 %減税が寄与しているかどうかを把握するために行った調査が個人に対するアンケートである。
調査の結果、市民税10%減税が実施された平成22年度当時と比較して、市民税 5 %減税の認知度は低下していることが判明したが、減税相当額の使途に関しては、回答者の 5 割以上が「日常の生活費」と回答しており、その一方で「旅行・レジャー、外食など日常の生活費以外」と回答した者は 5 %以下であるため、このような状況に鑑みると、市民税 5 %減税は、ある程度、「市民生活の支援」に寄与したのではないかと考えられる。
ただし、自由意見の中には、減税額が少なく実感がないため、他の施策に使ったほうがよいという趣旨の意見もあった。
なお、市民税 5 %減税の実施に伴って減税相当額を寄附した者については、かなり限定的であった。
2 「地域経済の活性化」及び「将来の地域経済の発展」
「地域経済の活性化」及び「将来の地域経済の発展」という制度目的に対して市民税 5 %減税が寄与しているかどうかを把握するために行った調査が法人に対するアンケートと計量モデルによるシミュレーションである。
このうち法人に対するアンケート調査の結果を見ると、減税相当額の使途について、 5 割以上の法人が「経常的な経費」(51.5%)と回答している一方、「従業員等の給与増や雇用の拡大」( 7.6 %)や将来的な投資の原資となる「内部留保」(14.8%)と回答した法人は 2 割程度となっていることから、これらの点を総合的に勘案すると、市民税 5 %減税は、企業活動を下支えする要素の一つにはなっているものの、生産性の向上を図るための企業の長期的なビジョンを大きく変えるような作用はないと考えられる。
また、名古屋市計量モデルによるシミュレーション分析の結果を見ると、市民税 5 %減税を継続して実施した場合における今後10年間の市内総生産(名目)や民間最終消費支出(名目)、企業所得の伸び率は、市民税 5 %減税を実施しないと仮定した場合における伸び率をいずれも上回っており、市内総生産(名目11兆7,854億円:平成23年度)を例に見れば、 115 億円の減税を行うことにより、10年間で1.76%程度、年平均では0.17%程度( 200 億円程度)の押し上げ効果が認められる。
ただし、税収面への影響については、市民税 5 %減税による減収分を補うほどの増収効果を生むものではないと考えられる。
けれども、もっと注目すべきは、「市民生活の支援」です。
個人に対するアンケートでは、減税相当額の使途について、回答者の5割以上が「日常の生活費」と回答しています。つまり減税分、国民民主的にいえば「手取りが増えた分」はそのまま日常の生活費に使うといっているのですね。
国民民主が、103万円の壁引き上げについて「財源論の前に国民の生存権の問題だ」と強調していますけれども、名古屋の検証結果を見る限り、当たっているように思います。
しかも、名古屋市の検証当時から更にエンゲル係数が上がっていることを考えると猶更です。
政府は、103万円の引き上げ幅について、物価上昇率を基準に控除額を決めることで、減税幅を圧縮しようとしていますけれども、第一生命経済研究所の試算によると、消費者物価指数(総合)は1995年と比べて、2024年は1割強の上昇で、これを基に引き上げ幅を算出すると課税水準は116万円、食料品や光熱費など生活必需品を中心とした物価上昇率だと128万円、食料品のみの上昇率では140万円になるとしています。
日本国憲法第25条で定められている生存権は「国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と定義されています。
果たして、「健康で文化的な最低限度の生活」なるものをどこに設定するのか。筆者は、食料品や光熱費など生活必需品だけでは「健康」かもしれないけれども「文化的」とはいいがたい。
103万円の壁を生存権の問題とするならば、やはり最低賃金を基準にする国民民主の主張に分があるのではないかと思いますね。
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