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1.韓国の非常戒厳宣布
韓国で突然戒厳令が出され、数時間後に解除される事件が起きました。
12月3日午後10時半頃、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜、来年の予算案に合意しない野党側の対応などを理由に一切の政治活動を禁じるなどした「非常戒厳を宣布する」と明らかにしました。
尹錫悦大統領の『非常戒厳宣布』会見テキストは次の通りです。
尊敬する国民の皆様、私は大統領として血を吐く気持ちで国民の皆さんに訴えます。尹大統領によると、野党が国政を邪魔しまくっていることが「国家非常事態」にあたると宣言した訳です。
これまで国会は尹錫悦政府の発足後、22件の政府官僚の弾劾訴追を発議し、今年6月の第22代国会の発足後にも、10人目の弾劾を進めています。これは世界のどの国にも類例がないだけでなく、建国以後にも全く類例がなかった状況です。
判事を脅かし、多数の検事を弾劾するなど司法業務を麻痺させ、行政安全部長官の弾劾、放送通信委員長の弾劾、監査院長の弾劾、国防長官の弾劾の試みなどで、行政府まで麻痺させています。
国家予算の処理も国家本質的な機能と麻薬犯罪の取り締まり、民生治安維持のためのすべての主要予算を全額削減し、国家本質機能を毀損し、大韓民国を麻薬天国、民生治安の恐慌状態にしました。
共に民主党は来年度予算で災害対策予備費1兆ウォン、子供の支援手当て384億ウォン、青年雇用、深海ガス田開発事業など4兆1000億ウォンの削減、さらには軍初級幹部の給料と手当ての引き上げ、当直勤務費の引き上げなど軍幹部の処遇改善費さえも制動をかけました。
このような予算の暴挙は、一言で言って大韓民国の国家財政を籠絡するものです。 予算までもひたすら政争の手段として利用するこのような共に民主党の立法独裁は、予算案弾劾までも躊躇しませんでした。
国政は麻痺し、国民のため息は増えています。これは自由大韓民国の憲政秩序を踏みにじり、憲法と法により正当な国家機関を撹乱させるもので、内乱を企てる明白な反国家行為です。
国民の暮らしは眼中にもなく、ひたすら弾劾や特別検察、野党代表の防弾(訳注:李在明代表の裁判をめぐり党を挙げて同氏を守ろうとする民主党の動き)で国政が麻痺状態にあります。
今、韓国国会は犯罪者集団の巣窟となり、立法独裁を通じて国家の司法行政システムを麻痺させ、自由民主主義体制の転覆を図っています。
自由民主主義の基盤となるべき国会が、自由民主主義体制を崩壊させる怪物になったのです。今、大韓民国は崩壊してもおかしくないほどの風前の灯と言うべき運命を迎えています。
親愛なる国民の皆さん、私は北韓(編注:朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮)共産勢力の脅威から自由大韓民国を守り、韓国国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に剔抉(訳注:撲滅)し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布します。
私はこの非常戒厳令を通じて、亡国の奈落に落ちていく自由大韓民国を再建し守り抜きます。
そのために私は今まで道理にもとる悪事をはたらいてきた亡国の元凶である反国家勢力を必ず剔抉します。これは体制の転覆を狙う反国家勢力の蠢動から国民の自由と安全、そして国家の持続可能性を保障し、未来世代にまともな国を譲るための、避けられない措置です。
私はできるだけ早い時期に反国家勢力を剔抉し、国家を正常化させます。戒厳宣布により自由大韓民国憲法の価値を信じて従って下さった、善良な国民の皆様に多数の不便があるでしょうが、このような不便を最小化することに注力します。
このような措置は、自由大韓民国の永続性のためにやむを得ないものであり、国際社会に責任と貢献を果たすという対外政策基調に何の変わりもありません。
大統領として国民の皆様に心よりお願い申し上げます。私はひたすら国民の皆様だけを信じて、身命を捧げて自由大韓民国を守り抜きます。私を信じてください。ありがとうございます。
2.一発逆転を狙った尹錫悦
韓国の憲法77条1項では「大統領は戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において、兵力をもって軍事上の必要に応じる、あるいは公共の安寧秩序を維持する必要がある時には、法律の定めに則り戒厳を宣布することができる」と規定していますけれども、非常戒厳はこれまで合わせて9回宣布されています。
それらは次の通りです。
・朴正煕大統領が銃撃で死亡した10・26事件直後(1979年10月27日~1981年1月24日)ただ、韓国で非常戒厳が出されたのは1987年に民主化が宣言されて以降、初めてのことで、韓国国防省は軍の態勢を強化し、戒厳司令部の部隊が国会の建物に突入する事態となりました。
・釜馬民主抗争(1979年)
・10月維新(1972年)
・6・3抗争(1964年)
・5・16軍事クーデター(1961年)
・4月革命(1960年)
・朝鮮戦争(1950年)
・麗水(ヨス)・順天(スンチョン)事件(1948年)
・済州(チェジュ)4・3(1948年)
今回戒厳令が出された背景には、2022年に発足した尹政権の支持率が20%前後に低迷したことがあり、更に4月の総選挙での与党大敗で国会も野党が過半数を占め、国政運営がままならない状況に追い込まれたことから、野党を力で抑え込んで自らの権力を守る非常手段に出たともみられています。
この尹大統領の宣言を受け、戒厳司令官は、布告令を発布。集会やデモなどを含む政治活動が禁止されるほか、世論操作などを禁止し、すべてのメディアと出版が統制を受けるとしていました。
3.一人クーデター失敗
当然ながら、この突然の戒厳令は猛烈な反発を招きました。
尹大統領の非常戒厳宣布が伝えられると、野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表はもちろん、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表も反対の意思を明らかにしました。
なんでも、共に民主党は以前から、尹大統領がいわゆる軍内の「沖岩派(尹大統領と同門の沖岩高校出身)」を通じて非常戒厳を宣布する可能性があると主張していたそうです。
尹大統領の発表を受け、韓国の国会は4日未明に本会議を開き、非常戒厳を解除するよう要求する決議案を、出席議員190人の全会一致で可決し、国会議長が「戒厳の宣布が無効になった」と述べました。
韓国憲法では、国会に在籍する過半数の賛成で戒厳の解除を要求した場合は、大統領はこれを解除しなければならないと定められており、国会によって戒厳令は解除を余儀なくされました。
尹大統領は、4日午前4時半ごろ、再び談話を発表。軍を撤収させたとした上で、「ただちに、閣議を通じて国会の要求を受け入れ、戒厳を解除する」と述べました。これを受け、韓国の通信社、連合ニュースは4日午前5時ごろ、非常戒厳は解除されたと伝えています。
尹大統領の非常戒厳の宣布について、最大野党「共に民主党」は4日午前、決議文を発表し「ユン大統領の非常戒厳宣言は明白な憲法違反だ。これは内乱行為であり、完全に弾劾事由だ」と非難した上で、ユン大統領に対し直ちに自ら辞任するよう求め、退陣しない場合には「共に民主党」は直ちに尹大統領の弾劾手続きに入るとしています。
結果として戒厳令は6時間で終わったことになりますけれども、傍からみれば、尹大統領の一人クーデターが失敗に終わったように見えます。
民主化以前はいざ知らず、民主化後初めての戒厳令では、やはり国民の支持がポイントになります。
今回の戒厳令発布について、韓国の人は驚きと共に「なぜ非常戒厳を宣言したのか、理由が分からない」という困惑する声が多く聞かれたそうですから、支持は弱かった。国会過半数で戒厳解除されるところが出席議員190人の全会一致で戒厳解除の法案が通ったところをみれば、それは明らかです。
クーデター失敗で、尹大統領は増々追い詰められました。弾劾からの大統領失職もあるかもしれませんね。
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