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1.韓国中央選挙管理委員会に投入された戒厳軍
12月3日夜に起って翌朝に解除された、韓国の戒厳令ですけれども、徐々にその背景が報じられています。
尹錫悦大統領の非常戒厳令宣布後、戒厳軍が京畿道果川市の中央選挙管理委員会に入り込み、職員や庁舎への出入りを規制したことが判明しました。
韓国国会の行政安全委員会に所属する金城会(キム・ソンフェ)議員の議員室が4日に中央選挙管理委員会から提出を受けた「緊急懸案質疑報告資料」によると、尹大統領が3日午後10時24分に行った非常戒厳宣布からわずか6分後の10時30分頃、戒厳軍10人と警察10人が中央選挙管理委の果川庁舎に投入されたとのことです。
投入された戒厳軍10人は中央選管の夜間当直室に進入し、当直者5人の携帯電話を押収して行動を監視するとともに庁舎出入りを統制したと伝えられています。
そして、午後11時に戒厳司令官の非常戒厳布告文が発令された後の午後11時50分頃、警察90人余りが追加投入され、さらに4日午前0時30分頃には戒厳軍増援兵力110人余りが庁舎周辺に配置されたとのことで、戒厳軍は合わせておよそ3時間20分にわたって庁舎を占拠しました。
また戒厳軍は、午前0時14分には中央委員会冠岳庁舎に47人、午前0時50分には京畿道水原にある中央選管選挙研修院に130人を投入しています。
4日午前1時に国会が非常戒厳解除要求決議を可決すると、戒厳軍は午前1時50分に果川庁舎から、午前2時40分に冠岳庁舎から撤収。警察は、午前4時30分に戒厳解除が国務会議で議決されてからさらに2時間30分後の午前7時に撤収しています。
2.国会封鎖は安全措置
当時、平行して韓国国会にも警察が配備されました。
尹錫悦大統領の非常戒厳令声明直後の午後10時28分頃、韓国警察は国会周辺に5個機動隊を配置。
これは国会周辺の安全と秩序維持を目的としたものだったようで、チョ・ジホ警察庁長官がキム・ボンシク・ソウル警察庁長に電話で「国会周辺の安全措置を講じるよう」指示したことが明らかになっています。
3日午後10時46分、キム長官は国会内部へ移動しようとする人々に対して、突発事態が発生する可能性が高いという理由で一時的な出入り統制を指示。その後、午後11時6分からは国会議員や関係者に対して身分確認の上、出入りを許可し始めていました。
しかし、午後11時37分に戒厳令布告が発表されると、チョ長官が警察庁警備局を通じてソウル警察庁の公共安全次長に全面統制を指示。再び国会出入りを全面的に遮断しています。
チョ長官は4日午前0時に警察指揮部のテレビ会議を主宰。午前0時46分には全国の警察署に対し警戒強化と非常勤務を発令しています。
国会は4日午前1時1分に非常戒厳令の解除を議決。警察は午前1時45分に国会事務総長の要求に応じ、国会関係者のみ出入りを許可しています。
3.不正選挙を暴くことが必要だ
時間的には、戒厳軍が最初に到着したのは国会ではなく、中央選挙管理委員会だったのですけれども、金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防部長官は、不正選挙疑惑を捜査するためだと述べたと伝えられています。
当時の様子について、中央選管委員会の金竜彬(キム・ヨンビン)事務総長は「警戒作戦だけ実施すると言って、計3時間20分にわたって占拠しました……不正選挙疑惑を捜査するための措置だった」とコメントしています。
また、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は、「選管、選挙に対して非常に大きな不満があるんじゃないでしょうか、大統領は。だから選管が対象となったのでは」と述べています。
更に、黄教安(ファン・ギョアン)元首相も戒厳令の宣布直後に「不正選挙を暴くことが必要だ」と自身のSNS(交流サイト)に投稿。ネットでも一部のユーチューバー達は、選管への捜査が必要だと繰り返し主張していたそうです。
4月10日に投開票が行われた韓国の第22代国会議員選挙では、革新系野党「共に民主党・民主連合」が地滑り的大勝利を収めました。
各党の獲得議席数は次のとおりです。
共に民主党・共に民主連合:175議席(小選挙区161、比例代表14)定数300のうち「共に民主党・民主連合」が6割近くを獲得した半面、保守系与党「国民の力・国民の未来」は108議席にとどまったことから、国会で野党が過半数を占める「ねじれ」現象が続いています。
国民の力・国民の未来:108議席(小選挙区90、比例代表18)
祖国革新党:12議席(小選挙区0、比例代表12)
改革新党:3議席(小選挙区1、比例代表2)
新しい未来:1議席(小選挙区1、比例代表0)
進歩党:1議席(小選挙区1、比例代表0)
一方、大統領が拒否権を行使した法案などへの再可決や大統領への弾劾は、国会議員の3分の2以上の賛成が必要であるため、与党が100議席超を獲得したことから辛うじて回避される状況ですけれども、与党から9人以上の造反がでれば弾劾されてしまいます。
4.軍を使ったガサ入れと迫る弾劾危機
では、4月の総選挙で本当に不正があったのか。
総選挙の期日前投票終了した後、韓国のネットで、選管職員とみられる複数の人物が投票箱の封印紙を破り不法に投票用紙を入れたように見える動画がネットに拡散していました。
これについて中央選挙管理委員会は4月7日付の報道資料で「今月5日の期日前投票初日終了後、全国の全ての館外事前投票回送用封筒は受理する地域の郵便集中局、広域センター、配送地の郵便集中局を経て各配達郵便局に配送された。郵便局はこれを今月6日に各区、市、郡の選管に一斉に配達した……区、市、郡の選管は全回送用封筒の数を確認し、受理が終われば郵便投票箱の封印を解除した上で回送用封筒を入れる」と説明。
選管は「回送用封筒は通常は投票終了時間の午後6時までに毎日配達され、区、市、郡の選管はそのたびに同じ手続きを繰り返す……これは法律に定められた通常の選挙手続きで、全ての過程に政党が推薦した選管委員が参加し立ち会うことで公正性を担保しており、市、道の選管に設置された大型の監視用モニターを通じて透明な形で公開されている」と述べています。
更に、ネットに広まった動画が撮影されたソウル市恩平区選管については「6日午後5時ごろ、郵便局から合計1万9000以上の回送用封筒を受け取り、確認と受理を開始したが、大量の数を一つずつ確認しながら受理したため、受理が完了したのは翌7日未明1時50分ごろだった……同日2時34分から3時45分までに全ての回送用封筒を投票箱に入れた」と釈明しています。
そして、件の動画について「恩平区選管の政党推薦委員二人は回送用封筒の確認、受理、投入の全ての過程に参加し立ち会った……選管職員が深夜に勝手に投票箱の保管場所に入り、郵便投票箱封印紙を破って不法に投票用紙を入れたという指摘は全く当たらない……郵便投票箱の保管状況は監視カメラでリアルタイムに公開されている。そのため選管職員が堂々と不法行為をしたという主張は常識的に納得しがたい……選挙手続きに関する正確な事実関係も確認せず、無条件に不正選挙だと疑い歪曲する行為は国民の世論を扇動し、選挙に対する不信をあおる非常に危険な行為であり、直ちに中止すべきだ」と反論しています。
まぁ、尹錫悦大統領は検察出身ですから、総選挙に関して何等かの情報を得ている可能性もありますけれども、仮に不正選挙疑惑を捜査するためのものだったのなら、日本の感覚ではいわゆる「ガサ入れ」で十分だったのではないかと思ってしまいます。
もっとも、尹錫悦大統領が人脈を持つであろう検察の捜査権は大幅に制限されているため、尹錫悦大統領自らが軍を使って、検察のように選挙不正を暴こうとしたのではないかという意見もあるようです。
或いはもっと深い別の何かがあったのかもしれませんけれども、それが表に出てくるのかどうかは分かりません。
また、不正選挙があったとして、今回の戒厳令でその証拠を押さえたとしても、それを整理し発表するまではそれなりの時間がいるのではないかと思います。
12月5日、世論調査専門会社リアルメーターが成人504人を対象に「非常戒厳事態に関連した尹大統領の弾劾賛否」を調査した結果によると、「賛成する」という回答が73.6%(強く賛成:65.8%、賛成:7.7%)にのぼり、「反対する」は24.0%(強く反対:15.0%、反対:8.9%)、「よく分からない」は2.4%と、圧倒的に弾劾賛成の世論となっています。
果たしてこれがひっくり返ることが起きるのか。要注目です。
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