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1.尹錫悦大統領弾劾訴追案廃案
12月7日、韓国国会は尹大統領が3日夜に発出した非常戒厳宣言が憲法違反だとして、野党6党が共同提出した尹錫悦大統領の弾劾訴追案を採決しました。
結果は、与党議員の殆どが決議前に本会議場から退席し、投票成立の最低ラインとなる200票に届かず、廃案となりました。
7日午後5時に開会した本会議はまず、尹氏の夫人、金建希(キム・ゴンヒ)氏の株価操作や選挙候補者指名への介入などの疑惑を巡り、大統領夫人の金建希氏を捜査する特別検事を任命する法案の採決を行ったのですけれども、国会議員300人のうち102人が反対票を投じたため、要件となる出席議員の3分の2の賛成が得られず、否決されました。
この後、弾劾案の採決に入ると、108人いる与党「国民の力」の議員の大半が退席。与党所属の安哲秀(アン・チョルス)氏が残って投票したほか、一度退席した数人の議員が戻って投票する「造反」が起こったものの、投票者は総議員300人のうち195人にとどまり、投票は不成立となりました。
先の非常戒厳宣言については、与党内での批判が噴出したものの、野党の弾劾案に乗れば次期大統領選に不利にはたらくとみて、弾劾には反対意見が多かったそうです。
採決前日の6日、与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は、CNNのインタビューで尹大統領が政治家の逮捕を指示していたとして「私は昨日、不用意な混乱に陥れて国民や支持者が被害を被らないよう、弾劾決議案の通過は阻止すると発言した。だが新たに発覚した事実を踏まえ、韓国と国民を守るためには尹錫悦大統領の権限を即刻停止させる必要があると判断した」と即時の職務停止を訴えました。この発言を弾劾への賛意と受け取る見方が広がり、与党の一部の賛成で可決する可能性も取り沙汰されていました。
与党は6日夜の議員総会でも弾劾案反対の党の立場を変えず、尹大統領の出方を見極めていて、この日は韓代表や与党幹部が相次ぎ尹大統領と会談しました。
2.第二の非常戒厳はない
翌7日午前、尹大統領は国民向け談話を発表。テレビ中継で国民に謝罪しました。
その談話の全文は次の通りです。
私は12月3日夜11時を期して非常戒厳を宣言した。約2時間後の12月4日午前1時頃、国会の非常戒厳の解除決議に基づいて軍の撤収を指示し、深夜の閣議を経て非常戒厳を解除した。この談話が転機となりました。ベテラン議員がSNSで弾劾反対の理由を発信し始め、弾劾案可決の機運が萎んでいきました。そして与党は7日午後の議員総会で投票拒否を決めました。
今回の非常戒厳宣言は、国政の最終責任者である大統領としての切迫感から始まった。しかし、その過程で国民に不安と不便をおかけした。
大変申し訳なく思い、大変驚いた国民の皆様に心よりおわび申し上げる。私は今回の非常戒厳宣言と関連して法的・政治的責任問題を回避しない。
国民の皆さん、再び非常戒厳が発動されるという話があるが、はっきり申し上げる。第二の非常戒厳のようなことは決してない。 国民の皆様、私の任期を含め、今後の政局安定策はわが党に一任する。
今後の国政運営は、我が党と政府がともに責任を持って行っていく。国民の皆様にご心配をおかけしたことを、改めて深くおわび申し上げる。
3.今後の政権運営
採決まで、野党出身の禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は退席した与党議員に「驚きをもって見ている世界の人たちを失望させないためにも投票に戻ってほしい」と呼びかけていたのですけれども、結果は不成立による否決。禹元植国会議長は「重大な国家的事案に対し投票さえなされなかったのは非常に残念だ」と本会議を散会しました。
弾劾案が廃案となったことで、尹大統領の任期は、2027年5月まで残された形ですけれども、一方、非常戒厳で大統領府や内閣から辞意が相次ぎ、政権運営が困難な情勢となる代償を払うこととなりました。
7日の採決に先立って与党の韓東勲(ハン・ドンフン)代表と、首相の韓悳洙(ハン・ドクス)氏は、会談し今後の方針を擦り合わせています。この日の夜、韓代表は記者団に「非常戒厳の宣言は明白な憲法違反だった……尹氏から事実上の退陣の約束を取り付けた……大統領の秩序ある退陣を推進する。それまで大統領は事実上、職務から排除され、首相が党と協議して国政運営を支障なく進める」と語りました。この通りであれば、尹大統領はお飾り大統領になったということです。
一方、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は採決前、弾劾案が成立しなければ翌週に再提出する意向を示し、今月11日に直ちに臨時国会を開き、あらためて尹大統領の弾劾を求める議案を提出する構えを見せています。
もっとも、再び、弾劾決議案が提出されても与党議員が野党側に同調して、賛成に回るのかは不透明で、今後も与野党の駆け引きが続くと見られています。
大統領の弾劾決議案が廃案となり尹大統領が職務を継続することについて、韓国の政治に詳しい慶應義塾大学の西野純也教授は「野党にとっては与党が全く協力しないばかりか大統領に加担しているというふうに印象づけることも場合によってはできる。こういった状況を来週もまた繰り返していくことになると思う」と指摘。
今後の政権運営については「大統領自身がもはや前面に出てくることは難しい状況なので、国務総理を中心とする政権の閣僚たちが安定的に国政運営を担っていくことになるだろう。その中で大統領は退陣のスケジュールを先延ばしにしながらもめどを立てていくことになると思う。与党の代表はできるだけ早く退いてもらうと言っているが場合によっては野党の李在明(イ・ジェミョン)代表が抱えているさまざまな裁判の結果が出るまでは引き延ばしたいと思っている可能性もある」という見方を示した上で、今後の注目点としては「ポイントの1つは世論の動向で、国会の前や市内中心部でいわゆる蝋燭デモが行われているが、これがさらに広がっていく可能性がある。世論が収まるのはなかなか難しいと思うので、こういった状況が長期化する可能性もある」と述べています。
4.死に体の尹大統領に残された希望
弾劾案が否決され、表向きは大統領職にある尹錫悦大統領ですけれども、それ以外にも不安材料があります。内乱罪です。
検察、警察、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)はそれぞれ特別捜査本部(特捜本)や専任チームを編成し、本格的な捜査を開始しました。
検察の特捜本は、20人の検察官、30人の捜査官に加え、軍検察から派遣された12人を含む約60人で構成されるチームを、9日にソウル東部地検に8年ぶりに設置。指揮を執るのは、朴世賢(パク・セヒョン)ソウル高等検察庁長とされています。
また、警察も同様に、尹大統領の内乱罪や反乱罪、職権乱用の疑いに関する4件の事件を担当するため、120人以上の捜査チームを動員しています。
更に、公捜処は尹大統領や警察高官に関する事件を順次、担当部署に割り振り、捜査を進めているとしています。
今回の捜査は、ユン大統領の弾劾案可否とは関係なく進められるとみられ、検察は、既に収集した証言や関連記録を精査し、事件の全容解明に向けた計画を練っています。尹大統領とともに告発された金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相には、緊急出国禁止措置が取られました。捜査は、尹大統領が非常戒厳を宣言した背景や、その過程で違法行為があったかどうかを重点的に調査すると見られています。
内乱罪は韓国刑法で最も重い罪の一つであり、死刑や無期懲役が適用されます。尹大統領は現職のため刑事不訴追特権が適用される一方で、内乱罪については特権の適用外とされているのですけれども、現実的には起訴に至るまでの法的ハードルが高く、捜査の進展には時間がかかると見られています。
12月7日のエントリー「軍を使ったガサ入れと迫る弾劾危機」で、筆者は、不正選挙の捜査のために戒厳令を出したのだ、という見方を紹介しましたけれども、大統領としては「死に体」に近い状況となった尹大統領は復活するには、その不正選挙が本当であったと証明し、野党を壊滅させないと難しいのではないかと思います。
幸か不幸か弾劾決議が否決され、多少の時間が稼げましたけれども、苦しい状況には変わり有りません。
果たして不正選挙に関する公表があるのかどうか。全てはそこに掛かってきたように思いますね。
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