弾劾裁判を望む尹錫悦大統領の狙い

今日はこの話題です。
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1.尹大統領の国民向け談話


12月12日、韓国の尹錫悦大統領が国民向けにテレビ談話を行いました。

その全文は次の通りです。
尊敬する国民の皆さま、私は今日、非常戒厳に関する立場を明らかにするためにこの場に立ちました。

今、野党は非常戒厳宣布が内乱罪に当たるとして、狂乱の剣の舞を踊っています。

本当にそうですか?

果たして今、大韓民国で国政のまひと国憲の紊乱(びんらん)を繰り広げている勢力は誰ですか?

この2年半の間、巨大野党は、国民が選んだ大統領を認めずに引きずり下ろすため、退陣と弾劾の扇動をやめませんでした。

大統領選挙の結果を承服しなかったのです。

大統領選挙後から現在まで、およそ178回に及ぶ大統領退陣、弾劾集会が任期の初めから開かれました。

大統領の国政運営を麻痺させるため、韓国政府(尹錫悦〈ユン・ソンニョル〉政権)発足後からこれまで数十人の政府公職者の弾劾を推進してきました。

弾劾された公職者たちは何の過ちもなくても訴追から判決宣告時まで長期間職務が停止します。

弾劾が発議され訴追が行われる前、多くの公職者が自ら辞退したりもしました。

弾劾の乱発で国政を麻痺させてきたのです。

長官、放通委員長などをはじめ、自分たち(野党側)の不正を調査した監査院長と検事たちを弾劾し、判事たちを脅迫する状況に至りました。

自分たちの不正を隠すための防弾弾劾であり、公職綱紀と法秩序を完全に崩すことです。

それだけでなく、違憲的な特別検察法案を27回も発議し、政治扇動攻勢をかけてきました。

ついには犯罪者が自ら自分に免罪符を与えるセルフ防弾立法まで強引に進めています。

巨大野党が支配する国会が自由民主主義の基盤ではなく、自由民主主義の憲政秩序を破壊する怪物になったのです。

これが国政麻痺であり、国家危機の状況でなければ何だというのですか?

これだけではありません。

今、巨大野党は国家安保と社会安全まで脅かしています。

例えば、今年6月に中国人3人がドローンを飛ばして釜山に停泊中だった米空母を撮影して摘発された事件がありました。

彼らのスマートフォンやノートパソコンからは、少なくとも2年以上韓国の軍事施設を撮影した写真が見つかりました。

先月には40代の中国人がドローンで国家情報院の撮影中に逮捕されました。

この者は中国から入国するやいなやすぐに国情院に行き、このようなことを行ったことが確認されました。

しかし、現行の法律では外国人のスパイ行為をスパイ罪で処罰する方法はありません。こうした状況を防ぐために刑法のスパイ罪条項を修正しようとしましたが、巨大野党が頑強に立ちはだかっています。

前政権当時、国情院の対共捜査権を剥奪しただけでなく、国家保安法の廃止も試みています。

国家安保を脅かすスパイを捕まえるなということではないですか?

北朝鮮の違法な核武装やミサイル脅威の挑発にも、GPS(衛星利用測位システム)かく乱や汚物風船にも、民主労総スパイ事件にも、巨大野党はこれに同調するだけでなく、むしろ北朝鮮の肩を持ち、これに対応するために孤軍奮闘する政府を傷つけてばかりいました。北朝鮮の不法核開発に伴う国連の北朝鮮に対する制裁もまず解除すべきだと主張します。

いったいどこの国の政党で、どこの国の国会なのか分かりません。

検察と警察の来年度の特別業務経費、特殊活動費の予算は完全に0ウォンへと削減されました。

金融詐欺事件、社会的弱者対象犯罪、麻薬捜査などの民生侵害事件捜査、そして対共捜査に使われる緊要な予算です。

薬物、ディープフェイク犯罪対応予算までも大幅に削減しました。

自分たちに向けられた捜査妨害を超え、薬物捜査、組織暴力団捜査のような民生事犯捜査まで遮るものです。 大韓民国をスパイ天国、麻薬巣窟、組織暴力団の国にするということではないですか?

このような人々こそ国を滅ぼそうとする反国家勢力ではありませんか?

それなのに、自分たちの特権を維持するための国会予算はむしろ増やしました。

経済も危機的で緊急を要する状況です。

巨大野党は大韓民国の成長エンジンまで取り払おうとしています。

共に民主党が削減した来年の予算内訳を見ればよく分かります。

原発生態系支援予算(原発関連予算)を削減し、チェコ原発輸出支援予算はなんと90%も削減してしまいました。

次世代の原発開発関連予算はほぼ全額を削減しました。

基礎科学研究、量子、半導体、バイオなど未来成長動力予算も大幅に削減しました。

東海ガス田のボーリング予算、いわゆる「大王鯨(シロナガスクジラ)」事業の予算も事実上全額削減しました。

青年雇用支援事業、脆弱階層児童の資産形成支援事業、子供たちの世話手当てまで手を出しました。

産業生態系造成のための革新成長ファンド、強小企業育成予算も削減しました。

災害対策予備費はなんと1兆ウォン(約1100億円)を削減し、パンデミックに備えるためのワクチン開発と関連R&D(研究開発)予算も削りました。

このように今、大韓民国は巨大野党の議会独裁と暴挙で国政が麻痺し、社会秩序がかく乱され、行政と司法の正常な遂行が不可能な状況です。

国民の皆さま、ここまでは国民の皆さまもご存じだと思います。

しかし、私が非常戒厳という厳重な決断を下すまで、これまで直接明らかにできなかったさらに深刻なことがたくさんあります。

昨年の下半期に選挙管理委員会をはじめとする憲法機関や政府機関に対して、北朝鮮によるハッキング攻撃がありました。国情院がこれを発見し、情報流出と電算システムの安全性を点検しようとしました。

他の全ての機関は、自分たちの参観の下で国情院が点検することに同意し、システム点検が行われました。

しかし、選挙管理委員会は憲法機関であることを理由に、頑強に拒否しました。

そうするうちに選管の大規模採用不正事件が起こり、監査と捜査を受けることになると、国情院の点検を受け入れて一歩引き下がりました。

しかし、システム機器全体のほんの一部のみの点検に応じ、残りは応じなかったのです。システム機器の一部だけを点検しましたが、状況は深刻でした。

国情院の職員がハッカーとしてハッキングを試みると、いくらでもデータ操作が可能で、ファイアウオールも事実上ないも同然でした。

パスワードも非常に単純で、「12345」といったやり方でした。

システムセキュリティー管理会社も、非常に小規模で著しく専門性に欠ける会社でした。

私は当時、大統領として国情院の報告を受け、ショックを受けました。

民主主義の核心である選挙を管理する電算システムがこんなにでたらめなのに、どうして国民が選挙結果を信頼できますか? 選管も国情院の保安点検過程に立ち会って見守ったが、自分たちが直接データ操作したことはない、という言い訳を繰り返すだけでした。

選管は憲法機関で、司法部(省に相当、以下同じ)の関係者が委員を務めているため、令状による家宅捜索や強制捜査は事実上不可能です。

自ら協力しなければ真相究明が不可能です。

24年4月の総選挙前にも問題のある部分についての改善を求めましたが、きちんと改善されたかどうかは分かりません。

それで私は今回、国防長官に選管の電算システムを点検するよう指示したのです。

最近、巨大野党・共に民主党が自分たちの不正を捜査し監査するソウル中央地検長と検事たち、憲法機関である監査院長を弾劾すると言った時、私はもうこれ以上はただ見守ることはできないと判断しました。

何かしなければならないと思いました。

彼らは近く司法府にも弾劾の刀を突き付けることが明らかでした。

私は非常戒厳令発動を考えるようになりました。

巨大野党が憲法上の権限を乱用し、違憲的措置を繰り返しましたが、私は憲法の枠内で大統領の権限を行使することにしました。現在の亡国的な国政まひの状況を社会かく乱による行政・司法の国家機能の崩壊状態と判断し、戒厳令を発動するものの、その目的は国民に巨大野党の反国家的な弊害を知らせて、これをやめるよう警告することでした。

そうすることで、自由民主主義の憲政秩序の崩壊を防ぎ、国家機能を正常化しようとしたのです。

実際12月4日の戒厳解除以後、共に民主党が監査院長とソウル中央地検長などに対する弾劾案を保留するとしたことで、短時間の戒厳を通じたメッセージがある程度効果があったと考えました。しかし2日後に、保留すると言っていた弾劾訴追をそのまましてしまいました。

非常戒厳の名分をなくすという意味でした。

そもそも私は国防長官に、過去の戒厳とは異なり戒厳の形式を借りて昨今の危機状況を国民に知らせ訴える非常措置を取ると言いました。

そのため、秩序維持に必要な少数の兵力だけを投入し、実武装は行わず、国会の戒厳解除の議決があればすぐに兵力を撤収させるとしました。

実際に国会の戒厳解除の議決があると、国防部庁舎にいた国防長官を私の事務室に来させ、即時兵力撤収を指示しました。

私が大統領として発令した今回の非常措置は、大韓民国の憲政秩序と国憲を壊そうとするものではなく、国民に亡国の危機状況を知らせ、憲政秩序と国憲を守り、回復するためのものです。

小規模ながら兵力を国会に投入した理由も巨大野党の亡国的行動を象徴的に知らせ、戒厳宣言放送を見た国会関係者と市民が大挙集まることに備えて秩序維持をするためであり、国会を解散させたり、機能をまひさせようとしたりするものではないことは自明です。

300人未満の実武装していない兵力で、あの広々とした国会の空間を相当な期間掌握することはできません。

過去のような戒厳をするためには数万人の兵力が必要であり、広範囲な事前議論と準備が必要ですが、私は国防長官に戒厳令発令談話放送で国民に知らせた後に兵力を移動させるよう指示しました。

それで午後10時30分に談話放送を行い、兵力投入も11時30分から12時過ぎに行われ、1時過ぎに国会の戒厳解除決議があると直ちに軍撤収を指示しました。

結局、兵力が投入された時間は1、2時間程度に過ぎません。

もし国会機能をまひさせようとしたなら、平日ではなく週末を期して戒厳を発動したはずです。

まず国会の建物に対する断電、断水措置を取ったはずですし、放送の送出も制限したはずです。

しかし、いずれも行いませんでした。

国会で正常に審議が行われ、放送を通じて全国民が国会の状況を見守りました。

自由民主憲政秩序を回復し、守護するために、国民に亡国的状況を訴えるやむを得ない非常措置を取りましたが、死傷者が発生しないように安全事故防止に万全を期するようにし、士兵(一般兵)ではなく副士官以上の精鋭兵力だけを移動させるようにしたのです。

私は今回の非常戒厳を準備しながらもっぱら国防長官とだけ議論し、大統領室と内閣の一部人物に宣布直前の国務会議(閣議)で知らせました。

各自の担当業務の観点から懸念される反対意見の開陳も多かったです。

私は国政全般を見る大統領の立場から、現状況でこのような措置が避けられないと説明しました。軍関係者はいずれも大統領の非常戒厳発表後に兵力移動の指示に従ったものですので、彼らには全く過ちはありません。

そしてはっきり申し上げますが、私は国会関係者の国会出入りを止めないようにし、それで国会議員と途方もなく多くの人波が国会の庭と本館、本会議場に入り、戒厳解除案件の審議も進行されたのです。

それなのになんとしてでも内乱罪に仕立て上げ、大統領を引きずり下ろすために数々の虚偽扇動を生み出しています。

一体2時間の内乱というものがありますか?

秩序維持のために少数の兵力を一時投入したのが暴動だということですか?

巨大野党が偽りの扇動で弾劾を急ぐ理由は何でしょうか?

ただ一つです。

巨大野党代表の有罪判決が迫るや、大統領の弾劾を通じてこれを回避し、早期に大統領選挙を行うということです。

国家システムを崩してでも、自分の犯罪を覆い、国政を掌握しようとするのです。

これこそ国憲を紊乱する行為ではありませんか?

私を弾劾しようが、捜査しようが、私はこれに堂々と立ち向かいます。私は今回の戒厳宣言と関連して法的、政治的責任問題を回避しないとすでに申し上げております。

私は大統領就任以来、これまでたった一瞬も個人的な人気や大統領の任期、地位の保全にこだわってきたことがありません。

地位の保全だけ考えれば、国憲紊乱勢力とあえて戦うこともなく、今回のように非常戒厳を宣布することもなかったはずです。

5年任期の座を守ることだけに没頭し、国家と国民に背を向けることはできませんでした。

私を選んでくださった国民の意思を裏切ることはできませんでした。毎日のように多数の力で立法の暴挙に明け暮れ、ひたすら防弾にのみ血眼になっている巨大野党の議会独裁に対抗し、大韓民国の自由民主主義と憲政秩序を守ろうとしたのです。

その道しかないと判断して下した大統領の憲法的決断であり、統治行為がどうして内乱になり得ますか?

大統領の非常戒厳宣言権の行使は赦免権の行使、外交権の行使といった司法審査の対象にならない統治行為です。

国民の皆さん、今野党は私を重犯罪者に追い込み、すぐに大統領職から引きずり下ろそうとしています。

もし、亡国的な国憲紊乱勢力がこの国を支配したら、どんなことが起こるでしょうか?

違憲的な法律、セルフ免罪符法律、経済暴亡法律が国会を無差別に通過し、この国を完全に壊すでしょう。

原発産業、半導体産業をはじめとする未来成長動力は枯死し、中国製太陽光施設が全国の森林を破壊するでしょう。

韓国の安保と経済の基盤である韓米同盟、韓米日協力は再び崩れるでしょう。

北朝鮮は核やミサイルを高度化し、韓国の暮らしをさらに深刻に脅かすでしょう。

それではこの国、大韓民国の未来はどうなるでしょうか?

スパイが横行し、麻薬が未来の世代を壊し、暴力団がのさばる、そんな国になるのではないでしょうか?

これまで国政麻痺と国憲紊乱を主導した勢力と犯罪者集団が国政を掌握し、大韓民国の未来を脅かすことだけは、どんなことがあっても防がなければなりません。私は最後まで戦うつもりです。

国民の皆さま、国政麻痺の亡国的非常事態から国を守るため、国政を正常化するため、大統領の法的権限で行使した非常戒厳措置は、大統領の高度な政治的判断であり、ただ国会の解除要求だけで統制できるものです。

これが司法府の判例と憲法学界の多数意見であることを多くの方が知っています。

私は国会の解除要求を直ちに受け入れました。

戒厳発令要件に関して異なる考え方をお持ちの方もいらっしゃいますが、国を救おうとする非常措置を国を滅ぼそうとする内乱行為と見ることは、多くの憲法学者と法律家が指摘するように、私たちの憲法と法体系を深刻な危険に陥れることです。

私は聞きたいです。

今、あちこちで狂乱の剣の舞を踊る人々は、国がこの状態になるまで、一体どこで何をしていたのでしょうか? 大韓民国の状況が危険で、危機にひんしているという考えも全くしなかったということですか?

公職者たちにお願いします。

厳重な安保状況とグローバル経済危機で国民の安全と民生を守ることに揺らぐことなくまい進してください。

国民の皆さま、この2年半、私はひたすら国民だけを見つめ、自由民主主義を守り再建するために、不義と不正、民主主義を装った暴挙に立ち向かって戦いました。

血と汗で守ってきた大韓民国、私たちの自由民主主義を守る道に、皆が一つになってくださることを切にお願いします。

私は最後の瞬間まで国民の皆さんと一緒に戦います。

短い時間ですが、今回の戒厳令で驚き、不安を感じた国民の皆さまにもう一度おわび申し上げます。

国民の皆さまに対する私の熱い真心だけは信じてください。

ありがとうございます。



2.中国人スパイに言及した尹大統領


7日の謝罪会見と比べて随分と長い会見でしやけれども、そのポイントはおおむね次の通りです。
・野党が国政を麻痺させている(刑法のスパイ罪条項を修正しようとしたが、巨大野党が邪魔した。)
・「非常戒厳」宣言は国民に亡国の危機状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった
・国会に軍を投入したのは秩序維持のためで、国会の機能をまひさせる目的ではなかった
・非常戒厳を巡る弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう
・非常戒厳宣言は司法審査の対象にならない統治行為で、内乱罪には当たらない
・最後の瞬間まで国民と共に闘う
尹大統領は、野党が国政を麻痺させていると再三再四協調していましたけれども、その中で、スパイ罪修正の下りで、中国人の事例を引き合いに出していました。該当部分を引用すると次の通りです。

先月には40代の中国人がドローンで国家情報院の撮影中に逮捕されました。この者は中国から入国するやいなやすぐに国情院に行き、このようなことを行ったことが確認されました。

しかし、現行の法律では外国人のスパイ行為をスパイ罪で処罰する方法はありません。こうした状況を防ぐために刑法のスパイ罪条項を修正しようとしましたが、巨大野党が頑強に立ちはだかっています。

この発言に中国が反応しました。

12日午後、毛寧(マオ・ニン)中国外交部報道官は定例記者会見で、「中国は関連状況を認識しており、このような発言に深い驚きと不満を表明する……中国は、韓国の内政について言及しないが、韓国側が内政問題を中国に関連づけ、根拠のないいわゆる中国スパイ説を提起し、正常な経済貿易協力をおとしめることは、中韓関係の健全かつ安定した発展に寄与しないと断固反対する」と反発。

更に、「中国政府は常に海外にいる中国国民に対し現地の法規を遵守するよう求めており、韓国側が言及した関連事件についてはまだ結論に至っていない……中国は韓国側に対し、中国国民に関連する事件を公正に処理し、速やかに事件処理の結果を中国側に通知するとともに、事件に関与する中国人の安全と合法的な権益を効果的に保護するよう改めて強く求める」と述べました。

内政について言及しないといいながら「事件に関与する中国人の安全と権益を反故しろ」と思いっきり要求しています。

4月19日、尹錫悦大統領が台湾問題を巡り「力による現状変更に反対する」と発言し、中韓関係に緊張が走りましたけれども、今回の発言で、更に両国関係が悪化するのではないかとの懸念もあるようです。


3.割れる韓国世論


尹錫悦大統領が談話を出した同じ12日の夕方、最大野党「共に民主党」などの野党6党は尹大統領の弾劾を求める議案を国会に再び提出しました。

議案は、13日の本会議で報告され、野党側は14日の採決を目指すとしています。

議案の可決には与党から少なくとも8人の賛成が必要となっているのですけれども、つい先日の7日に行われた尹錫悦大統領の弾劾決議の採決では、与党「国民の力」の殆どの議員が退席して投票に参加せず、議案は廃案になっています。

けれども、今回の弾劾案には、11日までに、与党の5人の議員が弾劾に賛成する考えを示し、翌12日、韓国メディアは、新たに1人が賛成する考えを、別の1人が本会議に出席する意向を示したと報じています。これで、議案への賛成や、本会議への出席意向を示した議員は、あわせて7人と可決に手の届く状況になってきています。

13日午前、最大野党「共に民主党」の李在明代表は会見で「弾劾だけが混乱を終わらせる最も早くて確実な方法だ」と述べ、14日に予定されている採決で議案に賛成するよう与党議員に呼びかけました。

また、ソウルの中心部では12日午後、「内乱の首謀者、ユン」などと書かれたプラカードを掲げて、尹錫悦大統領の弾劾を求める市民の集会が開かれたのですけれども、この集会から歩いて5分ほどの場所で同じ時間帯に、ユン大統領を支持するグループも集会を開き、参加者は韓国の国旗などを手に「ユン・ソンニョルを守れ」とシュプレヒコールをあげ、自身の不正疑惑をめぐり複数の裁判を抱える最大野党「共に民主党」の李在明代表を逆に拘束するべきだと訴えています。

どうやら、尹錫悦大統領の弾劾一色という訳でもないようです。


4.弾劾審判に持ち込んで時間稼ぎ


それにしても、戒厳令などと強硬手段に出れば、こうなることは、流石に尹錫悦大統領も分かっていた筈です。にも関わらずどうして行ったのか。

これについて、12日、朝鮮日報が「「非常戒厳を宣布するほかなかった状況を弾劾審判で疎明したい」 憲法裁の判断に期待する尹大統領、共に民主・李在明代表の裁判日程も考慮か」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
【前略】

(1)「内乱ではない」 法的に争うことを予告
尹大統領は最近、弁護人を物色しつつ、憲裁での弾劾審判など法律的な争いの準備をしているといわれている。大統領府の事情に詳しい与党側の関係者は「内乱の容疑くらいは脱したい、と大統領は思っているようだ」と語った。非常戒厳事態の後に大統領と会ったというある議員は「大統領は『民主党の高位官僚無差別弾劾や予算案における一方的削減などを憲政秩序に対する暴挙と思った。政府転覆の危機感があったので、合憲的な範囲内で非常戒厳を宣布した』と語っていた」と伝えた。尹大統領は、憲裁で民主党の行いについて具体的に説明したいと考えているといわれる。そうすることで、「戒厳軍を国会などに入らせたが、内乱目的はなかった」という点を掲げて法廷で争う気だと伝えられている。

(2)「来年上半期に李在明代表の控訴審判決…時間稼ぎ」
韓国政界では、尹大統領が最後まで任期を務め難い場合、早期の大統領選挙の時期がいつになるかという観点からも「来年2-3月の下野」よりは弾劾の方が有利だと判断したらしい、という分析が出ている。

韓国国会が弾劾訴追案を通過させたら、憲裁は事件の受理から180日以内に決定を宣告しなければならない。憲裁がもし弾劾を認めたら、決定宣告の翌日から60日以内に大統領選挙を行わなければならない。国会で弾劾案が可決されて憲裁で最長の期間の審理が行われたと仮定すると、次期大統領選挙は来年7-8月に行われることになるかもしれないのだ。国民の力から提案された「早期退陣ロードマップ(来年4-5月に大統領選挙)」と比べると、弾劾手続きを経る方が2カ月以上も時間を稼げる、とみているのだ。

状況は異なるが、民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表も時間に追われているのは同じ。李代表は先月、選挙法違反事件の一審で懲役1年・執行猶予2年を言い渡された。控訴審・上告審でこの判決の通り確定したら、10年間は被選挙権が剥奪され、大統領選挙に出馬できない。

選挙法は、一審の宣告後、控訴審・上告審がそれぞれ3カ月以内に行われなければならない、と定めている。来年上半期中に、少なくとも李代表の選挙法違反事件控訴審の結果は出るかもしれないという話だ。これに関連して、一部の親尹(尹大統領に近い)系の議員らは、尹大統領に「弾劾審判で耐えて、早期大統領選挙の時期を遅らせるべき」という趣旨の要請を行ったといわれている。与党側の関係者は「尹大統領の破局が李代表の大統領選勝利に当然結び付くべき、ということには同意できない」と語った。

(3)「弾劾案が棄却されることもあり得る」
尹大統領の周辺では、国会で弾劾案が通過しても憲裁で棄却される可能性を完全には排除し難い、という主張も出ている。憲裁は9人の憲法裁判官で構成されるが、現在のところ国会選出分の3人は空席だ。与党側では「裁判官6人の傾向から見ると、法理争いのいかんによっては棄却を引き出せるのではないか」という期待も、一部見られる。

韓国憲法113条は、弾劾の決定には憲法裁判官6人の賛成が必要と定めている。現在の6人体制で決定が下されるとしたら、裁判官6人の満場一致で賛成して初めて尹大統領は罷免される。現在の裁判官6人のうち4人(鄭亨植〈チョン・ヒョンシク〉、金福馨〈キム・ボクヒョン〉、金炯枓〈キム・ヒョンドゥ〉、鄭貞美〈チョン・ジョンミ〉)は中道・保守寄りで、2人(文炯培〈ムン・ヒョンベ〉、李美善〈イ・ミソン〉)は進歩=革新=寄りに分類される。民主党はこれまで、国会選出分の候補者推薦に留保的態度を示してきたが、尹大統領を弾劾する必要が生じるや、自分たちの分の裁判官候補者2人の選出手続きに入った。国会で裁判官3人(国民の力の分1人、民主党の分2人)を推薦することになれば、裁判官の構成は中道・保守寄り5人、進歩寄り4人の構図に再編される可能性が高い。

(4)「捜査に対処する上でも弾劾される方が有利」?
検察・警察・高位公職者犯罪捜査処が競って尹大統領の捜査に乗り出していることも、尹大統領が弾劾を選んだ背景と無関係ではない、という分析が出ている。国会で弾劾案が可決されれば、大統領の職務は停止されるが、職はそのまま維持される。法曹界の関係者は「大統領の身分で捜査を受ける方が、自己防御権の行使という側面では『自然人の尹錫悦』よりもずっと優れている」と語った。その一方、今回の非常戒厳事態の衝撃波はすさまじく、憲裁の弾劾審判にそれほど時間はかからないかもしれない、という見方もある。
朝鮮日報は、弾劾審判で争った方が、野党のやっていることを説明できることと、野党が要求する早期退陣案に従うよりも、争った方が時間が稼げること。また弾劾案そのものが棄却される可能性があること、などを理由に挙げています。

これらを一言でいえば、おそらく「時間稼ぎ」ではないかと思われますけれども、ではなぜ時間稼ぎする必要があるのか。

ここからは推測ですけれども、おそらく、アメリカのトランプ氏の大統領就任を考慮してのことだと思います。

野党「共に民主党」はバリバリの親北朝鮮。もし李在明代表が大統領に選出されれば、文在寅・前政権以上の左翼政権になるという声もあります。

李在明代表は過去に日本を軍事上の脅威がある「敵性国」と呼び、東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と表現したこともあります。それを考えると対日に関しては中国と連携する可能性も考えられます。

尹錫悦大統領は、次期トランプ政権は自分の味方、後ろだてになってくれるのではないか。そんな読みが裏に隠されているのではないかという指摘もされています。ゆえに時間稼ぎに打って出た。

半島情勢も大きく動いていくかもしれませんね。




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