

1.自公国協議継続を合意
12月20日、決裂していた「年収103万円の壁」を巡る自公国の3党協議について、協議を継続することで合意しました。
新たに結ばれた確認書には「自民党、公明党及び国民民主党は、三党の幹事長間で12月11日に合意した内容の実現に向け、引き続き関係者間で誠実に協議を進める」とあります。
この12月11日に合意した内容とは、もちろん、「178万円を目指して来年から引き上げる」というもので、協議は24日に3党の政調会長と税調会長による6者会談で行われる見通しです。
2回目の合意について、国民民主党の榛葉幹事長は「昨日、自民党の森山幹事長からご連絡をいただきまして」と自民党の方から声が掛かったと発言したのですけれども、自民党の森山幹事長は「誰からとなく…3人の気持ちは合うものだなと」と言葉を濁しました。
けれども、森山幹事長の言い回しをみれば、自民から声を掛けたのは間違いないでしょう。あんな言い方をしたのは今後の交渉を考え、「自民が折れた」と見られるのを避けたかったのかもしれません。
実際、国民民主の榛葉幹事長は「再協議をするということは『123』よりも違う数字、『178』に近づいた数字を出す覚悟があるということでしょうから」と先制パンチを放っています。
また、国民民主の玉木氏も「延長戦に入ったと。約束は来年から実施するということでありますので。予算が成立する、そこまでには結論が出ないと、来年からできないし、そもそも予算案に我々が賛成することはありえない」と述べています。
今回の再協議決定について、テレ朝政治部の飯山雄矢記者は番組で次のように解説しています。
・24日から3党協議が再開されることが決まりましたが、与党幹部は『新しい金額を示すことはない』と、年内に新しい額は提示しないと話しています。あくまで国民民主側が協議に戻ってくる場、いわば『仕切り直す会』という認識これで、103万円の壁引き上げの協議は年越しが決まりました。榛葉幹事長は記者会見で、「123万円ではお話にならないということを申し伝えている。新たな提案が出てくるだろう。来年以降、ヒリヒリする交渉が続くんじゃないですか」と述べ、決着は衆議院で予算案の採決が行われる来年2月末ごろまでかかる見通しです。
・ある自民党幹部も『税の話はエイヤで決めるわけにはいかない』と、引き続き現場レベルで税収への影響なども踏まえ、緻密な制度設計について議論すべきという考えです
・そして引き上げの額なんですが、与党内から『もう少し譲ってもいいんじゃないか』という声もあり、150万円という数字も想定のなかにはあるようですけど、いくらなら国民民主側が折れてくれるのか、まだ見えてこないという状況です
・来年の予算審議まで時間もあるので、世論の反応なども見ながら落としどころを見つければいいと考えているようです

2.減税した分だけ増税する
そもそも、103万円の壁の引き上げ論の目的は「庶民の手取りを増やす」です。たとえ103万円が178万円になったとしても、その他で増税しして帳消しになってしまったら何の意味もありません。
実際、今回の税制大綱では、法人・たばこ税について2026年4月からの増税が決定しています。
上武大学の田中秀臣教授は「『減税した分だけ増税する』というのが財務省の発想だ。防衛増税だけでなく、将来的には金融所得課税の強化なども進めるのではないか」と指摘していますし、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「1万円程度の減税効果しか見込めない引き上げでは、防衛増税や控除縮小と比較すると〝行って来い〟か、むしろ負担の方が大きくなるかもしれない。『有権者が支持する減税政策をやってみたが効果はなかった』と説明したいがために、減税効果が大きくなる政策を避けたかった思惑すらみえる」と述べています。
12月20日のエントリー「税制大綱と国民の敵」で筆者は、財務省が景気に影響がない程度の形だけの減税をしてみせて、「ほら減税しても景気には影響ないのだ。我々のマクロ経済モデルは正しいのだ」と言い張る伏線を張ったのではないかと述べましたけれども、渡瀬裕哉氏も同じ指摘をしています。
また、今後の協議について、政治評論家の有馬晴海氏は「宮沢氏の『123万円』は論外で、自公は国民民主党に歩み寄らざるを得ない。越年の可能性はあるが、140万~150万円程度への引き上げをベースに決着を図るのではないか。『手取り増』をアピールしたい国民民主党と税収減を抑えたい与党と財務省で希望額に開きがあるのは当然だが、このままでは来年の参院選、都議選で大敗北しかねない。財源がないなら、ムダの多い予算を徹底的に見直し、アイデアを出すのが政治家の仕事だ」と述べています。
3.基礎控除引上げの財源を考える
財源については、色んなところで議論されていますけれども、第一生命経済研究所・経済調査部 首席エコノミストの永濱利廣氏は、10月31日付の分析レポート「基礎控除引上げの財源を考える」で財政改善が見込めると報告しています。
件のレポートから、要旨部分を引用すると次の通りです
・近年の財政指標は改善が続いている。背景には、円安に伴う法人税収増や物価高に伴う消費税収増、ブラケットクリープ現象に伴う所得税収増などがあり、国民民主党も自党が主張する「年収の壁」の103万円から178万円への引き上げの財源は税収の上振れで賄えるとしている。永濱氏は、基礎控除引上げの財源について、「基礎控除の段階的な引上げ」や「部分的な給付金や脱炭素化に逆行するエネルギー関連支援策を止めて、その財源を基礎控除引上げ」に一本化することも検討すべきと結論付けています。
・そもそも財政の健全性を判断する国際標準的な指標は「政府債務残高/GDP」比であり、あくまで日本の財政目標となっているプライマリーバランス(以下PB)はデフレで名目成長率が国債利回りを上回りにくい状況でも、政府債務残高/GDPを上げないことを目途とした目標である。
・政府債務残高/GDPが低下した要因について、その前年差を基礎的財政収支要因と利払い費要因を合わせた「財政収支要因」「経済成長率要因」「インフレ率要因」に分解した結果をみると、低下幅の9割以上がインフレ率要因であることがわかる。
・内閣府が2024年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下、内閣府試算)を用いて、インフレが将来の政府債務残高/GDPに与える影響を見れば、長期的なインフレ要因(GDPデフレーターベースで2026年以降+1.4%)による押し下げ幅は、GDP比で年▲2.1~▲2.4%ポイント、金額で年▲15~▲17兆円程度となる。
・この結果に基づけば、GDPデフレーターの+1%上昇で、政府債務残高/GDPを▲1.5~▲1.7%ポイント押し下げる要因になり、これを金額に換算すれば11~12兆円規模の財政改善要因となる。こうしたことから、GDPデフレーターベースで+0.6~0.7%のインフレ持続で政府債務残高/GDPを上昇させずに、基礎控除75万円引き上げ分となる7.6兆円の財源捻出が可能となる。
・さらに、7.6兆円の減税をしても、それにより経済が活性化することで税収増が見込めるため、その分丸々財政が悪化するわけではない。加えて、基礎控除の引き上げに伴う所得減税となれば、年収103万円以内に年間所得を抑制していたバートタイム労働者の労働供給や所得の増加が期待され、同規模の減税以上の自然増収効果が期待できるとともに、労働力不足緩和を通じた日本経済の供給力向上も期待できることになろう。
・日本がデフレ時代のPB黒字化目標を20年以上続けている一方で、世界の財政政策論はアップデートされていることからすれば、日本も財政健全化に対するアプローチをアップデートし、財政目標の柔軟化を検討すべきだろう。それでも基礎控除引上げに対する財源に懸念があるというのであれば、基礎控除の段階的な引上げであったり、これまで不公平感の強かった部分的な給付金や脱炭素化に逆行するエネルギー関連支援策を止めて、その財源を公平感の高い基礎控除引上げに一本化するという方向性も検討に値しよう。
4.落とし所は150万円
103万の壁引き上げ協議再開について、国民民主の榛葉幹事長は、「来年、178万円に近づけるような議論を、お互いにしていきたいと思います」と必ずしも満額を目指している訳ではないと匂わせています。
また、前述した政治評論家の有馬氏は「140万~150万円程度への引き上げ」で決着するのではないかと指摘していますけれども、フジテレビ報道局上席解説委員の平井文夫氏も、12月19日の夕刊フジZakZakのコラムで、落とし所は「150万円」と述べています。
件の記事の概要は次の通りです。
・週末にメディア各社が行った世論調査の結果を見比べると、有権者が政治に何を求めているのかよく分かる。平井氏はFNN・産経の世論調査で、150万程度までの引き上げが一番多かったことを取り上げ、落としどころは150万円だと述べています。
・「103万円の壁」の引き上げについてはほぼ賛成。また、政党支持率で国民民主党が立憲民主党を抜き去って野党第1党になった。ここまでは予想通りだ。
・しかし、FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞の調査では、内閣支持率と自民党の支持率も上がっているのに、読売新聞の調査では下がっている。朝日新聞と毎日新聞は横ばい。
・これは有権者の意見が割れているということだろう。国民民主党の減税策を「自民党がともに推進している」ととらえるか、「妨害している」ととらえているかだ。
・自公与党と国民民主党の幹事長が11日、「178万円を目指して来年から引き上げる」ことで合意し、12日に国民民主党も賛成して補正予算案が衆院を通過した。ここまでは良かった。
・ところが、翌13日の3党の税制調査会長の協議で、自民党の宮沢洋一会長がわずか20万円だけを引き上げて123万円とする案を提示、しかも記者団に「誠意を見せたつもりだ」と発言した。その後、協議は決裂した。
・どうも自民党税調は、国民民主党の言う通りに減税するのが嫌なようだ。だが、自公は少数与党で国民民主党の言うことを聞かないと予算も法律も通らないのだから、石破茂首相は178万円の丸飲みも辞さないようにも見える。果たしてどっちなのか。
・これについて、FNN・産経が、いい質問をしている。103万円の壁をどこまで上げるのが適切か「額」を示して聞いたのだ。
・答えは意外なことに「150万円」が32・6%でトップだった。私がトップだろうと思った「178万円」は22・4%で3位。「120万円」が27・5%で2位だった。
・有権者は無責任に「今すぐ178万円にしろ」と言っているわけではない。確かに、読売新聞の調査でも「財源を考慮して引き上げ幅を決めるべき」が66%と高かった。
・つまり与党は宮沢氏の言う123万円では話にならないが、150万円くらいを落とし所に国民民主党と協議すればいいということになる。
・ただ、それでも税収は5兆円くらい減る。減税が消費を押し上げる効果はあるが、これだけ政治が混乱していると心配で貯金に回す人も多いだろう。だから結果的に歳出削減は必要で、政治家はそこから逃げてはいかん。
・国民民主党の人たちは「財源は与党で探せ」と言うが、私はそれはおかしいと思う。有権者は国民民主党を支持しているわけだから、例えば、玉木雄一郎代表(役職停止)が「ここを削減しましょう」と提案すれば耳を傾けるのではないか。
・国民民主党はむしろ率先して歳出削減案を出すべきだ。有権者もそれを待っていると思う。
国民民主案の178万円と自民案123万円を足して2で割れば、150.5万円になります。
ゴルフで、178ヤードのホールがあったら、グリーンは大体160ヤードくらいからでしょう。123ヤードでは話にならず、150.5ヤードではグリーンに届きません。
まぁ、150万円での経済効果がどれくらいあるのか分かりませんけれども、結局はこの「足して2で割った」額で決着するのかもしれませんね。

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