

1.韓国旅客機事故
12月29日、韓国南西部・全羅南道の務安空港でタイのバンコクを出発して務安空港に向かっていた韓国のLCC(格安航空会社)「済州(チェジュ)航空」のボーイング737型機が胴体着陸し空港の外壁に衝突炎上。乗客乗員181人のうち救助された乗員2人を除いて、乗客175人全員と乗員4人のあわせて179人が死亡する大事故が発生しました。
事故から一夜明けた30日、現場では機体の調査などが続けられています。韓国の国土交通省は30日午前に記者会見を開き、事故原因の解明に向けてアメリカのNTSB(=国家運輸安全委員会)と合同で調査を行う方針を明らかにし、機体から回収したフライトレコーダーとボイスレコーダーの解析を進める方針とのことです。
一方で国土交通省は、フライトレコーダーは一部が損傷していたことを明らかにしました。これについて通信社、連合ニュースは、事故調査委員会の関係者の話として、損傷がなければ通常は1週間ほどで解析できるものの、今回の場合は1か月を要するのではないかとも伝えています。
また、アメリカの航空機メーカーのボーイングは声明を出し、遺族に対し哀悼の意を示した上で「われわれはチェジュ航空と連絡をとっていて彼らを支援する用意ができている」としています。
2.あらゆることがあっという間に起こった
今回の事故について、複数の専門家や関係者は、様々な要因が考えられると指摘しています。
韓国の運輸当局によると、旅客機は着陸態勢に入る際に「困難な」状況に陥ったとのことで、飛行経験6800時間を超える機長は、鳥の影響により、最初の着陸をやり直したとのことです。ところが、そのすぐ後に、遭難信号「メーデー」を通信し、通常とは反対方向への着陸を行いました。
当局は、飛行機が鳥と衝突するバードストライクや悪天候が事故の一因になった可能性を示唆していますけれども、航空専門家たちは、これらが今回のような致命的な事故を引き起こすほどの要因だったのか疑問視しています。
韓国メディアによると、乗客の一人は家族にメッセージを送り、鳥が「翼にくっついていて」飛行機が着陸できないのだと書いていたそうで、事故直後は、バードストライクのために着陸装置が故障したのではないかと言われていました。
けれども、航空関連のニュースを扱う「エアライン・ニュース」の編集長ジェフリー・トーマス氏は、「この悲劇をついては、いろいろなことが腑(ふ)に落ちない……韓国と韓国の航空会社は業界の『ベスト・プラクティス(最良慣行)』と評価されており、航空機と航空会社のどちらも安全性において優れた実績を築いてきた」と、述べています。
また、イタリア空軍士官学校の元教師で、航空ジャーナリストのグレゴリー・アレジ氏は、「現時点では、答えよりも疑問の方が多い……なぜ旅客機はあれほど高速で移動していたのか。なぜフラップが開いていなかったのか。なぜ着陸装置が降りていなかったのか。こういう疑問が残っている」と疑義を呈しています。
ソーシャルメディアに投稿された動画では、旅客機が滑走路を外れて外壁に激突し、機体の一部から炎が上がり、別の動画には、大きな黒煙が立ち上る様子が映っています。
今回の事故機と同型機の操縦経験がある航空専門家クリス・キングスウッド氏は、事故を捉えた動画では、事故原因がはっきり確認できないとしたうえで、着陸装置が降りていないことや、フラップが想定された方法で使われていなかったことから、「あらゆることが本当に、あっという間に起こった……両方のエンジンを失った場合、通常はこのような状況に追い込まれる……民間航空機は片方のエンジンだけでもそれなりに安全に飛行できるもの」とバードストライクで両方のエンジンが損傷したとすれば、飛行高度が非常に重要になると指摘しています。
そして、低高度を飛行していた場合、パイロットは「非常に短時間に、膨大な数の決断」を迫られることになるとし、地上から「数千フィートという比較的低い高度を飛行していたのであれば、機体を飛行させることに集中しつつ、どこか安全な場所に着陸させる必要があったはず」だと述べています。
3.ディープステートの報復と半島有事
エンジン故障、離着陸車輪故障、両翼の燃料タンク発火と3つ以上の故障が同時に起きるなんて、果たして、そんなことが起こり得るのか疑問に思ってしまうのですけれども、陰謀論界隈では、これはテロだ、という説も流れているようです。なんでも、韓国をして北朝鮮を攻撃させ、戦争を起こそうとしていたのを先日の尹錫悦大統領への弾劾でストップさせらせたことに対するいわゆる「ディープステート」の報復だというのですね。
実際、12月23日、韓国の警察国家捜査本部・非常戒厳特別捜査団が戒厳令の企画者と見なされているノ・サンウォン前情報司令官の手帳に「NLL(北方限界線)で北の攻撃を誘導」という表現があった事実を確認したと明らかにしました。また、禹鍾寿(ウ・ジョンス)国捜本部長はこの日の国会行政安全委員会で、この手帳に「汚物風船」「射殺」という表現があったのかと尋ねた尹建永(ユン・ゴンヨン)共に民主党議員の質問に対し「事実に合う」と答えています。
手帳は手のひらサイズの60~70枚の分量で、戒厳関連の内容が主に書かれていたそうです。ノ氏が手帳に記載した内容を実際に金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防部長官らと議論したかどうかは確認されてはいません。
警察国家捜査本部はは「NLLで北の攻撃を誘導」という言葉から、北朝鮮が挑発する可能性が高い要注意地域のNLLで軍事的衝突状況を誘導して戒厳の正当性を備えようとしたかを捜査するとしています。
これについて23日、デイリー新潮は「韓国戒厳令、「第2次朝鮮戦争」寸前の危機だった? 韓国メディアが報じている“衝撃シナリオ”の全貌」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
これまで、首謀者とされる金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相、呂寅兄(ヨ・インヒョン)前国軍防諜司令官、辞任した李祥敏(イ・サンミン)前行政安全相、戒厳司令官を務めた朴安洙(パク・アンス)陸軍参謀総長、警察庁の趙志浩(チョ・ジホ)長官、ソウル警察庁の金峰埴(キム・ボンシク)長官らが内乱容疑で次々と逮捕・告発された。これが本当であれば、半島有事が寸前で食い止められたことになります。この真相が明らかになることはないかもしれませんけれども、世間が思った以上の闇があるのかもしれませんね。
さらに、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は職務停止状態となったユン大統領に出頭を要求するなど捜査を加速させている。一方で、ユン大統領のクーデター計画の中に北朝鮮への攻撃が含まれていたとする現地メディアの報道が相次いでいる。もし実行されていたら“第2次朝鮮戦争”の勃発に発展する可能性があった。ユン大統領による戒厳令宣布は極めて危険な“賭け”だったのだ。
それは、どんな作戦だったのか。野党・共に民主党のパク・ポムゲ議員が国会の国防委員会でこう証言している。
「北朝鮮が10月、『韓国のドローンが平壌上空に侵入した』と主張したのは、実際に韓国軍の作戦によるもので、キム・ヨンヒョン前長官の指示だったとの情報を軍内部から提供された。戒厳令を出すためだったからではないか」
これを受けて進歩系のハンギョレ新聞は「北朝鮮の挑発を誘導して非常戒厳を宣布するために平壌に無人ドローン機を送った可能性も十分あるという見解が説得力を増している」と報じている。
平壌上空を飛んだドローン機は半径2キロメートルに騒音が広がる訓練用機材で、北朝鮮軍部を刺激することで南北の局地戦を誘発する目的があったというのだ。京郷新聞は「ヨ前国軍防諜司令官が検察の取り調べに対し、昨年12月ごろユン大統領がキム前国防相やヨ前国軍防諜司令官に『難しい社会問題を解決するのは非常措置(戒厳)しかないのか』という趣旨の発言をした、と話した」(14日付)と報じており、事実とすればユン大統領がかなり以前から戒厳令を計画していたフシがある。
韓国の憲法には緊急事態条項が明記されており、その第77条には「大統領は戦時・事変、又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じまたは公共の安寧秩序を維持する必要があるときには法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる」と定められている。非常戒厳令を宣布するためには戦時や国家非常事態、つまり北朝鮮との交戦状態が要件になるということだ。
韓国の脱北者団体が体制批判ビラを飛ばしたことへの報復として、北朝鮮が5月末から大量の汚物風船を韓国領土へ飛ばした。そのさなか、ユン大統領の頭の中には「ドローン機による平壌侵入→北朝鮮軍部の反撃→韓国側による汚物風船拠点への攻撃→南北局地戦→戒厳令宣布→野党党首らの逮捕」というロードマップが描かれていたのかもしれない。
実際、10月11日、北朝鮮外務省は「韓国が2週間にわたり平壌にドローンを夜間侵入させ我が国を批判するビラを飛ばした。侵犯が再び確認されれば宣戦布告と見なし即時報復する」と非難した。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹で強い影響力を持つ朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部の金与正(キム・ヨジョン)副部長は「ドローン機が再び飛来すれば恐ろしい結果につながる。挑発行為をしている韓国軍の中にギャング集団がいる明確な証拠がある」と警告していた。
北朝鮮はこのドローン機の写真を公開しており韓国軍の偵察ドローン機であると主張している。韓国は当初、北朝鮮側にドローン機を飛ばした事実を否定していたが、韓国軍合同参謀本部はその後、「北朝鮮政府の主張について肯定も否定もできない」と立場をあいまいにしている。
北朝鮮が名指しした「ギャング集団」とは、ユン大統領と同じソウル市内の名門私立である沖岩(チュンアム)高校の先輩であるキム前国防相、後輩のヨ前国軍防諜司令官、イ前行政安全相らクーデターを画策した「沖岩派」の面々だったのか。
ユン大統領の戒厳クーデターにあたり、革新系ジャーナリストでユーチューバーの金於俊(キム・オジュン)氏が13日に国会審議に出席し「非常戒厳時に逮捕班ではなく暗殺班が動いたという情報提供を受けた。逮捕移送されている与党・国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)代表を射殺、チョ・グク祖国革新党代表、そして私を逮捕護送する部隊を(北朝鮮の軍服を着て)襲撃して逃走する』というのが戒厳軍の計画だった」と爆弾発言をした。ただ、情報の出どころについては「韓国国内に大使館がある友好国」とだけしか述べなかった。
一方で、保守系有力紙の朝鮮日報は「野党・共に民主党は内部検討文書の中で、北朝鮮の仕業であるかのように装おうとするのは、戒厳についての根拠をつくるためだが、戒厳宣布された後に作戦を実施すること自体が理にかなっていない、とした」(18日付)とキム・オジュン氏の主張に疑義を唱える論調だ。
とはいえ、ユン大統領の意を汲むキム前国防相が主導して汚物風船の発射地点を攻撃する戦術的な討議が行われたことは事実のようだ。野党の共に民主党はキム前国防相が北朝鮮の汚物風船による挑発を口実に北朝鮮との局地戦を引き起こし、非常事態を誘発しようとしたとの疑惑を提起しており、朝鮮日報は「この疑惑が事実であればキム前国防相 が南北間の緊張を意図的に高めることで非常戒厳の正当性を確保しようとした可能性があると指摘されている」と報じている。
仮に本格的な戦闘にエスカレートした場合、在韓米軍や隣接する中国、ロシアを巻き込んだ“第2次朝鮮戦争”に発展しかねない非常事態となる。1950年から53年まで続いた朝鮮戦争は現在、休戦協定下にあり終戦には至っていない。それだけに局地的衝突だけで終わる保証はどこにもない。
ただし、北朝鮮はユン大統領の戒厳クーデター計画をかなり前から察知していた可能性は高い。ユン大統領は8月にクーデターに意欲を見せるキム氏を国防相に抜擢しその後、戒厳令が本格的に検討されたという。野党は国会で「ユン大統領が戒厳令を宣布することはあるのか」と何度も追及しているため、それに北朝鮮が気付かないはずはないからだ。
万が一の事態に備えるためか、北朝鮮は有事の際の相互軍事支援などを明記したロシアとの包括的戦略パートナーシップ条約を、12月4日に発効させている。不思議なことに朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、憲政の秩序を守るとしてユン大統領が3日に非常戒厳を宣言した後の4日以降、韓国の動向をまったく伝えなくなった。
現地の政治ジャーナリストは「第2の戒厳令を防ぐため韓国側を刺激するのは得策ではない、との判断から自制したようです。北朝鮮はウクライナに侵攻したロシアに大規模な兵力を派遣しているため国内兵力が不足していることも理由の1つです。12月11日になってようやく朝鮮中央通信が、非常戒厳を巡る韓国内の抗議デモや政治的混乱に初めて言及しました。相次ぐ軍高官の逮捕や急ピッチで進む捜査を見て攻撃を受ける可能性は低くなったと見たのでしょう」と分析。そのうえで、「北朝鮮はロシアと軍事同盟を結んでいるため、ユン大統領の命令で韓国軍が北朝鮮領土を攻撃した場合、ロシア軍とも交戦となる危機的事態になるところでした」と振り返る。
結局、ユン大統領が企図した北朝鮮への攻撃計画は、軍内部高官の消極姿勢で頓挫。非常戒厳令も宣布から約3時間後、一部軍隊の厭戦気分や韓国国会(定数300)の動議可決によって無効になった。ユン大統領も受け入れざるを得ず戒厳令はわずか6時間で撤回された。
「国内外のメディアはユン大統領弾劾を求めるK-POP集会の平和的光景を繰り返し報道していますが、北朝鮮への攻撃が実行されていたら韓国内は戦慄のパニック状態になっていたでしょう。日本政府も在韓日本人の救出移送をめぐって混乱は避けられなかった。ユン大統領に対する一刻も早い本格的捜査が必要です」(前出の現地ジャーナリスト)
出頭要請を拒否し続けているユン大統領。取り巻きはほとんど逮捕されてしまったが、今後どうなるのだろうか。
この記事へのコメント