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1.事が巧く運ばなくなると誰でも決まって日や月や星のせいにしたがる
1月4日、立憲民主党の野田佳彦代表は三重県伊勢市で記者会見し、石破総理が1日放送のラジオ番組で「大連立をする選択肢はあるだろう」と語ったことについて、「大連立は、パンデミック(感染症の世界的大流行)や大きな危機があったときに考えられる選択肢だ。平時では考えていない……むしろ政権を交代させるため、野党の力を結集することに主眼を置いて取り組みたい」と否定しました。
同じく、日本維新の会の前原誠司共同代表も伊勢市での記者会見で「政策実現のために与党とも話し合いは行うが、野党の立場で参院選に備える。われわれの立ち位置は野党だ」と説明。国民民主党の古川元久代表代行も伊勢市で記者会見し、「連立に入るつもりは全くない」と明言。衆院で与党が過半数割れした状況を梃子に、「年収103万円の壁」見直しなど党の政策の実現を目指す立場を強調しました。
更に、立憲民主の榛葉幹事長も、石破総理が、通常国会で予算案や重要法案が否決された場合に衆院を解散する可能性に言及したことについて記者団から問われ「石破総理は若干、最近言葉遊びが激しいね……自民党内でコンセンサスも得ずに、例えば外国人のビザの延長を発表してみたり、衆参同日選挙もあり得ると。これ、30年間連立を組んできた公明党さんからしたら、最も大切な都議選と3連チャンの選挙になるよ。本当に、そういう覚悟が総理あるのか」と語気を強めています。
また、大連立についても「突然、大連立を言ってみたり。私の公明党の何人かの友人も、あまり心地良い気持ちがしていないと仰ってましたから。そういった国のトップの発言、重いから」と、苦言を呈しています。
2.今が最悪と言える間は最悪ではない。
石破総理のこれら一連の発言をみていると、どこか空回りしているような気がしてならないのですけれども、元金融担当相で元みんなの党代表の渡辺喜美氏は、昨年12月29日付のJBpress記事「突然、ビートたけしさんの喋りが止まらなくなった…「TVタックル」オンエアでは当然カットされた2024年政治の本質」で「正論の異端者」だった石破氏が「偽王」になったと論評しています。
件の記事の一部を抜粋すると次の通りです。
その男は突然、リア王と道化について、堰を切ったように喋り始め、止まらなくなった。まるで、シェークスピア演劇の王権とスケープゴート・メカニズムや道化の象徴学が、今の政治社会の本質であるかのように言いたげであった。渡邉氏は昨年の政治を「リア王と道化」に見立て、石破総理は「偽王」だと見透かされていると指摘した上で「本来の異端児」になるためには野党案を丸呑みするしかないと述べています。面白い見方だと思います。
その男とは、私が久方ぶりで出演した「ビートたけしのTVタックル」(12月8日放送)の収録中の、たけしさんのことである。
兵庫県知事選挙で再選した斎藤元彦氏について尋ねられた私は、「斎藤さんが追放された王様だとすると、たけしさんの前で言うのも何ですが、立花孝志さんがイタズラ者の道化役。その一体化した組み合わせで斎藤さんは復活しましたね」とコメントした。
私の話し途中で割って入ったのが、たけしさんだった。日本よりも海外で知られた映画監督として数多くの作品を作ったクリエーターの心をくすぐってしまったのだった。台本には全く存在しないこのやり取りは、無論、カットされた。
世の中の罪や穢れを生け贄の山羊一身に背負わせて抹殺し、世の中は新しく蘇る。溜まりに溜まったエネルギーの使い古しのカス(エントロピー)を一掃し、新しいエネルギーを吹き込む儀式がスケープゴート(贖罪山羊)・メカニズムの本質である。
その中でも「王殺し」こそ、大衆にカタルシスをもたらす象徴学上最高の儀式であり、古今東西どこにでもある人類普遍の原理だ(文化人類学者・山口昌男)。
一方、道化はピエロ、フール、クラウン、トリックスターなどと称され、時に王の分身、偽王として現れる。常識はずれの非現実的、攻撃的なイタズラ者で、権力(中心)と大衆(周辺)の媒介者でもある。
今年は日本でも世界(英・米・韓・シリア他)でも政変や政権交代が相次いだ。日本では「裏金」に端を発した政治不信を払拭すべく岸田文雄総理が辞任。石破茂政権の誕生となったが、世の中の「蘇り」は起きなかった。
それは、象徴学的には岸田総理の「抹殺」のされ方が中途半端で、「正論の異端者」であったはずの石破総理がプチ・キングメーカーとなった岸田氏の傀儡、つまり「偽王」であることがわかってしまったからである。
国民の不満ガスが一掃されることはなかった。引っ掻き回し役の道化もいなかった。石破総理が先の所信表明演説で短命内閣だった石橋湛山の言葉を引用したのは、短ければ来年3月末まで、長くとも参議院選挙まで、というご自身の命運を予期しているからかも知れない。
「正論の異端者」として復活することはあるか?
例えば、政治改革の中で延期された企業団体献金禁止の野党案を、年度末に丸呑みすることである。
当然、自民党の自己否定につながることゆえ党内で大バトルが起きる。国民はこの種の政治劇場を好むが、石破総理は企業団体献金の禁止を憲法違反と言い切ってしまったので、それはない。
そもそも1955年の「保守合同」で生まれた自民党は、昭和15年(1940年)ごろ確立された「国家社会主義的」な統制型システムに依拠している存在である。
企業は競争するな、国家目的に奉仕せよという御触れ(国家総動員法、1938年)に則り、大蔵省の「革新官僚」がナチスに学んで立案したのが、戦費調達を企業が代行する源泉所得税である。
戦後、年末調整や基礎控除が導入され(1947年)、現在、所得控除は15種類ある。企業が徴収を代行・調整するので家族の職業や所得といったプライバシーも会社が把握する。
昭和16年、統制経済遂行のため作られた経済団体が「統制会」。今の経団連の原型である。
当時、全国に400社以上あった電力会社は9つに統合され国有化された。因みに、農協、医師会、労働組合なども原型は戦時体制で作られている。戦争遂行のため住宅営団など特殊法人が作られ、「天下り」も行われるようになった。
「戦後レジーム」はマッカーサーの占領時代に作られたものだけでなく、ごく普通の資本主義国家から国家社会主義に変貌を遂げた戦時体制の所産を多く残している(野口悠紀雄)。
かつて、経団連は傘下の業界に割り振ってピーク時100億円以上の政治献金を自民党にしていた。金丸ゼネコン事件などのスキャンダルを受けて政治改革関連法が1994年に成立。政党交付金が導入されることと相まって、経団連は平岩外四会長の時、献金の斡旋を止めた。しかし、2004年に復活。斡旋は今なお続いている。
業界団体の献金が組織的に最も可視的になるのは年末、特に自民党税調においてである。各業界の要望を受けた役所が自民党議員に「御発言要領」のメモを持って回る。これを棒読みではなく、如何に自分の言葉で説得的に発言するかが族議員の登竜門となる。当然、各業界団体は議員のパーティ券の購入先でもある。
つい先日、自民党税調が来年度の税制改正大綱を決定した。それに基づき予算の政府原案を作る。最後に大臣折衝をやり、各大臣にも花を持たせる。昔からの慣行。少数与党であることを忘れたかのような財務省シナリオによる年末のルーティンワークだ。
来年度予算案は、補正予算のように見切り発車で国民民主、維新、立憲をそれぞれ天秤にかけながら、新年を迎えることになろう。
補正予算は30年ぶりの「予算総則」の修正で委員長を取っている立憲に花を持たせ、「178万円を目指す」紙で国民民主を釣った。紙は簡単に破れるものだ。教育無償化の協議機関を作る「口約束」で維新が賛成に回ったのは、飛んで火にいる何とやら。6000億円程度で済む。「予定調和」を仕掛ける黒子がいるのは歴然だが、国民から見ると、つまらない茶番劇のようだ。
国民の間には、「沢山集めて沢山配る」ための財源以前に、知らず知らずにこんなに取られて国民負担率が上がり、物価高で可処分所得が減り続けることに強い危機感が芽生えている。
多くの国民が、最低限生きんがための基礎控除を引き上げれば「手取りが増える」ことを理解した。会社が一括してやるから従業員は知らなくていい。そのような自動徴税システムに安住して選挙結果を鑑みない体制に、一揆のような猛反発が出てくるのは歴然。
ハングパーラメント(宙吊り国会)を活性化するには、歌舞伎やサーカスのように道化方やピエロが不可欠の存在となる。
国民民主党は一見、玉木雄一郎氏が王(代表)、道化(不倫)、偽王(職務停止)の1人3役をやっていたように見える。しかし、同党には榛葉賀津也幹事長という正真正銘の道化役がいて、狂言回しのような彼の発信力は並外れて高いことが分かる。茶番国会が続くと国民民主の支持率はもっと上がっていくだろう。
アメリカでは追放され復活したトランプ劇場2.0がすでに始まっている。「ディープステート」解体・不都合な真実の暴露などを、トランプ政権は次々と実行に移す。王権・道化・贖罪山羊など劇場効果満載で、ポップコーン片手に大衆はトランプ劇を見守っている。
【中略】
日本の黒子権力は財務省である。
宙吊り国会の日本で退屈な茶番劇が続くと、来年の都議選、参院選、場合によっては衆院選というイベントの中でネットの神々が大暴れし、トリックスターが凶暴化することも起きるかもしれない。
3.老人が支配するのは奴に力があるからではなく、こちらが大人しく忍従しているからだ
総理就任後、これといってリーダーシップを発揮しているようには見えない石破総理ですけれども、1月5日、週刊ポストセブンは評論家の田原総一朗氏と社会学者の古市憲寿氏による対談記事を掲載しています。
件の記事は次の通りです。
田原:なんで石破(茂)は人気ないの?田原氏は、石破総理について、総裁選の間はああしたい、こうしたいといっていたのに、でも総裁になったら失脚したくないから何も言わなくなったと指摘した上で、自民にも石破総理にとって代わろうという人材がおらず、野党も日本を考えたビジョンを打ち出せていないとも述べています。
古市:古い自民党を壊すとか、さんざん安倍(晋三・元首相)さんを批判して自民党を変えるって言ってたのに、いざ総理になったら何もできないからじゃないですか。
田原:なんでできないんだろう?
古市:逆に聞きたいのですが、なんでですか?
田原:石破は自民党で最長の安倍内閣を1人だけ批判していたから、それがウケて総裁になった。でも自民党の中で少数派だから言いたいこと言ったら失脚する。失脚したくないんだ。
古市:自民党に気を遣って、国民にも人気がない。どうせ両方ないなら、自民党に喧嘩を売ってでも、もっと国民ウケすることを言ったほうがいいんじゃないですか。
田原:国民ウケって何すりゃいいの。
古市:これまで石破さんが訴えてきたこと。選択的夫婦別姓とか、同性婚とか、お金使わずに社会を変えられる議題はいくつもあるのに、動かない。
田原:安倍首相までは、日本をこうしたいという考えがあった。賛否両論あったけど。でも、岸田(文雄・前首相)以降はその考えもない。
古市:それが問題ですよ。なぜ総理大臣にまでなる人に目的がないんですか。失脚覚悟で「これやりたい」と言うもんじゃないですか。
田原:日本人の多くは正しいか否かではなく、損得で考える。今の国会議員の最大の目的は選挙に当選すること。正しいか間違っているかは関係ないから裏金がいっぱいある。日本の政治家、とくに自民党はエネルギーの90%くらいを選挙に勝つことに使っている。
古市:この前、鳥取に行ったんです。石破さんの地元。駅前から商店街が続いていてほとんどシャッター通り。ほぼ唯一賑わっていたのが石破事務所でした。新幹線も通せなかったし、産業は生み出せず、利益誘導もできなかった。よくここで地元の人は石破さんを支持していると思ったけど、石破さんは選挙には強い。それなら日本をどうするか考える時間も余裕もあったはずでしょう。
田原:石破は総裁選の間はああしたい、こうしたいというのがあった。でも総裁になったら全部なくなった。失脚したくないから。
古市:でも、どうせ人気がないからいずれ失脚するわけじゃないですか。
田原:そんなことないよ。現に失脚していないじゃん。夏の参院選でもし負けたら石破は失脚だけど。
古市:参院選もこのままでは勝てないでしょう。
田原:あなたがそう言うように誰も参院選で石破が勝てるとは思っていないから、石破さんを含めて勝ったらどうするか何も考えていない。日本の政治は思考停止している。
古市:国民民主党や日本維新の会には何か考えがあるんじゃないですか。
田原:ない。何か月か前になるが、自民党の支持率がドンと落ちた時に僕は立憲民主党の泉健太、維新の馬場伸幸に会って「立憲と維新と国民民主が協議したら、完全に政権取れる、やれよ」と言ったんです。泉は「やりたい」。しかし、馬場は「立憲なんかと組みたくない」と。維新から見ると立憲は左翼なんだよね。だから立憲より自民と組むほうがよっぽどいい。
古市:だけど国民民主が台頭してきたことで野党のバランスが変わった。
田原:自民党は少数政権だから予算通すためには国民民主と組むしかない。だけど国民民主からすれば自民と組んだままじゃ参院選を戦えないから、参院選が近づくと自民党から離れるだろう。そうなった時政権は危うい。
古市:石破さんが総理を続けたいなら、やっぱり自民党に喧嘩売って支持率上げるしかないのでは。
田原:それを石破に言ってよ(笑)。
古市:“自民党の言うことはもう聞かない”って喧嘩して、信念を表明して、できるだけ早く解散・総選挙を打つ。それが石破さんにとっては唯一の勝ち筋だと思います。
田原:そんな度胸ないね。
古市:石破さんは、もう無理ですかね?
田原:無理かもしれないけど、問題なのは自民党内に「石破に代わってオレがやる」って政治家がいないんだよ。これまでの自民党なら必ずそんな政治家が出てきたが、今は全くいない。こんなことは珍しい。
古市:岸田さんはもう一度総理をやりたいんでしょう、きっと。
田原:僕が岸田を評価しないのは、米国の国力が低下する中でパックスアメリカーナを目指しているトランプ次期大統領と渡り合えるビジョンがないことだ。
古市:岸田さんは総理の時に「資産所得倍増」を掲げて株などの資産を含めて増やすと言ったけど、曖昧でわかりにくい。国民に響かなかった。その点、具体的に手取り何万円増やすと約束した国民民主のほうがインパクトは大きい。
田原:もっと残念なのはその野党だね。自民党に代わってやろうという野党が全くいない。自民党の裏金ばっかり追及している。
古市:国民民主の玉木雄一郎代表は103万円の壁なり、アジェンダを出して政策を変えようとしているじゃないですか。
田原:野党の中で支持率が上がっているのは国民民主。なぜかというと、自民党と組むから。自民党の支持基盤を取り込んでいるわけ。
古市:それは戦略が上手なんだと思いますよ。石破さんよりやりたいことがありそうに見える。
田原:だけど自民党に味方して補正予算案を通した。玉木は自民党に味方するか、野党に味方するかの駆け引きだけではなく、大きな部分でこの国をよくするためにどうやるかをもっと考えないと。
古市:じゃあ、石破さんの次として、田原さんが今注目している政治家はいますか?
田原:僕が自民党で信用しているのは齋藤健。総裁選で推薦人20人が集まらなかったのは、自民党の連中が“齋藤健は怖い”と思ってるからだ。
古市:怖いというのはどういう意味ですか?
田原:言いたいことを全部言うから。なぜか自民党議員たちが本気で怖がっているのよ。
古市:でも齋藤さんも党内で少数派なら、石破さん同様、総理になったらできないのでは。
田原:だから(齋藤氏には)言ったことは早くやれよ、と発破を掛けてる。
古市:それまず石破さんに言ってください(笑)。
田原:高市早苗はやる気はあるんだろうけど中国との関係が悪化するから僕は反対。他にいる?
古市:僕は明るい人がいいです。小泉進次郎さんでも鈴木英敬さんでも。石破さんは暗いじゃないですか。暗い時代に暗い政治家は見ていられないので。
田原:いいや、石破は暗いんじゃないよ。総理になって言いたいこと言えないから気持ちが暗くなっている。
古市:僕は本当は総裁選で進次郎さんに勝ってほしかった。ライドシェアなど都会の現役世代に向けた政策ばかり言ったから、地方の年齢層が高い自民党員の支持が得られずに負けた。戦略ミスだった。総選挙ならあれで良かったのでしょうけど。
田原:僕も進次郎が負けたのは残念だった。
古市:やっぱり世代交代は必要です。世界のリーダーはどんどん若返っている。日本でも若いリーダーを周りのベテランが助けるという構図があってもいいと思います。
田原:小泉進次郎総理を齋藤健官房長官が支える。そういう構図ができればいいかもしれない。
古市:トランプの返り咲きでこれから日本の外交は難しくなる。日本は地政学的に韓国、中国との関係は重要だから、次の総理に交代するまでは、石破さんに信念があるなら日中の関係強化もやってもらわないと。
田原:信念はあるの。度胸がない。
古市:ここでも度胸(笑)。政治家の度胸はどうやればつくんですか。
田原:殺されてもいいと覚悟することだよ。
古市:総理はみんなそう思ってなるのではないんですか。
田原:そうでもない。殺されてもいいと覚悟していたのは田中角栄。その芽があったのは安倍晋三と小泉純一郎。小泉が総裁選に挑む時、僕は「あなたが田中派と全面的に戦うなら支持する。でもそれをやったら反対されて総理にはなれないよ」と言ったら、小泉は「約束する。殺されてもいい。自民党をぶっ潰す」と。
古市:度胸って後から身につくんですかね。
田原:この国を良くしたいと思って、ちゃんと命を張ってそれをやっていくことで身についていくんだよ。
古市氏が、自民に喧嘩を売ることで支持率を上げる手があるのでは、と水を向けても、石破総理にはその度胸がない。殺されてもいいという覚悟がないと切って捨てています。こう言われてしまうと、まさに「偽王」という言葉が頭をよぎります。
4.悲しい時代の責務は私たちが負わねばなりません
石破政権は誕生当初から短命になると言われてきましたけれども、ここにきて「もしかすると長期政権?」という声も出てきているそうです。
政治ジャーナリストの安積明子氏は、1月4日付のアエラdotの「石破茂首相は「もしかすると長期政権?」 支持率が低くても党内基盤が弱くても“延命”できる道筋とは」という記事を寄稿しています。
件の記事のポイントは次の通りです。
・9月の総裁選に当選したとたん、株価が大きく下落し、石破政権が発足当時の内閣支持率も低かった。10月の衆院選で自民党が獲得したのは、56議席減の191議席に留まった。2005年の郵政民営化選挙以来、衆議院では比較第一党が単独で過半数を占めていたが、このたびは200議席すら届かなかった。安積氏は、野党3党の勢力がバラバラでかつ微妙な勢力バランスがあるがゆえに、石破自民に延命の芽が出てきているというのですね。
・しかも自民党と連立を組む公明党も、32議席から24議席と8議席も減らし、与党で過半数を割り込んだ。「政治とカネ」の問題に縛られた自民党に引っ張られる形で、公明党は「常勝関西」の大阪で4選挙区全てで敗退し、9月に就任したばかりの石井啓一代表(当時)も落選した。
・「これでは石破政権は来年までもたない」とも言われていた。「内閣支持率が低いままでは、自民党は参院選が戦えない」というのがその理由だ。だがここにきて、「石破政権は意外ともつのではないか」との声が上がりつつある。
・理由は、148議席の立憲民主党、38議席の日本維新の会、28議席の国民民主党という野党の存在だ。
・この3党の代表は、旧民主党の流れをくむという共通点がある。立憲民主党の野田佳彦代表は民主党政権で首相に就任し、日本維新の会の前原誠司共同代表も民主党と民進党の代表を務めた。国民民主党の玉木雄一郎代表(2025年3月3日まで役職停止)は2016年の民進党代表選に出馬して落選したものの、希望の党から派生した旧国民民主党の代表に就任した。
・なお、野田氏と前原氏は松下政経塾の先輩と後輩で、ともに1993年の衆院選で初当選した。「非自民・非共産の大きなかたまり(政治勢力)を作る」という点でも、2人の思惑は一致する。
・一方で故・大平正芳首相の後継を自負する玉木氏は、岸田文雄政権時の自民党に接近し、2022年度本予算案に賛成した。当時、国民民主党の代表代行だった前原氏はこうした姿勢に反発し、23年末に同党を離れた。
・こうした背景を持つ3人が、「石破自民」を揺さぶっている。立憲民主党は今年10月の衆院選で「政権交代こそ、最大の政治改革」を掲げ、自民党に対決姿勢を示している。
・しかし立憲民主党は単独では過半数にほど遠く、政権を奪取するためには他の野党と組む必要がある。日本維新の会共同代表の前原氏は、9月に野田氏が立憲民主党の代表選に当選した時、「薩長同盟」を仄めかしたことがあるが、吉村洋文代表は大の立憲嫌いで有名だ。
・衆院選で7議席から28議席と4倍になった国民民主党は、12月の世論調査で支持率が野党第一党の立憲民主党を凌駕。その勢いで与党に「103万円の壁」の突破を迫り、「123万円」まで引き出した。だが自民党税調のインナーの壁は厚く、国民民主党が主張する「178万円への引き上げ」については協議の段階に留まっており、具体化にはまだ遠い。
・こうした微妙な関係を、石破自民はうまく利用している。国民民主党との「103万円の壁」交渉が難航した12月19日、自公は日本維新の会と教育分野をテーマにした政調会長らの会議が発足。日本維新の会が主張する高校の教育無償化などの政策を議論していくことを決定した。国民民主党に対する事実上の揺さぶりと見られている。
・24日に閉会した臨時国会は、政策活動費の廃止を含む政治改革関連法や13.9兆円の補正予算などを可決したが、企業献金・団体献金禁止問題や公職選挙法改正については次期通常国会に先送りとなった。本予算案の審議とともに、7月に予定される参院選を目指して、各政党間のさらに熾烈な駆け引きが行われるはずだ。
・実際に公明党と国民民主党は、政治資金をチェックする第三者機関を設置する法案を共同提出し、12月24日に成立させた。年明けからは具体的な制度設計について作業チームを設け、検討することを決定している。
・これは「自民党抜き」の動きに見えるが、実際には国民民主党を他の野党から引き離す効果がある。その先に来年夏の参院選が控えているのはもちろんだ。
・10月の衆院選の結果を参考に読売新聞が行った試算では、参院選「1人区」は野党が一本化すれば、与党は15勝17敗と負け越す結果が出ている。立憲民主党の野田代表は11月7日に日本外国特派員協会で講演し、「『1人区』で(自公以外の野党が)協力すれば、劇的な変化が起こせる」と野党共闘に意欲的だ。
・しかし「対決より解決」を標榜する国民民主党は、党勢が広がりを見せており、これに乗ることはないだろう。また日本維新の会の吉村代表は12月10日、「1人区」について予備選で野党を1本化するという考えには同調したものの、「(立憲民主党と)一緒になって選挙というつもりは全くない」と協力には消極的だ。
・野党がバラバラになれば、少数与党は救われる。実際に石破首相自身は派閥を持たず、安倍派という最大派閥が消えてしまった自民党で、第4派閥だった旧岸田派と派閥を持たない菅義偉元首相の支持を得て決選投票で勝利した。「少数派ゆえの優位性」については、すでに経験済みといえるだろう。
・石破首相は11月29日、臨時国会の所信表明演説で故・石橋湛山首相の施政方針演説を2度までも引用したが、その趣旨を12月24日の会見で、本稿冒頭のように説明した。
・国会で野党がそれぞれ議論を交わし、その差を鮮明にすればするほど、政権の延命に繋がるのだ。来年の通常国会がいっそう「熟議の国会」となることを、石破首相が一番願っているに違いない。
確かに永田町の中だけをみればそうかもしれません。けれども、この政治状況は、これまでとは大きな変化生み出していると思います。政治の可視化です。
「偽王」が何も語らない中、その取り巻きと敵が互いの主張をぶつけあっている「宮中」の中身が赤裸々に民の前に晒されることになりました。それが政策のみならず、権力闘争含めて政治のほぼ全て、です。
税制が「インナー」と呼ばれる極少数で決められていたこと、増税はあっという間に決めるが減税はしない財務省など、裏に隠れていた存在が表に引きずり出された。
もちろん、そうさせていた国民の無関心にも大いに責任があることはいうまでもありません。
けれども、それでは、もう持たなくなってきたことが誰の眼にも明らかになってきた今だからこそ、国民の認識と選択が何よりも重要になると思いますね。
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