

1.ロサンゼルスの山火事
アメリカ・ロサンゼルスの山火事被害が拡大しています。
1月7日に発生した火災は、主な山火事はロス北部の複数の地域で起きました。消火活動は強風や干ばつにより難航。炎はイートン地区やハースト地区、リディア地区などで広がっているとのことです。
カリフォルニア工科大があるパサデナ周辺では、5人が死亡。最も被害が大きいのはロス北西部の高級住宅地パシフィック・パリセーズ地区で、6千ヘクタール超が焼失したようです。
当局の発表によれば、数千の建物が焼失。衛星画像を見ると複数の区域全体が灰と化し、被害総額は1350億-1500億ドル(約21兆-24兆円)に上る模様。アメリカ近代史上有数の自然災害になる見通しです。
既に約18万人が避難を強いられており、火災現場を取材したBBCのジョン・サドワース北米特派員は、水が不足しているため消防隊員にはなすすべがなく、家屋が焼け落ちるのを眺めるだけになっていると報告しています。
この惨状に、現地で暮らしていたハリウッドセレブらは、ロサンゼルス市のカレン・バス市長を含む民主党指導部への批判の声が上がっています。
「THE JUON/呪怨」で知られる女優サラ・ミシェル・ゲラーは、インスタグラムのストーリーで「ロサンゼルス市は全員に避難を勧告しながら、渋滞がひどく、交通誘導する警察官が1人もいない」と投稿。また、X(旧ツイッター)に自宅近くで炎が上がる動画を投稿して、「愛する人を失った気分だ」と記して避難したことを公表しています。
また、映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」で知られる俳優ジェームズ・ウッズは、「貯水池に水を補給できない。火災管理について理解していない」と市の対応を非難。さらに、女優サラ・フォスターも「ロサンゼルスの住民は法外な税金を支払っているのに、州がこのような大規模な山火事に対処する準備が全くできていない……消火栓は空で、植物は生い茂り、雑草は刈り取られていなかった」などと、消防局の予算を削減したバス市長を批判しています。
バス市長を巡っては、火災発生時にガーナの大統領就任式に出席するため国外におり、不在だったことが物議を醸していることに加え、火災発生後に2024-25年度の市の消防局の予算を1760万ドル削減したことが発覚。消火活動中の消防隊員からも消火栓の水が枯渇していると悲鳴が上がっていることが報じられています。
2.なぜこれほど壊滅的なのか
今回の山火事がなぜこれほどまでに壊滅的な被害をもたらしたのかについて、ブルームバーグが1月10日付記事「米加州ロサンゼルスの山火事、なぜこれほど壊滅的なのか-」を掲載しています。
記事の概要は次の通りです。
・なぜ火災がこれほど急速に広がったのか?
南カリフォルニアは干ばつに見舞われている。1月9日のラニーニャ現象の発生宣言に至った気象パターンにより、太平洋で発生した嵐はカリフォルニアをそれて北西に向かった。さらに、ロサンゼルス近郊の異常な気圧パターンにより、本来ならアラスカ湾からやってくる冷たい嵐が遮られた。この地域では昨年4月以降、まとまった雨が降っていない。
研究者らは、冬季の長引く干ばつは海洋の温暖化と関連している可能性が高いと指摘している。海水の温度上昇によって、北米全域の天候に影響を及ぼすジェット気流が本来の軌道から外れる可能性があるという。
ただ、ロサンゼルスの気象現象の一つはこれまで通り発生した。太平洋岸に向けて強く吹く、暖かく乾燥した季節風のサンタアナ風だ。同地域のあらゆる植物を乾燥させ、燃えやすくし、火災の悪化につながっている。
・なぜ火災がこれほど破滅的なのか?
最も大きな二つの火災がロサンゼルスの高級住宅地パシフィック・パリセーズ地区と、その東方にあるアルタデナ市およびパサデナ市をまたがる地域で猛威を振るっている。これらの地域は、人が住んでいないエリアと人の活動によって開発されたエリアとの移行地帯の典型だ。
カリフォルニア大学マーセド校の火災レジリエンスセンターのディレクター、クリスタル・コールデン氏は、家屋が可燃性の高い低木や樹木に近接していることが多いため、これらの地域の山火事では特に壊滅的になり得ると述べている。
・なぜ鎮火が難しいのか?
消防士らは水不足と闘っている。ロサンゼルス地域の消火栓は市営の水道システムの一部で、日常的なニーズを満たし、個々の建物火災を消火するのに十分な水圧を提供しているが、これほどの激しさと規模の火災を鎮火するには不十分だ。
消防士の活動は強風によっても妨げられており、空中消火もできなくなっている。
ブルームバーグは、乾燥と強風と水不足によって、これほどの被害が起こっていると分析し、天災だとしてます。
3.これは人災だ
一方、これは人災だという人もいます。ドナルド・トランプ次期大統領です。
トランプ次期大統領は、SNSトゥルース・ソーシャルに「ギャビン・ニューズカム知事は直ちに北カリフォルニアへ行き、水道本管を開通させ、水を太平洋に流すのではなく、乾燥し、飢え、焼け野原に広がる同州に流すべきだ……今すぐに行うべきだ。この無能な知事にこれ以上の言い訳は許さない。もう遅すぎる!……この件の責任は彼にある……北部からの過剰な雨や雪解け水から毎日何百万ガロンもの水がカリフォルニアの多くの地域に流れ込むことを可能にする水資源回復宣言に署名することを拒否した。その地域には、現在事実上終末的な形で燃えている地域も含まれる。ニューサム氏は、ワカサギと呼ばれる本質的に価値のない魚を保護するために、水を減らすことを望んでいたが(効果はなかった!)、カリフォルニアの人々のことを気にしていなかった」と、ニューサム知事の名をなぜか「ニューズカム」と間違えた上で批判しています。
トランプ氏が言及しているワカサギは、サクラメント・サンホアキン・デルタに生息する小魚のことで、近年デルタからほぼ完全に姿を消しています。
1980年代に個体数が減少し始め、カリフォルニア州絶滅危惧種保護法では絶滅危惧種に指定。2018年の調査では、野生のワカサギはゼロという結果に終わりました。
カリフォルニア州魚類野生生物局の調査によると、同局は2022年に61日間のサンプリングにもかかわらず、ワカサギを1匹も捕獲できませんでした。
トランプ次期大統領のワカサギへの関心は、2016年5月にフレズノで行われた集会にまで遡ります。その集会でトランプ大統領は、南カリフォルニアの農場主の利益を代弁し、「ある種の3インチの魚」に言及しています。
トランプ氏は集会で「水問題はとんでもなくひどい。水を汲み上げて海に流しているなんて、とんでもないことだ……誰もその理由を知らないし、環境保護論者もその理由を知らない」とコメントしています。
2018年10月19日、トランプ大統領は絶滅危惧種保護法や国家環境政策法の「水の供給に過度の負担をかけるあらゆる規制や手続きを適切に停止、改正、撤回する」よう指示する大統領覚書に署名しました。
けれども、州当局はこの計画に反対し、絶滅危惧種のワカサギ類を保護するため、連邦と共に新たな規制を設定。サクラメント・サンホアキン川デルタから汲み上げる水の量は制限されました。
トランプ氏は本来、この水が山火事を防ぐはずだったと主張しているのですけれども、ニューサム知事は、「水道復旧宣言などという文書は存在しない。それは全くの作り話だ。知事は政治的駆け引きではなく、人々を守ること、そして消防士たちに必要なすべての資源が確保されることに重点を置いている」と反論しています。
他方、足らないのでは水なく、電力が足らないのだという指摘もあります。
1月9日、バイデン大統領は山火事に対する連邦政府の対応について報告するためホワイトハウスと政権の高官を招集しました。ここで当局者は、問題は地域の水不足ではなく、停電によって水の流れが妨げられていることだと指摘しています。
バイデン大統領は「知事と話してわかったこととして、水不足も懸念されているということを明確にしておきたい。電力会社が電力供給を止めたのは、電力を運ぶ電線が吹き飛ばされて火災がさらに広がるのを懸念したためだ。だが、カリフォルニア州の火災では、発電と水を汲み上げる能力が停止した。それが消火栓の水不足の原因だ……そこで、CAL消防局は発電機を持ち込んでポンプを稼働させ、消火栓から出る水が不足しないようにしている……また、南カリフォルニアに可能な限りの連邦政府の資源を投入している」とコメントしています。
4.トランプの虚偽の主張
水不足にしても電力不足にしても、それが山火事被害の拡大の原因であるならば、やはり人災の面もあるのではないかとも思うのですけれども、CNNは1月9日付の記事「ファクトチェック:山火事が猛威を振るう中、トランプ大統領はFEMAとカリフォルニアの水政策について虚偽の主張を繰り広げている」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
新たな自然災害、ドナルド・トランプ次期大統領による新たな一連の虚偽の主張。CNNはトランプ氏の発言は間違いだらけだと批判していますけれども、トランプ氏側に立った発言やコメントがまったくないのは少し気になります。とくにカリフォルニア大学のブレント・ハッダッド環境学教授の「トランプ氏の発言はあまりにも「愚か」なので、詳しく議論するよりも無視すべきだ」というのはいささか乱暴に聞こえます。
トランプ大統領は長年、カリフォルニア州の山火事やその他の災害に関する発言で不正確な主張を散りばめてきた。ロサンゼルス郡で山火事が猛威を振るう中、水曜日も再び同じことをした。
ここで事実確認をします。
〇FEMAの資金
トランプ大統領は水曜日、ソーシャルメディアで、ジョー・バイデン大統領が「FEMAに資金を一切残さない」と 主張した。
・第1の事実:トランプ氏の主張は誤りだ。FEMA の災害救済基金は昨年、一連の大災害により枯渇したが、バイデン氏は 12 月に基金を補充する法案に署名した。「災害救済基金の現在の残高は約 270 億ドルです」と FEMA は水曜日に CNN に電子メールで伝えた。この金額は今年起こるすべての災害で生じるニーズを満たすには不十分かもしれないが、「お金がない」わけではない。
12月の法案では、災害救済基金への290億ドルの新規資金(バイデン氏は議会に400億ドルを要請していた)に加え、その他の新たな災害関連資金としてさらに数十億ドルが承認された。
「連邦議会が最近、災害補足法案を可決したおかげで、FEMAはカリフォルニアのニーズに対応するのに必要な資金と資源を確保した」と同庁は水曜日の電子メールで述べた。
トランプ大統領は、秋のハリケーン・ヘレン発生後、FEMAの資金が枯渇したという 同様の虚偽の主張を行った。
〇ニューサムと「水資源回復宣言」
トランプ大統領は、山火事危機の責任をカリフォルニア州の民主党知事ギャビン・ニューサムに押し付け、ソーシャルメディアへの投稿で、ニューサム知事は「北部からの過剰な雨と雪解け水から毎日何百万ガロンもの水がカリフォルニア州の多くの地域に流れ込むことを可能にするはずだった水資源回復宣言への署名を拒否した。その地域には、現在事実上破滅的な勢いで燃えている地域も含まれる」と主張した。
・第1の事実:これは誤りです。ニューサム氏は「水資源回復宣言」への署名を拒否したことは一度もありません。実際、そのような文書は存在しないとニューサム氏の事務所は水曜日にソーシャルメディアで述べ、カリフォルニア州の水政策の専門家も確認しています。
「彼が署名すべき『水資源回復宣言』はなかった」と、シンクタンクのカリフォルニア公共政策研究所水政策センターの上級研究員 ジェフリー・マウント氏は水曜日のインタビューで語った。
「カリフォルニア州では、知事が署名を拒否した『水資源回復宣言』は一度もなかった」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の環境学教授 ブレント・ハッダッド氏は水曜日の電子メールで述べた。
2020年、ニューサム知事は、カリフォルニア州中部の農業の中心地であるサクラメント・サンホアキン・デルタ地帯の「絶滅の危機に瀕した魚種を保護する」ためだと主張し、カリフォルニア州北部からより多くの水を同州のセントラルバレー農業の中心地の農家に供給するというトランプ大統領の計画 に対して法的異議を申し立てた。トランプ大統領の政権移行チームは木曜日、トランプ氏が言及していたのはこれだと述べた。しかし、トランプ氏の主張とは反対に、この連邦政府の取り組みはニューサム知事が「署名」するかどうかを決める宣言ではなかった。そして重要なことに、以下のファクトチェック項目で説明するように、専門家らは、この長期にわたる政策論争と現在の火災の間には何の関係もないと述べている。
〇カリフォルニア州の水政策
同じソーシャルメディアの投稿で、トランプ氏はニューサム知事が宣言とされるものに署名することを拒否したのは、同知事が「ワカサギという本質的に価値のない魚を保護するために水を減らすことで(効果はなかった!)カリフォルニア州民のことを気にかけなかった」ためだと続けた。
トランプ氏は続けてこう述べた。「今、最大の代償が払われている。私はこの無能な知事に、美しく、きれいな真水がカリフォルニアに流れ込むことを許可するよう要求する!これは彼の責任だ。それだけでなく、消火栓に水は供給されず、消防飛行機も来ない。」
・第1の事実:これらのトランプ氏の主張には、誇張、不正確、そして全体的に虚偽の記述が含まれている。最も注目すべきは、カリフォルニア州の水政策の専門家が水曜日、南カリフォルニアの火災の存在や消火活動の難しさと、キュウリウオやその他の生物や生態系を保護するために州北部に保持されている水とを結び付ける根拠はないと述べたことだ。南カリフォルニアでは、火災を消火するための水が不足しているわけではない。
マウント氏は、ソーシャルメディアの投稿におけるトランプ氏の主張は「意味をなさない」し、「どれも真実ではない」と述べた。また、デルタ北部の水に関する議論は「南カリフォルニアの火災とは何の関係もない。何の関係もない」と述べた。
州や地方の指導者が政策や計画の失敗を犯し、ロサンゼルス郡の消火活動を妨げたことが判明する可能性は十分にある。しかし、トランプ大統領が繰り返し持ち出し、このソーシャルメディアの投稿でも再び議論していた特定の問題、つまり、ロサンゼルス地域から山脈で隔てられたセントラルバレーの農場に北部からどれだけの水を送るべきかという問題との関連は明らかではない。
ニューサム知事の北部デルタのワカサギ保護に関する立場の長所や短所が何であれ、木曜日の朝の時点で、州内の主要貯水池のうち 3 か所を除くすべてが、過去の平均値かそれ以上の水位に満たされていた。消火活動による水需要が急増したため、ロサンゼルスのパシフィック パリセーズ地区では一部消火栓が空になっていたのは事実だが、その重大な問題 (こちらで読むことができる)は、ロサンゼルス地域の水不足ではなく、その地域の山岳地形の影響を受けた 現地の物流要因に関連していた。
「水不足が一般的に問題になったことは一度もありません。むしろ、消火活動中に主にインフラの制約により、地域的に水不足がありました。しかし、南カリフォルニアには現在十分な水が備蓄されているため、これが制限要因ではありませんでした」とマウント氏は語った。
この火災危機は、異常に強い風と、ロサンゼルス都市圏の丘陵地帯の異常に乾燥した低木地帯(ここ何ヶ月もほとんど雨が降っていない)が重なって起きた。セントラルバレーの農地にもっと水を送るというトランプ大統領の提案は、灌漑されていないロサンゼルスの低木地帯を守ることはできなかっただろう。
ハッダッド氏は、トランプ氏の発言はあまりにも「愚か」なので、詳しく議論するよりも無視すべきだと述べた。「北カリフォルニアの環境保護とパシフィック・パリセーズの低流量消火栓の間には何の関係もない」
〇トランプに関するその他の不正確な発言
トランプ氏の投稿における主張には、他にもさまざまな事実上の問題がある。
「消防飛行機はない」というトランプ大統領の漠然とした主張は事実ではない。消防飛行機は強風のため火曜の夜から一時飛行停止していたが、水を搭載して水曜にロサンゼルス郡上空で活動を再開した。
「消火栓に水がない」という主張は誇張だ。パシフィック・パリセーズの消火栓が干上がったときでも、ロサンゼルス郡の他の地域の消火栓には水があった。
デルタワカサギの保護を訴える人々は、この種が生息するデルタ地域に「水を減らす」のではなく「水を増やす」ことを望んでいる。そしてトランプ大統領の提案に反して、ニューサム知事は州への水の流入を完全に止めてはいない。
トランプ氏が本当に「愚か」なのであれば、猶更丁寧に説明して納得させるなり、意見を変えるなりさせないと、またぞろ同じことが起こらないとも限りません。
一部には、同時に3カ所から発火したなんて不自然だとか、あっち界隈からは「能登と同じで、なんちゃらレーザーだ」なんて意見もネット等で散見されます。それを考えると、やはり、ちゃんと検証・調査して原因を突き止めておくべきではないかと思いますね。
衝撃的な災害が起きると陰謀論界隈が必ず沸きます。ロサンゼルスの大規模な山火事について「◯◯だけ燃えていない」「指向性エネルギー兵器(DEW)」「マウイ島と同じやり方」「DSの証拠隠滅」「セレブの人身売買が」「スマートシティ計画で」などと述べるアカウントには加担しないよう注意が必要です pic.twitter.com/YAFKA5B5TS
— 黒猫ドラネコ (@kurodoraneko15) January 9, 2025
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