

1.HR25公平税法案
1月9日、アメリカ共和党(ジョージア州選出)のアール・L・カーター下院議員は、現行の税法を「公平税」として知られる国家消費税に置き換える法案、HR25「公平税法」を提出しました。
この公平税は、現在の税法を廃止し、単一の国家消費税に置き換えるものです。公平税は、個人所得税、法人所得税、相続税、贈与税、給与税をすべて廃止するだけでなく、国税庁の必要性も排除するとしています。
法案の共同提案者は、アンドリュー・クライド下院議員(共和党、ジョージア州)、ジョン・カーター下院議員(共和党、テキサス州)、スコット・ペリー下院議員(共和党、ペンシルバニア州)、エリック・バーリソン下院議員(共和党、ミズーリ州)、ジョン・ラザフォード下院議員(共和党、フロリダ州)、ウォーレン・デビッドソン下院議員(共和党、オハイオ州)、アンディ・ビッグス下院議員(共和党、アリゾナ州)、デール・ストロング下院議員(共和党、アラバマ州)、リッチ・マコーミック下院議員(共和党、ジョージア州)、バリー・ラウダーミルク下院議員(共和党、ジョージア州)、アンディ・ハリス下院議員(共和党、メリーランド州)です。
法案について、カーター下院議員は「公平税はまさにその通り、公平です。これは成長促進的でシンプルで、米国民が苦労して稼いだお金を1セント残らず保持でき、IRSの必要性を完全に排除できる唯一の税制提案です。官僚ではなく米国民が税率を管理するジョージア州発のこの法案を主導できることを誇りに思います」と述べています。
同じく法案の共同提案者達は次のようにコメントしています。
バリー・ラウダーミルク下院議員:また、カーター下院議員は所得税とIRS(内国歳入庁)を廃止し、不法移民に課税して政府の資金を賄う法案も提出し、次のように述べています。
勤勉なアメリカ人は、税金を申告するのに弁護士や会計士のチームを必要とすべきではありません。彼らに必要なのは、成長と革新を促すシンプルなシステムです。納税者は、苦労して稼いだお金をもっと手元に残したいという理由で、IRSの職員に狙われてはいけません。だからこそ、税法を簡素化し、より多くのアメリカ人がアメリカンドリームを実現する機会を得られるよう、ジョージア州が主導するこの法案を私は誇りに思っています
クライド下院議員:
私は再びフェアタックス法案を支持できることを誇りに思います。この法案は、武器となるIRSの必要性をなくし、税法を簡素化し、経済的繁栄を促進する常識的な解決策を提供します。フェアタックスを制定して、勤勉な納税者に力を与え、アメリカンドリームを再び手頃な価格にするときが来ました。
ストロング下院議員:
公平税法は税法を合理化し簡素化し、不法移民を含む国民全員が公平な負担を負うことを確実にする。今議会は、米国民が苦労して稼いだお金をより多く保持できるようにする成長促進税制の議題を推進する素晴らしい機会だ。
マコーミック下院議員:
公平税はシステムを簡素化すると同時に、収入基盤を拡大し、誰もが公平に貢献できるようにしながら、税の抜け穴や不必要な複雑さを減らします。貯蓄を奨励し、安定的で予測可能な収入を生み出すことで、国家債務を削減し、国が正しい財政軌道に戻るための道筋を設定するための持続可能な道筋を提供します。
・フェアタックスは経済全体に広範な利益をもたらすだろうが、その中でも特に重要なのは、不法移民に公平な税金を支払わせることだ。
・これにより、不法移民が税金を支払わずに税金で賄われた資源を利用する事例がなくなり、同時にアメリカ人が税率を選択できるようになる。
・私は不法移民の本国送還に大賛成だが、彼らが国内にいる限り、課税されるべきだ
・私の夢は、不法移民全員が国外追放されることだが、もし少数が留まることになったら、彼らに罰金を払わせるべきだ。
2.見送られ続けた公平税法案
公平税(フェアタックス)は日本でいうところのいわゆる「消費税」に相当するものですけれども、過去を振り返ると、公平税法案は、1999年にジョージア州元下院議員ジョン・リンダー氏によって初めて米国議会に導入され、その後ジョージア州下院議員ロブ・ウッドオール氏によって推進されました。
2015年、ジョージア州のデビッド・パーデュー共和党上院議員とジョニー・イサクソン上院議員、そしてカンザス州のジェリー・モラン上院議員が公平税法案を上院に提出しています。
この提案自体は比較的単純で、連邦所得税、給与税、贈与税、相続税をすべて廃止し、代わりに23パーセントの消費税を導入するというものでした。ジョージア州選出の保守派新人議員によると、この計画は米国経済の国際競争力を高め、人々の仕事を取り戻すだけでなく、IRSが一般の米国人の生活に介入する権限を剥奪することになるとしました。
また、このアイデアを長年支持してきた他の議員たちもこれに同意し、個人の収入に課税する制度を、その個人の支出だけに課税する制度に置き換えることで、国民一人ひとりが自分の税負担を自由に決められるようになると主張しました。
この公平税という考え方は、共和党大統領予備選に勝利するための後押しの一つになることをも視野に入れたものだったのですけれども、2008年のマイク・ハッカビー氏から2012年のハーマン・ケイン氏まで、共和党予備選の候補者の多くは、この提案を支持しながら指名を勝ち取れませんでした。
2016年の大統領選挙で勝利したトランプ大統領も第一期政権では、減税政策を実行したものの、標準控除額の拡大や法人税率一律21%への引き下げ、源泉地課税主義税制への移行などに止まり、公平税までには至りませんでした。
3.二十三パーセントの税金
今回提出された公平税法「HR25」は、2025年から100ドルの購入ごとに30ドルの税金を課す法案です。30ドルの税金の支払いは税込み価格130ドルの23パーセントになることから、この法案の支持者達は「23パーセントの税金」と呼んでいるようです。
この新しい税は、住宅、医療、食料品など、州の売上税が免除されることが多い商品やサービスを含む、アメリカ人が購入するほぼすべてのものに広く適用されます。公平税法には「家族消費控除」が含まれており、連邦貧困レベルのパーセンテージとして計算され、基本レベルの必需品にかかる税金を相殺するために設計された「プレベイト」を家族に提供するとしていますけれども、その反面、現在何百万もの家族を貧困から救い出している勤労所得税額控除と児童税額控除も廃止されるとしています。
この法案は、従来の連邦税制の基盤を所得税から消費税へと移行することになることから、富裕層優遇ではないかという指摘や、公平税法による連邦相続税の廃止によって、富の格差がさらに拡大するとも批判されています。
公平税法IRS(歳入庁)を廃止し、ほとんどの税務管理責任を州に委ねることになります。ただ、提案されている「公平税」は既存の州売上税法とは根本的に異なり、例えば、売上税を課している45州のうち、食料品に課税しているのは13州のみなのですけれども、公平税法の下では課税されることなります。
また、医療サービスに広範な課税を課しているのはハワイ州とニューメキシコ州の2州のみなのですけれども、これも新しい税の対象となります。
このような違いから、州が公平税を実施する際の維持管理コストの上昇も懸念されています。
まぁ、公平税導入は、抜本的な税制改正になることは明らかですからね。本当に実施するともなれば、それなりの混乱はあると思われます。
4.公平税の評価とマクロ経済的影響
今回の公平税について、アメリカのシンクタンク「アメリカン・アクション・フォーラム(AAF)」は、2023年5月に「公平税の評価とマクロ経済的影響」という分析記事を掲載しています。
件の記事の一部を引用すると次の通りです。
エグゼクティブサマリー今の税収を消費税で全部賄おうとすれば、23パーセントでは全然足りないといったどこかで聞いたような評価です。単純計算では確かにそのようになるのでしょう。従って、この公平税法「HR25」の実現可能性は、イーロンマスク氏が指揮する政府効率化省が、消費税23%で全て賄える程度にまで、政府の無駄な支出を削減することと連動するような気がします。
2023年公正税法(HR25)は、既存の連邦歳入制度(個人所得税、法人所得税、給与税、相続税および贈与税)を単一の全国消費税に置き換えるものです。この分析では、HR25で設計された公正税の評価を示し、そのマクロ経済への影響を推定します。その結果は次のとおりです。
HR25の23パーセントの税率は楽観的な下限値です。これは、税抜きベースで測定され、州の売上税に典型的な課税ベースに適用され、重大な不遵守があった場合、税率は380パーセントを超える没収レベルに達する可能性があります。
フェアタックスの下では、アメリカの家庭は、適用される税率に匹敵する規模の消費者物価の即時上昇と、最初の5年間、場合によっては10年間の生活水準の低下に直面することになります。
最終的に、消費税への移行は資本蓄積、労働供給、生産量の増加を生み出します。最も有益な効果は、政府の規模に関する規律によって税率が可能な限り低く抑えられたときに発生します。
導入
公平税は、個人所得税、法人所得税、給与税、相続税および贈与税といった既存の連邦歳入制度を、単一の全国消費税に置き換えるという長年の税制改革案です。公平税には、一見すると単純であることと、潜在的な経済効率という2つの魅力的な特徴があります。消費税は消費税の一形態です。米国が消費税への依存へと移行すれば、貯蓄、資本蓄積、生産高の増加、生産性の向上に対する長期的なインセンティブが改善されます。
フェアタックスには、差し迫った懸念事項もいくつかあります。消費税は逆進的であることで有名です(ただし、支持者はフェアタックスの設計上の特徴がこの問題に対処していると主張するだろう)、連邦消費税は多くの州にとって重要な税基盤を奪い、既存の連邦歳入を補うには税率をかなり高くする必要があります。税逃れの強い動機があり、そして導入されると価格が税を賄えるほど上昇します(連邦準備制度が通貨供給量を増やすことでフェアタックスを賄うという標準的な仮定に従う)。現在、40年ぶりの高インフレに見舞われている経済において、この後者の特徴は現時点で特に問題です。
フェアタックスの最新の立法バージョンである2023年フェアタックス法(HR25)が下院で審議される可能性があるという報道を受けて、アメリカン・アクション・フォーラム(AAF)は、影響の実証的な大きさをより正確に特定しようと努めました。フェアタックスに関する定性的な議論を進めるには、米国経済の正式なモデルが必要です。AAFは、EYの定量経済統計(QUEST)グループに分析を依頼しました。EYの「重複世代モデル」(付録を参照)は、議会予算局、合同税務委員会、米国財務省で使用されているモデルと類似しています。そのため、研究文献で合意されている影響を体現しています。
フェアタックスの説明
フェアタックスは、法人所得税、個人所得税、給与税、相続税、贈与税を国営小売売上税に置き換えるものです。フェアタックスは名目上、国税庁を廃止します。しかし、この機能の意味は明らかではありません。なぜなら、それでも、その代わりに何らかの税務管理機関が必要になるからです。
小売売上税は、消費者への最終販売に適用される消費税です。HR25で提案されているFairTaxは、政府(連邦、州、地方)による消費も含む広範な消費ベースに対して23%の包括税率で課されます。
公平税には、すべての家族に対して連邦貧困レベル(家族規模によって異なる)で毎月支払うべき税額を還付する家族消費控除(FCA)が含まれます。これにより、実質的に最低限の消費レベルが免税となり、公平税の逆進性が軽減されます。FCAには、結婚ペナルティに対処するための調整も含まれています。
公平税は、消費者物価指数で測定される価格水準の初期変化に合わせて社会保障給付を調整します。この調整は、公平税が実質価格を大幅に引き上げる効果を及ぼした後も、社会保障給付の実質価値が維持されるようにすることを目的としています。
【以下略】
法人税、所得税、相続税など全てなしにして、税金は消費税だけ、というのは実にシンプルで分かりやすい税制だと思いますけれども、次期トランプ政権が本気でこれをやる気であるのか、またやれるのかについて、今後注目していきたいと思います。
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