ファクトチェックを止めるメタ

今日はこの話題です。
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1.メタのファクトチェック廃止


1月7日、アメリカのメタ社は、運営するフェイスブックとインスタグラムで、投稿内容の正確性を調べる独立したファクトチェッカーの使用を廃止すると発表しました。

メタ社のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、メタ社がこの日にブログに投稿した動画の中で、「トランプ氏が2016年に初めて大統領に選出された後、旧来のメディアは、誤情報が民主主義への脅威であると書き続けた。我々は真実の裁定者とならずに、誠意を持ってそれらの懸念に対処しようとした……しかし、ファクトチェッカーはあまりにも政治的に偏りすぎていて、特に米国では、築いた信頼よりも多くの信頼を破壊してしまった」と述べました。

メタ社は、2016年のアメリカ大統領選挙後、ファクトチェッカーと最も広範囲にわたるパートナーシップを結び、虚偽や誤解を招く情報の拡散を制限する技術プラットフォームの標準となったものを作り上げてきました。

2016年に導入されたメタの現在のファクトチェック・プログラムは、虚偽または誤解を招くと思われる投稿を、独立機関に照会し、その信頼性を評価する仕組みになっていて、不正確と判断された投稿には、閲覧者に追加情報を提供するラベルが貼られ、ユーザーのフィードの下位に表示されるようになっています。

けれども、2020年の選挙と新型コロナウイルスのパンデミックにより、コンテンツモデレーションを検閲の一種とみなす保守派の間で反発が加速。ファクトチェッカー、虚偽の物語の研究者、ソーシャルメディアのコンテンツモデレーションプログラムは、共和党主導の議会調査や法的訴訟の標的となっています。

ザッカーバーグ氏は、コンテンツ管理に関する自身の見解が変わったとし、メタはコンテンツポリシーの適用において「あまりにも多くの間違いを犯した……だから我々は原点に立ち返り、間違いを減らし、方針を簡素化し、我々のプラットフォーム上で表現の自由を回復することに注力するつもりだ」とトランプ氏の再選は「言論を再び優先する文化的転換点」だと述べています。

メタ社は6日、トランプ氏の長年の支持者であるアルティメット・ファイティング・チャンピオンシップのCEO、ダナ・ホワイト氏を取締役会に任命。トランプ大統領就任基金に100万ドルを寄付しました。

ダートマス大学の政治学者で、長年メタの観察者でもあるブレンダン・ナイハン氏は、「メタは、標的にされることで大きな政治的リスクがあることをはっきりと認識している……ザッカーバーグ氏の発表の仕方やタイミングは、明らかに共和党支持者を狙ったものだった」と、ビジネスリーダーたちが新政権に対して「パフォーマンス的な忠誠心を示している」のを見るのは憂慮すべきことだと語っています。

更に、連邦取引委員会のリナ・カーン委員長は7日のCNBCとのインタビューで、「まあ、私のような立場の人が将来何をするかは予測できません。FTC がアマゾンやフェイスブックに対する進行中の訴訟を含め、非常に成功しているのは事実です……ですから、これらの企業が参入して、何らかの優遇措置が得られるか検討したいと思うのは当然でしょう」とメタ社の幹部らがトランプ大統領のホワイトハウスで「甘い取引」を求めているのではないかと懸念していると指摘しています。

一方、共和党はメタ氏の発表を、長年の不満が認められたとして歓迎。トランプ次期大統領は、「彼らは大きく進歩したと思う」と記者会見で述べ、ランド・ポール上院議員は「メタがついに言論の検閲を認めた…目覚めたら素晴らしい誕生日プレゼントが手に入るし、言論の自由にとって大きな勝利だ」とXに投稿しています。

今後、メタ社はサードパーティのファクトチェッカーと協力する代わりに、Xが採用しているような、ユーザーが特定の投稿の横に表示されるメモを書いて評価する「コミュニティメモ」プログラムに移行するとし、更にポリシーの施行方法を変更し、テロ、児童性的搾取、詐欺などの「違法かつ重大な違反」を除き、自動化システムを停止するとしています。

また、メタ社のアメリカ・コンテンツモデレーションチームは、カリフォルニアからテキサスに移転。ザッカーバーグ氏は、この移転について「チームの偏見に対する懸念が少ない場所でこの業務を行うための信頼を築くのに役立つはずだ」と述べています。


2.政府の圧力は間違っている


フェイスブックで検閲が行われていたのかについては、昨年8月、ザッカーバーグ氏自身が明らかにしています。

ザッカーバーグ氏は、2024年8月26日付で議会下院の司法委員会に書簡を出しています。

その書簡では、「2021年にホワイトハウスを含むバイデン政権高官が、ユーモアや風刺も含めて新型コロナウイルスの特定コンテンツを検閲するよう、何カ月にもわたって我々のチームに繰り返し圧力をかけられた」として、メタ側で投稿された内容が適切か精査するように求められたなどと綴っています。

ザッカーバーグ氏は、会社独自の判断で投稿を削除するかどうかを決めたとしているものの、「政府の圧力は間違っている。これについてフェイスブックやインスタグラムを傘下にもつメタが対外的に発信しなかったことを後悔している。いずれの方向にせよ、いかなる政権からの圧力があっても、自分たちのコンテンツ基準について妥協すべきではないと強く感じている。もしも再びこのようなことが起これば拒否する用意がある」と批判しました。

この書簡は、下院共和党がSNSで「バイデン・ハリス政権がアメリカ国民を検閲するよう圧力をかけたとザッカーバーグ氏が認めた」というコメントとともに公表したものですけれども、この段階で検閲があったと述べているのですね。

ザッカーバーグ氏の書簡ではさらに、大統領の息子のハンター・バイデン氏とウクライナ企業ブリスマに関するロシアの偽情報が2020年の大統領選挙に影響を及ぼす可能性について、メタ社が米連邦捜査局(FBI)から警告を受けていたことも明らかにしていて、政府に都合の悪いことを封殺しようとしていた疑惑は拭えません。


3.急進的な揺り戻し


今回のメタ社の独立したファクトチェッカーの廃止について、セント・ジョンズ大学法科大学院のケイト・クロニック准教授は、ここ数年、特にマスク氏がXを買収して以来、避けられないと思われてきた傾向を映し出していると指摘。「これらのプラットフォームにおける、言論の民間管理は、ますます政治的な問題になってきている」とし、企業側はこれまで、ハラスメントやヘイトスピーチ、偽情報といった問題に対処するための、信頼と安全のメカニズムの構築を求める圧力に直面してきたが、今や「逆方向への急進的な揺り戻し」が進んでいると述べています。

一方、これまで、オンライン上のヘイトスピーチ(憎悪表現)に反対する人たちは、今回の変更に落胆し、トランプ氏に気に入られたいという考えに動機づけられた決定だと批判しています。

大手ハイテク企業の責任を追及する団体を自称する国際NGOグローバル・ウィットネスのアヴァ・リー氏は「ザッカーバーグ氏の発表は、トランプ次期政権に取り入ろうとする、有害な影響を伴う露骨な試みだ……『検閲』を回避するとの主張は、プラットフォームが助長・促進する憎悪や偽情報に対する責任を回避するための、政治的な動きだ」と批判しています。

また、欧州でのフェイスブックの投稿検証プログラムに参加しているファクトチェック団体「フルファクト」のクリス・モリス最高経営責任者(CEO)は「自分たちの専門的職業に対する、偏見のある申し立てに反論する……世界中に委縮効果をもたらす危険性のある、失望を伴う、現状から後退させる一歩」と述べています。

更に、国際ファクトチェックネットワークの共同創設者ビル・アデア氏は「特に問題なのは、彼のプログラムに参加したファクトチェッカーたちが、透明性と無党派性を求める行動規範に署名していることを彼が知っているにもかかわらず、ファクトチェッカーたちに対する偏見の主張を繰り返しているのを見ることだ」と批判しています。

これに対し、メタ社の国際問題担当責任者に就任した、ジョージ・W・ブッシュ政権で働いた経験を持つ共和党員でベテランの企業幹部ジョエル・カプラン氏は、「あまりにも多くの無害なコンテンツが検閲され、あまりにも多くの人々が不当に『フェイスブックの監獄』に閉じ込められている。そして、そうした事態に陥った時、我々はしばしば対応が遅すぎる」と、反論しています。

ただ、ザッカーバーグ氏は件の動画の中で、「我々が捕まえる悪いものの数は減るが、誤って取り下げてしまう罪のない人々の投稿やアカウントの数も減ることになる」とこの変更は「トレードオフ」を意味するとも指摘しています。

これについて、国際ファクトチェッキングネットワークのディレクター、アンジー・ドロブニック・ホラン氏は「ファクトチェッカーの報告書の発行は減り、ファクトチェッカーの作業も減るだろう……ソーシャルメディア上のファクトチェックプログラムは、デマコンテンツや陰謀論を減らすのに非常に役立っていると思う。そして、十分な議論もなしにこのように急速に抑制されてしまうのは残念だ」と語り、ワシントン大学の偽情報研究者で、同大学の情報公開センターの共同設立者でもあるケイト・スターバード氏は「人々がオンラインで信頼できる情報を見つけることはより困難になるだろう」と指摘しています。


4.メタまで変質するとは


今回のメタ社の決定について、日本のメディアはどう受け止めているか。

1月15日、中日新聞は「事実確認の廃止 メタまで変質するとは」という社説を掲載しています。

件の記事を引用すると次の通りです。
フェイスブックやインスタグラムなどを運営するSNSの世界最大手「Meta(メタ)」のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が、投稿内容を巡る第三者機関によるファクトチェック(事実確認)を米国では廃止すると発表した。日本では継続するという。

投稿規制を批判してきたトランプ次期大統領ら保守派に擦り寄った形だ。うそや中傷が放置されれば、だまされ、傷つく人が増え、陰謀論のまん延や社会の分断に拍車をかける可能性がある。事実確認は継続すべきである。

メタがファクトチェックを導入したのは2016年12月。トランプ氏が1期目の大統領当選を決めた直後だった。対抗馬だったヒラリー・クリントン氏をおとしめる虚偽情報が広がったためだ。

ロシアによるSNSを通じた選挙介入なども問題となり、投稿規制の強化が続けられてきた。21年1月の米連邦議会襲撃事件では、暴動をあおったトランプ氏の利用を停止し、関係は悪化した。

しかし、トランプ氏の返り咲きが決まると、ザッカーバーグ氏はトランプ氏への巨額の寄付を表明し、関係改善に転じた。市場独占を問題視して厳しい姿勢をとってきた民主党政権への反発と、権力に接近して市場での優越性を維持したい思惑が透けて見える。

いちはやくトランプ氏に取り入った実業家マスク氏が保有するSNSのX(旧ツイッター)では、すでに虚偽情報や差別的な投稿が急増している。

ザッカーバーグ氏は事実確認停止について、第三者機関が「政治的に偏りすぎた」と説明したが、米オハイオ州立大によると、虚偽情報は保守派が流布する傾向にあり、第三者の事実確認は当然だ。昨年の大統領選で「移民が米国民のペットを食べている」とのうそを拡散したのも保守派だった。

ザッカーバーグ氏は、選挙結果をゆがめるほど虚偽情報が広がり社会を分断した経緯を直視すべきだ。SNSはもはや言論空間を支配し、人々の暮らしや社会に大きな影響を与える存在である。その重い責任から逃れてはならない。
従来の「ファクトチェック」は絶対正義であって、揺るがしてはならないと断言しています。ザッカーバーグ氏が政府から検閲するよう圧力を受けたことも、Xのコミュニティノートの効果にも何一つ触れていません。

まぁ、社説だから何を言ってもいい、というスタンスなのかもしれませんけれども、片側の意見だなという印象を受けます。


5.ファクトチェックしない日本のマスコミ


昨年、12月25日、訪中した岩屋外相は、中国の王毅外交部長らと第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話を行いました。

その合意内容は、外務省のサイトで公開されていますけれども、その中で全く報道されていないことがあるとネットで指摘され、一部で騒ぎになっています。

それは、日中双方のメディアに関する取り決めで、日本外務省のサイトでは次のように説明されています。
【前略】
3 具体的な協力の方向性

【中略】

(7) 日本側から、日中外務報道官協議の早期開催に期待を示すとともに、双方は、民間主催のメディア交流を再活性化させることを確認しました。

【以下略】
ぱっと見は何の変哲もない一文です。ところが中国側の発表では、この部分は次のようになっています。
第七に、メディアとシンクタンクとの交流と協力を強化し、二国間関係において積極的な役割を果たし、世論と世論環境の改善に努める。双方が新たなメディア交流と協力を実施することを支援し、両国のポジティブエネルギーネットワーク作成者が相互にコミュニケーションすることを奨励する。
(七 是加强媒体、智库交流合作,在双边关系中发挥积极作用,着力改善民意和舆论环境。支持双方开展新媒体交流合作,鼓励两国正能量网络创作者相互交流。)
日本側の発表とはだいぶニュアンスが違います。世論と世論環境の改善に努める、とは、政府にとって都合の悪い世論は、政府からみて良いように改善させるという意味にとれます。

メタ社に対しては「ファクトチェック」を廃止するとは何事だと批判していた、日本のマスコミは、この部分の「ファクトチェック」はどうしたのか。ネットは誤情報ばかりだと批判していますけれども、少なくともこの件に関する限り、ネットの方がよほど「ファクトチェック」していると思います。

マスコミ、および政府も、いい加減、自分に都合のよい世論操作などできなくなったと自覚し、言論封殺に走るなど時代に逆行する所業には決して手をつけないでいただきたいと思いますね。





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