イスラエルとハマスの停戦合意

今日はこの話題です。
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1.イスラエルとハマスの停戦合意


1月15日、アメリカのバイデン大統領はイスラエルとイスラム組織ハマスが、停戦と人質の解放に合意したとの声明を発表しました。同じく仲介国のカタールのムハンマド首相も、会見し、停戦は19日から発効する予定だと補足しました。

ロイター通信によると、人質の解放は段階的に行われ、最初の6週間で、ガザ地区で拘束されている人質のうち、33人が解放されるということです。

今回の合意について、アメリカ国務省のミラー報道官は、NHKの単独インタビューに応じ、「トランプ次期政権も交渉に参加し『われわれも合意内容を支持する。アメリカを信頼してほしい』と言ったことが重要だった。それが、最終的に当事者たちが合意を受け入れるための重要な要因だったと考える」とトランプ次期政権の協力が、当事者が合意を受け入れるうえで重要だったと明らかにしました。

ミラー報道官は、「きょうは重要な第一歩だ。ただ、結局のところ、恒久的な停戦になるかにかかっている。その過程では厳しい協議や困難な交渉が伴うだろう」と述べ、今回の合意内容については次期政権も支持していると強調しています。

急転直下の停戦合意ですけれども、この流れを決定づけたのは、トランプ次期大統領の意を受けたスティーブン・ウィットコフ次期中東担当特使による11日のイスラエル訪問だったとされているようです。

10日金曜の日没から11日土曜の日没まではユダヤ教の安息日だったにもかかわらず、ネタニヤフ首相との会談を要求してイスラエルに乗り込んだウィットコフ次期中東担当特使は、「トランプ氏はイスラエルが停戦に同意することを期待してる」とネタニヤフ首相に妥協を迫ったようです。

バイデン政権の当局者はバイデン政権とトランプ政権の協力関係を認め、ブレット・マクガーク米国大使とトランプ大統領の中東担当特使スティーブ・ウィトコフ氏との連携は「ほぼ前例のない」ものであり、非常に注目に値すると述べています。

当局者は「4日前、スティーブ・ウィトコフ氏がブレット氏とともに最後の追い込みに加わった。これは歴史上ほとんど前例のないことだ。非常に建設的で、非常に実りある協力関係だった。いつか2人がこのことについてもっと話すだろう。本当に、本当に、本当に素晴らしいことだと思う……共通の目標に焦点を絞れば、この国で何ができるかを物語っていると思う……これは特に重要だった。なぜなら、この合意は42日間の第一段階の停戦であり、希望はそれよりずっと長く続くだろうということを考えると、この合意は新政権によって実行されるだろうと我々は皆認識しているからだ」と語っています。


2.停戦合意に至った理由


これまで1年3か月以上も戦闘を続けてきたイスラエルとイスラム組織ハマスがなぜ今のタイミングで停戦合意に至ったのか。

これについて、「日テレNEWS NNN」は次のように解説しています。
パレスチナ自治区ガザ地区ではイスラエルの攻撃により、これまでに4万6000人を超える死者が出ています。ことの発端は、2023年10月7日にハマス側が仕掛けた奇襲攻撃です。およそ1200人のイスラエル人が殺害されました。イスラエルは即座に報復攻撃を開始。以来、ガザ地区ではおよそ9割の住民が家を追われ、飢餓状態に陥っています。

ガザ地区の人道危機が深刻になり、カタールやエジプト、アメリカなどが停戦交渉を仲介してきましたが、「ハマスのせん滅」を訴えるネタニヤフ首相と、イスラエル軍の完全撤退を求めるハマス側との間で折り合いがつかず、交渉は難航しました。

今回、合意に至った背景にあるのは“ハマスの孤立化”です。イスラエル軍は去年10月に、シンワル最高幹部をガザ地区で殺害。また、「抵抗の枢軸」としてハマスと共闘して戦っていたレバノンのシーア派組織ヒズボラは、最高指導者ナスララ師を殺害されるなどしたため、去年11月にイスラエルとの停戦に合意していました。さらに、イランからヒズボラへの物資の流れなどを支援していたシリアのアサド政権が崩壊。ハマスは長期間にわたる戦闘で弱体化した上、孤立を深めていました。

アメリカのトランプ次期大統領が20日の就任を前に合意の実現に乗り出し、イスラエルとハマス双方に圧力をかけたことも要因の1つです。

ただ、6週間の停戦合意がこのまま守られるか、楽観はできません。イスラエル軍がいつどのように撤退するのか、停戦がきちんと守られていることをどこが監視するのかなど、具体的なことは何も決まっていません。実際、両者は2023年11月に一度、戦闘休止に合意していますが、わずか7日間でふたたび戦闘が始まっています。イスラエル軍がこのままガザへの駐留を続けた場合、合意が破られる可能性もあります。昨年11月、NNNがハマスの幹部を単独インタビューした際も、「もしイスラエルによるガザ地区の占領が続くなら、抵抗を続ける。決して白旗を掲げることはない」と強い口調で語っていました。

仮に停戦が守られたとしても、ガザ地区の深刻な人道危機に歯止めをかけて復興を軌道にのせるまでには、まだまだ相当な時間がかかります。

停戦合意の一報が流れると、以前、取材したガザ住民から喜びの声が届き、SNSなどにも歓声を上げる映像などが次々に上がりました。EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン欧州委員長は「地域に希望をもたらす」と歓迎し、英・仏・独などヨーロッパの首脳たちも軒並み歓迎の声を上げ、ガザ地区への人道支援や持続的な平和の実現を課題として掲げています。

戦闘で家族や住まいを失い、飢餓に苦しむガザ住民を一刻も早く救うために、まずは19日に発効する6週間の停戦が守られることが第一歩です。
日テレは、合意の背景に「ハマスの孤立化」があると述べていますけれども、そうではないという意見もあります。

東京大学教授で地経学研究所長の鈴木一人氏は次のように解説しています。
確かにハマスは孤立化しているが、元々ヒズボラは軍事的にハマスを側面から支援することはしていても、共闘関係というほど連携していたわけではないので、孤立化が原因ではない。トランプの影響力というのもあるとは言えるが、それも決定的なものとは言えない。おそらく、イスラエルがヒズボラとの停戦、シリアのアサド政権の崩壊で多少の余裕が出来、そのためずっと戦闘に出ていた部隊などを休ませ、体制を再編するために時間をかけているものだと思われる。あくまでも6週間の停戦なので、それが終われば戦闘は開始されるだろうし、その前に停戦が崩壊する可能性もある。イスラエルにとって人質が帰ってくることが重要だが、それでも全員が帰ってくるわけではないので、まだ戦闘が続くポテンシャルは高く残る。
また、慶應義塾大学法学部教授の錦田愛子氏は、トランプのおかげだとし、次の様に述べています。
このタイミングで停戦が成立する可能性は、トランプ再選が決まった時点である程度予見されていた。トランプとしては自身の再選の最初の「手柄」としてガザ停戦を誇りたいという思いがあっただろう。ウクライナの停戦は情勢的に実現が難しく、それよりも戦局がほぼ決しつつあったイスラエル・ガザの方を優先したということだ。

そうしたトランプ大統領の意向に対して、ネタニヤフ首相が停戦条件で譲歩したことが、合意が成立した最大の要因と考えられる。今後4年間のアメリカ政権との関係構築のため、イスラエルとしてはトランプの圧力に従うことにしたのだろう。当初主張していた、南部フィラデルフィ回廊や北部でのイスラエル軍の駐留について、合意では言及されておらず、第二段階で全軍の撤退とされている。第一段階での交渉次第で変わる可能性もあるが、まずは対米関係と人質解放を優先したものとみられる。
これらを見る限り、停戦合意といっても安定したものではないように見えます。


3.出来る限りの危害を加えようと躍起になっている


1月15日、停戦合意された数時間後、パレスチナ自治区ガザ地区ガザ市でイスラエル軍の攻撃を受け、少なくとも45人が死亡したとガザ地区の文民保護当局が明らかにしました。

当局によると、沿岸部のシェイク・ラドワン地区付近にある住宅地が攻撃を受け、少なくとも20人が死亡。その近くの住宅地でも別の攻撃で15人が死亡、20人が負傷したとのことです。

現場からの映像には、建物が崩れて瓦礫の下敷きになった人々を助け出そうとする作業の様子が映っており、負傷した子どもたちが運ばれたり、担架の上で手当てを受けたりしている姿も捉えられています。

発表によれば、さらに市中心部のリマル地区でイスラエル軍の爆撃を受けた家屋が倒壊し、5人が死亡、10人が負傷。ダラジ地区でも住宅地への爆撃で5人の死者が出たとしています。

ガザ市内にあるアル・アハリ病院の責任者は数十人が運び込まれたと述べ、停戦が発効する19日まではガザ住民にとって「暴力と苦痛」の70時間になると指摘。イスラエル軍は「出来る限りの危害を加えようと躍起になっているようだ」と語っています。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は16日、停戦合意について、ハマスが一部の項目に違反しており、イスラエル政府による停戦合意の承認が遅れていると非難しました。

ネタニヤフ首相は声明で「ハマスが、調停国やイスラエルと達した合意の一部に違反し、土壇場で譲歩を迫ろうとしている……ハマスが合意の全ての項目を受け入れたことを調停国がイスラエルに通知するまで、イスラエルの閣議は招集されない」と述べています。


4.崩壊するネタニヤフ政権


イスラエルによる正式な停戦合意受け入れには治安閣議と政府による承認が必要なのですけれども、イスラエル政府筋は16日夜、この日に予定していた、人質解放交渉会議を土曜日に延期したと語りました。

ネタニヤフ政権の強硬派は、閣僚の過半数が支持すると見込まれている停戦合意を阻止しようとしていると見られています。

国家安全保障大臣でオツマ・イェフディット党の指導者イタマール・ベン・グヴィル氏は、テレビ声明で「現在形成されつつある合意は無謀な合意だ……もしこの無責任な取引が承認され、実施されれば、我々ユダヤ人パワーのメンバーは首相に辞表を提出するだろう」と合意が可決されれば政府を辞めると迫っています。

更に、アミチャイ・チクリ移民大臣も、声明で「ハマスは戦闘期間を大幅に延長し、ガザ地区住民に対する強固な統制を維持し、軍事力の一部を維持することに成功した。任務はまだ完了していない……私はここで、もし神のご加護を願って、フィラデルフィア回廊から撤退するようなことがあれば、あるいは戦争目的を達成するために再び戦闘に復帰しないようなことがあれば、私は政府の大臣としての地位を辞任することを誓います」と辞任を宣言。

また、宗教シオニスト党の党首で財務大臣のベザレル・スモトリッチ氏も「政府に提示される協定はイスラエルの国家安全保障にとって悪く、危険だ……拉致された人々の帰還に対する大きな喜びと興奮とともに、この合意は、この国の英雄たちが命を危険にさらした戦争の多くの功績を損なうものである。神のご加護を願うが、この合意は我々に多大な血の犠牲をもたらすかもしれない。我々は強く反対する……我々が政府内に留まり続けるには、ハマスの完全壊滅と人質全員の無事な帰還を含む決定的勝利を達成するまで、広範囲かつ新たな戦略で全力を挙げて戦争を再開するという絶対的な確信が不可欠だ」と、停戦後にイスラエルがハマスとの戦争に戻らなければ政府を辞任するとコメントしています。

エルサレム・ポスト紙は、この協定が成立するためには、国家安全保障担当閣僚会議での投票、そして政府本会議での投票が必要だとし、前述の政党の大臣らが協定に反対票を投じたとしても、この協定は内閣と政府の両方で過半数を占めることになるだろうとしています。

停戦合意が可決されれば、ネタニヤフ政権も崩壊の危機に直面します。ネタニヤフ首相の命脈も長くないかもしれませんね。



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