

1.フジテレビCMから撤退する大手スポンサー
フジテレビ問題で、大手企業のフジテレビへのCMを止める動きが相次いでいます。
1月18日、日本生命保険とトヨタ自動車はフジへのCMを当面差し止めると明らかにしました。
日本生命は中居氏の女性トラブルを巡り、フジテレビ社員の関与が報道されていることなどを総合的に判断したと説明。19日の「千鳥の鬼レンチャン」と「Mr.サンデー」、20日以降の「めざましテレビ」のCMを差し止めるとしました。NTT東日本や明治安田生命保険、アフラック生命保険も同様の対応を表明しています。
スポニチによると、18日午後4時までに、番組CMなどを除いた全393枠のうち40本がACに変更。1割以上が差し替わりました。中でも午前6時から放送された情報番組「めざましどようび」では、14本がACに。特に番組内で午前6時44分からフジテレビの会見について報じた後は全41枠のうち約3割に当たる12本が差し替わりました。
代理店関係者は「大手企業が撤退の動きを見せたことで他の企業も追随するようなことになれば、民放テレビ局にとって一大事」と話し、その理由について、「前日にあったフジの港浩一社長の会見がまずかった」と指摘した上で「今回の問題は中居さん個人のトラブルだけでなく、フジテレビ自体の問題があるのではないかと、いつでもCMを差し止められるよう構えていた。会見内容を受けて判断した」とコメントしています。
大手スポンサーのCM出港停止について、フジテレビ関係者は「フジ開局以来の痛恨事になるかもしれない」と零していますけれども、1月16日付の「日刊スポーツ」は、今回の騒動でフジから3割ほどスポンサーが離れたと報じています。
2.ロケ地を断られたりとか
フジテレビ問題は、CM以外にも拡大しています。
1月18日放送の「情報7daysニュースキャスター」は、前日にフジテレビの港浩一社長らが緊急会見を開いたことをトップニュースで取り上げたのですけれども、キャスターを務める脚本家の三谷幸喜氏は、「やっぱり一番知りたいのは…じゃあこれはフジテレビだけの話なのかというところですよね……どうなんですかね」と同じくキャスターを務めるTBSの安住紳一郎アナウンサーに話を振りました。
安住アナは、「テレビ局の女性を伴う懇親会、接待のような文化があったかというのがまた新たな議題になっていますけど、これは第三者委員会が調べるという」と受け、コメンテーターで元フジテレビアナウンサーの菊間千乃弁護士は「女性社員を連れての会食や飲み会は、どこの会社でも普通に行われています。それ自体が問題だとは思いません。ただ、そこで性的接触を強要したり、これが常態化していたとしたら問題です。それがフジテレビであったのか、なかったのかをしっかり調査する必要があります」と問題点を指摘しました。
安住アナは「この業界では打ち上げや懇親会に女性スタッフや女性アナウンサーが参加するのはごく普通のことです。それを通じて信頼を得てキャリアにつなげることは、ビジネスの一環であり間違いではありません。しかし、それが不適切な状況につながる場合は問題です」と自身の経験を交えながら、業界内の「飲み会文化」について言及しました。
また、三谷氏は「そうじゃないテレビ局員の方もいっぱいいらっしゃるわけで。僕の知り合いの方でも、ドラマを作っていてロケ地を断られたりとかって、凄く難しい状況に今なっているって聞きますもんね」とフジ局内、他局、そして制作現場などさまざまなところで影響が出ていることを明かしています。
3.ダルトンの書簡
渦中のフジテレビ局内は頭を抱えています。
フジテレビの広告営業部員は「ホント勘弁してくださいよ……昨年末から広告出稿に難色を示すクライアントが増えています。つまりフジ全体が疑惑の目で見られているということ。我々は問い合わせに平謝りで対応していますが、なにせ上層部から細かい情報が下りてこない。クライアントに説明しようにも材料が不足しているんです」と嘆いているそうで、社内の混乱振りが伺えます。
今回のフジテレビ港社長の緊急記者会見は、2月の定例会見を急遽前倒ししたものです。なぜそうなったのかというと、フジの大株主が求めたからです。
フジテレビを傘下に持つ「フジ・メディア・ホールディングス」の株式7%を保有するアメリカの投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」は1月14日付で、第三者委員会での調査を求める書簡をフジに送付しました。
その書簡の内容は次の通りです。
取締役会市場関係者は「投資ファンドは一にも二にも金儲けなので、聖人扱いは危険」としながらも「フジのガバナンスに関する疑念は当分収まらない。これ以上、騒動が拡大する前に手を打つ必要があった」とコメントしています。
株式会社フジ・メディア・ホールディングス
2025年1月14日
第三者委員会の設置と信頼回復のお願い 謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。 第三者委員会の信頼回復のお願いのこの場をお借りして、皆様をはじめ、フジ・メディア・ホールディングス(以下「フジ・メディア」といいます)に勤務する皆様の本年もご多幸をお祈り申し上げます。
さて、中居正広氏による一連の騒動は、エンタテインメント業界全体の問題であると同時に、コーポレート・ガバナンスの重大な欠陥を露呈したものであると考えます。事実の報道における一貫性の欠如、そして重要なのは透明性の欠如であり、その後の対応における許しがたい欠点は、視聴者の信頼を損なうだけでなく、株主価値の毀損に直結する重大な非難に値します。
視聴者の信頼を揺るがし、貴社の透明性と危機管理能力に対する信頼を損なうような事件は、必然的に企業の根本的な誠実さを疑うことにつながります。貴社株主の皆様にとって、これ以上の懸念事項はありません!
視聴者やスポンサーからの信頼を維持することは、フジ・メディアの持続的な成長にとって不可欠な要素です。この問題を曖昧にすることなく、適切かつ迅速に処理することが不可欠です。この問題への対処が遅れたり難解になったりすれば、視聴率の低下やスポンサー離れを招き、株主価値をさらに損なうことになりかねません。また、ESG投資の観点からも、貴社のレピュテーションは深刻な影響を受け、専門家集団からますます投資されなくなる可能性があります。私たちは、外部専門家による第三者委員会を直ちに設置し、事実関係を調査・解明した上で、このような事態が二度と起こらないようにするための改善策を提示することを求めます。このような委員会の設置は、以下の理由から不可欠です:
1. 公平性と透明性の確保
内部調査だけでは、関係者の利益相反をすべて排除することは難しく、視聴者やスポンサーの信頼を回復することは困難です。適切に構成された第三者委員会は、透明性を確保し、真に独立した調査を可能にする手段を提供すべきです。
2. 責任の明確化
実際に何が起こったのか、そして発覚した事実に対してどのような対応をとったのかを明らかにすることで、すべての取締役が責任を負い、社会的信頼の回復のために適切な行動をとることができます。
3. 再発防止策の策定
現行のコーポレート・ガバナンス体制の構造的な弱点を明らかにすることで、具体的かつ効果的な再発防止策を策定します。
4. 透明性と信頼の向上
過去の不手際を明らかにし、会社に対する信頼を回復するため、調査結果および再発防止策が公開され、丁寧に説明されなければなりません。視聴者は、この不祥事に対する迅速かつ徹底的な対策を期待する権利があります。株主として、皆様には誠実で透明性のある行動をとる絶対的な義務があると考えます。そうすることで、誠実かつ積極的なアプローチを示し、過去の欠点を見直し、当社に対する信頼を回復するための行動をとる絶好の機会を得ることができます。
これまでと同様、私たちは、現在の問題を解決するため、また、取締役会の構成や年齢、非効率なコングロマリット企業構造など、以前に私たちが提起したその他の問題に取り組みながら、会社を前進させるため、皆さんと協力することを楽しみにしています。フジ・メディアは変化を受け入れる必要がありますが、未来はまだ明るいと信じています。誤解を避けるために申し添えますが、この書簡は公開の呼びかけとして公表させていただきます。
敬具
ポール・フォルクス・デイヴィス
会長
ライジング・サン・マネジメント・リミテッド
c/o アップルビー・グローバル・サービス(ケイマン)リミテッド
71 フォート・ストリート
私書箱500
ジョージタウン、グランドケイマン
KY1-1106, ケイマン諸島
昨日のエントリーで、フジの港社長の会見を取り上げましたけれども、港社長は調査に第三者調査会を設けると述べ、第三者委員会を設置するとは明言しませんでした。けれども、ダルトン・インベストメンツの件の書簡での提言では最初に「適切に構成された第三者委員会を設けよ」と要請しています。
4.やっぱりお手盛り
果たしてフジは、適切な第三者委員会を設置する気があるのか。
これについて、日刊ゲンダイは、17日付の記事「フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も」で次のように述べています。
【前略】会見前日の記事なので、社内特別調査チームとなっていますけれども、実際の港社長の会見では、調査会と、第三者委員会とはいいませんでした。もし、この調査会なるものの責任者に港社長自身が就くのなら「お手盛り」もいいところです。
緊急対応なのだろうが、フジは第三者委員会ではなく「社内特別調査チーム」を設置する予定だという。
「つまり、フジはダルトンが要求している第三者員会による調査ではなく、身内の調査で済まそうとしているということです。しかも、社内特別調査チームの“座長”には港社長が就く予定です。港社長は自社の女性アナウンサーを利用した“アテンド疑惑”の先駆者とも言うべき存在だと発売中の週刊文春に報じられている人物。過去には“温泉不倫”の報道もありました。そんな人物が座長となる身内の調査チームが、まともに機能するとはとても思えません。ロクな報告は出て来ないでしょう。社内では『港社長の会見後にうちの会社炎上しちゃうね』と今から溜息が漏れてます」(フジ テレビ関係者)
【以下略】
もし、フジテレビがお手盛りの調査会で終わらせようとしているというなら、おそるべき隠蔽体質をいう他ありません。
実際フジテレビはこの事件を極力矮小化しようとしています。
フジテレビ系「めざましどようび」では、今週のニュースがまるっと分かる「BUZZ NEWSランキング」というのをやっているのですけれども、18日放送のそれで、1位から10位を伝えました。
このランキングを番組では「15~49歳の男女300人にアンケート」と字幕で表示しているのですけれども、そのランキングは「1位」が「宮崎で震度5弱の地震」。「2位」は「三菱UFJ元行員逮捕」。「3位」は「初任給30万円台に」。「4位」は「韓国・尹大統領身柄拘束」。「5位」は「ロス山火事“支援の輪”」。「6位」は「東京女子医大元理事長逮捕」。「7位」は「渋谷ハチ公改札大混雑」。「8位」は「中国延べ90億人大移動」。「9位」は「ディズニー新イベント」。「10位」は「販売装う“フェイク広告”」と、その週に、各メディアで大きく報道された中居正広氏による女性トラブル、や17日の港社長による定例会見はランキング入りしませんでした。
こういうのみると、本当にアンケートを取ったのか。誰がとったのかと訝しんでしまいますし、港社長がお手盛りの調査会だと言われたくないのなら、それこそ、アンケートをどこでどのように誰が行ったのかを明らかにすべきですし、なんとなれば、第三者の業者に依頼すべきだと思います。
5.モラルがなければテレビじゃない
もっとも、フジテレビのように、テレビ局の全てが隠蔽体質ではありません。
昨年6月24日、日刊サイゾーが「テレビ東京、自社の不祥事報道で「さすがテレ東」と称賛相次ぐ…企業モラル強化で異彩」という記事を掲載しています。
件の記事は次の通りです。
テレビ東京が自社の不祥事を看板ニュース番組で詳細に報道したとして、ネット上で「さすが俺たちのテレ東」「他局も見習え」などと話題になっている。新たな「テレ東伝説」となりそうだが、その一方で「他局もBPO案件は当たり前に報道している」「ネット民はテレ東に甘すぎ」といった指摘もあり、物議を醸しているようだ。フジテレビとは全然違います。フジテレビの体質が明らかになるにつけ、テレビ局のモラルやあり方について世間から厳しい目が注がれるのは間違いないでしょう。
話題となったのは、同局の看板番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の19日の放送。同局で昨年3月に放送された『激録・警察密着24時!!』がBPO放送人権委員会の審理入りしたことを報じ、テレビ東京からの「行き過ぎた演出や不正確な表現があった。BPOで審理入りが決定したことを重く受け止め、審理には誠実かつ真摯に対応してまいります」というコメントを伝えた。
問題となった『激録・警察密着24時!!』の放送では、人気アニメ『鬼滅の刃』のキャラクターを連想させる柄や文字の入った商品を販売したとする会社役員ら4人が不正競争防止法違反の疑いで逮捕された事件を取り上げたが、そのうち3人は不起訴となっていたものの、番組内でそれに言及しなかった。
さらに「逆ギレ」「今度は泣き落とし」といったナレーションや「“ニセ鬼滅”組織を一網打尽」というようなテロップなど過剰な演出があり、同局は事実誤認や行き過ぎた演出があったとして謝罪。番組担当者及び監督責任者の計2名に対して減給等の社内処分を下した上で、番組の打ち切りを決定した。
これで事態は収まらず、BPO放送人権委員会は19日、関係者からの人権侵害を訴える申立てを受けて審理入りが決定したと発表。これを同局は先述の『WBS』に加え、朝の報道番組『Newsモーニングサテライト』でも報じた。
この話題がネットで拡散されると、SNS上では「さすが俺たちのテレ東」「自社の不祥事をスルーする他局とは大違い」「当たり前のことなんだけど、その当たり前のことができない局が多い」「不祥事にだんまりの日本テレビやフジテレビはテレ東を見習うべき」などと、テレ東を称賛する声が続出した。
しかし、その一方で「他局もBPO案件レベルは自社の不祥事だろうと報道してるよ」「他局もふつうにやってることなのにテレ東に甘すぎ」「問題になった番組の演出かなりヤバいし、報道しただけでべた褒めするのはどうなの」といった意見も。新たな「テレ東伝説」に疑問を感じた人も少なくないようだ。
ただ、業界内では「テレ東がコンプライアンスや企業モラルを強化しているのは事実」との指摘がある。その一例といえるのが、旧ジャニーズへの対応だ。
性加害問題を受けて、NHKは旧ジャニーズおよび後継会社「STARTO ENTERTAINMENT」の所属タレントに対して「被害者への補償や再発防止の取り組みが着実に実施されていることが確認されるまで新規起用を見送る」との方針を続けているが、日本テレビ、フジテレビ、TBS、テレビ朝日の在京民放4局は以前とほとんど変わらずに各番組で旧ジャニーズ勢を起用している。
テレビ東京は民放キー局で唯一、NHKと同様に「旧ジャニーズ勢の新規起用の見送り」を表明しており、同局の石川一郎社長は「補償が進んだら(起用見送りを)解除します、という話ではない」とNHK以上に厳しい態度を見せている。
先述のBPO入りの問題についても、単に番組を打ち切りにするだけではなく、石川社長は「警察密着番組を今後制作しない」とまで言い切った。寄付金の着服問題が起きながら、今年も当たり前のように『24時間テレビ』を放送する日本テレビなどと比べると、対応の差があるように思えなくもない。
「テレ東しか自社の不祥事を報道していない」というのは語弊がありそうだが、同局が企業モラルの厳格化を進めているのは間違いないようで、そういう意味でも民放の中で異彩を放つ存在となりそうだ。
「楽しくなければテレビじゃない」時代はとうに過ぎ去り、「モラルがなければテレビじゃない」時代はそこまで来ているのではないかと思いますね。
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