

1.投票したらこう変わった
時事通信は1月10~13日に、全国の18歳以上の2000人を対象に個別面接方式での世論調査を行いました。有効回収率は59.0%。
自民党の支持率は17.3%(前月比1.8ポイント減)で、このうち「18~29歳」は3.4%(同4.5ポイント減)に急落。過去最低を更新しました。「30歳代」も8.9%(同0.4ポイント減)に落ち込みました。
自民以外の政党支持率は、国民民主党6.6%(同0.9ポイント増)、立憲民主党5.1%(同1.6ポイント減)、公明党3.6%(同0.7ポイント減)、日本維新の会2.8%(同0.3ポイント増)の順で国民民主が立民を逆転し、野党で1位となりました。
世代別の支持率では見ると、国民は「18~29歳」17.9%、「30歳代」12.1%で、前月に引き続き、両世代で自民より高くトップとなっています。
若い世代での一層の自民離れが鮮明となる一方、国民民主の若年層支持が伸びています。
一方、石破内閣の支持率は28.2%(同1.4ポイント増)に伸びたものの、昨年10月の発足以来、4カ月連続で3割に届かず、不支持率は40.3%(同1.0ポイント減)、「わからない」31.6%(同0.3ポイント減)となっています。
世代別では、「18~29歳」13.7%、「30歳代」12.7%で、若い世代の支持が低い点は、自民と同様です。
この結果について39歳以下の若者の意見を集約、政党・政府に対して政策提言する一般社団法人日本若者協議会の室橋祐貴・代表理事は、「安倍政権の頃に比べると、周りで自民党を支持していると言っている人は本当に減っており、納得の数字ではあります。先の衆院選では国民民主党が躍進し、103万円の壁が動くなど、「投票したらこう変わった」という成功体験を得つつあるので、今後若者世代の投票率が高くなっていく可能性は高いと思います。上の世代は比較的投票先が固定されており、今年7月の参院選でも、いかに若者世代の票を獲得するかで勝敗は大きく左右されそうです」とコメントしています。
また、法政大学大学院教授の白鳥浩氏は「メディアの世代別の影響力によるところも大いに結果と関連している可能性がある。若年層は、先日の兵庫県知事選や、衆院選でも明らかなように、新聞、テレビにそれほど影響を受けていないが、SNSや動画配信サイトなどのネットを通じた情報提供に、「コスパ」「タイパ」の点からも大きく影響されることがわかっている。そうしたSNSなどにおいては、組織が必ずしも強くない国民民主が積極的に発信しており、それが若年層に刺さっている。それに対して、なまじ組織があることにより、そうしたメディア戦略に後手に回っている自民党は若年層の支持が低いということが考えられる。」と指摘しています。
筆者としては、室橋氏が指摘した、若者は「投票したらこう変わった」という成功体験を得つつあるという部分に注目していますけれども、それは、夏の参院選の投票率で見えてくるのかもしれません。
2.ぜひ、もう一度自民党を信じて下さい
低迷する石破政権ですけれども、今年になって、石破総理の「ぜひ、もう一度自民党を信じて下さい」発言が取り沙汰されています。
SNSやブログでこの発言が取り上げられると「どこを信じたらよいのですか?」「お前じゃ無理」「何度信じたらいいんだろう?もう限界突破していると思う」とボロクソに叩かれています。
この発言は昨年10月、YouTubeチャンネル「堀江貴文 ホリエモン」内で公開されたもので、件の発言は対談の最後に司会から「総裁選に向け、視聴者に伝えたいことを聞かせてください」との呼びかけを受けてのもので、石破総理は次のように語りました。
自民党は、国民1人1人に正面から向き合って、本当に国民1人1人の幸せを実現するための政治をします。それは一部の人たちが豊かになることではない。今さえ良ければいいのではない。次の時代まで含めて国民1人1人が納得し共感し幸せと安心が実感できる。そのための自民党。日本国作ります。是非もう一度、自民党を信じてください。
総裁選直前なので、まぁ耳障りのいいことをいったのかもしれませんけれども、その後どうなったか。
昨年12月5日、衆議院予算委員会での集中審議で、立憲民主党の岡本章子議員が健康保険証の廃止について、「期限が来ても納得しない人がいれば、現行の健康保険証の併用も選択肢として当然、とお答えになっていた」と石破総理の総裁選のときの発言を指摘しました。
これに対し、石破総理は「当選したのだから、掲げた政策を“その通りやる”とはならない……我が党の中にいろんな意見がある。それを議論として取り上げる仕組みがあるのは、自民党のいいところだ」と答えました。
総裁選前に「もう一度信じてくれ」といっておきながら、総裁選が終わると「その通りにやるとは限らない」とひっくり返す。これでは、「もう一度信じてくれ」ではなく、「もう一度騙されてくれ」になってしまいます。
言ったことをやらない。評論家ならまだしも実務者、決定者がそれでは困ります。
それ以前に、石破総理の話すことがそもそも政策なのかという指摘もあります。
12月1日、前述の堀江貴文氏がTBS「サンデー・ジャポン」に出演したのですけれども、番組で総理の所信表明演説を特集。国民民主党が衆院選で公約にしていた「103万円の壁引き上げ」を受け入れた内容になったことが話題となりました。
けれども、番組に出演した元通産官僚の岸博幸慶大大学院教授は「むちゃくちゃ怒ってる。過去十数年で一番、出来が悪い……総理として、何をしたいのかが入ってない」と酷評しました。
これを受けて、堀江氏は、「総裁選のとき1時間くらい石破さんと話したけど、ないです。具体策、ない。外交とか経済はどうでもいいと思っている。あんまり興味がない……石破さんが一番、他の人たち比べて、より際立つ」と外交や経済への関心の低さが図抜けていると語り、官僚のサポートの少なさについても「短くて終わると思っているんでしょ。頑張ってもしゃあないと思っているはず。としか思えない、このやる気のなさは」」とコメントしています。
堀江氏が総裁選前に話したというものの中に先述した動画での対談も入っていると思いますけれども、たしかに「ねばならない」と言っても、「こうします」という具体策は殆どなかったように思います。
3.努力してもどうにもならない思い
1月15日、加藤勝信財務相は15日、日本記者クラブで「デフレ脱却に向けて」と題して講演を行い、総合経済政策、令和7年度予算、税制改正のポイントなどについて説明しました。
講演後の質疑で、最近の財務省に対するバッシングの広がりについて問われた加藤財務相は、批判があることは十分承知しているとした上で、財務省批判の背景として「努力してもこの時代、どうにもならないという思いの中で、税金をかけられ、社会保険料を取られ、かといって自分の将来に展望が開けないという思い」があると分析。「我々がしっかり受け止める必要がある」と述べました。
加藤財務相はそのために「賃金や所得が上がっていく状況をつくり出すことで、自分の思うことを展開していける環境が生まれる……生活が豊かさを増していく実感を持てる環境をつくる」と語りました。
国民の不満が高まっていることがそこまで分かっていて、その対策が賃金上昇だけというのは、あまりにお粗末です。
なぜ、減税をして手取りを増やす。訳の分からない補助金を止めて無駄を省く。そんな簡単なことすらいえないのが、今の自民党の限界なのかと嘆息してしまいます。
失われた30年。世界各国が経済成長する中、日本だけがずっと足踏みしてきました。「努力してもどうにもならないという思い」にさせてしまったのは、政治に大いに責があるといわざるを得ません。
1月16日、BSフジ「BSフジLIVEプライムニュース」に出演した国民民主党の玉木雄一郎衆院議員は、番組で次のように述べています。
・実は、日本の初任給はアメリカの2分の1ぐらいなんですこのように30年停滞させたツケが国民の怒りとなって、今、自民党に向けられているように思えてなりません。
・初任給を上げていくのは必要
・歯を食いしばってようやく30万、40万になった人からすれば“何なの”っていう感じがあって。自分たちの10年、20年はどういうことだったんだろうという率直な声をいただいた
・低年金者をどうしていくのか。単身の低所得高齢者対策をどうしていくのかという問題に直結している
・基礎年金だけで暮らしていくことが難しくなっている中で、そういう層が大量にこれから発生していくことを踏まえた年金制度改革や社会保障改革が必要なのに、抜本的な改革ができないまま時間が過ぎていっている
・時代や制度、その時の政策が生み出した世代であるのなら、政治が責任を持って向き合うことはすべき
・この世代の方はサボってきたわけじゃないんです。そのことを忘れちゃだめで、今年就職した人と比べて過度に不真面目だったのかとかサボってたとか違うんです。そこを踏まえた政治の責任はちゃんと考えていかないと」
そもそも、「努力してもこの時代、どうにもならないという思い」が世相だというのなら、それは身分制が固まっているともいえる訳です。けれども、過去の日本の歴史を振り返れば、身分制が打破された時代もあります。権力者が「しっかり受け止める必要がある」というときは、今の社会制度が維持される前提のことであって、その社会制度そのものが壊されるかもしれないという危機感を持っての発言には聞こえません。
4.石破政権を支持する理由
びわこ成蹊スポーツ大学教授で政治・教育ジャーナリストの清水克彦氏は、ダイヤモンドオンライン誌に1月8日付で「これはもう無理かも…石破政権を退陣に追い込む「政治とカネ」の新たな問題とは?」という記事を寄稿しています。
件の記事の冒頭部分を引用すると次の通りです。
毎月上旬から中旬にかけて、大手メディアが弾き出す「内閣支持率調査」。筆者が「石破政権への支持率が何%くらいか」以上に注目しているのが、「石破政権を支持する」と答えた人たちの「石破政権を支持する理由」である。筆者は、石破政権への信頼はとっくに失っていると思うのですけれども、清水克彦教授は「政治とカネ」、「103万円の壁」、「高校授業料無償化」の3つの対応を誤れば政権は瓦解すると指摘しています。
たとえば、昨年12月6日から3日間、NHKが実施した調査では、「石破政権を支持する」と答えた38%の人たちの中で、実に3人に1人が「人柄が信頼できるから」と答えている。
この傾向は他の調査でもそれほど変わらない。読売新聞が12月13日から15日に実施した調査でも、「支持する理由」として、5人に1人が「首相が信頼できる」と回答している。
裏を返せば、昨年10月の衆議院選挙で敗北し、少数与党で政権運営を余儀なくされている石破茂首相にとっては、国民の信頼を失ったとき、「退陣」を余儀なくされるということになる。
この先、石破首相が信頼を失くしかねない局面は早々にやってくる。その要素を挙げれば、以下の3つに集約される。
(1)「政治とカネ」をめぐる企業・団体献金の取り扱い
=「禁止はせず透明化を図る」程度でとどめると国民の信頼度はガタ落ちになる
(2)国民民主党との「103万円の壁」見直しに関する調整
=「178万円」ではなく、「123万円への引き上げ」のままだと国民は失望する
(3)日本維新の会との高校授業料無償化に向けた調整
=大学授業料や給食の無償化までいくのか、財源はどうするのかも問われる
いずれも、衆議院で来年度予算案の採決時期を迎える2月中旬から3月上旬がヤマ場になる。政府・自民党としては安易に野党案を丸呑みすることはできず、かといって、ある程度、妥協しなければ、予算案が通らない厳しい局面になるのは間違いない。
石破首相からすれば、信頼度の高さと、国民民主&維新の野党2党との協議だけが命綱だ。対応を誤れば、3月危機、あるいは参議院選挙を前にした6月危機の、いわゆる「サブロク危機」が現実味を帯びることになる。
【以下略】
清水教授はこれらに加えて、東京都議会の自民党会派「都議会自民党」、「自民党東京都連」による裏金疑惑という爆弾があり、今の石破政権は国民民主党の玉木氏の顔色をうかがわなければ何も前に進められない「玉石政権」だという自民党内の声を取り上げています。
なるほど、玉石混交な政権なのであれば、「玉」だけ選び取っていけばいいだけのことです。使えないだけなだまだしも害をなすのであれば「岩」だろうが「山」だろうが排除すべきだと思います。
これまで論評ばかりで決めることをしてこなかった石破総理は、全てを決めなければならない立場にいるのです。それが出来るようになれるのかなれないのか。それが石破政権の寿命を決めるような気がしますね。
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