
1.日銀政策金利引き上げ
日銀は、1月24日まで開いていた金融政策決定会合で、政策金利を現在の0.25%程度から0.5%程度に引き上げることを決定しました。
政策金利の引き上げは2024年7月以来で、0.5%の金利水準は約16年ぶりとなります。
決定会合の内容について、植田日銀総裁の会見が行われましたけれども、発言の概要は次の通りです。
・わが国の経済・物価は、これまで『展望レポート』で示してきた見通しにおおむね沿って推移しており、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきている。経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。賃金面では企業収益が改善傾向を続け、人手不足感が高まるもと、ことしの春闘において、去年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている。会見で植田総裁は、次の利上げを行った場合に金融市場で予想されている0.75%の政策金利の水準を『壁』と意識しているか問われたのに対し、「ある水準を『壁』として意識していることはない。ただ、中立金利に近づく、あるいは若干上回ることになれば、投資の減少など何らかの反応が経済で起きると考えている。そうした大きなマイナスの影響が出るのを待つのではなく、影響が出始めた段階をつかんでいきたい」と述べています。
・物価面をみると、賃金の上昇が続くもとで、人件費や物流費などの上昇を販売価格に反映する動きが広がってきており、基調的な物価上昇率は、2%の『物価安定の目標』に向けて徐々に高まってきている。こうした状況を踏まえ、金融緩和の度合いを調整することが適切であると判断した。
・先行きの経済・物価・金融情勢次第だが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、今回の『展望レポート』で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。
・調整のペースやタイミングについては今後の経済や物価、金融情勢次第であり予断は持っていない。毎回の決定会合においてその時点で利用可能なデータや情報から、適切に政策を判断していきたい。
・消費者物価の見通しは25年度にかけて少し大幅に上方修正になっているが、ことしの半ばくらいまでの上方修正でそのあとは落ちつくとみている。基調的な物価上昇率は見通しに沿って緩やかに上昇をしているという範囲にとどまっていると見ている。深刻なビハインド・ザ・カーブ現象、政策金利がそうした水準にあるとはみていない。
・利上げした影響は必ずしも事前にはっきりとわからない部分がある。利上げをしたことの効果を確かめつつ段階的に利上げすることが適切かと思う。
・中立金利についての私どもの見方についてはこの間、変更していない。以前よりかなりの幅があるとしていて、幅についても同じようにみている。幅全体をみると、中立金利に対して、現在の政策金利が0.5%になったとしても相応の距離があるとみている……利上げで中立金利に近づいたのは確かだ。いずれにせよ金利が引上げられたあとは常にその影響について注意深く、見ていくということになる。
・関税政策の具体的な姿や世界経済への影響がどうなるかは最大の注目点の1つだ……どんな政策が出てくるかわからないという不確実性は残る
・物価・経済の見通しや政策の基本的な考え方を丁寧に説明することに努めている。そういう中で今月の講演ではデータをきちんと見て、それに応じて、金融政策を変更することが適当かどうかということを議論するという基本線を改めてリマインドしたと考えている。
この日銀の追加利上げを受け、メガバンクは相次いで金利の引き上げを発表。三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、3月3日から普通預金の金利を現在の0.1%から0.2%に、また三井住友銀行も3月17日から0.2%へ引き上げるとしています。
2.日銀の追加利上げが企業に与える影響度調査
今回の政策金利の引き上げについて、24日、帝国データバンクが「日銀の追加利上げが企業に与える影響」について緊急調査を行っています。
その調査結果を一部引用すると次の通りです。
【前略】約9万6000社を対象にしたこの調査では、日銀が政策金利を0.5%程度に引き上げたことにより、企業が借金返済の際に負担する利息は、1社当たり平均で年間68万円ほど上昇。経常利益を平均2.1%ほど押し下げることになり、黒字から赤字へと転落する企業は、全国で約1700社(1.8%)にのぼるとし、政策金利が、今後1%程度まで引き上げられた場合は、「赤字へと転落する企業は約3500社規模まで膨らむ可能性がある」と試算しています。
〇借入金利「0.25%上昇」、企業負担は年68万円増加 経常利益約2%分の減益に相当
日本銀行は1月24日に開かれた金融政策決定会合において、政策金利を0.25%引き上げ、0.5%とすることを決定した。政策金利の上昇は2024年7月以来、6カ月ぶりとなる。今後、日銀の利上げに応じて市場連動型の貸出金利のほか、メガバンクなどが貸出金利の参考とする短期プライムレート(短プラ)も上昇していくことが見込まれ、企業の資金調達などに影響が出るとみられる。
帝国データバンクでは、過去1年間に決算を迎えた企業で長短借入金を含む有利子負債を有する約9.6万社を対象に、借入金利の上昇に伴う支払利息への負担や、経常利益に与える影響について分析を行った。借入金利の上昇幅は、+0.25%~最大+2.00%のシナリオを想定してそれぞれ試算した。なお、決算期末のデータに基づくため、借入金の返済・借り換え、追加での借り入れによる有利子負債の増減については考慮しないものとした。
この結果、企業の借入金利が0.25%上昇した場合、企業では1社当たり平均で年間68万円の支払利息負担が新たに発生し、経常利益を平均2.1%押し下げることが分かった。また、経常損益が黒字から赤字へと転落する企業は対象9.6万社のうち約1700社・1.8%発生する試算となった。今後、さらに追加で1.00%まで引き上げられた場合(現状+0.50%)、利息負担は年135万円の増加、赤字へと転落する企業は約3500社・3.6%の規模まで膨らむ可能性がある。
業種別では、「不動産業」の受ける影響が最も大きく、借入金利が0.25%上昇した場合、利息負担は1社当たり平均で年間272万円の増加、経常利益ベースで平均5.5%押し下げられる試算となった。また、金利引き上げによって経常利益から赤字に転落する企業も3.8%を占めた。最も負担が小さいのは「建設業」で、利息負担は1社当たり平均で年間21万円の増加、経常利益では1.6%減の影響にとどまった。
〇小幅な利上げに耐性も、収益力の乏しい企業には厳しい局面
今回の利上げに伴う影響度調査で、借入金利が0.25%上昇した場合、1社平均では年間で68万円分の経常利益が減少する試算となり、経常利益で赤字に転落する企業は1.8%となることがわかった。コストの増加分を価格へ転嫁するといった動きを進めて収益面の改善を図る企業も多く、結果として小幅な金利上昇に対して一定程度の耐性を獲得する動きがある。
一方で、短期間で金利上昇幅の合計が1.00%に達した場合、新たに赤字へ転落する企業は0.25%の上昇の場合に比べて3.7倍に増加することが見込まれる。現状の企業財務面では、頻繁な利上げや大幅な引き上げ幅に対する耐性が低い企業が少なくない点は、今後の利上げによる影響を見る上で引き続き注意すべきポイントとなろう。
日銀が1月6日に公表した2024年11月の貸出約定平均金利は、国内銀行の新規貸し出しで0.868%となった。24年7月の利上げ以降、金融機関の多くが融資金利の指標となる短期プライムレートを引き上げており、これまで極めて低く抑えられてきた「超低金利の世界」から「金利のある世界」への転換が着実に進んでいる。既に金利上昇に備えて資金を前倒しで借りる動きなども出始めている一方で、業況の悪化を借入金等の補充で凌いできた中小企業にとっては支払利息の上昇による負担が一層重くなる可能性もあり、その動向を引き続き注視していくことが肝要である。
3.利上げの天井
また、追加引き上げについて、TBSテレビ報道局編集主幹の播摩卓士氏は、自身のコラムで次のように述べています。
日本銀行は24日、政策金利を0.25%引き上げ0.5%とすることを決定しました。0.5%という水準は、バブル崩壊後の最高水準で、今後の利上げは、いわば「未体験ゾーン」での判断を迫られることになります。播磨氏は今後、日本の政策金利が1%を超えるかどうかが当面の焦点であり、ここから先の利上げには、デフレ脱却の「確信」が必要だ、としています。
■政策金利0.5%は17年ぶり
日銀の利上げは、去年3月のマイナス金利脱却以来、3回目です。この間、政策金利はマイナス0.1%から0.1%に、次いで0.25%に、そして今回0.5%へと、上がったことになります。
日銀の政策金利が0.5%になるのは、なんと2008年以来、17年ぶりのことです。2008年と言えば、リーマンショック直前のことでした。当時の福井総裁が、物価高などを背景に前年の2007年2月に政策金利を0.5%に引き上げたものの、アメリカの不動産バブル崩壊が始まり、わずか1年8か月で0.5%時代は幕を閉じたのでした。
それ以前となると、0.5%は、金融危機の恐怖が未だ冷めやらぬ、1998年まで遡らなければならず、バブル崩壊後の日本経済にとって、0.5は、金利の「天井」「壁」だったのです。
■次の利上げは夏以降か
今回の利上げが過去2回と異なるのは、利上げ幅が0.25%もあり、それがフルに効いてくることです。前回7月の利上げでは、利上げ幅は0.15%でしたし、3月のマイナス金利脱却時も、見かけの利上げ幅こそ0.2%ありましたが、実際の貸出金利がマイナスになっていたわけではないので、影響は僅かなものでした。今回は、企業への貸出金利や住宅金利の変動金利もそれなりの幅になるでしょう。
引き上げ幅だけでなく、水準そのものも、過去30年で最高と、これまで「見たことのない」金利が出現するのですかから、植田総裁も記者会見で今後の利上げについて「注意深く進めていきたい」と述べました。ただ同時に、植田総裁の会見からは、0.5%を特別な「壁」として意識しているとは感じられませんでした。
では、次の0.75%への利上げは、いつになるのか。今年の春闘で中小企業も含めた賃上げが強ければ、4月にもということも、論理的にはあり得ますが、普通に考えれば、次の利上げまで半年後、つまり夏以降ということになるのでしょう。
ただ、7月には参議院選挙もあって、政局混迷の可能性もあります。その一方で、想定以上に、それまでに円安や物価高が進む可能性もあり、まさに「未体験ゾーン」で、情勢を見ながら次のタイミングを見計らうことになりそうです。
■日本の利上げの『終着駅』は?
次の利上げの時期だけでなく、日銀がどこまで利上げを進めるつもりなのかも、大きな焦点です。その「到達点」「終着駅」はどこなのか。
景気を熱しも冷ましもしない中立金利は、物価上昇率+自然利子率と言われます。物価上昇は2.0%が目標値です。自然利子率は、潜在成長率に類似するもので、日銀の推計では、日本の場合、マイナス1.0%からプラス0.50%に間だろうとされています。
単純に足し算をすれば、日本の中立金利は、1.0%から2.50%の間ということになりますが、今の時点で日本の政策金利が1%を大きく超えるところまで上げられると思っている人は、あまりいないように思えます。
政策金利が急激に高くなれば、国債の利払いが急増して財政が持ちませんし、国債を大量に保有する日銀のバランスシートも悪化するわけで、政府の財政赤字の縮小や日銀の国債保有の減少といった別の条件が必要になってくるように思います。
それに、そもそも景気が悪化すれば、中立金利より緩和的にならざるを得ないわけで、まずは、理論値の最低値である1.0%まで行けるかどうかが、当面、焦点となるでしょう。
■金利が上がるのは、デフレ脱却の証
過去30年の「天井」「壁」だった0.5%から先の利上げは、文字通りの「未体験ゾーン」です。しかし、それは過去30年物価も賃金も上がらなかった日本経済が、デフレから脱却したことの証でもあります。
ここから先の利上げには、デフレ脱却の「確信」が必要なように思えます。「確信」とは、家計や企業が、物価上昇に釣り合った形で、賃金や売り上げが増えていると思えるようになっているかどうか、ということです。実質賃金がマイナスのままでは、とても、そんな「確信」には至らないでしょう。
日本経済を前向きにまわしていくための政策努力は、なお必要であり、久々の金利の正常化に安堵している余裕などありません。
これに対し、フリーの金融アナリストの久保田博幸氏は、次のようにコメントしています。
1998年4月に改正日本銀行法が施行されてから、いまだに0.75%という政策金利は経験していない。現在のかたちでの金融政策決定会合がスタートしたのが同年1月であり「金融政策決定会合」における0.75%の利上の決定も初となる。久保田氏は、物価水準からみて、0.75%の利上げが行われても何もおかしくなく、消費者物価指数が前年比2%台が続いているのに、デフレ脱却の「確信」が必要だというのはおかしい、と反論しています。
だからといって余計に0.75%への利上げに慎重になる必要はないと思う。植田総裁も24日の会見で指摘していたが、前回の政策金利0.5%時代(2007年から2008年)の物価水準が異なる(当時のゼロ近傍から現在は2%超え)。
このため0.75%の利上げが行われてもファンダメンタルズからみて何らおかしくはない。0.75%への引き上げはこの記事でも指摘されていたが、参院選後だと思われる。ちなみに2022年4月以降、消費者物価指数(除く生鮮)は前年比2%台が現在に至るまで続いている。
それなのに、いまだにデフレ脱却の「確信」が必要とか言うのはおかしくはないだろうか。
4.国民の敵になった日本銀行
この播磨氏は久保田氏の意見は、政策金利を引き上げるのを前提として、その引き上げ幅や時期についての分析ですけれども、そもそも、今回の追加利上げ自体が間違っているという指摘もあります。経済評論家の三橋貴明氏です。
三橋氏は、24日、自身の動画で、今回の追加利上げについて次のように解説しています。
・日本銀行が政策金利の引き上げを決定しました。三橋氏は、今の物価上昇はコストプッシュ型であり、国内需要が全く回復していないのに、景気の加熱を抑制する政策である利上げをするのは間違っている。中小企業は倒産する。と切って捨て、それでもなお利上げしたのは、来月2月の中旬以降に、2024年の日本の経済成長率がマイナス成長だと発表されると利上げできなくなるから、駆け込みで利上げしたに過ぎない、と指摘しています。
・0.5程度に引き上げるということですけれども、これは極めて愚かな判断
・日本銀行はその職務上、為替レートの変動の影響を受けて政策金利を決定することはないし決定してはならない。
・円安だから日銀が利上げするのは当然だみたいなそういう主張を目にする機会が多いんですけど、為替レートに影響を受けて金融政策を変えたら
これは大変な問題です
・なぜならば為替レートというのは市場で決まります
・我々が選んだ国会議員があるいはその国会議員で構成される内閣が日銀の人事権持ってます。
・アコードを結ぶことによってそれで政府と中央銀行が連携して政策を行うということが当然だからです
・日銀が為替レートの変動、例えば円安ですね円安の影響を受けて利上げしたとなると、それは為替市場に金融政策が影響を受けてしまったということになりますから我々の金融主権が侵害されたということになっちゃうんです
・上田日銀総裁も円安に対処するために利上げをしたとは言っていませんよ
・物価云々の話をしてるんですけども、物価についてはこれは日銀の所管ですですから、金融政策を物価に応じて変更するのはいいんですが、そもそも為替レートに責任持ってるのは財務省であって日銀ではないんです
・なぜ日銀が利上げをするのか。物価に影響は受けますけれども、その際の物価の上昇であるならばそれはデマンドプル型需要牽引型の物価上昇でなければならない
・なんで利上げするんですかというと、民間が大勢な資金需要を持っていて、お金借りまくってると。経済が加熱してデマンドプル型のインフレ率が適正な基準を超えて上昇していく時に利上げをするべきなんですよ
・政策金利を引き上げて、お金を借りにくくして、みんな少し落ち着きなさいという形で景気の加熱を抑制するというのこれが元々の利上げです
・現在の物価上昇というのは輸入物価の上昇に影響を受けて、それで物価上がってます。コストプッシュ型インフレですね
・コストプッシュ型インフレということは、別に国内の需要盛り上がっておりません。特に民間の資金需要全く回復しておりません
・現在の日本の企業というのは、金を借りるどころか未だに返し続けてるという状況になっています
・日銀統計にありますが資金不足ではなくて、資金過剰状態にある
・金を借りてないんです。そこでなんで借りにくくするような利上げをしなくちゃいけないんですか
・日銀が政策金利を0.55%に引き上げたことを受けて短期プライムレート、1年満期1年以内の期間で貸出す際の金利が上がります
・そうすると住宅ローの変動金利は影響を受けますから、変動金利上昇しますね
・所得増えてないにも関わらず住宅ローンの金利が上がるっていうのは、一種の税金であってかつ過処分所得引き下げますね。
・これはデフレ化政策なんですよ。
・デマンドプルで需要がどんどん拡大してる時はデフレ政策やんなくちゃいけないから政策金利引き上げは正当化されますが、今絶対違うでしょう
・企業の資金繰り特に短期でお金を借りるような中小企業はですねま金利が上がることによって借りにくくなるので当然倒産していく企業が出てくることに
なります
・なんで今これをやるんですか。
・分かってんですよ来月2月の中旬以降に、2024年の日本の経済成長率が発表になるんです。マイナス成長なんですよ。2024年は。
・マイナス成長の統計が発表されてしまうともう利上げできないですよ。さすがに。というわけで駆け込み利上げなんです。
・GDP統計が発表なる前にやらなくちゃいけなかったと。
・じゃなんでそこまで日銀が利上げしたいのかというと、日銀は本当インフレファイターなんです
・インフレを抑制する利上げをしたがる。そういう役所なんですですよ
・ついに日本銀行までもが日本国民の敵になってしまったというのが今回の利上げの顛末です
インフレファイターだか何だか知りませんけれども、国民を苦しめるために存在する役所があるのなら、そんなのは無いほうがマシだと思ってしまうのは自然なことだと思います。
三橋氏がいうように日銀が国民の敵になったとするのなら、その報いはいずれ受けることになるのではないかと思いますね。
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