

1.自民を超えた国民民主
1月14日、新産業に挑戦する企業に対して政策活動やリスクマネジメントのサポートなど総合的なコンサルティングを行う紀尾井町戦略研究所株式会社が全国の18歳以上の男女1000人を対象にオンライン調査を実施しました。
調査テーマは少数与党の政権運営に関する意識調査だったのですけれども、調査結果のサマリを引用すると次の通りです。
■石破内閣の政権運営「評価しない」計6割なんと、参院選比例投票先で、国民民主が自民を逆転し全政党のトップとなる結果となっています。
自民、公明両党による連立与党が野党より少数となった石破政権の運営を「評価する」「ある程度評価する」が計22.8%だったのに対し、「評価しない」「あまり評価しない」は計64.2%に上った。野党は内閣に入らないで政策ごとに賛否を示すべきだと考える人が64.9%に上った。
いずれかの野党が仮に石破内閣に加わる場合、どの政党がいいと思うかを複数回答で聞くと「野党が内閣に加わる必要はない」33.8%が最も多く、政党名を挙げた人の中では、国民民主党26.0%、日本維新の会15.6%、立憲民主党12.4%の順となった。
■高校無償化の賛否は拮抗
所得制限のない高校授業料の無償化に「賛成」「どちらかといえば賛成」が計44.0%、「反対」「どちらかといえば反対」が計45.2%と拮抗。「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた人を支持政党別に見ると、維新が6割台で最多となり、自民、公明、れいわ新選組などが5割台で続いた。
「年収103万円」の壁に関し、石破政権が税制改正大綱において123万円への引き上げを決定したことについて、評価しない人が52.6%を占めた。評価するとした人を支持政党別に見ると、自民、公明が5割台で最多だったのに対し、国民民主は1割台だった。
■衆院解散38%、内閣総辞職34%
2025年度当初予算案や重要法案が否決されたり、内閣不信任決議案が可決されたりした場合に、石破首相が衆院を解散すべきだと思う人が38.3%、石破内閣が総辞職すべきだと思う人が34.8%、わからないとした人が26.9%だった。
石破首相が衆院を解散する場合は、夏の参院選と同時に行う(衆参同日選とする)べきだと思う人が54.6%を占めた。「参院選と同時に行うべきだ」とした人を支持政党別に見ると、自民、維新、国民などが6割を超えたのに対し、公明は2割台だった。
■参院選比例投票先、国民民主が自民を逆転
夏の参院選の比例代表で投票したい政党、投票したい候補者が所属する政党を聞くと、国民民主が14.3% (前回2024年12月23日10.2%)で首位となり、自民13.5%(16.2%)、立憲8.5%(7.8%) 、維新5.2%(6.4%)と続いた。まだ決めていない人が39.5%、投票に行くつもりはない人は5.5%だった。国民民主と答えた人を年代別に見ると、全般的に年代が低いほど多い傾向があった。立憲は60代、70代以上の各層で最多となった。
政党支持率は自民16.1%(前回17.6%)、国民民主9.6%(7.6%)、立憲7.1%(6.9%)、維新4.8%(6.4%)、れいわ2.1%(2.5%)、公明1.4%(2.0%)、日本共産党1.9%(1.3%)、日本保守党1.0%(1.0%)、参政党0.4%(1.0%)、その他の政党・政治団体0.5%(0.3%)、社民党0.2%(0.2%)、支持する政党はない51.2%(51.0%)。
2.今国会の三つの山
1月24日から第217通常国会が開かれましたけれども、国民民主の玉木氏は、自身の動画で今国会では、次の3つの山があると述べています。
1) 2月末:103万の壁の引き上げ問題。予算をどう通すか国民の関心は勿論、103万円の壁引き上げになっていると思いますけれども、嘉悦大の高橋洋一教授は、これを巡って、1月17日ネット放送「虎ノ門ニュース」で、石破政権の2月と述べています。
2) 3月末:先の臨時国会で先送りした、企業団体献金禁止廃止の問題。年度内の予算成立が必要になる
3)会期末:内閣不信任案
高橋氏の発言の概要は次の通りです。
・高橋は与党は国民民主の178万をまだ拒否してる。この案を通せなかったら玉木さんは仕事したことにならないから所得税法と住民税法の改正案を出すと思うこういった状況について、あるネット番組に出演した国民民主の榛葉幹事長は、今の自民党は緊張感がないと指摘したのですけれども、同じく出演していた自民党の細野豪志氏がこの発言を受け、「まだ与党のつもりっていうか、まぁ与党なんだが、多数派を持ってるつもりみたいな空気はうんまあ私もないとは言わない。ただ当事者はもう青い顔してるからね。いや政府も青い顔してるから。もう残された時間短いから」と述べています。
・これは普通に否決される可能性が高いけど、これからこういう法案がどんどん出てくると野党の動きが活発化する
・与党は少数だから誰かと連立なりを組む必要がある。
・そうなるとやりやすいのは維新の前原だよね
・あいつは玉木さんの考えと真逆だから何の見返りもなしに与党に釣られる可能性もある
・でもそれじゃさすがに維新の中で不満が出て一悶着あるだろう
・すると最後に出てくるのは立憲の”使い勝手”吉彦さんになるね
・こういう動きが色々揉めたり騒がしくなると思う
・このまま石破政権なら悲惨なことなるぞ、どの道、石破がトランプと渡り合うのは無理だってなってるから
・その間に国民民主党の影響がどんどん強くなっていく
・そうすると石破おろしが始まるんじゃないかな。
・2月から4月くらいかな予算案通らなかったらもう大慌てだろうね。早々に石破退陣もあり得る。
いくら国民民主が駄目なら、維新だ、立憲だといっても、やはり、それぞれと交渉する必要がある訳で、予算が人質になることを考えると確かに時間はありません。
3.引き上げは150万円以内だ
そんな中、1月24日、政府・与党は、103万円の壁の引き上げを巡り、150万円を上限に引き上げる方向で調整に入ったと報じられています。
政府高官は「引き上げは150万円以内だ」と述べ、別の与党幹部も「150万円までであれば、物価上昇率などで引き上げ根拠を説明できる」と語っています。
国民民主は最低賃金の上昇を根拠に178万円を主張しているのに対し、与党は物価上昇率を根拠に123万円と主張し対立していました。それを150万円にすると、その主張をひっこめたのかと思いきや、150万円までなら物価上昇率を根拠にできるとまだ言い張るようです。
これについて、識者は次のように述べています。
・エコノミスト/経済評論家 門倉貴史氏103万円の壁が引き上げられても、社会保険料で増税されては意味がないと指摘しています。まことにごもっともです。
103万円の壁を150万円に引き上げても中間層の手取り収入が増えるとは限らない。政府は、壁を引き上げる一方で、2027年9月をめどに厚生年金保険料の上限を引き上げる方針を打ち出しているからだ。賞与を除く年収798万円以上の会社員の場合、月1万円から3万円ほど本人負担の保険料が増える見込みだ。
これでは、せっかく壁を引き上げて所得税を減税しても、社会保険料の負担の増大により、中間層の手取り収入はほとんど増えなくなってしまう。それどころか、逆に手取り収入が減ってしまうケースが出てくる恐れもあり、壁の引き上げによる消費や景気の拡大効果は期待できなくなる可能性が高い。
・日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト 石川智久氏
現役世代の負担を減らす意味からも年収103万円の壁を引き上げることは意味があります。一方で、多くの方の指摘の通り、社会保険料の壁も改革しなければ効果は小さくなります。税と社会保障一体で改革する必要があります。また、財源を確保するためには社会保障関係費等において無駄をカットしていくことも重要です。国民負担率が50%近くなるなか、税と社会保険料負担の抑制と財政のムダの削減が求められます。
・永続家計アドバイザー/FP/大学非常勤講師 豊田眞弓氏
補足所得税がかからないラインである103万円の壁を150万円に引き上げても、住民税はかかるし、社会保険の扶養のラインが引き上がらない限り、残念ながら100万円前後に働き方を調整しようとする動きが劇的に変わるとは思えません。
現在は、社会保障適用促進手当があるので、新たに社会保険に入っても会社が調整してくれるので大きな問題にはなっていませんが、この制度も来年以降はどうなるか未定です。それと、社会保険の扶養拡大を議論するなら、国民年金や国民健康保険に扶養制度がないことの不公平こそ是正が必要だと思います。
・東大生/芸人/元国税局職員/FP さんきゅう倉田氏
103万円の壁とは給与所得控除55万円と基礎控除48万円の合計で構成されています。
それぞれの控除を10万円ずつ増やして、123万円とすることで、学生を中心とした扶養の範囲で働く人々の労働時間を伸ばすことが期待できます。
ここからさらに控除を増やして150万円にすれば、より一層労働時間は増え、人手不足に悩む企業の問題も解決に向かうでしょう。
また配偶者(特別)控除と同水準になることで、税制の複雑さがやや緩和されるかもしれません。
学業が本分である学生が今まで以上に働く。それが社会として望ましいかは分かりませんが、働きたい人の選択肢が増えるという点では良いことだと思います。減税によって経済が活性化して、税収が増えることを望みます。
4.生存権を賭けた引き上げ
筆者は昨年12月23日のエントリー「基礎控除引上げショットはグリーンに乗るか」で、国民民主案の178万円と自民案123万円を足して2で割れば、150.5万円になることから、この「足して2で割った」150万くらいで決着するのではないかと述べたことがありますけれども、当時のFNN・産経の世論調査で、150万程度までの引き上げが一番多かったこともその根拠の1つでした。
冒頭で取り上げた紀尾井町戦略研究所の世論調査では、どの程度の引き上げが望ましいかといった設問こそなかったものの、123万円への引き上げを評価するか否かの設問には、評価するが30.4%に対し、評価しないが52.6%でした。その中で「評価する」人を支持政党別に見ると、自民、公明が5割台で最多だったのに対し、国民民主は1割台という結果になっています。
この紀尾井町戦略研究所の調査で、参院選比例投票先で、国民民主が自民を逆転し全政党のトップになったことを考えると、123万円の引き上げは評価しないはもとより、150万でも評価しない層が増えている可能性も考えられます。
実際、共同通信の世論調査では、年収103万円の壁の引き上げについて、「178万円に引き上げるべきだ」が36.4%で最も多く、「150万円程度への引き上げ」が27.8%となっています。
問題は国民民主が178万からビタ一文妥協しないのかどうかということですけれども、先述したネット番組に出演した国民民主の榛葉幹事長は「我々に言ったこと全部飲め、なんて言いませんよ、しかし国民民主の言ったことの少なくとも8割は、7割5分は飲もうじゃないかって言ってくれたら、それは一歩一歩政治を……」と発言しています。
103万から178万までの引き上げ幅75万円の8割は60万円、7割5分で56.25万円。上限額でいえば、159.25万円から163万円の間ということになります。要するに榛葉幹事長はそのラインに到達すれば、妥協する可能性があるといった訳です。
ただ、筆者としては、最低でも160万以上であるべきで、150万円台での妥協はしてはいけないと思います。
なぜなら、自民は物価上昇高を根拠に150万円以内と主張していて、それを認めたと自民が勝手に解釈するかもしれないからです。
国民民主は最低賃金の伸びを根拠に178万円を主張していますけれども、その土台に「国民の生存権」を置いています。この生存権を守るための引き上げなのだと与党に認めさせる必要があります。
これを認めさせることができれば、社会保険料の引き上げも「国民の生存権」を脅かすものだ、と同じロジックで反対することもできるようになります。与党も103万円の壁引き上げは「国民の生存権」を守るための政策だとなれば、社会保険料の引き上げの根拠も厳しく追及されることになる筈です。
そもそも社会保険料は「国民の生存権」を守るためのものであるにも関わらず、社会保険料負担で国民、特に現役世代の生存権を脅かしてしまうのは論理矛盾しています。
103万円の壁の引き上げを額の多寡だけでみるのではなく、その目的まで踏み込んだ上で、どうあるべきかを国会で議論していただきたいと思いますね。
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