

1.財務省解体デモ
2月15日、財務省解体デモが行われました。
昨年12月27日から始まった「財務省解体デモ」 はこの日で4回目を数え、2月21日には第5回目を行うそうです。
デモは回を重ねるごとに参加者が増え、ネットでは物凄い盛り上がりです。
けれども、このデモは、変な漢字もなく、日の丸が掲げられたりしている動画があがっていて、そこらの「デモ」とは違うものを感じさせます。
こちらのライターの方は、1月31日のデモに参加されたようで、その様子を自身のnoteに綴っていますけえれども、その一部を引用すると次の通りです。
私の感触でしかないが、ここに集まった人たちの中には生活が苦しいから消費税をなくせと言っている人たちだけでなく、子供達のために住みやすい社会にしたくて集まっている人も多いと感じた。普段は自己主張などあまりしそうにない中高年の女性も多かった。「生活が苦しいから消費税をなくせと言っている人たちだけでなく、子供達のために住みやすい社会にしたくて集まっている人も多いと感じた」という一文に、日本人がまだ諦めていないという希望を感じさせます。
このデモに先立ち、SNSで「私はこのデモに参加します。一緒に行きませんか」と誘ってみたが、一緒に行こうという人はいなかった。もっとも私のSNS(noteではありません)に友達は少ないし、平日なので無理もないかもしれない。予想していたとはいえがっかりした。
でも、国会議事堂前(財務署前のデモには時間的に行けなかった)には、やむにやまれぬ思いで集まった人たちがいた。それを見て「ここにこんなに仲間がいる」と思った。
帰宅してすぐ、撮影してきた動画と簡単なレポートをnoteに投稿したところ、予想もしなかったことが起きた。私のnoteを読んでくださる方は毎回100〜200人で、300人を超えたら快挙。1000人を超えたことはほとんどない。なのに、「財務省解体デモ」の回は1週間経った今現在、もうすぐ1万人に達する勢いだ。noteにアカウントを持っていない人たちも読んでくださっているらしい。
これはどういうことかというと、このデモが多くの人に関心を持たれていて、その様子を知りたがっている人がそれほどたくさんいるということだ。にもかかわらず、主流メディアは全く取材に来なかった。ガン無視だ。だから、少しでも知りたいと思う人たちが情報を求めて、たまたま私のnoteに辿り着いたのだろう。
2.財務省の前で何を叫ぼうとしても無駄です
果たして、この財務省解体デモに意味があるのか、ということについて、ネットでもいろんな意見が飛び交っています。
実業家のひろゆき氏は、財務省解体デモに意味はないという論調で動画を上げています。
その発言は次の通りです。
財務省の前でいくら叫んでも、財務省は解体されません。
あまり頭のよろしくない人って、財務省解体デモというのをすることで社会が良くなると誤解しているんですよ。
良くなりません。
財務省を変えるのであれば選挙で政治家が財務省を解体するという法案を作らないと変わりません。
なので、財務省を解体したいと言っている政治家に投票するか、もしくは財務省をこう変えるんだという政治家に投票するべきで
財務省の前で何を叫ぼうとしても無駄です。
本当に効果があるデモはやるべきだと思うんですよ。
フランスのデモは効果があるんですよ。
シャンゼリゼ通りでデモやって店燃やすんですよ。
店燃やされるから「これ以上デモやめてくんない?」っていうのを、そこで商売やっている人達とかが政治家に文句を言い始めるんです。
毎週毎週商売上がったりで店燃やされるから「マジで何とかしてよ」っていうのを政治家に言い始めるんですよ
結果としてガソリンに対する課税をやめたんですよ。
なので燃やすぐらいの根性があるデモだったらやってもいいと思うんですよ
「財務省の前でいくら叫んでも財務省は解体されません」
— jurian🌸 (@juri_piyo) February 17, 2025
とひろゆき氏が
わざわざ発信して下さっています。
コロナワクチンの見解を突如一変させた人が
このタイミングで
発信するという事は…
よほど
『効いている』んでしょうね!☺️👍#財務省解体 #財務省解体デモ2月15日… pic.twitter.com/uaikneBZPd
一方、効いているという説も勿論あります。
元官僚芸人まつもとは、報道されない「財務省解体デモ」ってやる意味あるの??という動画を上げています。
その概要は次の通りです。
・財務省の中で仕事していた時にデモなんていっぱいあった
・それをどういう気持ちで聞いているのかといったら、「暇だな」くらいは思ってしまう
・そもそも役人は黒子。前面に立つことなんてない
・自分の意思は見せないようにコントロールするからこその財務省
・それが国民から面と向かって批判されだした
・政治家は一応国民から選ばれている
・財務省は誰からの支持も受けている訳ではない
・国民から選ばれた政治家の下にいるということが唯一の正当性の証
・目の前の国民が刃を向けて「お前を刺すぞ」と言われたとしたら、そんなことには慣れてない
・だからこれは本当に脅威だと思う。効果は滅茶苦茶ある
・国民民主の玉木さんがYoutubeで「財務省解体デモには意味がない」と言った。
・玉木さんは元財務官僚だから、結局財務省を解体したとしても「予算編成はどこかがするんだから一緒でしょ」と
・結局財務省は役所に過ぎないんだから政治のコントロールをちゃんと上手にやるということが大事、と言った
・論点がズレている
・デモの人達は財務省が強すぎるから切り離せ
・財務省が後ろで力を持っているのをやめろ
・「結局財務省が後ろで操ってるじゃん」と言っている
・玉木さんは、財務書は本来自分で決められる立場ではなくて「政治に決めてもらう立場なんだから」と言っている
・当然そんなものは意図を持って言っている。
・結局庇っている
・どうして一つのデモに対して玉木さんが「意味がない」というわけ?
・他に沢山あるデモに対して言っているのかというと言ってない。
・これこそが「意味がある」と言っているようなもの
・どうして玉木さんはわざわざコメントを発信したのか
・国民民主は衆院選で「103万円の壁」の話をし始めた
・財務省は税収が減るという話は滅茶苦茶嫌
・財務省にすごく矛先が来てる
・選挙の後から財務書のツイッターが滅茶苦茶荒れまくっていて
・Xで「お前らは本当に国民の敵だ」と言われている
・その上で今回のデモ
・しかも一番財務省が嫌がる組織解体の話が叫ばれている
・玉木さんは自分の古巣に間接的に弓を引いた
・玉木さんも「やばいな」と思った。自分が言ったことでそこまで憎悪が財務省に向いてしまったのはやばいと思っていて、そこをいなすような言い方をした。
・火消しをしようとしている
・このデモは財務省的に相当まずい
・財務省はこのデモをあまり舐めずに、ちゃんと対処した方がよいと思う
ひろゆき氏も玉木氏もデモに意味はない。変えたかったら、財務省を変えると主張する政治家を選んで政治の力でコントロールすべきだと主張しています。
けれども、筆者は世論はそんな段階は過ぎていると見ています。つまり、政治家に任せても財務省をコントロールなんかできないと見限っているからこそ、その矛先が直接財務省に向かっているのだと思うのですね。
ひろゆき氏や玉木氏の認識と国民の意識に乖離がある。そこを認識できない限り、いくら「火消し」をしようが鎮火などしないと思います。
3.誠に礼儀正しく狼藉仕り候
先の動画でひろゆき氏は、「燃やすぐらいの根性があるデモだったらやってもいい」と述べていますけれども、日本とて江戸の昔には「根性のあるデモ」をやっていました。「打ちこわし」です。
打ちこわしとは、一般に「民衆が米屋を始め、質屋、酒屋などの富豪を襲撃し、家屋の破壊や家財の略奪などを行う暴動のこと」とされていますけれども、こちらのサイトにその背景と詳細がまとめられています。
その概略は次の通りです。
○天明の飢饉の自然要因江戸では平年の米100俵の値段は178両だったのが、天明7年(1787)では213両に高騰したそうです。
天明2年(1782)に奥羽地方で冷害が起こり、飢饉で死者11万人の被害が出た。
天明3年(1783)に起こった浅間山の噴火の噴煙で日光がさえぎられ、東北と関東での凶作になった。
○救済より財政再建を優先
多くの藩は財政破綻寸前で目先の利益しか考えず、兵糧の備蓄は一応行われているが、領民のための食糧の備蓄を行っていないことが飢饉を加速させた。藩内の米を領内や近隣の藩の飢饉の救済に回さず、財政再建のため年貢米を売った藩もある。
また、幕府から預かっている城詰米(当初の目的は兵糧のため、後に飢饉対策など非常時に使われる。所有権は幕府)を幕府から江戸へ送るように命じられた藩もある。しかし、命じられた藩の中には財政難で城詰米を家臣への俸禄の支払いなどに流用し、幕府へ送る城詰米を調達するため米を買ったことで米価が高騰した。
○農村の要因
米農家は収穫を優先し冷害に弱い品種を栽培したことで冷害の被害が大きかった。
また、藩の財政再建策により、農村では藩の特産品の原材料となる農作物の栽培が推進され、米より利益の高い商品作物を栽培する農家が増えた。商品作物の栽培に特化した農村では米を栽培せず、他の農村から購入した。
○商人の投機買い
米価高騰を商機と考えた商人が米の買占め、米を売り惜しむ囲い米が行われ、流通する米の量を減らすことでさらに米価を高騰させることで莫大な利益を得ようとした。
○米の奪い合い
江戸や大坂など都市部の幕府直轄領では必要な米は輸入している。幕府は米価が高騰すると都市部に不穏な動きが出ることを怖れ、米確保に奔走し他藩と米を奪いあう形になった。
【中略】
◆江戸打ちこわし
剣客商売の本編から少し後の天明7年(1787)5月20日に江戸市中で米価高騰による打ちこわしが起こる。
江戸では充分な米が確保されているにもかかわらず、投機目的の商人が米を囲んだことで流通が止まり、米価が高騰した。平年では百文で米1升買えたのが、5月中旬には2合5尺しか買えず、米価高騰は町民達にとって死活問題であった。
打ちこわしの前年に田沼意次が田沼政権内部の分裂という形で老中を解任されるという政権交代の過渡期であり、幕府に強力な指導者がいなかったことも対応が遅れたことも要因である。
町地では家主らが自発的に困窮した店借人(借家人)を救済した。家主にとって店借人は家族同然である。
商家では自発的に救済した店もある。当時の人々の考えでは困窮している人を救うことは当たり前である。もっとも、米を囲い込んでいるということが知れ渡ると町民達の打ちこわしの標的にされかねないため、予防策として救済を行う店もあった。
○囲い米
幕府は米の流通を促進すれば米価が下がるという目論みから、天明4年(1784)に米仲買人以外にも米の販売を自由化した。結果的には流通が促進されるどころか、新規参入した者までもが囲い米に走るありさまで失敗した。
幕府は町奉行所を通じて江戸の商人の囲い米の摘発を行ったが、商人達は町奉行所の権限が及ばない旗本と御家人に米を預かってもらう方法や取締るべき町奉行所の役人に賄賂を渡す方法などで摘発逃れを行った。
○町奉行所の不手際
天明7年は囲い米の摘発以外にも奉行所の不手際が打ちこわしを招いた。幕府は米価高騰で苦しむ江戸の町民を救う目的で天明元年(1781)には若年寄の田沼意知に命じ5千俵、その後は毎年、町奉行所を通じて御救米を支給させた。
しかし、打ちこわしが起こった天明7年のみ町奉行所が御救米の支給を行わず、囲い米の摘発強化の嘆願を5月の月番である北町奉行所の曲渕甲斐守が拒んだことで民衆の不満は頂点に達し、5月20日の打ちこわしを招いた。
○江戸打ちこわし起こる
月番の北町奉行の曲渕が町方の嘆願を無視したことが瓦版など町方のメディアを通じて一気に広まると下層町民を中心に5千人ぐらいが打ちこわしに参加した。5日間に渡り商家8千軒、米屋980軒が打ち壊しの対象になったと言われている。幕府は5月23日に幕府の足軽隊である先手組に命じ市中取締りに乗り出した。
江戸の打ちこわしは組織だって行われたものではなく、代表者は存在しないが、盗みをはたらく者には自発的に制裁を加え、火の用心をしながら目的の商家だけを打ち壊すという規律されたものであった。そのため、町奉行所では打ちこわしを「米屋と町民の喧嘩」と解釈し、これほどの大事件にも関わらず死刑になった者は1人もおらず、1人だけが遠島になった軽い処分だった。
これを契機に大坂、京都、駿府など32都市で打ちこわしが拡大した。
【以下略】
買占めによって米の値段が上がるとか、なんだか、今の世相にそっくりです。
ただ、この打ちこわしも、「盗みをはたらく者には自発的に制裁を加え、火の用心をしながら目的の商家だけを打ち壊すという規律正しいもの」であり、当時の記録で「誠に礼儀正しく狼藉仕り候」とあるほどです。
これも秩序だった財務省デモと同じです。
ただ、今はまだこの程度で済んでいるかもしれませんけれども、財務省が何もせず放置したままだと本当に「打ちこわし」にまでなってしまうかもしれません。
もちろん、今の日本では江戸の時のように「破壊活動」になることはないと思います。2月10日、財務省は関税局の職員が、酒を飲んで帰宅する途中、不正薬物の密輸の容疑者など187人分の氏名や住所が書かれた文書を紛失したと発表していますけれども、あるとすれば、あの類の不祥事が「内部告発」によって次々と明るみになるとかなどは考えられます。
その昔、財務省が大蔵省だったころ、ノーパンしゃぶしゃぶ事件で、財金分離と大蔵省解体の一つの要因となったことがありました。
あのような形で、「闇」が暴かれる形で、「打ちこわされて」しまうのではないかという気がします。
4.財務省の担当者がご説明に伺います
1月11日、幻冬舎の編集者の箕輪厚介氏が、「僕は財務省にプラスもマイナスもないけど、いきなり幻冬舎まで財務省の方々が来て、財務省が世間で誤解されてるから箕輪さんのような方に本当のことを知って欲しいって言われて色々説明受けたな。あの時間はなんだったんだろう、私にも広告費欲しかった」とツイートして、いわゆる財務省による「ご説明」工作ではないかと話題になったことがありました。
このツイートはプチ炎上し、箕輪氏は翌12日に「いや、これなんか拡散されてしまいましたが、暴露でもなんでもなくて、すごく丁寧に色々教えていただいただけです! いきなりっていうのも、本当にいきなり来たわけではなくアポを取っていただいたのちに、来ていただきました。誤解招く表現失礼しました! ただちょっとした冗談でpivotにスポンサーするなら僕も広告費欲しいって軽口を叩いただけです。財務省が自分たちのスタンスを周知させるために広報予算を使うのは何もおかしなことではありません! 今だったらpivotで話すのが最適解でしょう。財務省最高です!!まじです。これからも応援してます!」と慌ててフォローのツイートをしていましたけれども、財務省の手がこんなところにまで伸びていることが明らかになった事例だとも言えるでしょう。
僕は財務省にプラスもマイナスもないけど、いきなり幻冬舎まで財務省の方々が来て、財務省が世間で誤解されてるから箕輪さんのような方に本当のことを知って欲しいって言われて色々説明受けたな。
— 箕輪厚介 (@minowanowa) January 10, 2025
あの時間はなんだったんだろう、私にも広告費欲しかった。
財務省の「ご説明」については、103万円の壁を178万円に引き上げると「7.6兆円の減収」だなんだと大騒ぎしていた昨年10月31日、テレビ東京『WBS』や『ガイアの夜明け』の元ディレクターの下矢一良氏が「「ご説明」が何か普通はわからないと思うので、財務省記者クラブ経験のある私が解説すると、財務官僚が記者クラブの記者を個別、あるいは全員集めて「レクチャー」を開催する。で、圧倒的な知識の官僚の説明に納得してしまうという構図。レクが終わり、他の専門家にも取材して、我に帰るという感じ。」とツイートしています。
このツイートには、「記者もプロなら事前に勉強してそこで即座に反論出来るくらいになってほしいと思うのですが」とか「我に返って何故あの記事になるんですか?それともその他の専門家の話も聞かずに記事になったんですか?」とか「洗脳やんけ( ̄x ̄;)ザイムシンリキョウ」など様々なリツイートがついていますけれども、圧倒的な知識の暴流に押し流されて洗脳されてしまうというなんとも恐ろしい「ご説明」です。
実際、財務省のサイトには、「財務省の担当者がご説明に伺います」というページがあり、「主に営利を目的としない各種説明会、職場での研修、ゼミ、学校等で、日本の財政について、財務省・財務局職員がご説明致します。各地域の最寄りの財務局HPからご連絡下さい」と紹介されています。
「ご説明」が何か普通はわからないと思うので、財務省記者クラブ経験のある私が解説すると、財務官僚が記者クラブの記者を個別、あるいは全員集めて「レクチャー」を開催する。で、圧倒的な知識の官僚の説明に納得してしまうという構図。レクが終わり、他の専門家にも取材して、我に帰るという感じ。 https://t.co/6lbdGvjPDJ
— 下矢@広報支援 (@KazShimoya) October 31, 2024
5.財務省のメディア戦略と消費税増税ロジック
広報かなにか知りませんけれども、このように財務省は各所に「ご説明」をしています。
この財務省の戦略について、もう10年以上前の2014年4月、月刊「Synodos」が「検証! 財務省のメディア戦略と消費税増税ロジック」という対談記事を掲載しています。
その概要は次の通りです。
・「ご著書を拝読しました。消費税についてぜひ一度お話をしたいです」と財務省の方からコンタクトがありました。面白そうな機会だと思って一度会ってみたんです。対談は経済学者の片岡剛士氏と評論家の荻上チキ氏との間で行われたのですけれども、この中で荻上氏は財務省が新たな広報として「発信力の高い個人や、大学、NPO、地方の経済団体などの組織を、職員が直接お訪ねし、「ご説明」しているので会いたい」と財務省側からコンタクトを取ってきたと述べています。
・財務省の人に加え、電通から任期付きで官民交流採用された広報担当が話にきたんですけれど、説明の内容が典型的なマーケティングだったんですよ。
・最初のコンタクトは、これまで政府は、「マスメディア、政党、経済団体、ジャーナリスト、学者など影響力ある団体や個人に、幅広くご説明」してきたけれど、それだけだと不十分だと。だから「省内で検討しまして、新たな広報が開始されました。その主軸は、発信力の高い個人や、大学、NPO、地方の経済団体などの組織を、職員が直接お訪ねし、「ご説明」しているので会いたい」というメールでした。
・今回の「ご説明」では、増税の必要性を訴える資料のほか、今回のような広報戦略のアピール資料みたいなのも渡されたので、そっちはそっちで面白かったんですが。
・おそらく官僚も、多くの場合は「騙してやろう」と思っているわけではなくて、自らの研究に自信を持って、正しいことをやろうとして、あるいは足を引っ張られないように「ご説明」に歩いているんだろうなと思います。
・それに官庁が掲げている政策を通すために、その政策に賛成している学者を巻き込んでメディアに働きかけ、国民の政策の認知度を高めようとするという戦略は伝統的に使われているものですよね。これは必ずしも悪いことではなくて、結局、世論がどういう反応をするか次第だと思っています。
・ ただ最近はメディアが、特に経済関係については、どういう報道をすればいいのか判断ができていないと思うんですよね。僕も新聞社から「明日発表されるこの政策についてコメントしてください」って依頼がくるんですけど、その時点ではまだどういう中身なのか知らないから依頼してきた新聞社から大量の資料をもらって判断するわけです。その資料って結局官庁が提供しているものなんですよね。
・白書に関する報道でも、記者へのレクでは、白書だけでなくて数十ページにまとめた概要資料とか、場合によってはさらに数ページに要約したペーパーが配られますよね。白書なんてまともに読まず、概要だけで書いたんだろうなと思う記事は多いですよね。
・いまはネットメディアもあるので、資料が配られてから報道までの一呼吸が非常に短い。そのせいで要約されたペーパーをそのまま報道していることが多いんです。結果的に、政府と一気通貫になってしまう。
・分厚い白書についての報道でも、翌日の朝刊の内容がどの新聞社も横並びで一緒。元データまでアクセスして、内容があっているかどうかまで検証するような報道はほぼない。
・概要資料やペーパーは官庁がアピールしたい内容がまとまっているともいえるわけです。だから鵜呑みにしてしまうと、メディアはただ宣伝しているだけになってしまう。
・そもそも、例えば経済メディアの場合、経済理論を知っていて、さらにデータを使って記事を書ける記者って非常に少ないんです。
・記事に載っているグラフをみると、財務省や経産省が作っているものを使用していることが多い。
・エコノミストに「レポートに載っているグラフを使いたいので、データを下さい」と依頼したりする。
・草の根的な取材で光をあてる力に比べると、データを使って分析するような力は、新聞・テレビの報道はまだ弱いですよね。だいぶでたらめな話もありますし。
・専門分野はいろいろあるから、誰に何を聞くのかちゃんと考えないといけないと思うんですよ。でも記者は、知り合いの学者や、メディアによくでる学者にコメントをお願いしてしまっている。
・記者や制作も、限られた時間で、決められた紙面・時間を埋めないといけない、ルーティンワーカーなんですよね。
・適任の専門家に「いま論文書いているから無理」「メディア嫌いだからヤダ」と断られてしまうよりは、すでに繋がりのある人にお願いしたほうが効率いい、という状況もある。
・あとは両論併記していても、記者の考え方で記事の見せ方が変わるんですよね。アベノミクスについて、まずは僕が金融政策についてコメントしたら、次に「円安株高になっても実体経済に影響はない」と批判的な人のコメントを載せて、最後に記者が一言二言締めの言葉を書く。僕は前座でしかないわけです。
・先にどちらの話を書くのかで印象が変わるのは確かですね。締めの言葉の方の識者に本音を言わせたりとか。でもこういうのは程度問題として、どの記事でもやられている。
・だから意識しないといけないのは、べたですが、議論の質を高めることでしょうね。無理筋な議論を時間をかけて淘汰することで、さすがに筋悪過ぎる議論を「両論」扱いさせにくい状況を作るとか。
・官僚の「ご説明」の影響力って、馬鹿にできない。
・「マインドコントロールだ!」みたいに強い言葉を使ってしまうと、対抗言説として「これが真実の言葉だ!」みたいなものが出てきて、それはそれで秘密結社的になることにも注意が必要ですけれど。
・そうするとファンにしか届かなくなりますね。それは意味がない。
・僕も「リフレ派」と言われていますが、別に党派的な意識を持っているわけではありません。大切なのは、ファンに言葉を届けるのではなくて、疑問を感じている人に、実際のデータや経済状況とあわせて考えを伝えることです。
・一般論として、情報接触の反復が、ひとの考えに与える影響は大きいですよね。メディア経由でコンタクトした論点を繰り返し反復して習得していくことで価値観を築いていく。そういうものの連鎖の中で、検証されずに築き上げられていく空気ってあるわけですね。
・でも、いまネットなどで流通しているメディア批判の中には、「上流にいる誰かが指令を出している」とか、「悪意によって誤情報を拡散している」みたいに、わかりやすい意図があるのだというストーリーに還元してしまう。本当にそうなら「倒しやすい」のかもしれない。でも、空気で作られた言説は、人々のリアリティにマッチしたからこそ拡散しているわけで、繰り返し反復されていく。
・それに対抗するには、反対の言説を同じ頻度で頒布して、どちらがいいのかを選んでもらえる状況にもっていくことです。難しいですけどね。「財務省の裏側を暴く!」みたいな記事は注目を集めるけれど、わかりやすく中身のある丁寧な検証が可能になるように議論していくしかない。
・例えば高橋洋一さんは、「こんな問題があるよね」と極めて説得的に、財務省の問題を提示したことに功績があると思います。
・一方で、高橋さんの存在自体が陰謀だという噂がささやかれてしまいかねないという側面もある。
・高橋さんの考えが正しいとしても、残念ながら社会全体の状況ってあまり変わらないのかもしれない。
・すでに人々が常識と捉えているものを覆すのは非常に難しいんですね。だからこそチキさんの言うように、数字などを使った対抗言説が必要になってくるんでしょうね。
・ご説明1:「よいデフレ論」「消費税はいま増税すべき。さもなければ大変なことになる」
・「増税に賛同してほしいのではなく、私たちの悩みを吐露しに来たんです」
・デフレデフレというが、産業別GDPデフレーターの推移をみると、電気機械が顕著に下がっている。これはイノベーションが起き、生産が効率化したことで、パソコンなどの価格が安くなったためだ。それはいいことではないか
・ご説明2:増税するならいまでしょ!
・先方が持ち出してきたのは、消費者態度指数の表。見てください、と。
・89年の消費税3%導入、それから5%に引き上げた97年。増税が景気に悪影響って言いますけど、それは増税直後だけで、すぐに回復していますよね。
・むしろアジア通貨危機のほうが、明らかに影響力が大きいですよ。景気が上向きつつあるいま、同じような危機が生じる前に、増税したほうがいいでしょう。
・ご説明3:増税するなら消費税
・所得税は現役世代が限られているから限界がある。相続税も同様だ。高所得者層はすでに多く負担しているし、これ以上を求めると海外に逃げてしまう。一方で消費税は安定的な税である。
・それから所得分布をみてほしい。日本人の平均所得は408万円。世帯収入で最も層が厚いのは、200~299万、300~399万。ボリュームゾーンから取る手段は重要だ。控除を検討しつつも、どう理解を得ていくかが課題だ、と。
・ご説明4:消費税は景気に左右されない
・所得税と法人税は景気に左右されるけど、消費税はそんなことないんですよ。こそのうえで、貧困層には軽減税率や給付のオプションを検討すべきかどうか、と。
【以下略】
この戦略は、前述の箕輪氏が「箕輪さんのような方に本当のことを知って欲しい」と財務省側からコンタクトを取ってきたのと同じです。つまり10年以上前から財務省は「発信力の高い個人」もターゲットに入れて「ご説明」してきた訳です。
また、荻上氏は、メディア側も「白書なんてまともに読まず、概要だけ」で記事を書いていることに加え、資料が配られてから報道までの時間が非常に短いことから「要約されたペーパーをそのまま報道している」ことが多いと指摘しています。
更に、分厚い白書についての報道でも、「元データまでアクセスして、内容があっているかどうかまで検証するような報道はほぼない」と指弾しています。
これでは、政府のプロパガンダ機関と変わらないことになります。
対談の後半では財務省のご説明の例について紹介されていますけれども、片岡氏と荻上氏は、その説明のおかしな点についてはきちんと指摘・反論しています。
裏を返せば、財務省の「ご説明」を受けた人が皆そのような反論できるようになれば、財務省の「ご説明」を威力を失うということになります。
また、資料が配られてから報道するまでに時間がなくて検証する時間がないというのなら、いっそのこと、その「資料」とやらを全公開で垂れ流しして、一般の人々に広く検証して貰えばよいと思います。
通信の世界では、一本の信号線でデータを送るシリアル通信と複数本の信号線でデータを送るパラレル通信があります。シリアル通信は安い代わりに大量のデータを送るのに時間がかかります。一方パラレル通信では高くつきますけれども、複数本の信号線で並列にデータを送るので時間は短くなります。
財務省の「ご説明」にしても、その説明を受けるのが一人だけのシリアル通信ではなく、広く一般国民に同時伝送して、分担して検証すれば、その間違いや穴も直ぐ見つかると思います。
たとえ、個人が高橋洋一でなくても、大勢の個人が集まることで、知識をカバーすることが可能になってきます。
先日、NHK党の立花氏がTBS報道特集の取材を受け、その模様を全ノーカットで動画配信し、報道特集がどういう編集をして放送したのかを世間に明らかにしましたけれども、あのように、財務省から「ご説明」したいとコンタクトされた識者の方は、録画でもライブでもその内容を世間に配信して、皆に検証してもらうようにしていただきたいと思います。
財務省の「ご説明」には集合知で対応する。そうした考えもあってよいのではないかと思いますね。
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