

1.誹謗中傷は絶対に許されない
2月18日、衆院総務委員会で、村上誠一郎総務相が、兵庫の竹内英明元県議が亡くなった問題について触れる一幕がありました。
件の竹内氏は、兵庫の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを内部告発した文書めぐる百条委員会のメンバーでした。けれども。昨年11月に行われた斎藤知事の“出直し選挙”の期間中、竹内氏へのSNS上での誹謗中傷が加熱。投開票の翌日に、竹内氏は“一身上の都合”で議員を辞職。今年1月18日に自宅で亡くなっているのが見つかりました。
この日の総務委員会で日本共産党の辰巳孝太郎議員から「竹内さんは百条委員会で斎藤知事の疑惑を追及するなかでSNS上の誹謗中傷を受けてきました……SNSなどの誹謗中傷によって命まで奪われてしまった。こうことは絶対にあってはならないと思いますけれども、いかがですか」と村上総務相に答弁を求めました。
村上総務相は、「今回の事件は本当に痛ましい事件だと思っております。特に我々、政治をやっている者からすると、ああいうことが起これば、なかなか正論も本音も言えなくなる。民主主義の危機なんじゃないかと思います……本当に、竹内元県議のご逝去につきましては、謹んで、哀悼の意を表します」と述べ、昨年成立した、SNSプラットフォーム事業者に誹謗中傷などの問題に対処する義務を課す「情報流通プラットフォーム対処法」に触れつつ、「表現の自由のもと主張は行われるべきですが、主張の是非に関わらず人を傷つけるような誹謗中傷は絶対に許されないと考えております」と述べ、今年5月施行の情報流通プラットフォーム対処法を進める意思を示しました。
この村上総務相の答弁はXでも拡散されていて、竹内氏を追悼したシーンをめぐって、《村上大臣のこの発言は重い》、《哀悼の意を表する村上総務大臣の声が震えてる…私も心が痛い…》、《これが心ある人間の対応です村上さんと故竹内さんの接点どんな繋がりかは知らないが》という声がある一方、《亡くなった安倍総理を「国賊」とまで誹謗中傷した人間が言っても全く説得力がない。》、《おう正論ではあるんだが、安倍氏を国賊とか言ってだ奴が言ったってブーメランなだけだぞ》、《くっさい演技 言論統制に使いたいだけだろ 人の死を政治利用する気か》といった批判の声もあります。
村上総務相、前県議死去に声震わせ…
— Chum(ちゃむ) 🍫🦖 (@ca970008f4) February 18, 2025
「民主主義の危機」
「人を傷つける誹謗中傷は絶対に許されない」
泣きそうになってる pic.twitter.com/ntwkPrYdmv
亡くなった安倍総理を「国賊」とまで誹謗中傷した人間が言っても全く説得力がない。
— 飯田哲史@大阪&日本維新の会 (@satoshi_iida) February 18, 2025
SNS誹謗中傷は「民主主義の危機」 総務相、前県議死去に声震わせ:朝日新聞 https://t.co/PEXVWGe9Gp
2.そろそろいい加減にしよう
SNS上の誹謗中傷については、エッフェル姐さんこと自民党の松川るい議員が、1月26日、自身のブログで「誹謗中傷大国ニッポン〜そろそろいい加減にしよう〜」をいう記事を書いています。
記事では、冒頭で「わが日本、そろそろ誹謗中傷社会の度が過ぎるのではないでしょうか。そして、究極のホワイト社会、生きづらい世の中になりました」と切り出し、先日芸能界を引退した中居正広氏や、ネットの誹謗中傷で自ら命を絶った竹内英明元兵庫県議の件に触れ、「憶測に基づくバッシング」に対して警鐘を鳴らした上で、次の4つの対策を提言しています。
①誹謗中傷したら、即座に発信した個人が特定できるようにする(現在の開示請求は時間がかかりすぎる。開設条件も緩すぎ。アカウントがフェイクなのか日本人なのかすらわからない。)けれども、この記事は大炎上。タイトルの《誹謗中傷大国ニッポン》がXでトレンド入りし、批判が溢れる事態となり、更に松川議員が、過去に大阪都構想について「大阪みたいなちっちゃなトコロで小さく分けても」と大阪を軽くみた発言までもが掘り起こされる始末。
②PV数を稼ぐビジネスモデルをやめる、または、PV数を稼ぐビジネスモデルを許容するのであれば、本人に取材もしていないような「こたつ記事」については、本人から申し出があれば即刻削除することを義務付ける、といった対策が必要だと考える。
③オールドメディア(紙媒体、地上波放送局)は、ネット上の言説について、自身の独自取材や判断を厳正に行い、盲目的な後追い記事を書かない矜持を持つ。
④ネット上の誹謗中傷を浴び続けた場合にどのような心理的経過を辿って闇に堕ちていくのか(その結果自殺に追い込まれることも含め)、精神病や心理学などの専門家による解説を広く世の中に知らしめ、世の中の常識とする。「無邪気な正義」により、誰かの自殺に加担する人だって被害者と言えなくもない。こうした人々を減らすためには正しい知識が必要だと思うところです。こうしたことの周知に、心あるマスコミ(オールドメディア)や心あるネット上のインフルエンサーは注力するべきだと思います。
ネットでは、《言う人によって説得力無くなるからやめとけばいいのに》、《こういうのってまともな人が言ってこそだよね》、《エッフェルおばあさん?だっけ あだ名つけられて悲しかったんだろうな》など批判の声が飛び交いました。
松川議員のブログが炎上した理由についてリスクマネジメントに詳しい大学教授は、「松川議員は自己評価が高すぎる……まず国会議員がこんな発言したら“言論統制するのでは?”と疑われますので、下手に触れるべきではありません。しかも、タイトルも過激すぎます。ブログで《PV数を稼ぐビジネスモデルをやめる》と提言しているのに、ご自身も同じことしているのに気づいていないのはダメです。こうした繊細な話は、自民党内で提言する方が先でしたね」と指摘しています。
その意味では冒頭で取り上げた村上総務相が「主張の是非に関わらず人を傷つけるような誹謗中傷は絶対に許されない」と述べたことに対し、ネットから「安倍元総理は国賊と呼んだ人がいっても説得力がない」と批判されるのも同じ類になってしまいます。
3.まともな人が言ってこそ
この批判の声を効いたのか、松川るい参院議員は2月2日、TBSの情報バラエティー番組「サンデージャポン」に出演し、件の記事について「ちょっと刺激的過ぎたかと思っている。気分を害された方はすいません」と釈明しました。
番組の司会者から「街頭インタビューの回答で『いうことは正しいが、あなたが言うな』『ギスギスした社会にしたのは自民党だ』など厳しい声が挙がっている」と問われると、「まるごと真摯に受け止めたい」と語った上で、自身が2023年7月に党女性局のフランス研修で、エッフェル塔の前でおどけたポーズを取った写真を公開し、批判を浴びたことについて、「研修後すぐに公式のも、個人のもブログで報告書を出したが、いまだに『出していない』といわれ続けている。誤情報に基づくイメージで、こういう風に批判をいただいているなら、すごく悲しい」と述べました。
そして、SNS上の誹謗中傷はちょっと度を越していると思っていた。木村花さんとか竹内(英明)兵庫県議が亡くなられたってことを聞いたときに、顔も知らない他人から投げつけられた言葉で命を落とす人が二度と出てきてほしくないなと強い衝動を感じた」などと訴えました。
これに対し、同じく番組に出演していた「ホリエモン」こと実業家の堀江貴文氏は、「この問題の本質はそこじゃないんだよ。規制すればいいって考え方、間違いです。すぐ政治家はさ、規制しようとしてさ、自分の首まで絞めちゃうじゃない。なんでもかんでも規制して、罰則を強めれば世の中の問題は解決すると思ってんのは政治家の責任なんです……悪口を言う人は悪口しか言えないですよ。悪口を言う人は本当に悪口を言いたくて言ってんじゃなくて、(相手に)振り向いてほしいわけ。褒めるって難しいけど、その人の発言に対してツッコんだり、悪口を言うの簡単じゃないですか。1番簡単なのは悪口なんです。悪口を言うしかボキャブラリーがない人が一生懸命やってんのが誹謗中傷なんですよ」と反論しています。
筆者は、このタイミングで松川議員をテレビ出演させるなんて、政府がSNS規制をするための世論作りに要請されたか忖度したのかなど、すぐ疑ってしまうのですけれども、仮にそうであったとしても、ホリエモン氏を同時生出演させ、反論させたところを見ると、番組制作スタッフの中でも意見が分かれているか、一方的なSNS規制への流れに反発している人がいるのかもしれません。
4.免許制のプラットフォーム
このSNS規制について、NHK党の立花党首は2月19日の記者会見で、書いた個人を特定できるプラットフォームを国が作るべきだと主張しました。
その箇所の概要は次の通りです。
・書いたら絶対特定できるプラットフォームを設けるこれは要するに、セキュリティクリアランスに似た資格制度を設けた専用のプラットフォームを立ち上げることで信頼できるSNSを作ろうという主張です。
・ネットでの、選挙中は特にそうだけども、選挙とか政治に関わることは特に厳しく取り締まるべき
・ナンバーから個人を特定するというような形で匿名性を保った真実しか書いちゃいけないプラットフォームを作るのが、国でやるのが1番だと思ってる
・ここは本物本当の人しか書いちゃいけません、免許取ってちゃんと届け出した人しかダメ
・Xやyoutubeなんかは嘘つき放題にしてあげたらいい。規制したって無理。海外サーバを通したら特定できない
立花氏は免許制にすべきと述べていますけれども、車に例えるならば、交通規則を守らない暴走運転をしたものは厳しく罰すればよいという論です。たしかに昨今、どこぞの外国人運転手が暴走事故をいくつも起こして問題になっているのは事実です。
暴走については、なぜか外国人に対しては免許取得が簡単だからだという指摘もあります。
おそらく、仮に、立花氏のいうように、免許制のプラットフォームを作ったとしても、構造的に、今、車の免許で起きているのと同じ問題を抱えることになると思います。
要するに、制度やプラットフォームを整えても、その運用がガバガバでは意味がないということです。
もちろん、セキュリティクリアランスというかモラルクリアランス的に厳密に審査するという対策もないことはないですけれども、こうした類はやればやるほど、教科書的になり「つまらなく」なっていくのが常です。
その意味では、たとえ「ゴミ」であっても、自由に意見を書き込んで、時間と共に意見が収斂していく、「コミュニティノート」方式の方がまだよいのではないかと思いますね。
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