ドイツのための信号機

今日はこの話題です。
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1.ドイツ総選挙


2月23日、ドイツで総選挙が行われました。

ドイツの公共放送ZDFによる日本時間午前5時時点の得票率の予測では最大野党で中道右派の「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」が28.52%で首位に立ち第一党。右派の「ドイツのための選択肢(AfD)」は20.8%と前回選挙から得票率が倍増となる大躍進を見せました。

一方、ショルツ首相の与党で中道左派の「社会民主党(SPD)」は、16.41%で3位となりました。

「キリスト教民主・社会同盟」の首相候補、フリードリヒ・メルツ氏は首都ベルリンで支持者らを前に演説し「この歴史的な夜にようこそ。私たちはこの選挙に勝利した」と勝利宣言し、「重要なのはドイツに再び行動のできる政府をできるだけ早くつくることだ。世界は私たちを待ってはくれない」と速やかに政権の枠組みを決める連立協議を始めたいという考えを示しました。

地元メディアは交渉の相手として「社会民主党」や「緑の党」の名前を挙げています。

また、2位となった右派政党「ドイツのための選択肢」のアリス・ワイデル共同党首もこの日、首都ベルリンで支持者らを前に演説し、「歴史的な結果を成し遂げた。国民の政党としての立場を固めた」と勢力の拡大に自信を示しました。

一方、大敗北した与党「社会民主党」のショルツ首相は、首都ベルリンで支持者らを前に演説し「与党にとって苦い結果だ。この結果の責任は私にある」と述べ、敗北を認めました。

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2.ドイツ政治の歩み


もともとドイツはほぼ常に第一党が過半数割れする中で、さまざまな政党が連立政権を組んで政治を進めてきた国です。

ドイツは政体として連邦共和制を取り、大統領と首相が存在します。議会は小選挙区制を加味した比例代表制の直接選挙により選出される任期4年の733議席の議員で構成され、議員内閣制の下に連邦議会が首相を選出する仕組みとなっています。

総選挙前は、2024年現在で社会民主党(SPD)が200議席以上を占め、次いでキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)が190議席超、緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)が110議席超を占めていました。

ショルツ政権は、自らが所属する社会民主党(SPD)を主軸とする政権で、2021年まで続いたキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)を主軸とするメルケル政権の後に誕生しました。連立を組んだのは、緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)と自由民主党(FDP)の2党ですけれども、ショルツ政権は各党の象徴色(緑の党=緑、FDP=黄、SPD=赤)を取って、信号連立(Die Ampel Koalition)とか、信号政府(Die Regierung)と呼ばれていました。

ショルツ政権は、政権運営中に、新型コロナウイルス対策用に措置されていた残予算600億ユーロを気候変動対策に転用させる方針について2023年11月に連邦憲法裁判所から違憲判決が出されたこと等を切っ掛けに、その後の予算編成に関して特に財務大臣リンドナー氏を擁するFDPと他党との信頼関係の亀裂が顕在化し、政権が不安定化しました。

2025年予算を見据えて与党内の対立は鮮明化し、FDP党首で財務大臣のリンドナー氏は、生活支援金や気候変動対策予算の削減、非課税所得上限の増額、所得法人税及び年金の削減等を主張する一方で、SPDは社会の安全やインフラ投資等を念頭に置いた予算を、緑の党は貧困対策や経済成長、環境保護等のための予算を主張しました。

自由主義的な主張を展開するFDPに対して公助の充実を主張するSPDおよび緑の党との意見の隔たりは埋まることなく、首相のショルツ氏は政治的空白を避けるためとしてリンドナー氏の財務大臣解任したのですね。

連立政権崩壊を受けて、ショルツ首相は2024年11月7日の財務大臣解任を発表した記者会見で、今が国民の信を問う時だとして連邦議会選挙発表しました。

当初は選挙の実施時期として2025年3月頃が念頭に置かれていたのですけれども、ちょうど、アメリカの大統領選でトランプ氏が勝利したこと等を受けて、議会や経済界から政治的空白の長期化を避けるべきだという声が高まり、予定を前倒しして、選挙は2025年2月23日に実施することとなりました。

その結果が、今回の「キリスト教民主・社会同盟」の勝利。「ドイツのための選択肢」の大躍進です。

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3.選挙から学べる五つの教訓


2月23日、北ドイツ放送(Norddeutscher Rundfunk)が制作し、ARD(ドイツ公共放送連盟)の加盟局で放送されているドイツの国民的ニュース番組「ターゲスシャウ( tagesschau)」は「選挙から学べる5つの教訓」という記事を掲載しています。

件の記事を引用すると次の通りです。

この選挙の夜を終えて、一つ明らかなことがある。連合はより複雑になり、候補者という要素はより重要になり、そして死んだと言われていた人々が実際にはより長く生きることもあるということだ。連邦選挙から得た 5 つの洞察。

1)早期選挙により少なくとも部分的な明確化が実現
彼はまた、今度は有権者が自らの意志を示す番だとして、信号機政府の失敗とその後のオーラフ・ショルツ首相による信任投票を正当化した。

実際、首相の座を争う2つの候補のうちの1つが、今度はCDU/CSUが大幅に強力になりつつある。 2021年の連邦選挙では、SPDと連合はそれぞれ25.7%と24.1%でほぼ互角だった。オラフ・ショルツは、当初から弱い立場から、2つの非常に異なる連立パートナーとともに、SPD、緑の党、FDPの3党連合を結成した。

現在、CDUとCSUは首相候補のフリードリヒ・メルツ氏を擁してより明確に政権を率いることができ、SPDとの差は大幅に拡大した。社会民主党の得票率は、2021年の緑の党の得票率とほぼ同じにまで減少した。

もしそれがCDU/CSUとSPDの連携に十分であれば、2017年から2021年までのアンゲラ・メルケルの最後の黒赤政権と比較して、力関係のバランスは大きく変化するだろう。

もしメルツ氏がSPD以外の連立パートナーを必要としていたら、状況は違っていただろう。そうなると、第3のパートナーとしてFDPと緑の党のどちらが加わっても、有権者の信任を実行するのはより複雑になるだろう。

しかし、極右の要素が一部あるAfDも大幅に強化され、選挙前の世論調査だけでなく、2021年の選挙結果をほぼ2倍にすることができた。しかし、他の政党が連立を組まないことは有権者が事前に知っていたため、同党はこれを政権への委任と解釈することはできない。

2) AfDの強さにより二大政党の連携が困難に
今回の連邦選挙前の世論調査では、CDU/CSUとSPDの二大政党連合が最も安全な選択肢であると長い間示唆されていたが、選挙当夜、この選択肢は不安定な状況にある。理由の1つは、AfDが大幅に強化され、FDP、左翼党、新たに設立されたBSWの間で票がさらに分散したため、投票の決定がはるかに広範囲に分散され、政治の中心が弱体化したことだ。

BSWまたはFDPが左翼党とともに連邦議会に進出するかどうかによっては、CDU/CSUとSPDが過半数を占めるにはもはや不十分になる可能性がある。そして、たとえそうであったとしても、政府における議会の多数派は極めて少なくなり、すぐに政府首脳にとってリスクとなる可能性がある。

特にSPD議会グループは、時には非常に特異かつ多元的なアプローチを特徴としている。これは、ウクライナへの武器供給などの外交政策問題において、前回の立法期間に明らかになった。

しかし、EU指導部は、外交政策の面で世界情勢が不安定なこともあり、安定した有能な政府が今必要であると頻繁に強調している。政府の過半数は316票。たとえFDPとBSWが議会に進出できず、黒赤連合が連邦議会で329議席を獲得したとしても、それは信頼できる多数派とは言い難いだろう。おそらく、このようなやり方では安定した統治は不可能だろう。

したがって、AfDが連立パートナーとして加わらない限り、多党制の傾向は 3 党体制へと進み続けることになる。ただし、これは他のすべてからは除外される。 AfDは選挙での成功により、3党連合を推進することになる。

3) 信号機連合の失敗の影響を受けるのは3党のうち2党のみ
SPDやFDPと比較すると、連邦選挙での票の損失に関しては、緑の党は軽い処遇だ。首相の政党は、選挙結果だけでなく、候補者の支持率や能力評価においても歴史的な低水準に陥っている。特に、彼女にとって最も重要な中核問題、つまり社会正義と「年金」に関しては、有権者は彼女の能力を著しく低く評価している。

現在、AfDはもはや労働者政党を名乗ることはできない。ARDの選挙専門家イェルク・シェーネンボルン氏によると、 労働者層ではSPDよりもAfDに投票した人の方が多かったという。

FDPは、その最も重要な能力分野である金融と経済において大きな損失を被った。一つ明らかなことは、政党はもはや現状に満足することはできず、絶えず新たな能力を開発しなければならないということだ。

4) 政党は今後、候補者の要素をより一層考慮するべきである
政党が増加し、有権者の伝統的な政党支持が着実に減少するにつれて、候補者の要素がより重要になる。 30%を大きく上回る支持率という連合の夢は、有権者の3人に1人しか首相候補が首相になれる能力があると信じていなかったため、実現しなかったようだ。

彼の支持率は現職の財務大臣で選挙に敗れたショルツ氏よりも低かった。そして今度は、2021年以降の財務大臣としての職務にふさわしいかどうかという質問に対する自身の評価が半減した。

候補者の比率が高ければ状況は変わる可能性があるという事実は、SPDとCDUが連邦州で選挙に成功したことからも明らかである。例えば、ノルトライン=ヴェストファーレン州のCDU政治家ヘンドリック・ヴュストや、SPDが単独で政権の過半数を獲得したザールラント州のアンケ・レーリンガーなどである。

連邦選挙では、候補者要因が左翼党のトップ候補であるハイジ・ライヒネック氏を助けた。彼女は特に若い有権者の間で支持を獲得することができ、彼女の政党は最終段階で5%のハードルをクリアすることができた。

5) 死んだと言われている人も、時には自分自身を再発明することができる
選挙当夜の予想外の成功は、間違いなく左翼党によって達成された。

党の主要人物であるザーラ・ヴァーゲンクネヒトを中心としたグループが左翼党から分離してBSW党を再結成した後、元の党は政党政治の涅槃の中に消えたかに見えた。

5%のハードルは彼らを議会から追い出す恐れがあったため、彼らは当初、基本的信任条項を通じて連邦議会に安全に入るために、3人の著名な高齢候補者による「ミッション・シルバーロック」で3つの直接信任を獲得することを望んでいた。

結局、この選挙で同党はいくつかの幸運な状況の恩恵を受けた。トップ候補のハイディ・ライヒネック氏はソーシャルメディアでの長年の活動を通じて若者層に訴えることができ、フリードリヒ・メルツ氏が移民政策を推進するために1月に連邦議会でAfDの票を受け入れて以来、同党への反対は好評を博した。

さらに、連合との連立政権に投票したくない赤緑陣営の戦略的有権者も彼らに移った。しかし、SPDと緑の党はこれを否定しなかった。左翼党の予想外の成功は、死んだと言われている人々でさえも立ち直ることができるということを改めて明らかにした。政党システムにはかつてないほど大きな動きがある。これは有権者がより自発的に考え、決定を下すようになったことも一因だ。
記事によると、今回の選挙で対等であった社会民主党(SPD)とキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)の力関係が変わり、キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)の力が大幅に強化されたこと。議会の多数派は極めて少なくなり、政権が不安定化することから、3党連立政政権を促進することになるだろうとしています。

総選挙直前の2月17日夜に行われた有権者との質疑応答で社会民主党(SPD)のショルツ氏とキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)のメルツ氏が顔を合わせました。

公共放送ARDの司会者が世論調査ではキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)の楽勝が予想されているが、選挙後に同じ内閣に属することを想像できるかと質問したところ、メルツ氏は「われわれ2人ともその可能性は低いとみている」と答え、ショルツ氏も「私も同じように考えている……私は首相にとどまりたいし、彼は首相になりたい。決めるのは有権者だ」と語っています。

選挙結果が出た今もこの通りだとすると、キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)は社会民主党(SPD)以外で連立相手を探さなくてはならなくなります。

ドイツ政府の次の信号機は何色になるのか。要注目です。



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