イーロン・マスクは死者を見る

今日はこの話題です。
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1.先週何した?


2月22日、アメリカ政府のコスト削減に取り組む「政府効率化省」を率いるイーロン・マスク氏が、政府全職員に先週の仕事の成果を尋ねるメールを送信したことが話題になっています。

これは、この日の夕方、「先週に何をしましたか?」の件名で、ホワイトハウスの人事管理局から一斉配信され、24日深夜までに、過去1週間の成果を機密情報を漏らない形で五つほど説明するよう求めました。

マスク氏はXへの投稿で、個々の政府職員が「先週何をしたのか理解するためのメールをまもなく受け取る」と事前に予告し、「返答がなければ辞職とみなす」と通知しました。

連邦政府の人事管理局(OPM)は、このメッセージが本物だと認め、翌23日、マスク氏は「これが重要である理由は、相当数の人々が仕事をほとんどせず、メールを全くチェックしていないからだ!」とXに投稿。政府で働く人々の「あからさまな詐欺」を見抜くためだと説明しています。


2.慌てる各省庁


これに対し、連邦捜査局(FBI)のカシュ・パテル長官は職員に対し、「FBI職員は、OPMから情報提供を求める電子メールを受け取ったかもしれない……FBIは、すべての(人事)審査プロセスを長官室を通じて仕切っている。FBIは、FBIの手順に従って審査を実施する」と返信を控えるよう指示。

国務省のティボール・ナジ管理担当次官代理は、「省内の指揮系統を外れて、自分の行動を外部に報告する義務は、職員には一切ない」と説明しています。

また、国防総省も職員に対し、「必要な場合、国防総省はOPMから受け取った電子メールへの返答を調整する」と伝え、国土安全保障省と連邦緊急事態管理庁(FEMA)も、職員に同様の指示を出したようです。

一方、司法省はOPMからのメッセージが「正当なもの」で、「従業員は要求された通り、指示に従うつもりでいるべきだ」とのメールを送り、「回答には、機密情報や機密扱いの情報を含めないこと。回答の内容について質問がある場合は、上司に連絡すること……追加の指示や情報が届いた場合は、必要に応じて全従業員に通知する」といった 警告も添えています。

報道によると、運輸省、シークレットサービス(大統領警護隊)、国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁などは、職員に指示の順守を促し、国家安全保障局(NSA)、内国歳入庁(IRS)、海洋大気庁(NOAA)などは、今後の指示を待つよう職員に呼びかけています。

今回のマスク氏からのメールについて、連邦政府職員の最大労組、連邦政府職員連盟(AFGE)は、このメッセージを「残酷かつ無礼」だと批判し、提訴すると警告。

下院行政監視政府改革委員会のジェリー・コノリー民主党筆頭委員は、「週末に送られた浅はかな電子メールに連邦政府職員が反応しなくても、辞職に当たらない……この脅しは違法かつ無謀だ。マスク氏は、国民の政府とその献身的な公務員に、残酷かつ恣意(しい)的な形で混乱をもたらし続けており、今回の件はその最新の一例だ」とマスク氏の指令を厳しく批判する書簡を、OPMに送っています。

一方、 共和党議員の大半は、マスク氏とその幅広い取り組みを擁護しています。

マイク・ローラー下院議員は23日、ABCニュースに対し、マスク氏の取り組みは「連邦政府のあらゆる省庁や機関に対する包括的かつ精密な監査」だと語っていますけれども、ジョン・カーティス上院議員はDOGEの最終目標を支持すると述べながらも、「イーロン・マスク氏に一言言えるなら、こう言いたい。どうかわずかにでも、思いやりをもって取り組んでもらいたい。相手は生身の人間だ」とマスク氏のやり方を批判しています。


3.イーロン・マスクは死者を見る


2月24日、CNNは、このマスク氏の指示について「イーロン・マスクは死者を見る」という記事を掲載しています。

件の記事を引用すると次の通りです。

ドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスクの話を 聞くと、死者は選挙を盗む。彼らは不正に社会保障小切手を受け取る。そして今や、どうやら死者も政府のために働いているようだ。

マスク氏は、人事管理局からの週末の無署名の電子メールで、何百万人もの連邦職員が先週の業績を箇条書きで5項目挙げて自分たちの存在を正当化するよう求められた理由を説明するために、いつもの悪役を復活させた。

マスク氏はXへの投稿で、この要請を「ごく基本的な脈拍チェック」と表現し、社会保障や外国援助の場合と同様に、米国民が詐欺に遭っているとも別途主張した。

「これが問題なのは、政府のために働いているはずの相当数の人々が、ほとんど仕事をしておらず、メールをまったくチェックしていないからだ! 場合によっては、実在しない人物や死者の身元が給料の受け取りに利用されていると我々は考えている。言い換えれば、これは完全な詐欺行為だ」とマスク氏はXに書いた。

トランプ大統領は、政府のために働いている死人がいるというマスク氏の考えには同調しなかったが、連邦政府職員に先週何をしていたかを尋ねるという取り組みを支持した。

「もし人々が反応しないなら、そのような人物は存在しないか、働いていない可能性が高い」とトランプ大統領は月曜日、ホワイトハウスでフランスのエマニュエル・マクロン大統領とともに出席した際述べた。

しかし、その論理を複雑にしているのは、国防総省やFBIのような大規模雇用主を含む複数の連邦機関が、職員にその要求を無視するように指示した という事実だ。

マスク氏は詐欺の証拠があるとしても、それを公開せず、死者が報酬を受け取ると信じた理由についても説明しなかった。私たちはOMB、ホワイトハウス、財務省にマスク氏の主張の裏付けとなる証拠を求めたが、まだ何も受け取っていない。死者が小切手を受け取るという考えにマスク氏が再び言及したのは、ここ数週間で2度目だ。

マスク氏が最近示唆した、信じられないほどの数の100歳以上の高齢者(数千万人)が社会保障給付を受けているという話と同じようなことであれば、マスク氏が単にデータを読み間違えているだけという可能性もある。

先週、マスク氏は、100歳以上の何百万人もの人々が社会保障データベースに含まれていることを示すデータを共有した。トランプ氏はその後、マスク氏のリストを読み上げ、同じ主張を繰り返した。両氏は、これらの社会保障番号が社会保障給付金を受け取っているという印象を与えた。しかし、精査してもそれは当てはまらなかった。

何千万人もの高齢者や障害者のアメリカ人に給付金を支払う政府の退職保険制度である社会保障制度において、詐欺行為が記録されている。

しかし、マスク氏が示唆したような規模の不正行為の証拠はほとんどない。社会保障は実際には100歳以上の9万人未満にしか小切手を支払っていない。これは米国の100歳以上の人口と一致している。

しかし、マスク氏は事実にはあまり関心がないようだ。米国民に対し、納税者の​​お金が大規模に無駄遣いされており、政府は大幅に縮小する必要があると説得しようとしたのだ。

不正行為の名の下に死者が利用されるという話は、身近に感じられるはずだ。トランプ氏は長年、郵便投票が不正投票を可能にし、死者や不法滞在者による投票が2020年の選挙で敗北を招いたと主張してきた。

こうした不正投票の例はいくつかあるが、トランプ陣営が2020年にジョージア州、ミシガン州などで主張したように、死者の名前で投票が行われるという問題が広まっているという証拠はない。州や地方当局は、その主張をほぼ否定した。

なんとトランプ大統領は、マスク氏のメールに反応しない人は「既に死んでいる」可能性があるというのですね。




4.アメリカ建国前に生まれた人


2月18日、トランプ大統領は、記者団に対し、アメリカの年金制度などにあたる社会保障制度に150歳や200歳以上の人が登録されていて、中には「360歳が1人いる」とも指摘し、批判しました。

事の発端は、2月11日、イーロン・マスク氏がトランプ大統領とともにホワイトハウスの大統領執務室で記者団の取材に応じた際、DOGEが社会保障システムをざっと検証した結果、「150歳の人たちが登録されていた」と述べたことです。

マスク氏が証拠として投稿した年齢別受給者のスクリーンショットを見ると、退職年金の受給資格を得る60〜69歳のアメリカ人が約4600万人いるほか、100歳以上の人の数も1000万人を超え、360〜369歳に記載された人物も1人いるとなっています。

ピューリサーチセンターによると、アメリカに住む100歳を超える人の数は約10万人で、114歳を超える年齢の人はいないとのことですから、マスク氏提示のデータが正しいならば、死者がその中に含まれていることになります。

更に、マスク氏は2月11日に、「連邦政府の社会保障給付制度(老齢年金、高齢者医療、低所得者向け医療補助、福祉手当、障害者手当)の詐欺的行為による損害額は、これまでに聞いたことがある民間部門での詐欺の被害総額をはるかに上回ることは100%確かだ」と社会保障給付に関わるほかの政府機関の「詐欺的行為」を指摘しています。

この年金不正受給と同じような給与不正受給が行われているのではないかとマスク氏は主張している訳です。


5.もっと攻撃的にやれ


ただ、どうも、今回のマスク氏の行動の裏には、トランプ大統領の指示があったとも言われています。

実際、マスク氏のメール送信に先立ち、トランプ大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿で「イーロンはすばらしい仕事をしているが、もっと攻撃的になるのを見たい」と投稿し、マスク氏は「大統領の指示に沿って、連邦政府の職員は過去1週間にやったことを理解するよう求めるメールを受信する」と通告しています。

もっとも、マスク氏自身「攻撃的」なリストラを行った過去があります。旧ツイッター社です。

マスク氏は2022年10月にツイッター社を買収し、社員を7800人から3000人に減らしています。

元Twitterジャパン社長の笹本裕氏はその様子を次のように語っています。

最初の5週間は「リストラの5週間」でした。

当時のCFOやCEOも初日や2日目にいなくなりました。

Slackには全社員がメンバーとして入っています。すると、Slackに表示されるメンバー数が「あれっ? 7800人くらいだったのが3000人に減っちゃったぞ」となったり、「あ、今週は100人減った」「また100人減った」となったりするのです。

「え、いまは何人だっけ?」「いま、どうやら3000人を切ったぞ」みたいなことの繰り返し。毎日、毎週のようにSlackの人数が減っていくのを見てきました。

ちなみに2023年の1月に、Slackを全部リフレッシュしました。スレッドがあまりにもたくさんあって、みんなが自由に会社への批判なんかを書き込んでいたからです。イーロンが「一度全部きれいにする」と言って立て直しをしました。

おそらくイーロンには「人員をこれくらい減らしたい」という目安があったのだと思います。

一度大きなリストラをやったのですが、その数字に満たなかった。そこで、自主退職を促していきました。

その促し方もシンプルなものでした。メールでフォームが送られてくるのです。そこには「24時間以内にこのGoogleフォームで『残る(Commit)』を選択してくれ」と書いてあります。フォームに飛ぶと「残る」というボタンがあって「これを押してくれ」というわけです。そして「24時間で締め切るからね」と言います。

これはこれで、すごい決断の求め方だなと思いました。「残るやつはそれを押しなさい」と。

「24時間経って押していなかったら、あなたは自主退職すると申告したことになるからね」という内容なわけです。社内では「どうするの? 押す? 押さない?」みたいな会話が飛び交っていました。

まるで韓国のドラマ『イカゲーム』のようでした。タイムリミットがあるわけです。

「休みを取ってる人はどうするの?」という問題もありましたが、イーロンは「そんなの関係ない。とりあえずやる」と言って進めてしまいました(休みを取っていてメールも見ていなかった人は、いちおう調整があったようです)。

こういうやり方も「棚卸し」ではない。「2週間くらい猶予を与えて、休んでいる人には連絡しておいて」みたいなステップはないのです。これ以降、同じようなことをやるときには、どこかのビーチでくつろいでいる人にもホテルまで電話して「メールを見ておけ」と伝えるルールになりましたが……。

やり方は本当にベンチャー企業なのです。もし人事や法務のきちっとした部署があったら絶対に止めていたはずです。強引に全部やっていく。イーロンのやり方は、ここにも出ていました。

【以下略】
なんとも凄まじいリストラです。当時、ツイッター社は、社内の伝達系統が破壊され、大混乱に陥ったそうです。

また、当時は様々な未払いもあったそうです。

これについて、笹本氏は次のように述べています。
「支払いを止める」と決断したのはイーロンです。

「さすがにこれはダメですよ」というものはフィードバックをして「じゃ、それは対応しよう」ということになるのですが、それでもなかなか振り込まれない。よくよく調べてみたら「振り込む予定だった人が辞めちゃっていた」といったこともありました。

「未払い」などというのは、ビジネス活動においては「破壊」です。企業の信頼が一瞬にして吹き飛んでしまう。

それでもその選択をしたのは「支払いが正しいかどうかを精査するため」でした。精査をして正しいものは払っていく。継続しなくていいものは継続しない。または今まで過分に投資していたものは、縮小したり、なくしたりしていく。「正しい取引であるのかどうかを検証できるまでは支払わない」というのが方針でした。このやり方はかなり極端だし、迷惑をおかけすることになりました。
マスク氏が、USAIDの職員を解雇したり休職にしたりしているのも、これとほぼ同じやり方に見えます。

まずは、ばさっと切って一旦、リセットする。そして必要なものは後から調達すればよいとするやり方です。

おそらく、アメリカ政府も同様な大混乱が起こるだろうと思いますけれども、そのあとに何が残り、どのように効率化されたのか。そこが一番のポイントであり、DOGEが成功したのか失敗したのか、その分水嶺になるのではないかと思いますね。



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