ゼレンスキー退陣がほぼ不可能な理由

今日はこの話題です。
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1.ウクライナ軍事支援 一時停止


3月3日、アメリカのホワイトハウス当局者は、トランプ大統領はウクライナへの全ての軍事支援を一時停止したと明らかにしました。

トランプ政権当局者は「恒久的な支援打ち切りではなく、一時停止だ……トランプ大統領は平和に注力していることは明らかだ。パートナーもその目標に尽力する必要がある。支援が問題解決に寄与しているかどうか確認するため、援助の一時停止と評価を行っている」と述べていて、現在輸送中の武器などを含め、ウクライナに向かう全ての米軍装備品の提供が停止されるとのことです。

ブルームバーグによると、トランプ大統領はヘグセス国防長官に一時停止を命じたとのことです。

アメリカの武器支援は、議会承認が不要な大統領在庫引き出し権限(PDA)のほか、防衛産業から軍事装備を調達するウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)で行われてきました。

アメリカは大統領在庫引き出し権限(PDA)を通じて総額317億ドル相当の武器援助を約束しているのですけれども、ロイターは、そのうちの200億ドルを超える大部分はすでに出荷されているとしています。

今回発表された支援一時停止は、これまでに承認されているものの、まだ支出されていない援助に主に適用されることになるようです。

また、既に供与済みの兵器システム用の弾薬を今後供給することが可能かどうかや、アメリカが標的の特定やミサイル発射に関する情報を引き続きウクライナと共有するかどうかについては、現時点では不明です。

ただ、ロイター通信によると、ウクライナへと運ばれていた軍事品は、4日未明に途中で止まったそうですから、強力なストップが掛かったものと思われます。

一方、鉱物資源の権益を巡る協定については、まだウクライナと合意する可能性が残されているようで、バンス副大統領はFOXニュースのインタビューで、「本当の安全の保証を望み、プーチンが二度とウクライナを侵略することがないようにしたいのであれば、ウクライナの将来における経済的利益をアメリカ人に与えることが最善の安全の保証になる」とゼレンスキー大統領に鉱物資源協定を受け入れるよう呼びかけています。

今回の軍事支援一時停止について、明海大学の小谷哲男教授は「先週の首脳会談が決裂して、その後もゼレンスキー大統領が(停戦)交渉に後ろ向きであるので圧力をかけて、ゼレンスキー大統領の考えを変えるということで、武器支援の一時停止に踏み切った。このまま武器支援が停止してしまうとウクライナが戦えなくなると考えれば、どこかの段階で謝罪し、アメリカと一緒にロシアとの停戦協議を始める可能性が高い」と予測しています。


2.今こそ事態を正すべき時だ


この事態にウクライナは早速反応しています。

3月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNSで「当初の想定のようにはならなかった。こうなったことは遺憾だが、今こそ事態を正すべき時だ。今後の協力やコミュニケーションは建設的なものにしていきたい……トランプ大統領の強力な指導力の下で、永続的な平和を実現するために協力する用意がある」と投稿し、ウクライナ国内の鉱物資源の権益をめぐるアメリカとの協議に関して「ウクライナはいつでも、どんな形式であっても署名する用意がある」と合意文書に署名したいとコメント。

そして「ウクライナの主権と独立の維持のために米国が実施してきた多大な支援を心からありがたく思っている……誰も終わりのない戦争を望んでいない。ウクライナには恒久的な平和の実現に向け、可能な限り早期に交渉の席に着く用意がある。ウクライナ国民以上に平和を望んでいる者はいない」と訴えました。

会談であれだけ強気に振舞ってみせてこれです。ゼレンスキー大統領の事態を正すべき時だという発言は、いまは間違ったところにいると認識しているということです。けれども、そうしたのはひとえにゼレンスキー大統領の会談での態度によるものです。それの謝罪なくして、事態が正されることはないのではないかと思います。

また、反応しているのはゼレンスキー大統領だけではありません。ウクライナの野党「欧州連帯」に所属するオレクシー・ゴンチャレンコ議員は「大惨事だ……アメリカは我々にとって最大の軍事支援国であり、数千人が死ぬかもしれない……できることを全てしなければならない」と強調。ゼレンスキー大統領はウクライナ国民に責任を負っているとし、「これはプライドの問題ではなく、我々は幼稚園にいるわけでもない。謝罪が問題なら、ゼレンスキー氏が謝罪をするべきだ……アメリカ抜きでは、我々はとても、とても、とても悪い状況に陥る。残念ながら、『声明』でロシアの戦車やミサイルを破壊することはできない」と危機感を露わにしています。


3.批判的なニュアンスの戦争研究所


このトランプ大統領によるウクライナ支援停止をロシアは歓迎しています。

3月4日、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、詳細を確認していないとした上で、「事実であれば、ウクライナを和平プロセスに向かわせる動きだ……平和への最大の貢献になる」と評価しています。

一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は3月3日「ロシアはゼレンスキー・トランプ会談後、慎重ながらも楽観的」とのレポートしています。

件のレポートのサマリは次の通りです。

重要なポイント:
クレムリンは、ウクライナにおける米国の和平努力が、ウクライナの主権を破壊するというロシアの目的と一致していると誤って伝えている。
ロシアの国営メディアと当局者は、トランプ政権に公式の変更がないにもかかわらず、米国の政策がロシアの目標を支持する方向に転換していると示唆する誤った情報を伝えている。
ロシア当局者の中には、米国がウクライナへの軍事援助を間もなく削減し、それがロシアの勝利につながるだろうと楽観的な見方を示す者もいる。
ロシア当局は、ウクライナ和平にはロシアの勝利が必要だと虚偽の主張をしており、自国の聴衆に対して米国の政策を誤って伝えている。
クレムリンはゼレンスキー氏とトランプ大統領の会談を、ロシアの主権を守るための戦争だと偽って宣伝し、国内の戦争支持を集めるために利用している。
ロシア当局は、米国がゼレンスキー大統領を解任するだろうという根拠のない主張を広め、欧州の安全保障を損なう米国の政策転換を示唆している。

このように相当批判的なニュアンスで伝えています。
更に、同じ3日、戦争研究所はロシアの攻撃状況についてもレポートしていて、そのサマリは次の通りです。
重要なポイント:
ウクライナ軍の情報機関は、約62万人のロシア軍兵士がウクライナとクルスク州で活動しており、2024年末と比べて約4万人増加していると示唆した。
ロシア当局は2024年と2025年1月に採用枠を超えたと報じられているが、これはおそらく、新入社員に対する金銭的インセンティブの増加と、中長期的には持続不可能な刑務所での採用活動が一因となっていると思われる。
ロシア軍は攻撃パッケージの革新を続けており、シャヘドやデコイドローンの数を増やしてウクライナの防空網を突破しようとしている。
ロシアのミサイル生産は大幅に増加していないと伝えられているが、ロシア軍はウクライナの防空軍に対してより効果的なミサイルやドローンの派生型の生産を優先しているようだ。
ウクライナ軍は最近ポクロフスク近郊に進軍し、ロシア軍は最近ヴェリカ・ノヴォシルカ近郊とクルスク州に進軍した。
クレムリンは、ロシア政府と社会の軍事化に向けた取り組みの一環として、「英雄の時代」退役軍人プログラムの推進を続けている。
依然として、戦闘自体は継続しているようです。


4.ゼレンスキー退陣がほぼ不可能な理由


戦争研究所は前述のレポートで「ロシア当局は、米国がゼレンスキー大統領を解任するだろうという根拠のない主張を広め」と述べていますけれども、その詳細のレポートを引用すると次の通りです。

ロシア当局者らはまた、米国政府がゼレンスキー大統領を強制的に解任するとの根拠のない示唆も行い、ウクライナ政府の首を斬るというクレムリンの長年の目標を支持した。 ロシア下院議員アレクセイ・チェパは2月28日、米国が「何らかの方法で(ゼレンスキー大統領を)解任する」と示唆した。

クリミア占領当局者ミハイル・シェレメトは3月1日、トランプ大統領はゼレンスキー大統領を和平合意に達する能力のある「正当な」大統領とは見なしていないと主張し、ゼレンスキー大統領の信用を失墜させようとするクレムリンの長年の努力を強めた。

シェレメトは、2月28日の会談がゼレンスキー大統領とトランプ大統領の「最後の会談」になったとしても「驚かない」と述べた。ロシア当局者らはまた、ゼレンスキー大統領は個人的および健康上の理由でウクライナを率いるのに不適格であるという根拠のない主張を強めており、これらの物語は和平交渉におけるウクライナの立場を信用を失墜させることを狙っている可能性が高い。

ロシア当局は、米国当局がゼレンスキーに関する「警告」を受け入れたと主張した。

2月18日、トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領について「支持率が落ちている」として、ウクライナで大統領選挙を行うべきだとの考えを示していますけれども、同じく18日、FOXニュースはアメリカが停戦交渉を巡り、〈1〉停戦〈2〉ウクライナでの大統領選挙〈3〉最終的な協定の締結――という3段階の和平案を検討していると報じています。

このように進めばよいのですけれども、3月3日、CNNは「トランプ政権の関係者はゼレンスキー氏が退陣すべきだと示唆している。それがほぼ不可能な理由はここにある」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。

トランプ政権の閣僚らは数日前から、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が退陣する必要があるかもしれないと示唆している。しかし、ウクライナの当局者やアナリストらはCNNに対し、キエフで大統領が交代すれば少なくとも6カ月間の政治的宙ぶらりん状態が引き起こされ、国際基準に合致する選挙を実施する前に戦争の永続的な停戦が必要になると語った。

当局者らによると、新たな選挙を実施するには3つの大きなハードルがある。ウクライナの投票所は現在4分の3しか稼働しておらず、選挙を「国際基準」に合わせる準備には6カ月かかるだろうと、ウクライナ選挙管理委員会のセルヒー・ドゥボビク副委員長は述べた。

ウクライナ憲法では、大統領が辞任した場合、選挙が完了するまで国会議長が大統領職を引き継ぐことも定められている。

最後に、ウクライナは現在戒厳令下にあり、それが解除されるまで選挙は禁止されているため、持続的な停戦または平和が必要となる。

ドナルド・トランプ 米大統領の側近らが日曜日、ゼレンスキー氏はもはやウクライナが必要とする指導者ではないかもしれないと示唆して以来、ゼレンスキー氏の将来への注目が高まっている。月曜日、トランプ大統領は、戦争の終結は「非常に遠い」とゼレンスキー氏が語ったとの報道に対し、米国はそのような話を「長くは我慢できない」と示唆した。一方、ハワード・ラトニック米商務長官は、トランプ大統領はウクライナ大統領の解任には関心がないと述べた。

ゼレンスキー大統領自身は日曜日にロンドンで記者団に対し辞任の考えを否定したように見え、大統領を権力の座から引きずり下ろす方法が謎に包まれている。

「選挙を実施するだけでは十分ではない」と彼は述べた。「私が選挙に参加するのを阻止しなければならないだろう…私と交渉しなければならないだろう」と彼は言い、以前もそう言ったように、もしウクライナがNATOに加盟したら辞任するだろうと示唆した。これはトランプ政権が繰り返し否定してきたことだ。彼は少し反抗的に、NATOがウクライナに加盟すれば「私の使命を果たした」ことになると冗談を言った。

ドゥボビク氏は、選挙を迅速に実施するための実際的な課題は多岐にわたると述べた。「まず、戒厳令の解除という法的側面が実現されなければならない」と同氏は述べた。

「第二に、準備プロセスが必要だ。なぜなら、国は戦争状態にあり、組織的なダメージを受けているうえ、占領地を含め、投票所の75%しか選挙の準備ができていないからだ。」

同氏は「(ウクライナ議会の)最高会議の全会派の代表が確認した6か月の準備期間は妥当な期間だ」と述べた。

同氏は「加速化は可能だが、その場合、すべての国際基準への準拠を完全に保証することは不可能だ」と付け加えた。

ドゥボヴィク氏と他のウクライナ当局者数名は、海外で難民として暮らす約700万人のウクライナ人に投票の機会を与えることの物流上の課題と、軍に所属する推定100万人のウクライナ人に投票と立候補の機会を与えなければならないという潜在的な最前線の危機について言及した。

クレムリンはゼレンスキー大統領の非合法性を執拗に主張し、戦時中の同大統領の権限を不当に疑問視しており、この論点は先月のホワイトハウスの声明にも持ち込まれた。

選挙推進派はこう主張し、ロシアの選挙介入の歴史(2004年のオレンジ革命で大規模な親欧米派の抗議運動を引き起こしたなど)を考えると、投票が国際基準を満たすようにすることがますます重要になるだけだ。

「移動と言論のあらゆる自由を再び保障し、競争的な選挙プロセスを実施する必要がある」と選挙改革団体オポラ市民ネットワークのオルハ・アイヴァゾフスカ氏は語った。

彼女は、戦時中の選挙は「憲法違反となるため不可能だ。戦争によって今あるものすべてを変えなければならない。これはウクライナ国家の評判と正当性に関わる問題だ。正当性がなければこの国家は存続できない。ロシアが我々の評判を破壊し、我々は破綻国家となるからだ」と語った。
このようにウクライナで大統領選挙を行うためには「戒厳令の解除」「75%しか稼働していない投票所の準備と6ヶ月の準備期間」「ゼレンスキー大統領の再出馬阻止」という3つのハードルがあるというのですね。

筆者は、アメリカがいうように、ゼレンスキー大統領が本当に国民の支持を失っているのなら、再出馬しても落選するだけなのだから、再出馬させてもよいのではないかとも思いますけれども、アメリカにとっては、戦争したがるゼレンスキー大統領はもう交渉相手としては見ていないのかもしれません。

いずれにせよ、このままアメリカが支援停止しづつければ、ウクライナは戦争を続けることはできなくなります。遠からずゼレンスキー大統領は謝罪して交渉の場に出て来ざるえないと思いますけれども、そのとき、トランプ大統領が、ゼレンスキー大統領をディール相手と見做してくれているのか。第三次世界大戦に向かわないことを祈ります。



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