

1.ゼレンスキー大統領から重要な手紙を受け取りました
アメリカのトランプ大統領は、3月4日に行って施政方針演説でウクライナのゼレンスキー大統領から手紙を受け取ったと明らかにしました。
演説から該当箇所を引用すると次の通りです。
バイデンは、この戦いにヨーロッパが費やした何十億ドルもの資金を承認しました。彼らがそれを止めず、どこかの時点で「さあ、平等にしましょう。私たちと対等にならなければなりません」と言ったとは信じがたいことですが、それは起こりませんでした。トランプ大統領の手紙を受け取った発言について、ウクライナの駐米大使は、フェイスブックに「トランプ大統領はゼレンスキー大統領の投稿を読み上げた」とコメントし、ゼレンスキー大統領の報道官は「手紙は1通も送っていない。トランプ大統領が話していたのはSNSへの投稿だ」とメディアに話しています。
今日、私はウクライナのゼレンスキー大統領から重要な手紙を受け取りました。手紙には、「ウクライナは永続的な平和に近づくためにできるだけ早く交渉のテーブルに着く準備ができています。ウクライナ人ほど平和を望んでいる人はいません。」と書かれています。
彼は、「私のチームと私は、トランプ大統領の強力なリーダーシップの下で永続的な平和を得るために取り組む準備ができています。私たちは、ウクライナの主権と独立を維持するためにアメリカが行ったことの価値を本当に高く評価しています。鉱物と安全保障に関する合意に関しては、ウクライナはあなたの都合の良いときにいつでも署名する準備ができています。」と述べました。
彼がこの手紙を送ってくれたことに感謝します。少し前に受け取りました。
同時に、我々はロシアと真剣な話し合いを重ね、彼らが和平の用意ができているという強いシグナルを受け取っています。それは素晴らしいことではないでしょうか。それは素晴らしいことではないでしょうか。それは素晴らしいことではないでしょうか。この狂気を止める時が来ました。殺戮を止める時が来ました。無意味な戦争を終わらせる時が来ました。戦争を終わらせたいのであれば、双方と話をしなければなりません。
けれども、SNSだろうが手紙だろうが、中身が同じであれば媒体がどうだというのは些末なことです。
2.ヨーロッパの安全保障のためにウクライナを支えないといけない
3月5日、ゼレンスキー大統領はビデオメッセージで「私たちは6日に行われるEUのサミットに向けて準備をしている。外交の動きが急速に進んでいることを見てもらえると思う。きょう、ウクライナとアメリカのチームが会談に向けて動き始めた」とアメリカとの外交交渉が進んでいることを明らかにしました。
また、この日、ウクライナのイェルマーク大統領府長官、アメリカのウォルツ大統領補佐官が協議をし、ウォルツ大統領補佐官は「ここに来る前にウクライナの安全保障担当と電話をしたばかりだ。次回の交渉に関して、良い話し合いができている。ゼレンスキー大統領が公の声明を出してから24時間以内、非常に短期間で動きが見られるだろう」とコメントしています。
この動きについて、慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は「ウクライナが一番不利な形で停戦をのまされる形になると、ヨーロッパの安全保障に非常に深刻な影響が及ぶ。ヨーロッパの安全保障のために、ウクライナを支えないといけない……おそらくトランプ政権へのアプローチとして、トランプ大統領を説得するというのは非常によろしくないということが、ゼレンスキー大統領との会談でよく分かったと思う。英仏にとっては戦争を終わらせ、停戦を安定的に維持するためには、やはりアメリカの関与が必要。停戦を安定的に維持することがアメリカの利益だと、この点を強調することになると思う」と分析しています。
3. 一丁噛みしたい英仏
トランプ政権が進めているウクライナの停戦和平については、イギリスとフランスが「いっちょかみ」しようと動いています。
3月2日、イギリスのスターマー首相は、欧州各国がウクライナと協力して戦争を終わらせ、ロシアから守っていくための、4項目の計画を発表していますけれども、スターマー首相は、「私たちは、アメリカとヨーロッパ、ウクライナが持続的な平和に向けて協力できるよう全力を尽くす必要がある」と意欲を見せています。
そして、同じく3月2日、フランスのマクロン大統領は仏紙フィガロのインタビューで、英国と進めているウクライナでの停戦案について、「空域と海域、エネルギー施設」を対象とする1カ月の休戦を計画していることを明らかにしました。地上での戦闘は対象とせず、和平に合意した段階で欧州が平和維持部隊を派遣する考えも述べています。ただし、欧州地上部隊をウクライナに派遣するのは第2段階になるとし、「今後数週間内に欧州部隊がウクライナに駐留することはない……問題はいかにこの時間を使って停戦を実現するかであり、交渉には数週間を要するだろう。和平合意が締結されれば、部隊派遣となる」と説明し、前線がパリからブダペストまでの距離に相当すると指摘し、前線での停戦順守状況を確認するのは非常に難しいと述べました。
更に5日、マクロン大統領は、ウクライナ情勢をめぐってテレビで演説を行い、ロシアの脅威がヨーロッパに差し迫っているとして、フランスが保有する核兵器による抑止力を、ヨーロッパにも広げることについて、検討を始める考えを明らかにしています。
この検討についてマクロン大統領は、2月会談した、ドイツの次の首相に就任する見込みとなっているメルツ氏からも要請があったとしながらも、核兵器の運用に関する最終的な決定権は、引き続きフランスの大統領のみが保有すると強調しています。
ストックホルム国際平和研究所の報告書によると、2024年1月の時点で、フランスが保有する核弾頭の数は290発とみられ、ロシア、アメリカ、中国に次いで4番目に多くなっています。
世界での核弾頭総数は推計で1万2121発。そのうちロシアとアメリカの2ヶ国だけで全体のおよそ9割を占め、イギリスも225発を保有しているとしています。
マクロン大統領は「アメリカが私たちの味方であり続けると信じたい。しかし、もしそうでなくなった場合にも備える必要がある」とも述べていますけれども、このマクロン大統領の核抑止力拡大発言は、アメリカがNATOから抜けることも視野にいれた発言のようにも聞こえてしまいます。
4.裏を糸を引いていた民主党
冒頭で述べたように、ゼレンスキー大統領はトランプ大統領との会談で決裂した後、すぐに手の平を返して交渉の用意があると態度を変えた。無論、トランプ大統領の支援一時中止など圧力があったにせよ、少し腰が定まってない印象を受けます。
今になってみれば、あの会談決裂は何だったのかとさえ思える程です。
そんな中、3月1日、ニューヨークポスト紙は、あの会談で、ゼレンスキー大統領が鉱物取引を拒否したのは、アメリカの民主党が裏で糸を引いていたのだという記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の金曜日の大統領執務室での惨憺たるパフォーマンスに対する一般的な批判は、彼が場の空気を読み損ねたということだ。なんと民主党の議員が、ゼレンスキー大統領に鉱物資源取引に署名しないよう助言したというのですね。この通りであれば、ウクライナ停戦を民主党が邪魔したことになります。
実際、ウクライナ大統領は部屋の状況を読み上げたが、それは間違った部屋だった。
クリス・マーフィー上院議員(コネチカット州民主党)によると、ゼレンスキー氏はトランプ大統領と会う前に反トランプ派の民主党員らと会談し、大統領が提案している鉱物資源取引の条件を拒否するよう助言されたという。
「ワシントンでゼレンスキー大統領との会談を終えた。大統領は、プーチン大統領が望むものをすべて手に入れ、ウクライナに安全保障上の取り決めがない偽りの和平協定をウクライナ国民は支持しないことを確認した」とマーフィー氏の事務所は金曜日午前11時15分にXに投稿した。
彼は、会議テーブルに座るゼレンスキー氏と反対側に座るマーフィー氏の写真を添付した。
40分後、ゼレンスキー氏はホワイトハウスに到着し、トランプ大統領は彼の車に出迎え、微笑んで握手を交わし、大統領執務室まで案内した。
今では世界が知っている通り、この会談はすぐに軌道から外れ、トランプ大統領が怒りに駆られてこの傲慢で恩知らずな人物をホワイトハウスから追い出すことで終わった。
民主党との以前の会談は、トランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領が奇襲攻撃を仕掛けたという荒唐無稽な主張を否定するものだ。実際、裏の目的を持って会談に来たのはゼレンスキー氏だった。
会談の目的は、彼とトランプの代理人が交渉した鉱物協定に署名することだった。彼は署名すると約束した後、2度拒否していたが、マーフィーのおかげで、彼が金曜日に署名する意図がなかったことがわかった。
ゼレンスキー大統領は現大統領と率直に交渉する代わりに民主党の露骨な党派的アドバイスに耳を傾けることで国民を裏切り、少なくとも今のところはアメリカだけが提供できる軍事的、外交的保護を国民に与えないままにしている。
英国、フランス、その他のヨーロッパ諸国がウクライナを救ってくれることを期待するのは無理だろう。ドイツはシュトゥルーデルを送ってくれるかもしれない。
奇妙なことに、マーフィー氏と他の民主党員は彼らが望んだ結果を得た。ホワイトハウスでの花火は、彼らにロシア、ロシア、ロシアのいたずらを繰り返す口実を与えた。
再び、彼らとそのメディアの手下たちは、トランプがウラジミール・プーチンの陣営にいると不誠実に主張している。
トランプ政権の第一期の大半を費やしたロシア捏造事件と同様、ロシア2.0は政治的な絶望から生まれた。トランプ政権の第二期の急速でポピュリスト的なスタートにどう対応したらよいか分からず数ヶ月が経った後、民主党の上下両院議員は、大統領がゼレンスキー大統領に白紙小切手を切ることを拒否し、軍事的保証を約束したことはプーチン大統領への贈り物に等しいと判断した。
この論理は説明できないほど歪んでいるが、嵐の中の港ならどこでもいい。そして、トランプ大統領が近代史上どの大統領よりも早いスタートを切ったことで、民主党は必死になって存在感を示そうとしている。
ゼレンスキー氏が彼らの新たな英雄であるということは、彼らの判断ミスの証だ。彼や彼らには、税金を無期限に投入し、場合によってはウクライナに軍隊を派遣することが賢明であると、資金難の米国民を説得できる見込みはゼロだ。
確かにトランプ支持者はそれに投票しなかったし、大統領自身もロシアと戦うために軍隊を派遣せず、戦争を早く終わらせることを公約に掲げていた。
彼は3年間、勝利の計画なしにウクライナに戦争を継続させるだけの支援だけを提供するというジョー・バイデン大統領の戦略を愚かな行為とみなしていると繰り返し明言してきた。また、双方の膨大な人命損失とウクライナの都市や町の破壊を止めたいという願望についても一貫して表明してきた。
大統領は2週間前にウクライナが戦争を始めたと示唆する愚かな発言をしたにもかかわらず、トランプ氏は本当に平和を望んでいると私は確信している。彼は軍事力を使うことを恐れてはいないが、戦争屋ではない。
そのために、彼とホワイトハウスは、停戦への第一歩と称する鉱物資源計画を考案した。
この計画は数回の草案を経て、最新の草案では、アメリカとウクライナが協力してこの東欧諸国の豊富な希土類鉱床を採掘し、その収益の大半をウクライナの復興に充てるというものだった。
ゼレンスキー大統領は個人的に条件に同意したが、ある程度までは安全保障協定を要求する権利は十分にある。しかし、彼は協定を結ばず、大統領と副大統領を侮辱し、彼らの発言を遮り、彼らの返答を無視するという彼の決断は狂気の沙汰だ。
トランプ氏が指摘したように、激しいやりとりはテレビ的には素晴らしいものだったが、それはウクライナにとっては大惨事であり、プーチン氏にとっては贈り物だった。
ゼレンスキー氏はその後、FOXのブレット・ベイヤー氏とのインタビューでトランプ大統領に謝罪する機会があったが、「私たちが何か悪いことをしたとは思わない」と繰り返し謝罪を拒否した。
彼の欠点のリストに無知が加わった。
残念なことに、彼を煽る聴衆がいる。ワシントンの民主党員以外にも、欧州連合のトップ外交官カヤ・カラス氏はソーシャルメディアに「自由世界には新しいリーダーが必要だ。この課題に取り組むのは私たち欧州人だ。私たちはウクライナを支持する」と投稿した。
確かに、ヨーロッパはウクライナを支持している ― そして、プーチンの軍事力によってウクライナが分割される間も、支持し続けるだろう。
マーフィー氏や他の民主党員も同様で、ゼレンスキー氏の驚くべき失敗を勝利であるかのように祝っている。上院少数党院内総務のチャック・シューマー氏(ニューヨーク州民主党)は「トランプ氏とヴァンス氏はプーチン氏の汚い仕事をしている」と書き、いつも嫌悪感を抱かせるアダム・シフ上院議員(カリフォルニア州民主党)はトランプ氏を「臆病者」と呼んだ。
毎日のようにトランプ大統領と喧嘩しているような、ニューヨーク州の気まぐれな知事、キャシー・ホクル氏は、「ウクライナは我々の同盟国だ。プーチン大統領は違う。問題は複雑ではない。この大統領は民主主義を支持しないかもしれないが、我々はそうする」と発言し、自分の意見を述べた。
ああ、お願いだ。ホークルは犯罪が蔓延するニューヨークの街の平和さえも保てない。
一方、ゼレンスキー氏が鉱物資源取引を拒否したことは、ウクライナにアメリカの利益やビジネスが存在しなくなることを意味し、トランプ大統領が繰り返し述べているように、ロシアの攻撃を抑止するのに役立つだろう。
さらにトランプ氏は、最終的な解決にはプーチン大統領が奪取した土地の一部を返還することが必要であり、フランス、英国などがウクライナに平和維持軍を駐留させる可能性が高いと述べた。
これらすべては、ゼレンスキーに前進するのに十分な自信を与えるか、少なくとも非公開で懸念を表明するのに十分な自信を与えるはずだった。しかし彼は、鉱物資源協定には米国の安全保障保証は含まれないと繰り返し言われていたにもかかわらず、報道陣の前での友好的な会談で、米国の安全保障保証なしにはいかなる合意も不十分だと不満を述べた。
プーチン大統領が信用できないという彼の意見は正しいが、トランプ氏の計画を拒否し、ヨーロッパと無能な民主党がトランプ氏からより良い取引を引き出すのを手伝ってくれると期待するのは愚かだ。
大統領はゼレンスキー氏に「あなたには要求を実行する能力がない」と3度注意したが、同氏はその助言と事実を無視した。
なんと悲劇的な間違いだろう。
これは、ロシア側からみると、ウクライナとその支援国は実に信用できない相手だと見えるのではないか。ちゃんと意見を統一して、ちゃんと話を纒めらえる相手を出してこいとプーチン大統領は思っているのではないかと思います。
3月6日、ロシア外務省のザハロワ報道官は、フランスが提案した海上と空域、エネルギー施設に対する1カ月の一時的な停戦案について「和解の基盤は確固たる合意のみだ」と述べ、ロシアは応じない考えを示し、件の停戦案はウクライナ軍の「息抜き」のためだとし、受け入れられないとも強調しています。
そして、ウクライナの安全保障のためヨーロッパ各国が検討しているウクライナ領内への各国の部隊配備についても、「ロシアは受け入れられない」と拒否する姿勢を示しています。ロシアも見抜いています。
更に、ロシア外務省はEUが開いた特別首脳会議について「ウクライナ危機とロシアとの対立に焦点を当てた会議の前夜、フランスのマクロン大統領は、今後の基本的な流れを作ろうとして、極めて攻撃的な反ロシア演説を行った……アメリカの『核の傘』に代わる独自の『核の傘』を提供することで、ヨーロッパ全体の『核の後援者』になろうというパリの野望が表面化したものだ……パリでは、いまだにわが国の重要な利益を考慮するつもりはなく、西側諸国が望む決定を強要することを目指していると、われわれは、あらためて確信している」との声明を出しています。
2023年1月のエントリー「ロシア軍の36時間停戦と罠だったミンスク合意」で取り上げましたけれども、ロシアはロシアでミンスク合意で騙されたという認識がありますからね。欧州の提案には警戒感を抱いている筈です。
トランプ大統領は、停戦について、まずはウクライナと欧州抜きでロシアと交渉する姿勢を示していますけれども、こうした背景をみると、結構正解なのではないかと思いますね。
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