一歩進んだウクライナ停戦

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2025-03-13-205202.jpg


1.ジッダでのアメリカとウクライナの会談に関する共同声明


3月11日、アメリカはウクライナとサウジアラビアのジッタで行われた高官協議で、ウクライナへの軍事支援と情報共有を直ちに再開することで合意しました。

アメリカからは、ルビオ国務長官とウォルツ大統領補佐官、ウクライナからは、イェルマーク大統領府長官やシビハ外相らが参加。協議は8時間に及んだようです。

両国が発表した共同声明は次の通りです。
ジッダでの米国とウクライナの会談に関する共同声明

本日、サウジアラビアのジッダにおいて、 ムハンマド ・ビン・サルマン皇太子の厚意により、 米国 とウクライナはウクライナの永続的な平和の回復に向けた重要な一歩を踏み出しました。

両国の代表は、ウクライナ国民が自国を守るために示した勇敢さを称賛し、今こそ永続的な平和に向けたプロセスを開始する時であるとの意見で一致した。

ウクライナ代表団は、平和に向けた有意義な進展を可能にしてくれたトランプ大統領、米国議会、米国民に対し、ウクライナ国民の強い感謝の意を改めて表明した。

ウクライナは、即時の暫定的な30日間の停戦を制定するという米国の提案を受け入れる用意があると表明した。この停戦は当事者間の合意により延長可能であり、ロシア連邦による受け入れと同時実施が条件となっている。

米国はロシアに対し、ロシアの相互主義が平和達成の鍵であると伝える。米国は直ちに情報共有の一時停止を解除し、ウクライナへの安全保障支援を再開する。

代表団はまた、特に前述の停戦期間中の捕虜交換、民間人被拘束者の解放、強制的に移送されたウクライナの子どもたちの帰還など、和平プロセスの一環としての人道的救援活動の重要性についても議論した。

両代表団は、交渉チームを指名し、ウクライナの長期的な安全保障をもたらす永続的な平和に向けた交渉を直ちに開始することに合意した。米国は、これらの具体的な提案についてロシアの代表と協議することを約束した。ウクライナ代表団は、欧州のパートナーが和平プロセスに関与すべきであると改めて強調した。

最後に、両国の大統領は、ウクライナの経済拡大と長期的な繁栄と安全の保証のため、ウクライナの重要な鉱物資源の開発に関する包括的協定をできるだけ早く締結することに合意した。
アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は会談後、戦争を終わらせる措置を取る責任は今やロシアにあると述べた。「我々は彼らがイエスと言うことを望んでいる。彼らが和平にイエスと言うことを。ボールは今や彼らのコートにある」とコメント。アメリカはロシアとウクライナが「可能な限りに早期に」合意することを望んでいるとしています。


2.ウクライナの3つの重要な提案


この高官協議には、ウクライナのゼレンスキー大統領は出席していなかったのですけれども、会談後、ゼレンスキー大統領は動画で次のように述べています。
サウジアラビアでのアメリカチームとの会談について、私たちの代表団から報告を受けました。話し合いはほぼ一日中続き、有意義かつ建設的なものでした。私たちのチームは多くの重要な詳細について話し合うことができました。

我々の立場は依然として極めて明確です。ウクライナは、この戦争が始まった当初から平和を求めており、戦争が再び起こらないよう、できるだけ早く、確実に平和を達成するために全力を尽くしたいと考えています。

アメリカとのこの会談で、ウクライナは次の3つの重要な点を提案しました

空での停戦、ミサイル攻撃、爆弾、長距離ドローン攻撃の停止、海上での沈黙、外交が継続中のこの状況全体における真の信頼醸成措置、すなわち主に軍人と民間人の捕虜と拘留者の解放、そしてロシアに強制的に移送されたウクライナの子供たちの帰還です。

アメリカ側は我々の主張を理解し、我々の提案を検討してくれています。我々のチーム間の建設的な対話をしてくれたトランプ大統領に感謝します。

本日の会談で、アメリカ側はさらに大きな第一歩、つまり黒海だけでなく前線全体でミサイル、ドローン、爆弾攻撃を止める30日間の完全な暫定停戦を提案しました。

ウクライナはこの提案を受け入れる用意があります。我々はこれを前向きな一歩とみなし、受け入れる用意があります。今、ロシアに同じことをするよう説得するのはアメリカの責任です。ロシアが同意すれば、停戦は直ちに発効します。
アメリカで決裂したトランプ大統領との首脳会談とは打って変わった殊勝な態度です。ただ、1カ月の停戦といっても空と海、および爆撃を止めるだけで、陸上戦闘の停止にまでは至っていないのは、留意すべき点かと思います。

2月13日のエントリー「ウクライナ停戦への道」でゼレンスキー大統領が、ロシアが現在占領しているウクライナ領土の返還と引き換えに、ロシア西部クルスク州でウクライナ軍が掌握している領土を引き渡すことを提案する意向を示したことを取り上げましたけれども、ウクライナが占領している土地はわずかなもので、とても等価交換できるような面積ではありません。

従って、陸上戦闘はそのまま継続できるようにすることで、あわよくば占領地の拡大、または最低限、ロシア軍の侵攻に備えて反撃できるだけの権利を確保しておきたいということなのではないかと思います。

更に気になるのは、30日間という期限付きの停戦ということです。つまり、ウクライナとしては30日の間に体制を立て直すことができれば、再反抗することだって可能性としては有り得ます。




3.タンゴは二人で踊るもの


今回の高官協議での合意について、アメリカのトランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団に「プーチン大統領もこれに同意し、このショーを開始できることを願う……前回大統領執務室を訪問した時と比べると、これは非常に大きな違いだと思う。前回は完全な停戦だった……ウクライナはこれに同意した。ロシアも同意してくれることを期待している。我々は今日と明日、彼らと会談する予定で、うまくいけば合意できるだろう……しかし、停戦は非常に重要だと思う。ロシアにそれを実行させることができれば素晴らしい。それができなければ、戦争は続き、人々は殺されることになるだろう」

そして、トランプ大統領は、「私はウラジーミル・プーチン大統領と話をするつもりだ。つまり、タンゴは二人で踊るもの、ということわざにあるように、そうだろう?……だから、彼も同意してくれるといいのだが」と今週後半にプーチン大統領と会談し、ロシアとウクライナの停戦が「今後数日中に」発効することを期待していると述べました。

一方、ロシア外務省の報道官はCNNに対し、「今後数日」以内に米国代表と接触する可能性を排除しないと語りました。

欧州連合は今回の合意を「前向きな進展」と呼び、イギリスのキール・スターマー首相は両国の指導者に対し「目覚ましい進展」と祝福。オランダ、スウェーデン、チェコ共和国、フランスなど他の欧州諸国の当局者らもこのニュースを歓迎しています。

ただ、エストニアのマルグス・ツァクナ外相は、会談は「ウクライナの公正かつ永続的な平和に向けた重要な一歩」であると述べる一方、「責任は完全にロシアにある」と述べています。

今回の会談後、ウクライナ当局者はアメリカの軍事支援と情報共有が再開されたと発表しています。この会談が始まるまではアメリカはウクライナに圧力を掛けていた矛先が、今度はロシアに向けられたという印象を受けます。

更に、トランプ大統領がしきりにプーチン大統領が同意してくれるといいのだが、と繰り返しているのも気になります。まだ何かカードがあるのかもしれません。


4.なぜサウジアラビアが会談を仲介したのか


ウクライナのゼレンスキー大統領は今回のサウジアラビアの会談に出席しなかったのですけれども、サウジアラビアには来ていて、サウジアラビアのムハンマド皇太子と会談しています。

ウクライナ大統領府によると、会談で両者はロシアで拘束されている捕虜の解放などに向けて今後、協力を強化していくことやウクライナの安全保障のあり方について意見を交わしたとのことで、会談後、ゼレンスキー大統領は自身のSNSに「ムハンマド皇太子とよい会談を行うことができた……戦争を終結させ恒久的な平和を実現させるための必要な手順と条件について詳細に話し合った」として大部分は安全保障についてだったと明らかにしました。

今回の米ウ高官会談は停戦への一歩を踏み出したという意味では、大きな会談だったと思いますけれども、そもそも何故サウジアラビアでの会談だったのか。

これについて、CNNは「なぜサウジアラビアはウクライナ戦争を終わらせるための会談を主催しているのか?」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
サウジアラビアがアメリカ、ロシア、ウクライナの高官を招いて重要な会合を開いたことは、国際紛争の仲裁を成功させることができる世界的なアクターになりたいという同国の野心を強調するものだ。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、月曜日の夜、紅海沿岸の都市ジェッダに到着後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と抱擁した。皇太子の到着は、米国高官とウクライナ高官の会談に先立ち、ドナルド・トランプ米大統領がホワイトハウスでの気まずい対決でゼレンスキー大統領を「恩知らず」と公然と叱責してからわずか1週間後のことだった。

サウジアラビアは先月、ロシアのウクライナ侵攻以来初めてワシントンとモスクワの直接協議を行うため、米国とロシアの高官の間で仲介を行った。

会談の開催地は、当時クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフ氏が米国とロシアに「概ね都合が良い」場所と表現した場所であり、サウジアラビアの事実上の指導者である39歳のムハンマド皇太子にとって勝利であると広く考えられている。皇太子は、石油資源に恵まれた国とイスラム原理主義の過去を、莫大な富からソフトパワーを育むことができる国に変えるという使命を帯びている。

トランプ大統領はウクライナ問題で合意を模索する中でサウジ王子との緊密な関係に頼っている

「指導者がトランプ大統領とプーチン大統領の両者とこれほど良好な個人的関係を築いている場所は他にはないと思う」とサウジの評論家アリ・シハビ氏は述べ、「サウジアラビアにとって(この行事は)名誉あるものであり、地域的にも世界的にもサウジのソフトパワーを高めるものだ」と付け加えた。

これらはすべて、より広範な変化の一部である。近年、サウジアラビアは、戦争から遠ざかり、サウジアラビア経済を石油から多様化させる皇太子の計画である「ビジョン2030」の達成に役立つ数十億ドルの投資を引き寄せることを目指して、世界紛争における中立に向けて政策を再調整してきた。ムハンマド皇太子は、隣国イラン支援のフーシ派との長年の戦争の後、イエメンから大幅に撤退し、地域のライバルであるイランとの関係を修復し、中国やロシアとの緊密な関係を維持している。これらすべては、サウジアラビアと西側諸国との緊密な関係を維持しながら行われている。

サウジアラビアは、ボクシングの国際試合やエレクトロニック音楽フェスティバルの開催に加え、援助国会合や和平会議を主催し、世界平和維持国としてのイメージをアピールしようと努めてきた。2023年8月には、40カ国以上(ロシアを除く)の代表者を集めた2日間のウクライナ和平サミットを主催し、同年2月にはウクライナへの4億ドルの援助を約束した。

ムハンマド皇太子が会談の実力者として台頭したのは、トランプ氏との親しい関係によるものだ。トランプ氏は、2018年にワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ジャマル・カショギ氏がサウジ工作員に殺害された後、国際社会から疎外されていたこの若き皇太子を支えた。

2017年、トランプ大統領は慣例を破り、大統領として初の海外訪問先にサウジアラビアを選んだ。2020年の大統領選で敗北した後も、サウジアラビアはトランプ大統領との緊密なビジネス関係を維持し、義理の息子ジャレッド・クシュナー氏が会長を務める企業に20億ドルを投資し、同国にトランプタワーを建設する計画を発表した。

トランプ大統領は金曜日、サウジアラビアが今後4年間でアメリカ企業に1兆ドルを投資すると約束したことを受け、大統領としての最初の外国訪問先に再びサウジアラビアを選ぶと発表した。

「今回は、彼らは裕福になり、我々は皆年をとった。だから、アメリカ企業に1兆ドル払ってくれるなら行くと言った。彼らはそれに同意したので、行くつもりだ。私は彼らと素晴らしい関係を築いている」とトランプ氏は金曜日に 語った。

ムハンマド皇太子はまた、カショギ氏殺害後も皇太子を孤立させることを拒否したロシアのプーチン大統領とも良好な関係にある。ムハンマド皇太子は、ウクライナ侵攻後にモスクワを疎外させようとする西側諸国の圧力に抵抗し、世界の石油供給を管理するためにプーチン大統領と緊密に連携し続け、2022年に石油生産を増やすというバイデン政権の要請をはねのけることでロシア側についた。プーチン大統領は2023年にサウジを訪問し、米国の経済的影響力に対抗しようとする国々の連合体であるBRICSへの参加をリヤドに働きかけている。

ますます二極化する世界において、サウジアラビアとの関係をヘッジすることは有益であることが証明されているとアナリストらは言う。トランプ大統領の中東特使スティーブ・ウィトコフ氏は、ビン・サルマン王子が先月、ロシアの拘留下にあったアメリカ人教師マーク・フォーゲルの釈放に「尽力した」と述べた。サウジアラビアは隣国アラブ首長国連邦とともに、ウクライナとロシアの間の数件の捕虜交換の仲介にも成功した。

先月のロシアと米国の会談にはウクライナは含まれていなかった。火曜日には、マルコ・ルビオ米国務長官とマイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官が、ウクライナの国家安全保障担当大統領補佐官、外務大臣、国防大臣と会談する予定である。

長期的には、サウジアラビアは、ロシアと米国の会談における仲介役としての役割を利用して、米国がガザを所有権取得し、住民を永久に移住させるというトランプ大統領の物議を醸す提案という差し迫った地域問題を利用することを目指すかもしれない。

トランプ大統領は2月、戦争で荒廃したガザ地区を「リビエラ」スタイルの高級住宅で再開発し、200万人以上の住民を恒久的に移住させることで 中東に平和をもたらすという構想を打ち出した。

アラブ諸国は即座にこの案を拒否し、指導者らは今月カイロで会合を開き、パレスチナ人がガザから移住しないことを保証する530億ドルの復興計画を承認した。

「トランプ大統領が表明したウクライナ戦争終結の目標を支援することで、サウジアラビアはワシントンで好意を蓄積する好位置にいる。同王国はトランプ政権に対する評価の高まりを利用して、ガザの運命に関する米国とアラブ諸国の立場の溝を埋めるのに役立つ可能性がある」とバーレーンの国際戦略研究所の中東政策上級研究員ハサン・アルハサン氏は述べた。

今後4年間、ムハンマド皇太子はトランプ大統領との緊密な関係に頼ることになるかもしれないが、取引を重視する米国大統領の強引な要求の中で、自らの地域的利益とのバランスを取ろうとする皇太子は依然として難しい立場に立たされるかもしれない。

トランプ大統領はサウジとイスラエルの関係が正常化することを望んでいるが、イスラエルのガザでの軍事作戦をめぐって中東で怒りが高まる中、パレスチナ国家樹立への道を守ることは、ビン・サルマン王子にとって政治的に譲れない問題である。

「パレスチナの人々が国際決議に従って正当な権利を獲得しない限り、永続的で公正な平和を達成することは不可能であり、これは米国の前政権と現政権の両方にすでに明確にされている」とサウジは今月初め、トランプ大統領のガザ計画に対する反応として声明で述べた。
サウジアラビアのサルマン皇太子は、トランプ大統領とプーチン大統領の双方に良好な関係を保っていることから仲介役が出来る立ち位置に加え、今回ウクライナ戦争の仲介をすることでパレスチナ・ガザ地区問題に関して有利な立場に立つことをも目論んでいるというのですね。

なるほど理にかなった動きですし、トランプ・ゼレンスキー会談の決裂を横目に仲介に乗り出し、見事それを果たすことができれば、ガザ地区問題含め、世界のキーパーソンの一人として名乗りを上げることになるのではないかと思います。

今度はロシアとの協議です。まずは停戦実現を祈りたいと思います。



  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント