

1.今の状況ではまったく戦えない
3月12日、自民党の西田昌司参院議員が党の参院議員総会で石破政権批判を展開しました。
西田議員は、本会議前に開かれる参院議員総会の場で「今の状況ではまったく戦えない。もう一度総裁選をやって新しいリーダーを選ばないといけない」と発言。西田議員は総会後に記者団の取材に「国民の審判が出ている。その方がもう一度、参院選の看板であるということはありえない。今は予算成立させないといけないので支えないといけないが、その後は参院選に向けた体制を考えるべきだ」と述べました。
現体制の、どのあたりが戦えない理由かと問われた西田議員は「すべてが」と石破政権への強い不信感を露わにしています。
これまで党内で石破総理ないしは執行部に対しての不満の声が上がっていたそうなのですけれども、はっきりと石破総理の交代を求める声が出たのは今回が初めてのことです。
そして前日の11日、自民党の高市早苗前経済安全保障担当相は自身のXで、9日に開かれた党大会での石破茂首相の演説内容に対し「首相が目指す『楽しい日本』への道筋やパンチの効いた政策メッセージは打ち出されなかった」と投稿し、強い不満を示しました。
高市議員は、参院選に向けて各都道府県での講演や応援演説に注力しているとし「私も党勢回復に貢献するべく地道に頑張る」と意欲を示しました。
更に、この石破総理の演説を巡っては小林鷹之元経済安保相も「参院選に向けたメッセージをあまり感じられなかった」と苦言を呈しています。共通しているのは石破では参院選を戦えないから総理から降りろ、といういわゆる「石破降ろし」です。
2.自民党三頭会食
ようやくこのタイミングになって、公然と「石破降ろし」が始まった訳ですけれども、それには前フリがありました。
3月10日夜、自民党の岸田前首相、麻生太郎最高顧問、茂木敏充前幹事長が都内の日本料理店で会食しています。今夏の参院選の情勢や、石破茂首相による少数与党の政権運営などについて意見交換をしたとみられると報じられていますけれども、自民の長老格で、岸田前政権で政権運営の中核を担った三氏が集まったからには当然、ポスト石破についても話があったとみるのが普通でしょう。
この日の会食は麻生氏の発案で茂木氏が呼びかけたとされていますけれども、茂木氏は今年1月に外交や経済をテーマにした勉強会を立ち上げ、「ポスト石破」へ動き始めたとの見方もありますし、岸田前総理も再登板を狙って水面下で動いているなんて噂もあります。
そう考えると、冒頭の西田議員の「石破降ろし」発言も、麻生、岸田、茂木の3氏の誰かから、石破降ろしを始めてもいいぞ、とかなんとか水面下でGoが出たから発言をしたと見ることもできなくもありません。
ただ、茂木氏にしろ、岸田氏にしろ、石破総理を降ろして彼らを新総裁にしたとしても、新味に乏しい両氏で参院選に勝てるかどうかは別の話です。
マスコミのあるデスクは「選挙前に求められるのは、刷新感のある強いリーダー。意欲充分なのは「コバホーク」こと小林鷹之元経済安保相(50歳)です。維新との合意に『強い危機感がある』と異を唱えています。昨年12月に立ち上げた政策勉強会には、常時30~40名ほどが参加し、仲間も増加中。本人も『総裁選があれば次も必ず出る』と。今のように衆院が少数与党での政権運営は野党への譲歩を重ねざるを得ず、打開するには新総裁のもとでの衆参ダブル選しかないとの声も高まりつつある」と漏らしたそうです。
3.高市と小林
小林鷹之氏に期待が集まるのは分かるにしても、去年の自民党総裁選で石破氏と決選投票を争った、高市氏はどうなったのか。
現在、総裁選で高市氏を推した麻生最高顧問の下に、党内の様々な人材が結集しはじめています。なんでも麻生派以外の派閥がなくなったことで、逆に麻生氏を頼りたい人が増え、1月末に山口壯元環境相が麻生派に入会するなど、「麻生派拡大計画」が進行中なのだそうです。
ところが、麻生派の若手議員によると「すでに高市からは心が離れた……高市さんを推したのは、蛇蝎のごとく嫌っている石破茂さんに勝てそうだったのが高市さんくらいだったから。消去法です」とのことで、麻生氏が親子で会頭を務めた日本青年会議所(JC)の関係者は、「麻生さんはJCの出身者で構成される素淮会という地方後援組織を持っています。九州素淮会、中国素淮会、東海素淮会があり、全国からおカネを集めることができる。麻生さんがその素淮会の幹部たちに、『小林のために組織を作ってやれ』と言っているそうです」と明かしています。
1月22日、麻生氏は若手議員と勉強会を開いたのですけれども、そこに小林鷹之氏も招待されていたのだそうです。
麻生派のある中堅議員は「国民民主の玉木雄一郎さんや維新の吉村洋文さんが活躍する中、自民党にもフレッシュなリーダーが求められる。小林さんは元財務官僚で、財務大臣を長く務めた麻生さんと気脈が通じる。保守的な考えも共通している」と、麻生氏は次の総裁選では世代交代が進むと見て動いていると指摘しています。
もしそうだとすれば、前述した、麻生、岸田、茂木の会談で、岸田再登板や茂木氏をポスト石破に、という話には簡単にはならないと思います。
4.四カ月もやったからもういいや
一方、現職の石破総理はどうなのか。
2月27日、JBPressは渡辺喜美・元衆議院議員の寄稿記事「私にぼやいた石破総理「タバコは1日5本しか吸えない…」 短命を覚悟して生まれた、政権を支える奇妙な浮力」を掲載しています。
件の記事に、次のような興味深い記述があります。
「タバコは1日5本しか吸えない」この時点でもうやる気を失っているように見えます。
「美智雄先生の御仏壇にお参りしたいのですが、どちらにありますか?」
「地元の西那須です」
「九段の母上のところは?」
「あそこは狭い部屋なので写真だけです。毎朝『まだお迎えに来ないでください』って祈っているらしいですよ」
「そりゃそうだ。じゃあ、お写真にお参りさせてください。すぐ帰りますから」
ということで、1月18日、今年96歳になる私の母のもとを総理が訪れた。居心地が良かったのか、滞在時間は約50分。途中、秘書官からの「お時間です」とおぼしき電話があったが、出なかった。テレビで見かける疲れた様子はまるでなく、饒舌だった。
「初当選後、夫婦で美智雄先生の豪州訪問に同伴できたのは良い思い出だ」「好きなお酒は何かあるといけないので飲まなくなった」「タバコは1日5本しか吸えない」「引っ越したばかりの公邸でよく迷い、夜中に公邸の庭に出たら警報が鳴ってしまった」などなど、四方山話に花が咲いた。
ポロッと漏らした一言は、「4カ月もやったからもういいや、と思ってるんです」
短命政権を覚悟したかのように吹っ切れていた。
最近も、3月1日、これまでずっと石破氏を支え続けてきた、笹川堯・元衆院議員と会食した石破総理は「毎日、頭が痛むわ、大変だわ。やっとれんのですよ……」とぼやいたそうです。
その石破総理に笹川氏は、「君はよくやってるよ。やっぱりその頑張ることが必要なんだ。永続的にね」と慰めたそうですけれども、やっとれんのであれば、とっとと退陣いただくのが筋というものです。
自民党としては、石破降ろしをして新総裁の下で参院選を戦い、なんとか挽回を狙っているのかもしれませんけれども、ただ、これまで石破政権でやらかした数々を考えると、世間の目、とりわけ若年層の目は全然厳しくて、誰が顔になろうが関係ない。自民党そのものが腐っていると見限っているのではないかとさえ思えてきます。
さしあたっては、予算成立後の政局には注目したいと思います。
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