高速料金一律五百円

今日はこの話題です。
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1.高速料金一律五百円


3月21日、参院予算委員会で、国民民主党の浜口誠政調会長が高速道路料金を原則一律500円とすることを提案しました。

トヨタ労組出身の浜口政調会長は東名、名神などの主要高速道路に限り、乗用車は利用距離にかかわらず「ワンコイン500円の定額制の料金」とする持論を披露。観光振興や物流コストの低減などにつながると訴えました。

これに対し、石破総理は、「あまりにユニーク、斬新な提案で即答できる能力がない……混むところは土地の値段も高い。全国一律は本当に正しいのか」と困惑しつつ、否定的な見解を示しました。

唐突な提言かと思いきや、浜口政調会長は、この案を3年以上前から提案しています。

2021.7.24付の浜口政調会長自身の動画では、この案の説明と5つのメリットがあると述べています。

そのメリットは次の通りです
1)料金下がる
2)利用者増える
3)税を入れる必要がない
4)高速を地方も使うことで地方経済活性化
5)物流コスト低減で企業の競争力強化
これだけみるとメリットばかりでよさそうに見えます。




2.高速道路休日千円は結局どうだったのか?


ただ、過去を振り返ると高速料金を1000円にしたことがあります。2010年頃に行われた「高速道路休日1000円」という施策です。

これによってどれくらい効果があったのか。

これについて、「乗りものニュース」というサイトが、2020年4月に「かつての経済対策「高速道路休日1000円」結局どうだったのか? その効果と懸念」という記事を掲載しています。

その内容は次の通りです。
・新型コロナウイルスの感染拡大にともなう経済対策の一環として、流行収束後に高速道路の料金引き下げ、あるいは無料化が検討されていると、複数のメディアで報じられています。およそ10年前、2010(平成22)年前後には「高速道路休日1000円」という似たような施策が実施されましたが、その結果はどうだったのでしょうか。

・この施策は、ETC利用の普通車および軽自動車、自動二輪車を対象に、休日における地方部の高速道路の通行料金を上限1000円にするというもので、リーマン・ショック後の2009(平成21)年3月から、2011(平成23)年6月まで実施されていました。

・国の「高速道路のあり方検討有識者委員会」が2011(平成23)年にまとめた資料によると、この施策による観光消費の拡大効果は年間およそ3600億円、間接効果を含めた経済効果は同8000億円と試算されています。「休日1000円」実施後5か月間(2009年4月から8月)における日帰り旅行の回数は、前年同期と比べて約1.3倍、宿泊旅行は約1.2倍に増えたそうです。

・対して高速道路の割引に要した額は、並行して実施された「休日5割引(1回の利用距離が普通車で71km未満、軽自動車で89km未満の場合に適用)」と合わせても、年間1500億円ほどだったといいます。

・しかし、この「休日1000円」が実施されたことにより、高速道路では毎週末のようにゴールデンウイーク並み、あるいはそれ以上の渋滞が発生したとのこと。2009(平成21)年度における東名高速の渋滞時間は、休日の平均で前年度の約2.6倍、名神高速では約3.5倍に急増したそうです。

・それだけでなく、自家用車の利用が急増したことで、公共交通機関は鉄道、高速バス、フェリーと、軒並み利用者数が減少しました。高速バスでは、2009(平成21)年度の休日における利用者数が前年度の92%に、フェリーでは81%にまで落ち込んでいます。本州と四国を結ぶ本四高速3路線も「休日1000円」の対象だったこともあり、瀬戸内海のフェリーを中心に、航路の廃止や減便が相次ぎました。

・高速道路のあるべき料金制度を検討した公益財団法人 高速道路調査会の委員会は、2018年に発表した「高速道路の料金制度に関する研究」の最終報告書で、この「休日1000円」を「高速道路を無料化した状態に近い運用」として、「社会全体として好ましくない状態になる」「高速道路が無料となることは、必ずしも私たちの生活にプラスになることばかりではない」と評価しています。

・というのも、渋滞の激化により、高速道路が提供するサービスである速達性と定時性が損なわれ、たとえば高速バスの定時運行ができなくなったり、物流の定時性が阻害され、流通段階におけるコストが増加したりする、というわけです。

・そのうえで、同報告書は高速道路の料金制度について、「通行料金を支払うことにより、一般の道路と比較して、より速く、より時間に正確に移動できるという選択肢を残しておく必要がある」とまとめています。
記事では、「休日1000円」施策によって車の利用が急増した反面、フェリーの利用者が減って、航路の廃止や減便が相次いだと指摘しています。


3.高速道路無料化の負の側面


更に前述の記事では、高速道路調査会の委員会は、2018年に発表した「高速道路の料金制度に関する研究」の最終報告書について触れていますけれども、この報告書では、高速道路無料化の負の側面として次のように述べています。
ここまで財源の面から、高速道路を無料化して国費(税金)の負担によりメンテナンスを行うことが困難であると述べてきました。さらに、高速道路の無料化には財源以外にもいくつかの問題があります。ここではそのうちの2つの問題点について説明します。

まず、一つ目の問題は、高速道路を無料化すると高速道路をメンテナンスする費用を負担する人(負担者)と高速道路を利用することにより利益を得る人(受益者)が必ずしも同じではなくなるということです。高速道路が無料化されれば、高速道路をメンテナンスする費用は国費(税金)にてまかなわれることになり、納税者全員で高速道路のメンテナンス費用をまかなうことになります。

しかしながら、税負担により高速道路が無料になっても、直接の受益者は高速道路を利用する人に限られます。そして、自動車を利用しない人や自動車を持っていても高速道路を利用しない人は高速道路利用による利益を直接得ることができませんが、税金という形で高速道路のメンテナンス費用の一部を負担することになります。つまり、負担と受益のミスマッチが起こります。

二つ目の問題点としては、渋滞状況が悪化することです。いわゆる「1,000円高速」は、休日における高速道路の通行料金の上限を 1,000 円にするというETC 割引で、「生活対策」として 2009 年 3 月に導入され、2011 年 6 月まで実施されていました。

対象路線が地方部であることや、対象車種が ETC 利用の普通車と軽自動車に限られていましたが、高速道路を無料化した状態に近い運用がされた割引でした。この「1,000 円高速」が行われた結果として、渋滞が倍増し、毎週ゴールデンウィーク並みの渋滞が発生、特に東名高速道路および名神高速道路では約 3 倍の渋滞が発生しました。

渋滞が発生すると高速道路が提供するサービスである速達性と定時性が損なわれてしまい、社会全体として好ましくない状態になってしまいます。例えば、高速道路において渋滞が頻発すると高速バスは定時運行できなくなります。また、高速道路を使っての商品の流通が滞る、もしくは物流における定時性が阻害されることにより、流通段階におけるコストが増加することになります。

このように高速道路が無料となることは、必ずしも私たちの生活にプラスになることばかりではありません。通行料金を支払うことにより、一般の道路と比較して、より速く、より時間に正確に移動できるという選択肢を残しておく必要があると当委員会では考えます。
報告書では、高速道路無償化したときのメンテナンス費用の財源問題以外に、高速道路のメンテナンス費用を負担する人(負担者)と、高速道路を利用することにより利益を得る人(受益者)が必ずしも一致しないミスマッチが起こることと渋滞状況が悪化することの2点を挙げています。


4.即答できる能力がございません


こうした背景を知った上で、改めて3月21日の参院予算委員会での浜口誠政調会長(国民民主党)と石破総理の質疑を抜き出してみるとおおよそ次の通りです。
浜口誠議員:
・地方創生の切り札は移動コストを下げることだという指摘がある。
・移動のコストを下げる重要性についての見解を伺いたい

石破総理:
・麻生内閣の頃、高速道路全国一日1000円みたいなことがあってですねもう相当の話題にもなりました。
・何が起こったかと言うと、高速道路がめちゃめちゃ混んで、フェリーに乗る人いなくなりました
・その後東日本大震災、大津波があった時にフェリー足りないということが起こったわけでございます
・移動費を安くするという場合に他の交通手段との整合をどう取るんだいということも考えていかねばなりません
・高速道路は安ければ安いほどいいのですが、地方のガラガラの高速道路があるといたしますと、そこはもっと下げないと人乗らないんじゃないのというお話があって
・ではその人口濃密のところ、滅多矢鱈混んでるところはもっと上げても乗るんじゃないのっていうそういう議論もある
・どういうお金をいただくことが最もふさわしいのか。それの維持管理のお金をどうするのか加えて他の代替交通手段としての整合をどう取るかということで高速道路の料金というのは決められていくべきもの

浜口誠議員:
・2009年の3月から行われた上限1000円料金の話。あの時は、ご指摘あったようなことが起こりました
・それはなぜかというと制度が悪かったんです
・あの時に上限1000円にしたのは、土日祝日だけなんです。その日しか使えないからみんな集中するんです。
・その日に向かってなおかつ上限1000円なので出口で清算しないといけないんです。
・いくらかかりましたかと清算しないと出口が渋滞する要因になってたということです
・さらには台数も、乗用車、二輪、軽しか適用じゃなかった。適用の範囲も狭かった。
・あの時は全部そうしたんでフェリーに影響が出た。
・今から私が提案するのはそういう本四高とか除きます。もう大動脈だけです。ネクスコ3社。東名・名神・中国道・九州道。大動脈だけですそこに限って提案をしたい。
・今の高速道路の料金、対距離性料金になってます。要は距離が長くなれば長くなるほどま乗用車でいけば、1kmあたり24.6円も料金上がっていくわけです
・今の高速道路料金の距離性料金というのはまさに移動の足かせ人流物流をですね活性化するための制度にはなってない

石破総理:
・高速道路を作りますとあるいは管理いたしますとじゃその費用は誰が出すべきなんですかねということを考えました時にこういうものに要しました費用は料金の
収入で返済をしているが、そうだよねと思う方が一般の感覚としては多いんじゃないか
・高速道路全然乗らない人がですねじゃそのお金を負担するということの理解はなかなか得にくいだろう
・基本はやはり使った方にご負担をいただくということがこれは一般の常識には適合すると私は思っております

浜口誠議員:
・高速道路が自らが動くんだったら私はそれでいいと思います。
・でも道路動かないです。動いてんのは車だったりトラックだったりバイクなんです。
・その車を買ってる人はユーザーが買ってガソリンも自分で負担してるんです。電車のように乗ったら目的地まで連れてってくれるんだったら対距離性料金で私も高速いいと思います。
・でも道路はそうじゃないじゃないですか。そこの違いが明確にありますけどそこはどうお受け止めになりますか

石破総理:
・かなり哲学的というかうん根源的というかそういう議論で。なるほどねあの道路が動くという発想は初めて受け賜りました。
・じゃあバス会社に道路整備も負担してねと言うと、多分バス会社やる人はいなくなると思います。航空会社に空港の整備も負担してねって言ったら全部撤退するだろうと。鉄道会社はそれ全部やってるということになるわけで。そこはその移動手段における負担というものは何が公平でありという議論と多分親和性があるお話なんだろうと思っております
・あの道路は動かないという大変刺激的なご示唆をいただきましたのですいませんちょっと考えさせてください

浜口誠議員:
・これ哲学的という基本的に違いがあるんです。だからイコールフィッティングと言ったってですねやっぱりその違いを踏まえた上でどうするかっていうのはこれ考えていかないと日本経済全体のためになりませんから競争力強化にもなりませんよ。
・原点のところで違ってれば、もう一度そこはあの総理ともしっかりですね認識合わせの議論したいと思います

浜口誠議員:
・ネクスコ3社の利用状況ですけども、実際使ってんのはネクスコ3社で29億台なんです
・料金収入は2兆4000億円でこれ1台あたりに割り戻すと大体800円ぐらいなんですね。
・一台あたり実は800円ぐらいにとまってるんです
・このうちの800円のうちの150円はターミナルチャージといって入場料が取られます。高速に入るだけで150円チャージされてるんです
・だから実際に距離性で加算されているのは650円なんです。これが実態です。
・そこで提案したいのが、ワンコイン500円の定額性の料金で1回あたりどこまででも乗ることができる。こういう料金にすればいい
・これ税金使わずにできます。
・その全ての皆さんが500円。乗用車であれば1回あたりご負担していただく。
・これで出口が解放できるんです。定額ですから、上限1000円の時のように出口で清算する必要ないので。
・そういう形を取ればもっとですね全国の高速道路がもっと活発に利用されるということになると思います

石破総理:
・あまりにユニークなというか斬新なというかご提案をいただいておりますのちょっと即答できる能力がございません。知識もございません誠に恐縮であります。
・そうするとめちゃくちゃ混むんじゃないのという考え方もございます。
・いや混んだら直しゃいいんだ。車線を付加すりゃいいんだ別に高速道路作りゃいいんだとこういう話になるはずですが、じゃそれ一体いくらかかんのよと大体その混むところというのは土地の値段もめちゃくちゃ高いので1kmあたりの負担というのは地方に高速道路引くのとわけが違う
・全国一律というのは本当に正しいんですかねという議論を当然惹起することになるんだろうと思っております
・他の交通手段への影響というのは、先ほど土曜日曜なんかに限るからそんなことになったんだということでございますが、じゃあそれを全ての人にそれと同じことを行うともっとすごいことが起こるんじゃないのという議論も当然あるわけでございます。
・すいませんあまりに斬新かつユニークなご提案をいだきましたのでのまたそれは国交省なり政府全体で考えてまいります。
かつて行われた「高速道路休日1000円」で何が起こったのかや、高速道路調査会の委員会が報告した、高速道路無料化の負の側面についても討論されています。これに対し、浜口政調会長は、「高速道路休日1000円」は制度が悪かったのだ。土日限定にしたから悪かったのだとして限定を外せば、そうした問題はなくなると指摘しています。




5.鉄道と空運の儲けの仕組み


件の質疑で石破総理は、インフラ整備について、バス会社や航空会社にその費用負担を求めてもやれないだろうが、鉄道はやっているとコメントしていますけれども、2023年3月に東洋経済が「「もうけの仕組み」100業界・全リスト」という記事を掲載しています。

その中で鉄道と航空に関する記載があるのですけれども、その部分を引用すると次の通りです。
・鉄道|固定費重く採算が急悪化

鉄道運行に伴う費用を固定費と変動費に分けると、固定費の比率が圧倒的に高い。

固定費の内訳は運転士や車掌らの人件費、安全運行のための保守・点検費用、車両や駅設備の保有によって発生する減価償却費など。これらの費用は乗客数の増減にかかわらずほぼ一定だ。

変動費の代表例は電気代などの動力費である。列車の運行本数を減らせば動力費は減らせるが、費用全体に占める動力費の割合は限定的にすぎない。

多くの鉄道会社の中で、コロナ禍によって最も打撃を受けた1社がJR東海だ。

同社は売上高の大半を東海道新幹線が占めるが、コロナ禍で新幹線を使った出張需要や観光需要が激減。2020年度の旅客運輸収入は19年度比で3分の1に、21年度も19年度比で半分以下にとどまった。

一方、費用は削減余地が乏しく1割程度しか減らせていない。

JR東日本や東急といった会社も旅客運輸収入は大きく落ち込んだが、コロナ禍の影響を受けにくい不動産事業の比重が高く、経営をある程度下支えした。

リニア中央新幹線の建設に多額の資金を投じるJR東海は他社のように事業を多角化する余裕がないのが実情。利益好転には、コロナ禍収束による乗客数増加が欠かせない。

・空運|需要好転でも利益回復は遠い

全国旅行支援などによる国内旅行客の増加に加え、インバウンド客がじわりと復活している。国内最大手のANAホールディングスが2月2日に開示した決算では、売上高1兆2586億円(前年同期は7380億円)、営業利益989億円(同1158億円の営業損失)と大幅に回復。同日に公開された日本航空(JAL)の決算も同様の傾向だった。

だが、今後に目をやると不安要素が浮かんでくる。第1にはコスト構造の変化だ。運航に不可欠な燃油費用がウクライナ問題などの影響で増大している。

客層の変化も懸念要素だ。航空各社にとってもうけのいい乗客は出張利用のビジネス客。直前予約が多いため、旅行や帰省のレジャー客と比べて単価が高い。そのもうけの源泉が、オンライン会議の浸透などによって減少している。

インバウンドが回復すれば、売り上げはコロナ前水準にまで回復することが予想される。コスト抑制が今後の浮沈のカギとなりそうだ。
これを見る限り、鉄道がインフラ負担を全部できるのは、結局そうしても採算がとれるからのように見えます。鉄道は客を大量輸送できますけれども、客単価にすれば、単純に移動距離に基づいた価格設定でも妥当な値段に落ち着いているだけではないかと思います。

21日の参院予算員会質疑で、国民民主の浜口政調会長が指摘したように、高速道路のユーザーは移動手段である車もガソリンも全部自前で用意します。これを前述した鉄道の儲けの仕組みに当てはめると、鉄道で重いとされる固定費は全部ユーザーの負担であり、高速道路の管理会社はそれを負担しなくてよいのです。なのに、なぜこんなに高速道路の値段が距離制だのなんだのになってしまうのか。

考えられることは、道路の管理維持コストの単価が鉄道とは比べものにならないほど高いということなのかもしれません。高速道路では電車ほど大量輸送できないのはもとより、線路や架線の管理維持よりも、高速道路の整備費用がうんと嵩むのかもしれません。

ただ、もう少し細かく、高速道路別の交通量をみれば、大動脈とその他では、差がある筈で、たとえば、こちらのNEXCO東日本のデータをみれば、全然違うことが分かります。

その意味では、国民民主の浜口政調会長が、ネクスコ3社、東名・名神・中国道・九州道といった大動脈の高速に限って一律500円にするという提案は、固定費の削減と渋滞緩和を狙うという面で効果を期待できるかもしれません。

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6.ロードプライシング


一方、政府は、浜口政調会長の提案とは別に、高速料金の値下げという試みを始めています。

昨年6月、政府は、コロナ禍が明けて慢性化している高速道路の渋滞緩和策として、特定の時間帯や区間で料金を変動させるダイナミックロードプライシングを2025年度以降、全国で順次導入する方針を定めました。

昨年6月に策定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、交通・物流DXとして次のように記載されています。
地域交通の利便性・生産性等の向上に向け、MaaS、AIオンデマンド交通、配車アプリ、キャッシュレス等を推進する。空飛ぶクルマの運航拡大に向け制度整備等を行う。高速道路の渋滞緩和や地域活性化等に向け、ETC専用化を踏まえ、2025年度より段階的に混雑に応じた柔軟な料金体系へ転換していく。このため、まずは現在のスキームの下で最大半額となる料金体系の導入に向け、8月を目途に検討を開始する。
ここで、最大半額となる料金体系の導入に向け検討するとしていますけれども、これについて「ピークロードプライシングに係るこれまでの導入実績等を踏まえつつ、社会資本整備審議会等で検討」と注釈されています。

ロードプライシングとは、高速道路の利用料金を時間帯、曜日、区間などによって調整することで、交通量を抑制し、渋滞緩和や環境負荷低減を図る政策です。

交通量の集中を防いで渋滞を緩和する狙いで、2021年の東京五輪・パラリンピックの期間中には、首都高速道路で日中の時間帯を中心に、マイカー利用の乗用車や軽自動車、二輪車の通行料金を上乗せする、ロードプライシングが実施されました。

現在は、東京湾アクアラインで2024年度末までの社会実験として、2023年から料金変動制が実施されていて、アクアラインでは、川崎(東京)方面へ向かうETC搭載の普通車の通常料金は800円が、土日・祝日の13時~20時は1200円になる一方、20時〜24時までは、料金が600円に引き下げられています。

その結果、アクアライン全体の交通量は、実験の前年同時期と比べて増加したものの、値上げをした休日昼間の交通量は前後の時間帯に分散。渋滞による最大損失時間が、土曜日で約31%、日曜日で約21%減少となった分析が出されているとのことです。

このロードプライシングは、世界の各都市でも取り組まれていて、こちらのサイトでは、それら取り組み状況がまとめられています。

これで、高速の渋滞緩和がされるのかどうかについて、城西国際大学教授の佐滝剛弘氏は、昨年5月東洋経済への寄稿記事「高速の料金変動制「全国へ適用」ニュースの波紋」で次のように述べています。
【前略】

これで高速道路の渋滞が本当に緩和されるなら、利用者にとっても悪くない施策である。しかし、現在のところ、筆者の周囲の声やインターネットの反響などを見ると、あまり評判が芳しいとは言いがたい。

時間をずらせない人には値上がりになる
まず、ベースに「日本の高速道路通行料が諸外国に比べて高い」ことがある。欧米などの物価高や円安で、日本の物価は相対的に安くなっているが、こと高速料金に関しては今でも「安い」という感覚は持たれていないであろう。

さらに、いずれ無償になると説明されていた高速道路の通行料は、2023年5月の法改正により「事実上2115年まで有料のまま」ということになり、多くの利用者を落胆させた。2115年という途方もなく先の年限が、事実上「無料化の撤回」と受け止められたからである。

また、高速道路の利用者は、「混んでいるから時間をずらせる」人ばかりではない。もし混雑時の料金が上がれば、時間をずらせない人にとっては値上がりになってしまう。さらに、業務用の大型車などには、労働時間に上限などを課す「2024年問題」もある。

これまででさえ、さまざまな時間的制約が課されていたのに、もし料金が細かく時間で区切られることになれば、少しでも安く走行するためには、今まで以上に時間調整を行わざるをえなくなる。これでは、「働き方改革」に逆行しかねない。

これまで高速道路各社は、実にさまざまな渋滞対策を行ってきた。混雑区間の車線を増やしたり、注意喚起の標識や壁面の流れるライトで自然渋滞の発生源となるスピード低下を抑制したりと、多くの時間と経費をかけて解消に努めてきたものだ。

しかし、コロナ禍が明けても、人やクルマの流れは完全には回復していない一方で、東京都以外で人口が減り始めている中でも、首都圏や近畿圏などの大都市や周辺の渋滞が劇的に減った印象もない。

筆者がよく使うのは東名高速道路と東京湾アクアラインだが、以前よりも平日・朝夕の渋滞はひどくなっている印象がある。

大型連休の15km、20kmといった大規模な渋滞を取り上げたメディアも多いが、日頃から高速道路を利用する筆者には、「その程度の渋滞なら平日の混雑時と大差ない」と感じられる。

もちろん、細かい制度の設計はこれからであるため、利用者が感じるさまざまな懸念は払拭されていくかもしれないが、通行料に関しては総じて不満が大きく、また現在の政府が本当に利用者のことを考えて施策を行うかを考えると、不安な声が上がるのもよく理解できる。

高速道路の建設や維持に莫大な予算がかかるのは、山間部の多い地形の日本ではやむをえない面もある。また、高速道路のロードプライシングは外国にも例があるので、導入への抵抗は少ないかもしれない。

ただし、ロンドンやシンガポールなどのロードプライシングは、都市部へのクルマの流入をコントロールするために設けられた施策であり、日本で“全国的に”行うとしたらどの区間にどのような料金差をつけるのか、完全に模範となるモデルは海外には存在しないようにも思う。

また、こうした議論のたび、ずっと気になっていることがある。日本の陸上交通を支える有料道路と鉄道という2大インフラの関係だ。

道路と鉄道は、あるときはライバルであるが、あるときは相互補完の役割を果たすが、整備も運賃・料金もバラバラに施策が進められていて、総合的な交通政策を行っているようには見えない。どちらも国土交通省という同じ省庁の管轄であるにもかかわらず、である。

その結果、地方では今も高速道路の建設が進む一方で、JRのローカル線の多くは経営が苦しく青息吐息となっており、都市間を結ぶ特急が削減されたり、路線そのものが廃止されたりしている区間が少なくない。

2024年3月の北陸新幹線の全線開業で、名古屋方面から北陸、特に福井市、金沢市へ鉄道で向かう場合、原則として、米原と敦賀での乗り換えが必要になった。

利用者にとっては明らかに不便になったため、特に福井~名古屋間の移動は高速バスへのシフトが進んでいる一方、高速バス側は運転士不足で増発したくてもできない状態となっている。

また、南房総や銚子など千葉県の南部や東部へは、アクアラインも含む高速道路の整備により、JRの特急が次々と削減され、マイカーを除くと移動手段は高速バス一択になっており、移動におけるさまざまな課題が浮き彫りになっている。

鉄道と高速道路や高速バスが連携して人々の移動を担うべきなのに、それぞれが連携なく動くことで、全国で不便が生じているように感じる。
今回の変動料金制は、2024年6月に策定される経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に考え方を盛り込む方向で調整しているとのことだが、「骨太」というのなら、人口減と高齢化が進む我が国の交通体系のあり方自体を「骨太」に議論してほしいと願わざるをえない。

佐滝教授は、ロードプライシングのメリットデメリットを挙げる反面、根本的な問題として「鉄道と高速道路や高速バスが連携して人々の移動を担うべきなのに、それぞれが連携なく動くことで、全国で不便が生じている」と指摘しています。

この辺りは国土交通省が全部一括管理しているにも関わらず、バラバラの施策になっていたとしたら、非効率かつ極まりないと言わざるを得ません。高速道路料金一律500円の提案も魅力的ですけれども、同時に国土交通省のガバナンスにもメスを入れていただきたいと思いますね。



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